エンド|アクリルの練習用ブロックの曲がった模擬根管1本(長さ22mm・#30/.04)に、直径6μmの粒子を混ぜた水を満たし、Er:YAGレーザーによる PIPS と、超音波で振動させたファイルによる PUI で生まれる液の流れの速さを、粒子画像流速測定法(PIV)で比べた実験室研究(Koch・Jaramillo・DiVito・Peters 2015・Clinical Oral Investigations)
根管洗浄の液を動かす方法として、超音波(PUI)に加えて、Er:YAGレーザーで液を動かす PIPS があります。Koch らは2015年、アクリルの根管模型1本に水を満たし、液の中の粒子の動きから流れの速さを測りました。PIPS では、チップの下の歯冠側の区画で平均1.02 m/s、根の中央で0.25 m/s、根尖側で0.43 m/sの流れがありました。超音波では、ファイルの周りの平均が約0.03 m/sで、ファイルの下2mm以内で0.01 m/sを下回り、根の中央より下では流れを観察できませんでした。ただし超音波のファイルは根管口から3mmしか入れておらず、液は洗浄液ではなく水、測ったのは流れの速さだけで、汚れや菌が減るかは調べていません。
①洗浄液をかき混ぜるなら、レーザーと超音波で、根尖まで動くのはどっち?
根管洗浄で、洗浄液を流しこむだけでなく「動かす」。超音波でファイルを振動させる方法(PUI:passive ultrasonic irrigation)はおなじみですが、Er:YAGレーザーで液を動かす PIPS(photon-induced photoacoustic streaming)という方法もあります。では、液はどこまで動いているのか。
この「液の流れ」そのものを、透明な根管模型の中で測って比べたのが、Koch・Peters らが2015年に Clinical Oral Investigations に出した短い報告です。
・アクリルの練習用ブロックの曲がった模擬根管1本に、粒子を混ぜた水を満たし、液の流れの速さを粒子の動きから測った実験室研究。洗浄液も象牙質も使っておらず、汚れや菌が減るかは調べていない
・PIPS:チップの下の歯冠側の区画で平均1.02 m/s、根の中央で0.25 m/s、根尖側で0.43 m/s。根管の全長にわたって流れがあった
・超音波(PUI):ファイルの周りの平均は約0.03 m/s。ファイルの下2mm以内で0.01 m/sを下回り、根の中央より下では流れを観察できなかった
・ただし超音波のファイルは根管口から3mmしか入れていない(壁に当たらないようにするため)。根尖の近くまで入れた時の流れは測っていない
②なぜこの研究が必要だったか
根尖性歯周炎の原因は根管の中の菌で、器具で根管を広げると菌は減るものの、全部は除けません。そこで洗浄液を使い、その流れを強めると根管がきれいになると考えられてきた、と著者らは引用文献をもとに書いています。液をかき混ぜる方法としては、手用ファイル、ガッタパーチャポイント、プラスチックの器具、音波・超音波の装置などが提案されてきました。
レーザーでは、Er:YAGレーザーのパルスで液を動かす PIPS が、根管の清掃に有効だったという報告があります(引用された研究)。ただ、PIPS で液がどのような流れになっているかは、詳しく分かっていませんでした。そこで、液の流れの速さの分布を測る粒子画像流速測定法(PIV)を使い、PIPS と超音波を同じ模型で比べたのが今回の研究です。
③何をどう比べたか
・模型:アクリルの練習用ブロックの曲がった模擬根管1本(長さ22mm)。回転ファイルで #30・テーパー0.04 に広げた
・液:蒸留水に、蛍光の色素を付けた直径6μmの粒子を混ぜたもの。洗浄液(次亜塩素酸ナトリウムなど)は使っていない
・PIPS:Er:YAGレーザー(2940nm)を20mJ・15Hz・パルス幅50μsで照射。直径600μmの先細りのチップを、ブロックの上端から約3mmの深さに固定した
・超音波(PUI):#15 のKファイルを超音波装置の出力3(0〜10の目盛)で振動させ、根管口から3mmの深さに固定した。ファイルが根管の壁に当たらない深さを選んだと書かれている
・測り方:粒子をレーザーの光で光らせて高速で撮影し、粒子の動きから流れの速さを出した(PIV)。根管の3mmの区画ごとに、PIPS はチップの下(歯冠側)・根の中央・根尖側の3か所、超音波はファイルの周りを測った。PIPS は照射の0.8ミリ秒後に合わせた画像を100枚以上、超音波は振動中の画像を200枚、平均した
・比べ方:統計の検定は無い。測れる最小の速さ(超音波 0.005 m/s、PIPS 0.01 m/s〈上の区画は0.05 m/s〉)を測定の誤差の目安とし、その幅を大きく超える差かどうかで比べている
なお原典の中には、記載の食い違いが少しあります。PIPS の出力は方法では20mJ、図1の説明では15mJ。超音波の器具は、抄録では「切削しないチップ・出力30%」、方法では「#15のKファイル・出力3(0〜10の目盛)」です。粒子の大きさは、抄録の「6μm」を採りました(方法の誌面では「6-mm」と書かれています)。超音波の流れが届く距離も、抄録は「約2mmで測れない値に」、結果は「ファイルの下2mm以内で0.01 m/sを下回った」、考察は「1mmを大きく超えた先では目立った動きがない」と書き方が違います。この記事は結果の書き方に揃えました。
④結果1:PIPSでは、根尖側の区画でも液が動いていた
区画ごとの平均の速さを並べました。PIPS の3つの区画と、同じ模型の超音波のファイルの周りの値です。
PIPS では、チップのすぐ下の歯冠側の区画で局所的に3 m/sを超える速さがあり、区画の平均は1.02 m/s(標準偏差1.25)でした。根の中央は0.25 m/s(同0.19)、根尖側は0.43 m/s(同0.28)で、根管の全長にわたって流れを測ることができました。
根尖側が根の中央より速く出た点について、著者らは、圧力の波の重なりによる局所的な共振の可能性と、標本のばらつきの両方を挙げています。標準偏差が大きく、2つの区画の速さの分布は大きく重なっている、とも書いています。1枚ずつの画像では、上向き・下向きの大きな流れや渦が入れ替わる、変化の激しい流れでした。
⑤結果2:超音波の流れはファイルの周りに限られた
超音波では、ファイルの周りの平均の速さが約0.03 m/sでした。ファイルから離れると速さは落ち、ファイルの下2mm以内で0.01 m/sを下回りました。根の中央と根尖側の区画では、流れを観察できませんでした。
数字をまとめて表にしました。
著者らは、根の中央の PIPS(0.25 m/s)と超音波のファイルの周り(0.03 m/s)の差は測定の誤差の幅を大きく超えるとし、PIPS は超音波より「少なくとも10倍」速い平均の速さだったと書いています。ただ、原典の数字どうしの比は 0.25÷0.03≒8.3 で(筆者の計算)、抄録の「約10倍」は目安の数字と読むのが無難です。
⑥著者らの結論と、結果の読み方
著者らは、PIPS は器具の近くでも遠くでも、超音波より大きな平均の速さの流れを生み、この結果は根管治療の汚れの除去と消毒の段階に関わりうる、と結論しています。考察では、速さの違いは主根管の消毒や菌の層(バイオフィルム)がはがれることに有利だろうと推測しつつ、象牙細管の中の菌には答えていないとも書いています。
読み方として大事なのは、測ったのは「液の流れの速さ」だけだという点です。汚れが取れたか、菌が減ったかは、この研究では調べていません。また超音波は、ファイルが自由に振動できることが効き方の前提で、曲がった細い根管では振動が妨げられうる、と著者らは考察しています。今回はそれを避けるため、ファイルを根管口から3mmだけ入れて測っています。つまり根尖の近くまでファイルを入れて振動させた時に、根尖側の液がどれだけ動くかは、この研究からは分かりません。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・PIPS は、チップから離れた根尖側でも液が動いていた:ただしアクリルの模型・水での結果で、汚れや菌が減るかは別の研究で確かめる必要がある
・「速く流れる=きれいになる」ではない:流れの速さは洗浄の一つの要素で、液の種類・量・時間や、象牙質の形の影響はこの研究では見ていない
PIPS にはEr:YAGレーザーの装置とそのチップが要ります。導入を考える時は、この流れの研究だけでなく、汚れや菌の減り方、根尖からの液の押し出しなど、別の観点の研究も合わせて判断したいところです。
(2)超音波のファイルは根管口から3mmだけ入れました。ファイルの近くでしか流れが測れなかった、という結果は、ファイルの位置の影響を強く受けている可能性があります。
(3)PIPS は照射の0.8ミリ秒後の瞬間に合わせて撮影しました。超音波は振動中の画像の平均で、2つの方法で撮り方が違います。また奥行きのある流れを1つの面で測っています。
(4)統計の検定は無く、測定の誤差の目安と比べています。
(5)研究の資金は、著者の1人(DiVito 氏)がパートナーを務める会社(Medical Dental Advance Technologies Group)から出ていると、論文に書かれています。
流れを「見える化」した点で面白い報告です。汚れや菌が実際にどう減るかを比べた研究と並べて読むと、PIPS の位置づけが見えてきます。
今日のひとこと
このアクリルの根管模型の実験では、PIPS は根尖側の区画でも平均0.43 m/sの液の流れを生み、超音波(PUI)の流れはファイルの周りの平均が約0.03 m/sで、ファイルの下2mm以内で0.01 m/sを下回り、根の中央より下では観察できませんでした。ただし超音波のファイルは根管口から3mmしか入れておらず、液は水、測ったのは流れの速さだけで、汚れや菌が減るかは調べていません。「速い流れが根尖側まで届きうることを示した模型の結果」と読み、きれいになるかどうかは別の研究で確かめる、というのがこの論文に合った読み方です。


