1問1答 論文 エンド

超音波で洗浄液を動かすと、湾曲根管の象牙質は削れる?——抜去した下顎大臼歯の湾曲した近心根管72本の実験室研究で、超音波用Kファイル・イリセーフ・スムースワイヤーの3種とも中央と根尖側の1/3で活性化なしの対照より有意に多くの象牙質を削り、計30秒より計60秒で削れが大きかった(最も深い欠損0.18mm、Retsas 2016)

1問1答 論文 エンド

エンド|抜去した下顎大臼歯の湾曲した近心根管72本を35/.04まで形成し、2%次亜塩素酸ナトリウムを超音波用Kファイル・イリセーフ・スムースワイヤー(ESI)で活性化(または活性化なし)して、削れた象牙質の体積と欠損の深さをマイクロCTで比べた実験室研究(Retsas・Koursoumis・Tzimpoulas・Boutsioukis 2016・Journal of Endodontics)

パッシブ超音波洗浄は「ファイルが壁に触れない」ことが前提です。では湾曲根管ではどうか。Retsas らは2016年、抜去した下顎大臼歯の湾曲した近心根管72本(各群18本)で、超音波の活性化のあとに削れた象牙質をマイクロCTで測りました(出力35%、2%次亜、作業長の2mm手前)。超音波用Kファイル・イリセーフ・スムースワイヤーの3種とも、中央と根尖側の1/3で、活性化しなかった対照より有意に多くの象牙質を削りました。歯冠側と中央ではKファイルがほかの2種より多く削り(有意差を認めた組み合わせは部位・指標・回で異なる)、根尖側では3種の削れた量に有意差を認めませんでした。計30秒の後より計60秒の後で、削れた量も欠損の深さも有意に大きくなりました。最も深い欠損は0.18mmで、穿孔はありませんでした。患者の口の中で調べた研究ではなく、洗浄の効果も測っていません。

論文
Uncontrolled Removal of Dentin during In Vitro Ultrasonic Irrigant Activation in Curved Root Canals
著者
Anastasios Retsas、Anastasios Koursoumis、Nestor Tzimpoulas、Christos Boutsioukis(オランダ アムステルダム歯科大学アカデミックセンター〔ACTA〕歯内療法学講座)
掲載
Journal of Endodontics 2016;42(10):1545-1549
種類
実験室研究(in vitro)。抜去した下顎大臼歯36本の近心根から、湾曲20〜40°の近心根管72本を選び、Ni-Tiロータリーで35/.04まで形成。湾曲の角度と半径で層別して無作為に4群(各18本):超音波用Kファイル(15/.02、事前に曲げる)、イリセーフ(20/.00、事前に曲げる)、スムースワイヤー(ESI、15/.02、曲げない)、活性化なし(対照)。2%次亜2mLで10秒の活性化を3回(計30秒)、さらに30秒連続(計60秒)。出力35%、作業長の2mm手前。マイクロCT(ボクセル10μm)で、形成後の壁から削れた象牙質の体積と欠損の最大の深さを1/3ごとに測定。ノンパラメトリック検定
資金・利益相反
利益相反は無いと明記。超音波装置と低エックス線不透過性のコンポジットレジンは外部の研究者から提供されたと謝辞に記載
PMID
27552838

①超音波で洗浄液を動かすと、湾曲根管の壁は削れる?

根管形成を終えたあと、次亜塩素酸ナトリウム(以下、次亜)を入れて、超音波のファイルで液を動かす。広く使われている仕上げの洗浄です。「パッシブ(受け身の)超音波洗浄」という呼び名のとおり、ファイルは壁に触れず、液を動かすだけ。そう習った方も多いと思います。

では、根管が曲がっていたらどうでしょう。曲がった根管の中で、ファイルは壁に触れずに振動し続けられるのか。Retsas・Boutsioukis らが2016年に Journal of Endodontics に出した研究は、抜去歯の湾曲根管で、超音波の活性化のあとに象牙質がどれだけ削れたかを、マイクロCTで測りました。

結論を先に書きます。
・抜去した下顎大臼歯の、湾曲した近心根管72本を使った実験室研究(各群18本)。患者の口の中で調べたものではない
・超音波用のKファイル、イリセーフ(Irrisafe)、スムースワイヤー(ESI)の3種とも、中央1/3と根尖側1/3で、活性化しなかった対照より有意に多くの象牙質を削った(出力35%、2%次亜、作業長の2mm手前)
・歯冠側1/3と中央1/3では、Kファイルがほかの2種より多く削った(抄録のまとめ。有意差を認めた組み合わせは部位・指標・回で異なる)。根尖側1/3では、3種の削れた量に有意差を認めなかった
・当てる時間が長いほど増えた:計30秒の後より計60秒の後で、3種とも全部位で、削れた量も欠損の深さも有意に大きかった
・最も深い欠損は0.18mm(全群・全部位を通じた最大値)。穿孔は無かった

②なぜこの研究が必要だったか

パッシブ超音波洗浄は、ファイルが壁に当たると振動が弱まるため、壁に触れないことが前提とされてきました。ところが近年、まっすぐな模型の根管ではファイルが壁にかなり頻繁に当たること、まっすぐなヒトの根管でも超音波のKファイルやイリセーフが少量の象牙質を削りうることが報告されていました(著者らが引用した先行研究)。

著者らは、根管が曲がっていればこの影響はもっと大きく出るだろうと考えました。あわせて、「削らない」代わりとして勧められてきたスムースワイヤーの影響は数値で測られておらず、活性化の時間もこれまでの研究で10秒から180秒までばらばらでした。そこで、ファイルの種類と活性化の時間が、湾曲根管の象牙質の削れ方にどう関わるかを調べたのが今回の研究です。

③何をどう比べたか

・試料:抜去した下顎大臼歯36本の近心根。根尖孔が別々に開く近心根管が2本あり、湾曲が20〜40°のもの(S字の湾曲は除外)。72本の根管をそれぞれ1単位として扱った
・形成:Ni-Tiロータリー(Mtwo)で 35/.04 まで。根尖はシアノアクリレートで閉じ、根尖が閉じた状態にした
・群:湾曲の角度と半径で層別して無作為に4群(各18本)
 A:超音波用Kファイル(15/.02、21mm、事前に曲げる)
 B:イリセーフ(20/.00、21mm、事前に曲げる)
 C:スムースワイヤー(ESI、15/.02、25mm、曲げない)
 D:活性化なし(対照。液を置いて待つだけ)
・活性化:2%次亜2mLを入れて10秒の活性化を3回(1回目、計30秒)。その後、次亜0.2mLを満たして30秒連続で追加(2回目、計60秒)。出力は7/20(35%、メーカー推奨)、ファイルは作業長の2mm手前で保持。ファイルは根管4本ごとに新品に交換
・測り方:形成前・形成後・1回目の後・2回目の後にマイクロCT(ボクセル10μm)で撮影し、重ね合わせて、形成後の壁から削れた象牙質の体積と欠損の最大の深さを、歯冠側・中央・根尖側の1/3ごとに出した
・統計:分布が偏っていたためノンパラメトリック検定(群間はクラスカル・ウォリス検定とダン検定、回の間はウィルコクソンの符号付き順位検定、ボンフェローニ補正)

④結果1:3種とも削った。どこで差が出たかは部位で違った

削れた象牙質は、1部位あたり1回目の後で0〜0.032mm³、2回目の後で0〜0.072mm³でした。対照(活性化なし)では、図1の立体像に欠損は見えなかったと書かれています。

どの群とどの群に有意差があったかを、原著の本文の記述そのままに表にしました。

表:有意差を認めた組み合わせ(原著の本文「結果」)。「>」の左の群が多い・深い 部位・指標 回 有意差を認めた組み合わせ 歯冠側1/3・削れた量 1回目の後 Kファイル>イリセーフ・対照 2回目の後 Kファイル>イリセーフ・ワイヤー・対照 歯冠側1/3・欠損の深さ 1回目の後 Kファイル>イリセーフ・対照 2回目の後 Kファイル>イリセーフ・ワイヤー・対照 中央1/3・削れた量 1回目の後 3種とも>対照/Kファイル>イリセーフ・ワイヤー 2回目の後 3種とも>対照/Kファイル>イリセーフ 中央1/3・欠損の深さ 1回目の後 3種とも>対照/Kファイル>ワイヤー 2回目の後 3種とも>対照/Kファイル>ワイヤー 根尖側1/3・削れた量 1回目の後 3種とも>対照(3種の間は有意差なし) 2回目の後 3種とも>対照(3種の間は有意差なし) 根尖側1/3・欠損の深さ 1回目の後 Kファイル・ワイヤー>対照/ワイヤー>イリセーフ 2回目の後 3種とも>対照/ワイヤー>イリセーフ 1回目の後=10秒×3回(計30秒)、2回目の後=さらに30秒連続(計60秒)。回をまたぐ比較では、3種とも全部位・両 指標で2回目の後に有意に増えた(P≦0.031) ワイヤー=スムースワイヤー(ESI、事前に曲げていない)。対照=活性化なし。表は原著の本文に従い、表に無い組 み合わせは本文で有意でなかったとされる ただし図3の歯冠側・2回目(欠損の深さ)では、イリセーフ・ワイヤーと対照の有意差の記号が本文と食い違って見え、 この2つの比較は確定できない(補足の表は入手していない) 原著は群ごとの数値の表を本文に載せていない(詳細は補足の表S1〜S3。本記事では入手していない)。図2・図3の箱 ひげ図から数値を読み取ることはしていない 実験室研究:抜去した下顎大臼歯の湾曲した近心根管72本(各群18本)。2%次亜塩素酸ナトリウム、出力35%、作業長 の2mm手前。マイクロCTで、形成後の根管壁から削れた象牙質を測った
表:有意差を認めた組み合わせ(原著の本文「結果」)。「>」の左の群で、削れた量が多い、または欠損が深い。表に無い組み合わせは、原著の本文で有意でなかったとされています。ただし図3の歯冠側・2回目の欠損の深さでは、イリセーフ・ワイヤーと対照の記号が本文と食い違って見えます(下の段落)。

読みどころは3つです。
・歯冠側1/3:Kファイルが目立って削った。削れた量では、イリセーフとスムースワイヤーは対照との間に有意差を検出しなかった
・中央1/3:3種とも対照より多く削った。Kファイルは、削れた量でイリセーフより多く(両回)、欠損の深さでワイヤーより深かった(両回)。2回目の後の削れた量では、Kファイルとワイヤーの間に有意差を検出しなかった
・根尖側1/3:3種とも対照より多く削り、削れた量は3種の間で有意差を認めなかった。欠損の深さでは、曲げていないスムースワイヤーがイリセーフより深かった

なお、原著は群ごとの数値の表を本文に載せておらず、詳しい統計は補足の表(S1〜S3)にあります。本記事は補足の表を入手しておらず、箱ひげ図から数値を読み取ることもしていません。また、原著の図3(欠損の深さ)の歯冠側・2回目では、イリセーフとスムースワイヤーが対照と別の有意差の記号になっており、本文の「ほかの差は有意でなかった」と食い違って見えます。本記事は本文の記述に従って表を作りましたが、この2つの比較(歯冠側・2回目の深さで、イリセーフ・ワイヤーと対照)は確定できません。

⑤結果2:時間を延ばすと、削れた量も深さも増えた

1回目(10秒×3回、計30秒)の後と、2回目(さらに30秒、計60秒)の後を比べると、Kファイル・イリセーフ・スムースワイヤーの3種とも、歯冠側・中央・根尖側のすべてで、削れた量も欠損の深さも2回目の後に有意に大きくなっていました(P≦0.031)。

0 0.1 0.2 欠損の最大の深さ(mm) 0.11 0.18 1回目の後(計30秒) 2回目の後(計60秒) 全群・全部位を通じた最大値(原著の本文)。群ごとの値ではない。抜去歯の湾曲根管の実験室研究
図:欠損の最大の深さ(全群・全部位を通じた最大値。原著の本文)。群ごとの値ではありません。

全群を通じた最も深い欠損は、1回目の後で0.11mm、2回目の後で0.18mmでした。著者らは、計30秒・計60秒は、最長180秒まで当てていた他の研究と比べると短い時間だったと書いています。

⑥結果の読み方

Kファイル:まっすぐな根管の先行研究(著者らが引用)では主に根尖側で見られた削れが、湾曲根管では全部位で見られました。著者らは、根管の湾曲による可能性を挙げ、超音波の活性化にKファイルを使う理由はほとんど無いように思われる、と書いています。

スムースワイヤー:「削らない」とされてきたワイヤーも、根尖側ではKファイルとの間に削れた量の有意差を認めず、著者らは「Kファイルとほぼ同じくらい削った」と解釈しています。著者らは、ほかの2種と違って事前に曲げていなかったことが削れを大きくした可能性を挙げています(Ni-Tiのワイヤーは正確に曲げるのが難しい)。これは著者らの推測で、曲げた場合と比べてはいません。

イリセーフ:歯冠側と中央ではKファイルより削りが少なく、根尖側では削れた量に有意差がありませんでした。著者らは、全体として見ればイリセーフは今回のスムースワイヤーより控えめかもしれない、と述べています。

2つの物差し(削れた量と欠損の深さ)は中程度の相関(ピアソンのr=0.692)にとどまり、部位によっては結論が分かれました。最も深い欠損(0.18mm)ははっきりした段差(レッジ)になっていましたが、穿孔はありませんでした。著者らは、この程度の削れが歯根の強さに響く可能性は低いとしつつ、臨床上の意味ははっきりしないと書いています。

⑦明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。

・「パッシブ」でも壁に触れうる:湾曲根管の実験では、3種とも中央・根尖側で象牙質を削った。著者らは、超音波の活性化を制限の無い「受け身の」操作と考えるべきではない、としている
・ファイルの選び方:この実験では、Kファイルが歯冠側・中央でほかの2種より多く削り(有意差の組み合わせは部位と回で異なる)、曲げていないスムースワイヤーも根尖側で削った。「スムース=削らない」とは言えなかった
・時間はだらだら延ばさない:計60秒の後は計30秒の後より削れが大きかった。著者らは活性化の時間を抑えるのがよいかもしれない、としている
・数字は実験条件ごと:出力35%、作業長の2mm手前、35/.04まで形成した根管での結果。別の装置・出力・ファイル位置にそのまま当てはめられるかは分からない

著者らは、活性化の最長時間と出力について、もっとはっきりした指針を作ることが役に立つかもしれない、と結んでいます。この研究は、洗浄の効果(汚れや菌がどれだけ取れたか)は測っていません。活性化をやめる根拠ではなく、「どのファイルを、どれくらいの時間使うか」を考える材料として読むのが合っています。

ここだけ、冷静に補助線(1)実験室研究です。抜去した下顎大臼歯の近心根管(各群18本)を使い、根尖を閉じた状態で行いました。患者の口の中の条件は再現していません。
(2)洗浄の効果(汚れや菌の除去)は評価しておらず、削れと引き換えに何が得られたかは分かりません。
(3)ファイルは根管4本ごとの交換で、切れ味が落ちて削れを少なめに見積もった可能性、2回目の連続活性化で振動の立ち上がりが1回多く、削れを多めに見積もった可能性を、著者らが挙げています。
(4)スムースワイヤーだけ曲げておらず、長さも25mm(ほかは21mm)でした。
(5)超音波装置は1機種・出力は35%の1条件です。
(6)著者らは利益相反は無いと明記しています。超音波装置は外部の研究者から提供されたと謝辞にあります。

今日のひとこと

この実験室研究では、湾曲根管で超音波の活性化をすると、Kファイル・イリセーフ・スムースワイヤーの3種とも中央と根尖側で象牙質を削り、時間が長いほど削れは大きくなりました。最も深い欠損は0.18mmで穿孔は無く、著者らも臨床上の意味ははっきりしないとしています。洗浄の効果は測っていないので、活性化をやめる根拠ではありません。「パッシブでも壁に触れうる。ファイルの種類と時間を意識して使う」と読むのが、この論文に合った読み方です。

Retsas A, Koursoumis A, Tzimpoulas N, Boutsioukis C. Uncontrolled removal of dentin during in vitro ultrasonic irrigant activation in curved root canals. J Endod. 2016;42(10):1545-1549. doi: 10.1016/j.joen.2016.07.006. PMID: 27552838
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。