エンド|牛の抜去歯の根の中央部を縦に割った小片(計300片)を、水酸化カルシウムのペースト(1・3・7日)、6%次亜塩素酸ナトリウム(15・30・60秒)、その両方に浸し、SEM写真で根管壁の面積に占める残った組織の割合を比べた実験室研究(Wadachi・Araki・Suda 1998・Journal of Endodontics)
器具が触れなかった根管壁には、歯髄の残りが付いたままになりがちです。次回までの水酸化カルシウムの貼薬は、殺菌だけでなく、この残りを減らす助けにもなるのか。Wadachi らは1998年、牛の抜去歯の根を縦に割った小片(計300片、各条件15〜30片)を薬に浸し、SEM写真で根管壁の面積に占める残った組織の割合を測りました。平均の割合は、何もしない対照の92.7%に対し、水酸化カルシウムのペーストに7日浸すと6.22%(1日36.7%・3日29.4%)、6%次亜塩素酸ナトリウムに30秒浸すと3.83%、7日浸したあとに30秒浸すと1.48%でした。ただし1日・3日の貼薬のあとに次亜塩素酸ナトリウムに浸した値は、次亜塩素酸ナトリウムだけより高いものが多く、著者らはペーストの粒が残って組織として数えられたためと推測しています。根管の中で使った結果でも、臨床の成績を見た研究でもありません。
①水酸化カルシウムの貼薬に、根管壁の歯髄の残りを減らす力はある?
根管の形は複雑で、器具が根管壁の全部に触れるとは限りません。触れなかった壁には歯髄の残りが付いたままになりがちです。では、次の回までに入れておく水酸化カルシウムの貼薬は、殺菌だけでなく、この残りを減らす助けにもなるのでしょうか。
これを、牛の歯の根の小片をペーストや次亜塩素酸ナトリウムに浸して確かめたのが、東京医科歯科大学の Wadachi・Araki・Suda が1998年に Journal of Endodontics に出した研究です。
・牛の抜去歯の根を縦に割った小片(計300片、各条件15〜30片)を薬に浸し、SEM写真で根管壁の面積に占める残った組織の割合(平均)を測った実験室研究。根管の中で薬を使ったのではなく、臨床の成績も見ていない
・何もしない対照:92.7%(壁のほとんどが組織に覆われていた)
・水酸化カルシウムのペーストだけ:1日36.7%、3日29.4%(1日と3日の間に有意差は認めなかった)、7日6.22%(1日・3日と有意差あり)
・6%次亜塩素酸ナトリウムだけ:15秒17.4%、30秒3.83%、60秒2.03%(どれも対照より有意に低く、30秒と60秒の間に有意差は認めなかった)
・ペーストのあとに次亜塩素酸ナトリウム:7日のあとは0.74〜4.55%で、次亜塩素酸ナトリウムだけより有意に低かった(著者らの本文の記載)。1日・3日のあとは、次亜塩素酸ナトリウムだけより高い値が多かった
・著者らは「7日の水酸化カルシウムの貼薬と、次の回の30秒を超える次亜塩素酸ナトリウムの洗浄で、最もよい効果が得られるだろう」と結論した
②なぜこの研究が必要だったか
著者らは序論で、器具による清掃は根管の形などの理由でいつも完全にはできず、薬液による清掃が大事な助けになる、と書いています。また、根管に残った有機物・無機物の残りは細菌の栄養になったり、治りを妨げたりしうる、としています。
根管の貼薬の評価は、これまで主に抗菌力と生体への優しさで行われ、組織を溶かす働きを調べた報告は少なかった、と著者らは指摘します。水酸化カルシウムはpHが高いため有機物を溶かす力があり、薬液による清掃を後押ししうると以前から言われていました。そこで、著者らが「新しく開発された」と書く練り済みの水酸化カルシウムペーストで、根管壁に付いた歯髄を減らす働きをSEMで調べました。
③何をどう比べたか
・試料:牛の抜去した前歯38本(抜去後すぐ−20℃で冷凍)。根の中央部から長さ2mmの輪切りを2つ取り、それぞれ縦に4つに割った小片(1歯8片)。使ったのは原著の記載で計300片(38本×8片=304片との差4片の説明は原著に無い)。器具で根管を削っていない根管壁で、歯髄の大きな塊はピンセットで取り除いた
・ペースト:水酸化カルシウムの粉と、蒸留水73%・プロピレングリコール25%・メチルセルロース2%の液を重さ1対1で練ったもの(原著の表1)
・4つの群(片は無作為に分けた):
1)ペーストだけ:ペースト1mLに沈め、37℃・湿度100%で1日・3日・7日(15・15・30片)
2)次亜塩素酸ナトリウムだけ:6%の液1mLに室温で15秒・30秒・60秒浸した(15・30・15片)
3)両方:ペースト(1・3・7日)のあとに6%の液(15・30・60秒)。各15片、7日+30秒だけ30片(計150片)
4)対照:何もしない(30片)
・どの群も、生理食塩液の中で2分の超音波処理をした(ペーストを落とすため、または液に浸す前に)
・測り方:SEMで各片の典型的な3か所を500倍で撮り、残った組織(debris)の輪郭をなぞって面積を測り、壁の面積に占める割合(%)を出した(著者らの呼び名は debris score)
・統計:原著には「paired t test」と書かれている
④結果1:ペーストだけでは7日が1日・3日より、次亜塩素酸ナトリウムだけでは30秒・60秒が15秒より、有意に低かった
原著の表2の全16の値を、そのまま表にしました。
ペーストだけでは、1日36.7%と3日29.4%の間に有意差は認めず、7日は6.22%で、1日・3日より有意に低い値でした。SEMでは、1日・3日で開いた象牙細管が一部に見え、7日では組織の残りはわずかで、球状の石灰化物(calcospherite)がいくつか見えたと報告されています。
次亜塩素酸ナトリウムだけでは、15秒17.4%・30秒3.83%・60秒2.03%で、どれも対照より有意に低い値でした。15秒は30秒・60秒と有意差があり、30秒と60秒の間には有意差を認めませんでした。
抄録では「30秒を超える次亜塩素酸ナトリウム、または7日の水酸化カルシウムで、残りが著しく減った」とまとめています。また本文では、ペースト7日の結果は次亜塩素酸ナトリウム30秒や組み合わせと「同程度(comparable)」と書いています。
⑤結果2:次亜塩素酸ナトリウムだけより有意に低いと書かれたのは、7日の貼薬のあと
7日のペーストのあとに次亜塩素酸ナトリウムに浸すと、15秒4.55%・30秒1.48%・60秒0.74%で、著者らは本文で、次亜塩素酸ナトリウムだけの結果より有意に低かったと書いています。
一方、1日・3日のペーストのあとでは、次亜塩素酸ナトリウムだけより高い値が多くなりました(例:15秒で、1日のあと23.1%・3日のあと24.0%に対し、次亜塩素酸ナトリウムだけは17.4%。3日のあとの30秒は3.81%で、次亜塩素酸ナトリウムだけの3.83%とほぼ同じ)。それでも、ペーストだけの1日・3日の値(36.7%・29.4%)よりは低い値でした。
抄録は「組み合わせは単独の処置より効果的だった」とまとめていますが、本文で次亜塩素酸ナトリウムだけより有意に低いと書かれたのは7日の貼薬のあとだけです。1日・3日のあとで、ペーストだけと次亜塩素酸ナトリウムだけの両方より平均が低かったのは、3日+30秒(3.81%。次亜塩素酸ナトリウムだけは3.83%)だけでした。著者らは考察で、SEMの見た目では組み合わせのほうが溶けていたのに、数字が合わなかった理由を、ペーストの粒が組織の中や壁に残り、組織として数えられたためだと推測しています(確かめてはいない)。
⑥著者らの結論と、結果の読み方
著者らはSEMの所見から、短い次亜塩素酸ナトリウムは象牙前質(predentin)を除く歯髄の組織の大部分を溶かしうる、長い水酸化カルシウムは軟組織に加えて象牙前質にも作用しうる、組み合わせは単独より強く溶かした、と解釈しています。そして、日ごろの診療で行う「貼薬→次の回に次亜塩素酸ナトリウムで洗浄」はとても価値があり、7日の貼薬と、次の回の30秒を超える洗浄で最もよい効果が得られるだろうと結論しました。
読み方として大事なのは、これが根を縦に割って根管壁をむき出しにした小片を、ペーストや液に丸ごと浸した実験室の結果だという点です。細い根管の中や根尖の近く、フィンの奥に、ペーストや液が同じように届くかは調べていません。また、測ったのは「SEM写真で組織に見えた面積の割合」で、ペーストの粒まで数えた可能性を著者ら自身が挙げています。歯髄は抜去してすぐ冷凍した牛の歯のもので、細菌を加えた実験ではなく、感染根管の壊死組織とは条件が違います。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・日数で値が違った:ペーストだけの値(平均)は1日36.7%・3日29.4%・7日6.22%。7日は1日・3日より有意に低く、1日と3日の間には有意差を認めなかった
・次の回の洗浄と組み合わせる:7日のあとに6%次亜塩素酸ナトリウムに30秒浸すと1.48%(平均)。著者らは30秒を超える洗浄を勧めている
・根管の中での効果は別の問題:割った小片を浸した実験で、細い根管の中での届き方、感染根管、治療の成績は調べていない
また、使ったのは6%の次亜塩素酸ナトリウムと、成分を示した練り済みのペースト1種類です。濃度やペーストが違えば結果も変わりうるので、自分の使う薬剤にそのまま当てはめず、根管の中で調べた研究とあわせて読むのがよさそうです。
(2)規模は各条件15〜30片(原著記載の使用数は計300片・牛の歯38本。38本×8片=304片との差4片の説明は原著にありません)。1本の歯から8片を取っており、同じ歯から取った片の扱いと、検定(「paired t test」と記載)で何を対応させたかは、記載から確認できません。
(3)測ったのはSEMで選んだ典型的な3か所の写真で、残った組織に見えた面積の割合です。撮る場所の選び方や、測る人が群を知っていたかは書かれていません。ペーストの粒まで数えた可能性を著者ら自身が挙げています。
(4)抄録は「組み合わせは単独より効果的」とまとめていますが、本文で次亜塩素酸ナトリウムだけより有意に低いと書かれたのは7日の貼薬のあとで、1日・3日のあとでは次亜塩素酸ナトリウムだけより高い値が多くなりました。
(5)抜去してすぐ冷凍した牛の歯の歯髄で、細菌を加えた実験ではなく、殺菌の効果は見ていません。
(6)資金と利益相反の記載は見当たりませんでした。ペーストは成分だけが示され、製品名は書かれていません。
今日のひとこと
牛の歯の根を縦に割った小片を薬に浸した実験室研究では、根管壁の面積に占める残った組織の割合(平均)が、水酸化カルシウムのペースト7日で6.22%、6%次亜塩素酸ナトリウム30秒で3.83%、ペースト7日のあとに30秒で1.48%と、何もしない対照の92.7%から大きく下がりました。ペーストだけの値は1日36.7%・3日29.4%・7日6.22%で、7日は1日・3日より有意に低く、ペーストのあとに浸した値が次亜塩素酸ナトリウムだけより有意に低いと書かれたのは、7日の貼薬のあとでした。根管の中・臨床での効果は調べていないので、「貼薬は次の回の洗浄を助けうる」という実験室からのヒントとして持ち帰るのが、この論文に合った読み方です。


