1問1答 論文 エンド

次亜塩素酸ナトリウムは、生きた歯髄も溶かす?——矯正患者の健全な小臼歯40本(各条件10本)を5.25%次亜塩素酸ナトリウムか生理食塩水で15分洗浄して組織で見ると、形成しない歯では歯髄が溶けて、表面が切断面から平均1.7 mmの深さになり(生理食塩水は0.5 mm)、象牙前質もほぼ全例でなくなったが、作用は表面だけで、側枝や根尖側の狭い所には届きにくかった(ヒトの生活歯の組織学的研究・Rosenfeld 1978)

1問1答 論文 エンド

エンド|矯正患者の健全な小臼歯40本を、根管を形成しない歯と形成した歯に分け、各10本ずつ5.25%次亜塩素酸ナトリウム(Clorox 原液)か生理食塩水で15分洗浄し、45分以内に抜歯して顕微鏡で見た組織学的研究(Rosenfeld・James・Burch 1978・Journal of Endodontics)

抜髄で根管に入れる次亜塩素酸ナトリウム。相手は壊死組織ではなく、血の通った生きた歯髄です。それでも溶けるのか。Rosenfeld らは1978年、矯正患者の健全な小臼歯40本を5.25%次亜塩素酸ナトリウムか生理食塩水で15分洗浄し、抜歯して組織で調べました。根管を形成しない歯では、もとの切断面から歯髄の表面までが平均1.7 mm(生理食塩水は0.5 mm・原著は有意と記載)。象牙前質もほぼ全例でなくなり、形成した歯では根管壁の組織もほぼ全例で取り除かれました。ただし作用は表面だけで、側枝や根尖側の狭い所には届きにくい結果でした。15分洗浄し、45分以内に抜歯した歯の組織の見え方を調べた研究で、治療の成績は見ていません。

論文
Vital Pulp Tissue Response to Sodium Hypochlorite
著者
Edward F. Rosenfeld、Garth A. James、Buckner S. Burch(原著の記載では、筆頭著者は元ネブラスカ大学歯学部の大学院生、James は同学部の歯内療法学の教授)
掲載
Journal of Endodontics 1978;4(5):140-146
種類
ヒトの生活歯を使った組織学的研究。若い成人の矯正患者の健全な小臼歯42本(方法の対照2本+40本)。根管を形成しない群Aと、Kファイルで根尖から約5 mm手前まで形成する群B、各20本を、10本ずつ5.25%次亜塩素酸ナトリウム(Clorox 原液)か生理食塩水で15分洗浄(5 mL・間欠的)。45分以内に抜歯し、光学顕微鏡で液を知らない2人が評価。検定の結果があるのは深さの比較だけ(手法の記載は、形成しない歯の比較の Kolmogorov-Smirnov 検定のみ)。痛み・治癒・成績は調べていない
資金・利益相反
原著に資金・利益相反の記載は見当たらない(製品名 Clorox は脚注に製造元の記載のみ)
PMID
283180

①次亜塩素酸ナトリウムは、生きた歯髄も溶かす?

抜髄で根管に次亜塩素酸ナトリウムを入れるとき、相手は壊死した組織ではなく、生きて血の通った歯髄です。「壊死組織は溶かす」とはよく聞きますが、生きた歯髄にも同じように働くのでしょうか。血流があるから溶けにくい、という考え方もありました。

この問いに、若い成人の矯正患者の健全な小臼歯を使い、処置のあと抜歯して、組織の標本で答えようとしたのが、Rosenfeld・James・Burch が1978年に Journal of Endodontics に出した研究です。

結論を先に書きます。
・ヒトの生活歯を使った組織学的研究。矯正患者の健全な小臼歯40本を、根管を形成しない歯(A)と形成した歯(B)に分け、それぞれ10本ずつ5.25%次亜塩素酸ナトリウム(Clorox の原液)か生理食塩水で15分洗浄し、約45分以内に抜歯して顕微鏡で見た
・形成しない歯では、もとの切断面から歯髄の表面までの深さが、次亜塩素酸ナトリウムで平均1.7 mm、生理食塩水で平均0.5 mm(原著は有意と記載)。生きた歯髄も表面から溶けていた
・作用は表面だけで、染まり方が変わったのは表面から細胞3〜5個分の深さまで。いちばん一貫した所見は象牙前質がなくなることだった(石灰化した象牙質は大きく変わらなかった)
・形成した歯では、次亜塩素酸ナトリウムは根管壁の象牙前質と残った組織をほぼ全例で取り除いた。一方、側枝には本管のすぐ近くしか作用せず、根尖側の深さは対照と有意差を認めなかった
・著者らの結論は「5.25%次亜塩素酸ナトリウムは生理食塩水より効果的で、生きた歯髄に表面から非特異的に溶かす作用を持つ。ただし狭い所では作用が限られる」

②なぜこの研究が必要だったか

次亜塩素酸ナトリウムは、壊死組織や有機物を溶かす力と、穏やかな抗菌作用から、根管洗浄に広く勧められていました。5.25%は薄めた液より壊死組織をよく溶かすという報告もありました(いずれも原著が引いた文献)。

ところが、それまでの研究の多くは壊死した組織への作用を見たもので、生きた歯髄への作用を調べたものは2つしかなく、どちらも器具で形成した歯でした。そのうちの1つ(Grey の学位論文)は、生きた歯髄はほとんど除去されず、血管の多い生きた組織が次亜塩素酸ナトリウムに抵抗したのだろうと結論していました(原著が引いた文献)。器具の作用を除いて、液そのものが生きた歯髄に何をするかを見た研究は無かった、と著者らは書いています。

③何をどう調べたか

・対象:若い成人の矯正患者の、治療歴のない健全な生活歯の小臼歯42本。説明と同意を得て、温度と電気の歯髄診断とX線写真で異常のない歯だけを使った
・方法の対照:2本(1本はそのまま抜いた歯、1本は髄室を開けて15分出血させた歯)
・群A(形成しない)20本:髄室を開けて歯髄を切断し、象牙質に段を作ってもとの切断面の目印にした。5 mLの洗浄液を15分間、間欠的に歯髄へ注いだ。10本が5.25%次亜塩素酸ナトリウム(Clorox 原液)、10本が生理食塩水
・群B(形成する)20本:Kファイルで根尖から約5 mm手前まで(上顎は40号、下顎は60号まで)形成しながら、同じく5 mLで15分洗浄。10本ずつ同じ2液
・観察:洗浄の終了から45分以内に抜歯し、ホルマリン固定・脱灰・パラフィン切片(H&E染色とMasson染色)にして光学顕微鏡で観察。どちらの液かを知らない2人が、それぞれ別に評価した

評価したのは、切断面から歯髄の表面までの深さ(mm)、根管壁に残った組織、根尖側の削りかすの栓、象牙前質、表面の圧縮や出血、赤血球・象牙芽細胞・象牙質の形の変化などです。検定の手法が書かれているのは、形成しない歯の深さの比較(Kolmogorov-Smirnov 検定)だけで、形成した歯の根尖側の深さは「有意でない」とだけ書かれています。

④結果1:形成しない歯では、歯髄が表面から溶けた

根管を形成しない歯(群A)で、もとの切断面から歯髄の表面までの深さを比べると、生理食塩水は平均0.5 mm、次亜塩素酸ナトリウムは平均1.7 mm(0.5〜3.0 mm)でした(図1)。原著は、この差を95%の水準で有意と書いています。

0 0.5 mm 1 mm 1.5 mm 2 mm 深さ(平均 mm) 0.5 mm 1.7 mm 生理食塩水(10本) 5.25%次亜塩素酸ナトリウム(10本) 深さ=もとの切断面から歯髄の表面まで。根管を形成しない歯(群A)。次亜塩素酸ナトリウムは0.5〜3.0 mm(範囲)。生理食塩水の範囲と標準偏差は記載なし。原著は有意(95%水準・Kolmogorov-Smirnov検定)と記載
図1:根管を形成しない歯(群A・各10本)の、もとの切断面から歯髄の表面までの深さの平均。原著の本文の値。生理食塩水の範囲とばらつき(標準偏差)は記載がない

次亜塩素酸ナトリウムの作用は表面だけでした。表面のすぐ下で染まり方が変わっていたのは、細胞3〜5個分の深さまでで、それより深い歯髄にはほとんど影響がありませんでした。著者らはこの溶かし方を「非特異的で、凝固させない」と表現しています。出血は生理食塩水より多く、赤血球は色が薄くなる・縮れるなどの変化を見せ、深い血管の赤血球にも変化がありました。

また、細い根管の歯では歯髄の表面の位置がおおむね浅く、太い根管の歯のほうが深くまで溶けていました(数値の記載はありません)。著者らは、溶かす作用は髄室への入り口と根管の太さに制限された、と書いています。

⑤結果2:象牙前質がなくなり、形成した根管の壁の組織もほぼ全例で取れた

いちばん一貫していたのは、象牙前質(石灰化する前の象牙質)がなくなることでした。形成しない歯でも次亜塩素酸ナトリウムではほぼ全例で象牙前質が消え、残っていても小さな断片でした。その下の石灰化した象牙質の凸凹の面は、大きく変わっていませんでした。

根管を形成した歯(群B)では、生理食塩水で形成しても10本のどれも象牙前質が取り切れず、多くの歯で根管壁や側枝に組織が残りました。次亜塩素酸ナトリウムで形成すると、器具が触れた所も触れていない所も、ほぼ全例で象牙前質がなくなり(1本で少し残った)、根管壁に残った組織もほぼ全例で取り除かれました。象牙細管の中身が消化されていたのは、原著の表現で「実験群の50%」、生理食塩水では0本でした。4つの条件の所見を表にまとめます(図2)。

表:4つの条件の主な所見7項目を抜粋(原著の本文の記述を筆者が表にまとめた。赤血球の変化・根尖側の 削りかすの栓などは本文に記載) 所見 A 生理食塩水 A 次亜塩素酸Na B 生理食塩水 B 次亜塩素酸Na 歯髄の表面の位置(平均) 0.5 mm 1.7 mm(有意) 別の基準で測定 別の基準で測定 象牙前質 記載なし ほぼ全例で消失 10本とも残る ほぼ全例で除去 根管壁に残った組織 記載なし 記載なし 多くの歯で残る ほぼ全例で除去 表面の圧縮帯 ほぼ全例 2本だけ 記載なし 記載なし 出血 わずか 生理食塩水より多い 広い出血なし 対照と差は見えず 象牙細管の中身 記載なし 記載なし 0本 50%で消化 側枝 記載なし 記載なし 組織が残る 本管のすぐ近くだけ A=根管を形成せず、歯髄の切断面に洗浄液をかけた歯。B=Kファイルで根尖から約5 mm手前まで形成しながら洗浄した 歯。各条件10本、洗浄は15分 次亜塩素酸Na=5.25%次亜塩素酸ナトリウム(Clorox原液)。記載なし=原著の本文にその条件の記述が見当たらない 歯髄の表面の位置は、象牙質に作った段(もとの切断面の目印)から歯髄の表面までの深さ。次亜塩素酸Naは0.5〜3.0 mm。検定の手法(Kolmogorov-Smirnov 検定)が書かれているのはこの比較だけ Bの「別の基準で測定」:形成の先端から削りかすの栓か残った組織の表面までが平均0.57 mmで、対照の0.50 mmと有意 差を認めなかった(原著の記載) 象牙細管の50%は原著の「実験群の50%」の表現。染まり方の変化は表面から細胞3〜5個分の深さまで(Aの次亜塩素酸Na)
図2:4つの条件の主な組織所見7項目(原著の本文の記述を筆者が抜粋して表にまとめた。原著に表は無い)

一方で、狭い所には届きにくい結果も出ています。側枝で溶かす作用が見えたのは本管のすぐ近くだけでした。根尖側では、形成の先端から削りかすの栓か残った組織の表面までが平均0.57 mmで、対照の0.50 mmと有意差を認めませんでした。次亜塩素酸ナトリウムで洗った歯では、残った歯髄の上に削りかすの栓がある歯が生理食塩水より少なかった、とも書かれています。

⑥結果の読み方:「血が通っていても溶ける」、ただし狭い所は別

著者らは、生きた組織は次亜塩素酸ナトリウムの影響を受けない、血流が溶かす作用に抵抗するという、それまでの報告とは結果が合わないと書いています。また、表面の線のすぐ下の組織が正常に見えたことから、次亜塩素酸ナトリウムは組織を傷めるより溶かす働きのほうが強く、傷んだ組織はすぐに溶けて取り除かれたのだろう、と推測しています。出血が多かったのは、組織が少しずつ溶けて深い血管が次々に出てきたためと考えています(どちらも著者らの解釈で、検証はしていません)。

根尖側で作用が限られた理由について、著者らは削りかすの栓、細い内腔、根尖の歯髄が線維質であることを挙げています。まとめの節では、作用は「中央と咬合面側の3分の1」でいちばん大きかった(原著の表現)、としています。そして、狭い所に入り込めないことが、この洗浄液を臨床で使ううえでの最大の壁だとしています。

⑦明日の臨床へ:抜髄でも次亜塩素酸ナトリウムは働く。届きにくい所を意識する

この研究が示すのは、健全な若い小臼歯を15分洗浄し、45分以内に抜歯した歯の組織標本の見え方です。痛み、治癒、根管治療の成績は調べていません。

そのうえで読める範囲を書くと(ここは筆者の読みです)、生活歯の抜髄でも、5.25%次亜塩素酸ナトリウムは生理食塩水と違って、歯髄の表面と根管壁の象牙前質・残った組織を溶かしていました。「生きた歯髄には効かない」という考え方は、この研究の所見とは合いません。一方、側枝や根尖側の狭い所では作用が見えにくかったので、そこに組織が残りうることは前提にしておきたいところです。どの濃度・量・時間・かき混ぜ方なら狭い所に届くかは、この研究では比べていません。

ここだけ、冷静に補助線(1)少数の組織学的研究:各条件10本で、評価の多くは「ほぼ全例」「多くの歯」といった記述です。数値と検定があるのは、形成しない歯の深さの比較(平均と範囲のみ。生理食塩水の範囲や標準偏差は記載なし)と、根尖側の深さの比較だけです。
(2)条件が限られる:若い成人の健全な小臼歯、液は5.25%の Clorox 原液、5 mLを15分、抜歯は45分以内。炎症のある歯髄、ほかの濃度、長い時間での結果は分かりません。炎症細胞は見られず、著者らは、時間が短かったことがおそらく主な理由だろうと推測しています。
(3)解釈は著者らの推測を含む:溶かす働きが傷める働きより強い、出血は深い血管が出てきたため、といった説明は観察からの推測です。
(4)臨床の結果は見ていない:痛み・治癒・成績は調べていません。
製品名(Clorox)が出てきますが、原著に資金や利益相反の記載は見当たりませんでした。1978年の古い研究ですが、「生きた歯髄も溶けるが、狭い所は苦手」という次亜塩素酸ナトリウムの性質を、ヒトの歯の標本で直接見せた点で、今も読む価値のある一本です。

今日のひとこと

1978年のヒトの生活歯の組織学的研究では、5.25%次亜塩素酸ナトリウムは生きた歯髄も表面から溶かし(形成しない歯で、切断面から歯髄の表面までの深さが平均1.7 mm、生理食塩水は0.5 mm)、象牙前質と根管壁に残った組織をほぼ全例で取り除きました。一方、作用は表面だけで、側枝や根尖側の狭い所には届きにくい結果でした。各条件10本・15分洗浄後45分以内に抜歯した歯の標本の所見で、治療の成績は見ていません。「血が通っていても溶けるが、狭い所は苦手」という性質を頭に置いて、抜髄の洗浄を考える材料にするのがよさそうです。

Rosenfeld EF, James GA, Burch BS. Vital pulp tissue response to sodium hypochlorite. J Endod. 1978;4(5):140-146. doi: 10.1016/S0099-2399(78)80129-0. PMID: 283180
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。