1問1答 論文 エンド

支台築造、ポストの材質より先に見るものは?——失活歯のクラウンは、マージンより歯冠側に健全な歯質を全周で最低でも高さ1.5〜2mm残すのが「合理的な目安のようだ」。どのセメントも設計の悪いポストは補えない、と著者らがまとめた総説(Morgano 1999)

1問1答 論文 エンド

エンド|支台築造(foundation restoration)の文献を広く集め、方法と材料を選ぶ指針をまとめた総説(Morgano・Brackett 1999・The Journal of Prosthetic Dentistry)。著者らが文献を選んでまとめた解説的な総説で、系統的レビューではない。根拠の多くは実験室の研究と後ろ向きの臨床研究

支台築造というと、ポストの種類やセメントから考えがちです。MorganoとBrackettは1999年の総説で、支台築造の文献(参考文献191本)をまとめ、方法と材料を選ぶ指針を示しました。通して読むと、何度も出てくるのは歯質の話です(筆者の読み)。失活歯のクラウン形成では歯冠の歯質をできるだけ残し、クラウンのマージンより歯冠側に、健全な歯質を全周で最低でも高さ1.5〜2mm。これがフェルール効果の「合理的な目安のようだ」としています。ポストは根尖側のガッタパーチャを4〜5mm残せる範囲で長く、太さは広げすぎない。そしてどのセメントも、設計の悪いポストの問題は補えない、と著者らは述べています。根拠の多くは実験室の研究と後ろ向きの臨床研究で、1.5〜2mmもランダム化比較試験で確かめられた数字ではありません。著者らが文献を選んでまとめた1999年時点の総説として読む1本です。

論文
Foundation restorations in fixed prosthodontics: Current knowledge and future needs
著者
Steven M. Morgano(クウェート大学歯学部), Susan E. Brackett(開業・米国オクラホマシティ)
掲載
The Journal of Prosthetic Dentistry 1999;82(6):643-657. doi:10.1016/S0022-3913(99)70005-3
種類
解説的な総説(ナラティブレビュー)。Academy of Fixed Prosthodontics の委員会(Ad Hoc Committee on Research in Fixed Prosthodontics)が毎年テーマを決めて出す総説の、その年の回。実験室と臨床の研究・技術論文・臨床報告をまとめたもので、文献の検索方法・採用基準の記載はない。参考文献191本。系統的レビューではなく、著者ら自身が新しく集めたデータはない
資金・利益相反
原著に資金提供・利益相反の記載は見当たらない。参考文献には、著者Morganoの論文(文献31・39・63・123)と分担執筆した教科書の章(文献170)、著者Brackettが共著の教科書(文献7・9・78)が含まれる。本文には一部の製品名(IPS Empress)が登場する
PMID
10588800

①支台築造、ポストの種類から考えていませんか?

根管治療が終わった歯にクラウンをかぶせる。そのとき、まず何を考えるでしょうか。「メタルコアか、既製ポストか」「どのセメントで着けるか」。材料の話から入ることが多いと思います。

MorganoとBrackettは1999年、支台築造(foundation restoration)についての文献を広く集め、歯科医師が方法と材料を選ぶための指針をまとめました。米国の補綴の学会(Academy of Fixed Prosthodontics)の委員会が、毎年テーマを1つ決めて出している総説の、その年の回です。

先に断っておきます。これは文献をまとめた総説で、著者ら自身が新しく患者さんや歯を調べた研究ではありません。引かれている根拠の多くは、実験室の研究(in vitro)と、後ろ向きの臨床研究です。この記事に出てくる個別の研究の数字は、どれも「この総説が引く報告では」という孫引きです。1.5〜2mmと4〜5mmは、著者らが文献をふまえて自分たちの言葉で示した目安です。

この総説の要点を先に書きます。
・失活歯にクラウンを形成するときは、歯冠の歯質をできるだけ残す。クラウンのマージンより歯冠側に、健全な歯質を全周で最低でも高さ1.5〜2mm。著者らはこれを、フェルール効果を得るための「合理的な目安のようだ」としている
・ポストは、根尖側のガッタパーチャを4〜5mm残せる範囲で長く。太さをむやみに広げると、根の象牙質が薄く弱くなる
・どのセメントも、設計の悪いポストの問題を補うことはできない。基本に沿って作ったポストなら、リン酸亜鉛セメントのような従来のセメントで足りる、と著者らは述べている
・当時の新しいポスト(カーボンファイバー、ジルコニアなど)は、長期の成績が分かっていない(1999年時点)

②一枚にまとめると

支台築造で、先に見るもの(総説の記述を整理)

1 残っている歯質(フェルール効果) クラウンのマージンより歯冠側に、健全な歯質を 全周(360度)で最低でも高さ 1.5〜2 mm =「合理的な目安のようだ」

2 ポストの設計(長さと太さ) 根尖側のガッタパーチャを 4〜5 mm 残せる範囲で長く 太さはむやみに広げない(残る象牙質の厚みが決め手)

3 セメント・ポストの材質 設計の悪いポストを補えるセメントはない 新しい材質のポストは、長期の成績が分かっていない(1999年時点)

Morgano & Brackett 1999 の記述を筆者が整理した概念図。1→3の並べ方は筆者によるもので、 原著が順位を数値で示したものではない。根拠の多くは実験室の研究(in vitro)と後ろ向きの臨床研究。

総説の記述を筆者が整理した概念図。1→3の並べ方は筆者によるもので、原著が順位を数値で示したものではない

材料の話は3番目に置きました。筆者が通して読んだかぎり、この総説で何度も出てくるのが「歯質がどれだけ残っているか」と「ポストの設計が基本に沿っているか」だからです。原著の抄録は11の論点を並べていて、順位は付けていません。順に見ていきます。

③フェルール:クラウンが歯質を「抱える」

ポストとコアは、咬合力を根の内側へ伝えます。その力は根を押し広げる向きに働き、歯根の垂直破折につながりうる、と著者らは説明します。これに抵抗するのが、クラウンが歯質を全周で取り巻く「フェルール」です。EissmanとRadkeは、最終的な鋳造修復物を、コアと残った歯質の境目より少なくとも2mm根尖側へ延ばすことを勧めました。

フェルールとポストの目安(総説の記述をもとにした模式図)

クラウンの マージン

クラウン

コア(築造体)

フェルール効果のための健全な歯質 全周で最低でも高さ 1.5〜2 mm クラウンのマージンより歯冠側に残す (著者らの表現は「合理的な目安のようだ」)

ポスト 解剖学的に無理のない範囲で長く 太さはむやみに広げない

根尖側のガッタパーチャ:4〜5 mm 残す 根尖の封鎖を保つため

Morgano & Brackett 1999 の記述をもとに筆者が描いた模式図。寸法の比率は正確ではない。 1.5〜2 mm は著者らが示した目安で、ランダム化比較試験で確かめられた数字ではない。

総説の記述をもとに筆者が描いた模式図(寸法の比率は正確ではない)。1.5〜2mmと4〜5mmは、著者らが示した目安
総説が引いている研究(どれも1本ずつ別の研究。条件も別々)
・Assifら(失活した小臼歯を使った実験室の研究):コアの形成限界より2mm根尖側まで覆う全部鋳造冠をかぶせると、ポストの設計は破折への抵抗に影響しなかった
・Isidorら(ウシの歯を使った実験室の研究・繰り返し荷重):最も長いポスト(10mm)と最も長いフェルール(2.5mm)の組み合わせが、破壊への抵抗が最も大きかった
・LibmanとNicholls(実験室の研究):クラウンのマージンがコアのマージンより少なくとも1.5mm根尖側にあると、クラウンのセメントの封鎖が疲労で壊れにくくなった
・Torbjörnerら(後ろ向きの臨床研究):クラウンがフェルール効果を持たない場合に、ポストが破折する可能性が高かった

では、フェルールは「コアに付ける襟(カラー)」でもよいのでしょうか。SorensenとEnglemanは、コアの上にクラウンを着ける場合、コア側のコントラベベルやカラーに利点はなかったと報告しています。フェルール効果は、クラウンの形成限界より歯冠側にある、ほぼ平行な健全歯質の壁から得られた、という結果です。歯質の上積みを伴わない1mmのベベルだけでは、歯根の破折への抵抗は上がりませんでした。

総説はほかに2つの実験を引いています。Loneyらの光弾性模型の実験では、1.5mmのカラーを付けた鋳造コアのほうが平均の応力がかなり高く、コアにフェルールを組み込むのは望ましくないかもしれない、という結果でした。MilotとSteinのプラスチック製の歯の模型の実験では、形成限界より歯冠側に歯質が十分に残った支台に1mmのベベルを足してフェルールを長くすると、破壊に至る荷重の平均がはっきり上がっています。

著者らのまとめはこうです。コア側に鋳造のフェルールを作ることを支持する根拠は乏しい。コントラベベルの形成は健全な歯冠の歯質を削ることになり、クラウンから得られるフェルール効果を損なうおそれがある。

フェルールが取れない歯はどうするか。著者らは、歯冠長延長術や矯正的挺出で歯質を出すことを検討し、それも現実的でなければ、抜歯して従来の補綴やインプラント補綴に置き換えることを検討すべきだ、と書いています。

接着で根を内側から補強すれば、フェルールの代わりになるのでは。著者らはこの考えにも触れています。その可能性を示した実験室の研究は2本ありますが、裏づける臨床研究はなく、従来のフェルールをやめてよいと言えるだけの根拠はない、というのが1999年時点の結論です。

④ポストの設計とセメント

ポストの長さについて、総説は2つの目安を引いています。最終修復物の臨床歯冠の長さと同じ、あるいは骨の中にある歯根の長さの3分の2〜4分の3、というものです。臨床研究からは、ポストの成功は長さに比例することが示唆されている、とも書かれています。そこで著者らは、根尖側のガッタパーチャの封鎖を4〜5mm保ちながら、解剖学的に無理のない範囲で長く形成するのが合理的だとしています。

短いポストは保持が弱く、根の中に不利なてこの力とせん断応力を生み、根の破折を招きやすくなりうる。逆に、太さをむやみに広げれば、根の象牙質が薄く弱くなる。著者らの言葉では「残る象牙質の厚みが決定的に重要」です。

鋳造ポストコアの成績として、総説は後ろ向き研究を1本、数字つきで引いています。歯質を大きく失った失活歯96歯を鋳造ポストコアで修復して6年追い、成功率は90.6%だった、という報告です(Bergmanら)。

セメントについての著者らの整理
・ポストの合着で、特定のセメントが優れていることを示した長期の臨床試験は、これまでにない。多くの歯科医師は経験でセメントを選んでいる
・短く、太く、テーパーが強すぎるポストに、十分なフェルールのないクラウンを組み合わせると、セメントが何であっても失敗しやすい
・レジンセメントは、ポストの保持が有意に高かったという報告と、相反する報告の両方がある。ユージノールを含むシーラーが象牙質に残ると、レジンの硬化が妨げられることが、結果が揃わない理由になりうる
・セメントはポストだけに塗らず、先に根管内へ入れてからポストを挿入する。ポストだけに塗ると、空気が閉じ込められてセメント層に空隙ができる。ただし、この手順には十分な操作時間が要る。それだけの操作時間があるセメントは少なく、レジンセメントは特に早く硬化してしまいやすい、と著者らは注意している。操作時間の長いリン酸亜鉛セメントは、この方法に特に向いている

コアの材料についても総説は整理していますが、ここでは1点だけ。コンポジットレジンは、歯冠の歯質が十分に残っていれば直接法のコア材料として使えるが、支える象牙質が少ないときには望ましさが下がる、という位置づけです。ここでも歯質の量が判断の分かれ目になっています。

当時の新素材だったカーボンファイバーポストについて、総説は向きの違う報告を並べています。実験室の研究2本では、金属ポストより強度が劣りました。ウシの歯を使った別の実験室の研究では、壊れるときに歯根の破折を起こしにくいことが示唆されています。後ろ向きの短期の臨床研究1本では、2〜3年の時点でポストに起因する失敗がなかったと報告されていました(総説の本文では236歯)。ただし著者らは、長期の影響は分かっていないとし、フェルールがない、またはごく小さい歯では、たわむポストはかえって不利になりうる、と注意しています。ジルコニアポストについては、臨床試験がないと書かれています。

⑤明日の臨床へ

著者らの主張(原著に書かれていること)
・失活歯のクラウン形成では、歯冠の歯質をできるだけ残す。目安は、クラウンのマージンより歯冠側に、全周で最低でも高さ1.5〜2mmの健全歯質
・歯質が足りなければ、歯冠長延長術や矯正的挺出を検討する。それも難しければ、抜歯と補綴(インプラントを含む)を検討する
・ポストは、根尖側のガッタパーチャを4〜5mm残せる範囲で長く。太さは広げすぎない
・基本の設計を守れば、リン酸亜鉛セメントのような従来のセメントで足りる
・中等度〜重度に崩壊した失活前歯では、鋳造ポストコアが第一選択とされてきた。大臼歯は、髄室と根管の一部を保持に使う直接法のコアでうまくいくことが多い
ここからは筆者の読み(原著が述べたことではありません)
・支台築造の前に、まずプローブで「マージンの上に健全歯質が全周で何mm残るか」を測る。材料を選ぶのはそのあと、という順番が見えてきます
・1999年の総説なので、現在の接着システムやファイバーポストの成績は、この総説の範囲の外です。材料の評価は新しい研究で確かめる必要があります。一方で「歯質を残す」「設計の基本を守る」という軸は、材料が変わっても判断の出発点として使えそうです
ここだけ、冷静に補助線この論文は、文献を著者らの判断で選んでまとめた総説(ナラティブレビュー)です。どのデータベースを、どんな条件で検索し、どの基準で採用したかは書かれていません。系統的レビューやメタ分析ではないので、結論には著者らの見方が入ります。
根拠の多くは、抜去歯・ウシの歯・プラスチックの模型を使った実験室の研究と、後ろ向きの臨床研究です。著者ら自身が、実験室の研究の結果は互いに食い違うことが多く、臨床に当てはまるとは限らないこと、後ろ向きの臨床研究も結果が揃わず、意味のある指針を作りにくいことを認めています。著者らは仮の例を挙げています。仮に、歯質が少なく予後の悪い歯に鋳造ポストコアが選ばれていたとすれば、鋳造ポストコアの失敗が多く見えても、方法そのものの問題とは限らない、という説明です。
「全周で最低でも高さ1.5〜2mm」も、ランダム化比較試験で確かめられた数字ではありません。著者らの表現も「合理的な目安のようだ」に留まります。本文に出てくる数字(2mm、1.5mm、2.5mm、90.6%など)は、それぞれ別の研究の、別の条件での値です。
1999年の総説です。カーボンファイバーポストやジルコニアポスト、接着、コア材料の評価は当時のもので、その後の研究は含まれていません。
資金・利益相反:原著に、資金提供や利益相反の記載は見当たりません。参考文献には、著者ら自身の論文や共著の教科書も含まれています。
それでも、191本の文献を一度に見渡せる1本です。筆者の読みでは、「材料より先に、歯質と設計」という軸が見えてきます。著者らは、ランダム化比較試験が最も信頼できるデータになるが現実には実施が難しく、長期の成績が出るまで何年もかかるとして、質の高い後ろ向き研究がもっと必要だと締めくくっています。その後の研究を読むときの物差しとして、手元に置いておきたい総説です。

今日のひとこと

筆者が通して読んだかぎり、この総説で何度も出てくるのは、失活歯のクラウン形成では、歯冠の歯質をできるだけ残すという話です。目安は、クラウンのマージンより歯冠側に、健全な歯質を全周で最低でも高さ1.5〜2mm(著者らの表現は「合理的な目安のようだ」)。足りなければ歯冠長延長術や矯正的挺出を、それも難しければ抜歯と補綴を検討する、と著者らは書いています。ポストは根尖側のガッタパーチャを4〜5mm残せる範囲で長く、太さは広げすぎない。そしてどのセメントも、設計の悪いポストの問題は補えない、というのが著者らの整理です。根拠の多くは実験室の研究と後ろ向きの臨床研究で、著者らが文献を選んでまとめた1999年時点の総説です。筆者の読みでは、材料を選ぶ前に「マージンの上に健全な歯質が全周で何mm残るか」を確かめる、その順番を思い出させてくれる1本です。

Morgano SM, Brackett SE. Foundation restorations in fixed prosthodontics: current knowledge and future needs. J Prosthet Dent. 1999;82(6):643-657. doi:10.1016/S0022-3913(99)70005-3. PMID: 10588800
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。