エンド|クロルヘキシジンの「その場で殺す力」ではなく「洗い流したあとに残り続ける力(サブスタンティビティ)」を、形成した根管の中で初めて示した研究(White ほか 1997・J Endod)
根管洗浄薬の主役は次亜塩素酸ナトリウムですが、クロルヘキシジンには次亜塩素酸ナトリウムにない性質があります。歯質に吸着して少しずつ放出され、洗い流したあとも抗菌作用が残り続ける——サブスタンティビティ(残留効果)と呼ばれる性質です。この性質は歯周治療やう蝕予防の分野では知られていましたが、著者らによれば、形成した根管の中でそれが起きるかは示されていませんでした。米国テキサス大学のWhiteらは、抜去した単根歯の根管を2.0%または0.12%のクロルヘキシジンで洗浄しながら形成し、最後に滅菌水で薬液を洗い流してから根管を滅菌水で満たしました。6・12・24・48・72時間後にペーパーポイントで根管内の液を吸い取り、Streptococcus mutans を撒いた寒天培地の上に置いて阻止円の幅を測っています。結果、2.0%で洗浄した23本では72時間まで全ての歯で抗菌活性が検出され、阻止円は6時間の6.4 mmから72時間の4.5 mmへと緩やかに減りました。一方0.12%で洗浄した21本では、6・12時間では全ての歯で検出されたものの、24時間で70%、48時間で30%、72時間で10%まで低下しています。両群の差は全ての時点で有意でした(p<0.05)。滅菌水で洗浄した陰性対照では阻止円は生じていません。ただし抜去歯を用いた実験室研究で、S. mutans という1菌種への阻止円という間接的な指標です。
①洗った直後だけでなく、そのあとは?
根管洗浄薬を選ぶとき、私たちはたいてい「その場でどれだけ殺せるか」で比べます。次亜塩素酸ナトリウムが主役なのも、組織溶解性と即効的な殺菌力があるからです。
では、洗い流したあとはどうでしょう。次の来院までの数日間、根管の中に抗菌作用は残っているのか。クロルヘキシジンにはサブスタンティビティ(残留効果)という性質——歯質に吸着し、少しずつ放出されて作用が続く——が知られていましたが、著者らによれば形成した根管の中でそれが起きることは示されていませんでした。
1997年のWhiteらはこれを直接確かめました。結論を先に言うと、2.0%クロルヘキシジンで洗浄した根管では72時間後も全ての歯で抗菌活性が検出され、0.12%では24時間で70%、72時間では10%まで落ちました。
②「同等の殺菌力」の次に来た問い
著者らは以前の研究で、2.0%クロルヘキシジングルコン酸塩の試験管内での抗菌活性は、5.25%次亜塩素酸ナトリウムと同等だと報告していました。しかもクロルヘキシジンは臭いが少なく毒性も低いという利点があります。
そのうえで、クロルヘキシジンには即効的な殺菌作用に加えて残留作用があることが知られていました。他の研究者らは、クロルヘキシジンが象牙質とエナメル質に結合し、そこから放出されることも報告しています。
しかし、実際に形成された根管の中で残留作用が生じているかは示されていない。それがこの研究の出発点でした。
③今回の一手:洗い流してから、時間をおいて回収する
この研究の巧みなところは、薬液を意図的に洗い流してから測っている点です。残っている薬液を測ってしまっては「残留作用」の証明になりません。
形成:高速ハンドピースで開拡し、Flex Rファイルのステップバック法で形成。ファイルを替えるたびに1 mLの洗浄液で洗浄。試験用の液量を確保するため0.050インチのポストドリルでさらに拡大し、もう一度1 mLで洗浄。
洗浄液(3群):2.0%クロルヘキシジングルコン酸塩(20%原液を使用当日に希釈・n=23)、0.12%の市販洗口液(Peridex・n=21)、滅菌脱イオン水(陰性対照)。
洗い流し:3 mLの滅菌脱イオン水で薬液を洗い流し、ペーパーポイントで乾燥。根管を滅菌脱イオン水で満たして室温の加湿器内に保管。
採取:6・12・24・48・72時間後に、1.8 cmに切った#80ペーパーポイントの太い側を約2分間挿入して根管内の液を吸収し、冷凍保存。採取ごとに滅菌水1 mLで3回洗浄して再び満たす。
測定:Streptococcus mutans(6715株)を撒いた寒天培地にペーパーポイントを置き、37℃・高二酸化炭素濃度で48時間培養して阻止円の幅を測定。
感度:検出限界は20 µg/mL(0.002%)。ただし同じ濃度でも培地により阻止円の大きさにばらつきが出たため、著者らは半定量的な指標として扱っています。
解析:反復測定を伴う二元配置分散分析。
つまり測っているのは「根管に残っていた薬液」ではなく、洗い流したあとに歯質から新たに放出されてきたクロルヘキシジンです。
④結果:2.0%は72時間、全ての歯で残った
0.12%クロルヘキシジン(n=21):6・12時間では全ての歯で検出されたものの、その後は24時間で70%、48時間で30%、72時間で10%の歯でしか検出されませんでした(21本中それぞれ15・6・2本)。阻止円の平均は2.9→1.8→1.4→0.4→0.1 mm。
群間比較:全ての採取時点で2.0%が有意に大きい(p<0.05)。
陰性対照:滅菌脱イオン水で洗浄した歯のペーパーポイントでは阻止円が生じませんでした。
この結果が示したのは2つです。ひとつは、クロルヘキシジンが形成した根管の中でも残留作用を示すこと。もうひとつは、放出は48〜72時間にわたって続くことです。著者らは、根管内でのサブスタンティビティを示したのはこれが初めてだと述べています。
⑤濃度の差をどう受け止めるか
2.0%と0.12%では16倍以上の濃度差があります。より多く吸着し、より長く放出されると考えるのが自然でしょう(ただしこの研究は吸着量そのものを測っておらず、測ったのは阻止円だけです)。
ただし著者らは、この2群差については慎重です。「統計的には有意だが、この差の臨床的な重要性は不明である」。そのうえで、0.2%のクロルヘキシジンで洗浄した根管に生存菌が残っていたという2つの報告(RingelらとDelaneyら)を挙げ、より高濃度のほうが望ましいことを示唆すると述べています。
実務的な差も整理されています。0.12%は洗口液として市販されており入手しやすく、長い使用実績があって重篤な有害事象の報告がない。一方2.0%は市販されておらず、術者か薬剤師が調製する必要がある。著者らは、2.0%の製剤は0.12%ほど広く使われてきたわけではないと断りつつ、2.0%も洗口液や歯肉縁下の洗浄として明らかな有害事象なく使われてきており、根管洗浄に用いても有害事象は予期されないと続けています。
⑥著者らはどこまで踏み込んだか
ここは押さえておく必要があります。著者らはこの論文の結びで、クロルヘキシジンは次亜塩素酸ナトリウムに対する優れた、おそらくは好ましい代替となりうると書いています。前報で2.0%クロルヘキシジンの抗菌活性が5.25%次亜塩素酸ナトリウムと同等だったこと、今回サブスタンティビティが加わったことが根拠です。次亜塩素酸ナトリウムの組織溶解性という利点についても、疑問視する報告があり、それが臨床成績に寄与しているという証拠は乏しいとしています。つまり原著は、クロルヘキシジンに対してかなり前向きです。
一方で筆者の読みとしては、組織溶解性の有無は無視しにくい差だと考えます。この研究は次亜塩素酸ナトリウムとの直接比較をしていないので、置き換えの可否をここから決めることはできません。
⑦明日の臨床へ
臨床に持ち帰れること:
・洗浄薬を「その場の殺菌力」だけで選ばないという視点が得られます。次の来院までの数日間に作用が残るかどうかは、別の軸の評価です。
・この時間軸が意味を持つとすれば複数回法で間隔が空く症例でしょう。ただし本研究は臨床成績を見ておらず、著者らも2群差の臨床的な意味は不明としています。
・ただし濃度で挙動が大きく違うことは押さえておく必要があります。0.12%の洗口液は入手しやすい一方、この実験では24時間を過ぎると検出率が急に落ちました。
・置き換えの可否はこの研究からは決まりません(両者の直接比較をしていないため)。著者らの立場と筆者の留保は⑥のとおりです。
読み替えの注意:測っているのはS. mutans に対する阻止円という間接的な指標です。根管内の実際の細菌叢に対する効果でも、治療成績でもありません。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:クロルヘキシジンは根管洗浄薬として使うと、根管内に残留する抗菌作用をもたらす。歯質への吸着と放出は以前から知られていたが、形成した根管の中でそれを示したのはこれが初めてであり、しかも洗浄後48〜72時間にわたって放出が続いていた。2.0%は0.12%より強く長く残る。筆者の読みでは、この論文の値打ちは洗浄薬を「その場の殺菌力」だけで選ぶ見方に、時間軸を持ち込んだ点にあります。ただし著者ら自身が、2群の統計的な差の臨床的な意味は不明だと明記しています。なお著者らは結びで、クロルヘキシジンは次亜塩素酸ナトリウムに対する優れた、おそらくは好ましい代替となりうるとまで書いています(この研究は両者の直接比較をしていません)。


