1問1答 論文 エンド

根管治療した歯は、やはり早く失われるのか

1問1答 論文 エンド

エンド|「根管治療した歯は長持ちしないのか」を、同じ患者の中で歯を組にして比べることで、患者ごとの違いを消して確かめた研究(Caplan ほか 2005・J Public Health Dent)

根管治療を終えた歯は、治療していない歯と比べてどれくらい早く失われるのか。患者ごとに口腔清掃も生活習慣も違うため、単純な比較では答えが出ません。米国のCaplanらは、太平洋岸北西部の大規模な歯科HMO(カイザー・パーマネンテ歯科プログラム)の診療データと診療録の実地確認を使い、1987〜88年に根管治療を受けた歯と、同じ患者の反対側にある同種の歯(根管治療されていない歯)を1対1で組にしました。最終的に202組が解析対象です。両方の歯を根管治療の開始日から追跡し、抜歯・その歯自身の根管治療開始・1994年末のいずれか早い時点まで観察しています(最長8年・中央値6.7年)。結果、根管治療した歯の生存は明らかに悪く(p<0.001)、その差は大臼歯でとくに大きく出ました。8年生存率は大臼歯で治療していない歯98.5%に対し根管治療した歯89.6%。調整後の喪失のハザード比は、大臼歯で7.4(95%CI 3.2〜15.1)、大臼歯以外で1.8(95%CI 0.7〜4.6)でした。大臼歯以外は信頼区間が1をまたいでおり、はっきりした差とは言えません。著者らは、根管治療は歯の寿命を延ばし得るが、歯髄にまで及ぶ病変そのものが歯の喪失を早める可能性がある、と結論しています。ただしこれは1980年代後半に治療された歯の後ろ向き観察で、治療の質や補綴の内容は解析に含まれていません。

論文
Root Canal Filled Versus Non-Root Canal Filled Teeth: A Retrospective Comparison of Survival Times
著者
Daniel J. Caplan、Jianwen Cai、Guosheng Yin、B. Alex White
掲載
Journal of Public Health Dentistry 2005;65(2):90-96
種類
後ろ向きの対応のあるコホート研究(matched cohort study)。米国太平洋岸北西部の歯科HMOカイザー・パーマネンテ歯科プログラムの加入者が母集団。治療データベースと診療録の実地確認で、1987〜88年に初回の根管治療を完了した歯を1本もつ患者を抽出。406件の診療録を精査し、条件に合わない190件を除外して216名を確定。各患者について、その歯の治療開始日(index date)に根管治療されていなかった反対側の同名歯を対照として選択(それが欠損か既治療なら、反対側の同名歯に隣接する同種=前歯・小臼歯・大臼歯の歯を代用)。条件に合わない14名を除き、最終解析は202組。追跡は index date から抜歯・その歯自身の根管治療開始・1994年12月31日のいずれか早い時点まで(最長8年・中央値6.7年)。歯単位の共変量として歯種/隣接接触の状況(ブリッジ支台・接触0・1・2)/う蝕または修復のある歯冠面の数(0〜3)/同根面の数(0〜2)/5 mm以上の歯周ポケットの数を、index date 直前の記録と画像から収集。Kaplan-Meier法と、標本抽出の構造を考慮した周辺比例ハザードモデルで解析。組の内訳は前歯16%・小臼歯41%・大臼歯44%、対照に正確な反対側同名歯を使えたのは83%
PMID
15929546

「根管治療した歯は長持ちしない」は本当か

患者さんに聞かれることがあります。「神経を取ると歯はもたなくなるんですよね?」。臨床実感としては、抜髄した歯が数年で失われることもあれば、30年もつこともある。では平均するとどうなのか

この問いが難しいのは、比べる相手を揃えられないからです。根管治療を受ける人は、う蝕のリスクが高かったり、通院が不規則だったりするかもしれません。患者集団をまるごと比べても、歯の違いなのか患者の違いなのか分かりません。

2005年のCaplanらは、この問題を同じ患者の中で歯を組にするという方法で解きました。結論を先に言うと、8年生存率は大臼歯で治療していない歯98.5%に対し根管治療した歯89.6%、喪失のハザード比は大臼歯7.4(95%CI 3.2〜15.1)、大臼歯以外は1.8(95%CI 0.7〜4.6)でした。

数字がなかった問い

う蝕が小さいか中等度であれば、修復して何年も口の中に残ることが普通に期待できます。しかしう蝕や修復が深くなって歯髄に及ぶと、根管治療か抜歯かという選択になります。著者らは冒頭で、歯髄にまで及ぶ病変とその後の根管治療が歯の寿命にどう影響するかは、数量化されていないと書いています。

根管治療した歯が失われる理由は、治療していない歯と共通するもの(修復不可能なう蝕・進行した骨吸収・破折・補綴上の理由・費用)に加えて、治療に固有のもの——穿孔などの偶発症、ポストによる垂直性歯根破折など——が重なります。だとすれば、いったん歯髄が侵された時点で、その歯の期待余命は短くなっているのではないか。これが著者らの仮説でした。

ここで著者らは、根管治療した歯を「歯髄にまで病変が及んだことの指標」として扱っています。つまりこの研究が測っているのは、歯髄にまで及ぶ状態になった歯のその後です(曝露は「歯髄病変とその後の根管治療」の合成で、処置の質だけを測った研究ではありません)。この読み替えが、結果の解釈で決定的に効いてきます。

今回の一手:同じ口の中で、左右を組にする

母集団:米国太平洋岸北西部の歯科HMOカイザー・パーマネンテ歯科プログラムの加入者。
症例の抽出:治療データベースと診療録の実地確認で、1987〜88年に初回の根管治療を完了した歯を1本もつ患者を特定。電子データだけでは判定できないため406件の診療録を精査し、190件を除外して216名を確定。
対照歯の選び方:各患者について、その歯の治療開始日(index date)に根管治療されていなかった反対側の同名歯を選択。それが欠損か既治療なら、反対側同名歯に隣接する同種(前歯・小臼歯・大臼歯)の歯を代用。条件に合わない14名を除外し、最終解析は202組
追跡:両方の歯を index date から、抜歯・その歯自身の根管治療開始・1994年12月31日のいずれか早い時点まで追跡(最長8年・中央値6.7年)。
歯ごとに集めた情報:歯種/隣接接触の状況(ブリッジ支台・接触0・1・2)/う蝕または修復のある歯冠面の数(咬合面・近心・遠心の0〜3)/同じく根面の数(近心・遠心の0〜2)/5 mm以上の歯周ポケットの数。いずれも index date 直前の記録と画像から。
解析:もとの標本は抜歯された根管治療歯を意図的に多めに抽出しているため、著者らは選択確率の逆数で重み付けした加重Kaplan-Meier法加重した周辺比例ハザードモデルで解析しています。以下の生存率・ハザード比はすべて加重推定値で、条件を満たす約1,078名の母集団に当てはめた数字です。
選択基準の補足:21歳以上、第三大臼歯は除外、再治療例も除外。
対照歯は「健全歯」ではない:非RCF側202本のうち51%(103本)は咬合面・近心・遠心の3面すべてがう蝕または修復済みで、75%が2面以上(原著Table 1A)。5 mm以上のポケットを1か所以上もつ歯も30%あります。比べているのは「健全歯 対 根管治療歯」ではなく、「歯髄が生きている歯 対 歯髄を失った歯」です。
組の内訳:前歯16%・小臼歯41%・大臼歯44%。対照に正確な反対側同名歯を使えたのは83%、代用歯が17%。

この設計の強みは明快です。同じ人の口の中で比べるので、口腔清掃・食習慣・通院行動・全身状態といった患者ごとの違いが、まるごと相殺されます。解析対象となった202名は、母集団のうち条件を満たす約1,078名を代表しています(年齢中央値42歳、男性38%)。

結果:差が出たのは大臼歯

0 33.3% 66.7% 100% Kaplan-Meier法による生存率 (%) 98.5% 89.6% 94.1% 89.4% 96% 89.5% 大臼歯 大臼歯以外 全体 根管治療していない歯 根管治療した歯 原著Table 2の8年生存率(加重Kaplan-Meier推定値)。202組・最長8年(中央値6.7年)の追跡。濃い棒=根管治療していない歯、淡い棒=根管治療した歯。縦軸は0〜100%なので棒の高さの差は実際の差より小さく見える。喪失割合に直すと大臼歯は1.5%対10.4%(差8.9ポイント・リスク比 約6.9)
原著Table 2の8年生存率。濃い棒が根管治療していない歯、淡い棒が根管治療した歯。大臼歯で差が大きく開き、大臼歯以外では差が小さい
全体:根管治療した歯の生存は有意に悪い(p<0.001)。8年生存率は治療していない歯96.0%対 根管治療した歯89.5%(4年では98.0%対94.0%)。
大臼歯:8年生存率98.5%89.6%(4年では99.0%対93.6%)。
大臼歯以外:8年生存率94.1%89.4%(4年では97.4%対94.8%)。
喪失のハザード比(根管治療していない歯を基準=1.0):調整前・全歯で3.0(95%CI 1.4〜6.1)。最終モデルでは大臼歯7.4(95%CI 3.2〜15.1)大臼歯以外1.8(95%CI 0.7〜4.6)

読みどころは大臼歯と大臼歯以外の差です。大臼歯ではハザード比7.4、信頼区間の下限でも3.2と、はっきりした差が出ています。一方大臼歯以外は1.8で、信頼区間0.7〜4.6が1をまたいでいます——統計的にはっきりした差とは言えない、ということです。

ここで、同じTable 2の数字を「8年で失われた割合」に直しておきます。大臼歯では1.5% 対 10.4%差は8.9ポイントリスク比にすると約6.9(原著Table 2の生存率から計算)。大臼歯以外は5.9% 対 10.6%でリスク比 約1.8、全体では4.0% 対 10.5%で約2.6です。ハザード比7.4という数字の実体は、100本の大臼歯を8年追うと9本ほど余分に失われるという大きさだ、ということになります。

もうひとつ見落とせないのが、治療していない大臼歯の8年生存率98.5%という高さです。大臼歯で差が大きく開いたのは、根管治療した大臼歯の成績が特別に悪いから(89.6%)というより、比較相手の根管治療をしていない大臼歯がほとんど失われていないことの裏返しでもあります(これは著者ら自身が、差の主な理由として挙げている点です)。ハザード比は「比」なので、基準側の出来事が少ないほど大きくなります。

なぜ大臼歯で差が開くのか

著者らは、なぜ根管治療していない大臼歯の生存がこれほど良いのかについて、3つの推測を挙げています(いずれも「推測できる」という書き方です)。(a) 咀嚼のため、またブリッジや部分床義歯の維持のため、術者も患者も大臼歯をより価値あるものとみなす。(b) 同じ骨吸収量なら、多根の大臼歯は大臼歯以外より動揺が少ない。(c) 歯質の少ない大臼歯以外のほうが、壊滅的な破折を起こしやすい

ここからは原著にない筆者の補足です。根管治療した大臼歯の側にも条件があります。咬合力が最も大きく、根管系が複雑で治療が難しく、歯冠部の残存歯質が失われやすくポストや被覆冠が必要になりやすい。

ここで②で触れた読み替えが効いてきます。この研究の「根管治療した歯」は歯髄にまで病変が及んだ歯の代理です。大臼歯でそこまで進んだ歯は、その時点ですでにう蝕・修復・破折が深く進行している可能性が高い。著者らが結論でう蝕の予防と早期の修復処置の重要性を強調しているのは、この読み方に立っています。

つまりこの結果は「根管治療をすると歯が早く失われる」ではなく、「歯髄に及ぶところまで進んでしまうと、その後の見通しは落ちる」と読むのが著者らの立場です。

明日の臨床へ

著者らの結論:根管治療は歯の寿命を延ばし得るが、歯髄にまで及ぶ病変そのものが歯の喪失を早める可能性がある。う蝕の予防と早期の修復処置が重要である。
臨床に持ち帰れること:
・患者さんへの説明に使える数字です。「根管治療した大臼歯の8年生存率は約9割」——悲観的すぎず、楽観的すぎない実際の数字として示せます。
・同時に、同じ口の中で根管治療をしていない大臼歯は8年で98.5%残っていることも伝わります。歯髄に達する前に止めることの価値を、数字で語れます。
大臼歯以外でははっきりした差が出ていません(ハザード比1.8・95%CI 0.7〜4.6)。前歯や小臼歯の根管治療について、この研究を根拠に悲観的な説明をするのは行き過ぎです。
・深いう蝕の歯で「もう少し様子を見る」か「今のうちに手を打つ」かを迷う場面で、歯髄に及ばせないことが歯の寿命に効くという方向づけの材料になります。
著者らの但し書き:この結果は、歯髄に及んだ歯をすべて抜歯すべきだということを意味しません——その判断は症例ごとに行われるべきだ、と著者らは明記しています。
読み替えの注意:これは1987〜88年に治療された歯の記録です。ラバーダム・NiTiファイル・マイクロスコープ・MTA・接着性の支台築造——その後の変化はどれも解析に入っていません。現在の治療成績をそのまま表す数字ではありません。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、後ろ向きの観察研究です。組にしたことで患者ごとの違いは消せますが、同じ口の中で、なぜその歯だけが歯髄にまで至ったのかという歯ごとの違いは残ります。ただし最終モデルで調整されたのは、隣接接触の状況と5 mm以上のポケット数だけです。う蝕・修復の面数は収集されていますが、最終モデルには残っていません(原著Table 3脚注)。両群がいちばん食い違ったのがこのDF面数であることを考えると、残余交絡は小さくないと見るべきです。対合歯の有無も収集されていません。第二に、治療の質が評価されていません。根管充填の緊密さ、支台築造や被覆冠の有無と種類、術者の技量——どれも解析に含まれていません。第三に、1980年代後半の治療で、現在の術式とは前提が異なります。第四に、追跡は最長8年(中央値6.7年)で、20年30年の話ではありません。第五に、対照歯の17%は反対側同名歯の代用(隣接する同種の歯)で、完全に対等ではありません。第六に、打ち切りの扱いに注意が要ります。対照歯は、それ自身が根管治療に至った時点で打ち切られます(そこまでの観察時間は解析に使われ、以降は追われません)。結果として非RCF側の生存率は実際より良く見える方向に働きます。第七に、著者らは「観察されたハザード比は歯髄病変の真の影響を過小評価している」と明記しています。歯髄に及んだが根管治療されずに抜歯された歯と、根管治療が完了しなかった歯が解析に入っていないためで、著者らはこの結果を「最も良く見積もった場合(best-case scenario)」と位置づけています。第八に、対象は歯科保険に8年間継続加入していた米国HMO会員です。加入者は非加入者より受診頻度が高く(研究期間の通院は中央値29回)、1987年時点の会員約75,000人のうち8年間継続加入できたのは39%だけでした。日本の一般的な患者にそのまま当てはまる数字ではありません。なお代用歯17%について著者らは、それによるバイアスは小さく、かつ群間で偏らないと見込んでいます。第九に、大臼歯以外の結果は有意ではありません。ハザード比は「比」の指標なので、「何倍」という言い方はせず、基準に対する比として読みます。なお原著の資金提供には、NIH(NIDCR・NHLBI)とノースカロライナ大学に加えてPermanente Dental Associates(評価対象の診療を実際に提供した診療グループ)が含まれます。結果は提供側に不利な方向なので懸念は小さいと考えます。それでも、同じ患者の中で歯を組にするという設計でこの問いに数字を与えた点で、患者説明にも臨床判断にも使える骨太な1本です。

今日のひとこと

著者らの結論:根管治療は歯の寿命を延ばし得るが、歯髄にまで及ぶ病変そのものが歯の喪失を早める可能性がある。だからこそ、う蝕の予防と早期の修復処置が重要になる。筆者の読みでは、この研究の値打ちは同じ患者の中で歯を組にした設計にあります。口腔清掃・生活習慣・通院行動といった患者ごとの違いをまとめて消せるからです。ただし差がはっきり出たのは大臼歯だけで、大臼歯以外のハザード比1.8は信頼区間が1をまたいでいます。そして1980年代後半の治療を追った研究であり、治療の質・補綴の内容は解析に含まれていません。著者ら自身、この結果は歯髄病変の影響を過小評価した「最も良く見積もった場合」だとも述べています。

Caplan DJ, Cai J, Yin G, White BA. Root canal filled versus non-root canal filled teeth: a retrospective comparison of survival times. J Public Health Dent. 2005;65(2):90-96. PMID: 15929546
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。