1問1答 論文 エンド

エンドで最も引用された100本は何を扱っていたか

1問1答 論文 エンド

エンド|個々の知見ではなく「この分野が何を重要と見なしてきたか」を、引用回数という物差しで地図にした1本。読むべき論文を探すときの見取り図にもなる(Fardi ほか 2011・J Endod)

エンドの勉強を始めると、必ず出会う古典があります。ではその古典は、どういう顔ぶれで、何を扱ってきたのか。ギリシャ・アリストテレス大学のFardiらは、2011年1月にISI Web of Knowledgeデータベースを使い、歯内療法を専門とする雑誌に掲載された論文のうち被引用回数が多い上位100本を抽出し、その特徴を分析しました。対象誌はInternational Endodontic Journal、Journal of Endodontics、Oral Surgery Oral Medicine Oral Pathology Oral Radiology and Endodontology、Australian Endodontic Journal、そしてDental Traumatology(2000年までEndodontics & Dental Traumatology)です。結果、上位100本の被引用回数は87〜554回、平均146回でした。掲載誌はJournal of Endodonticsが54本と過半を占め、OOOが23本、International Endodontic Journalが17本、Endodontics & Dental Traumatologyが6本。発表年は1965〜2006年に分布し、48本が1990年代、35本が1990年以前、17本が2000年以降でした。すべて英語で、筆頭著者の所属国は米国が52本と圧倒的です。研究の種類では基礎研究が55本、臨床研究が28本、総説が17本。基礎研究55本の中でのテーマの筆頭は漏洩(歯冠側・根尖側)12本とMTA 12本で、次いで器具と形成法10本、洗浄薬8本と続きます。ただし分野全体で数えると最多は微生物学(17本)で、著者らはこれを結論に据えています。臨床研究28本のエビデンスレベルは、対照群のない症例集積が15本と最も多く、ランダム化比較試験は0本でした。ただし引用回数は影響力を映すものの、必ずしも質を映すものではない、と著者ら自身が前置きしています。

論文
Top-cited Articles in Endodontic Journals
著者
Anastasia Fardi、Konstantinos Kodonas、Christos Gogos、Nikolaos Economides(ギリシャ・アリストテレス大学テッサロニキ校 歯内療法学教室)
掲載
Journal of Endodontics 2011;37(9):1183-1190
種類
書誌計量研究(citation analysis)2011年1月にISI Web of Knowledgeデータベースを用いて抽出。2009年のScience Citation Index「Dentistry, Oral Surgery & Medicine」分野で、誌名に Endodontic または Endodontology を含む4誌(Australian Endodontic Journal/International Endodontic Journal/Journal of Endodontics/Oral Surgery Oral Medicine Oral Pathology Oral Radiology and Endodontology)を対象とし、Dental Traumatology(2001〜2010年。2000年までは Endodontics & Dental Traumatology)も含めた。Web of Science で誌名ごとに検索し「Times Cited」で並べ替えて上位100本を選定。各論文について掲載誌・著者・所属機関・国・表題・発表年・被引用回数・論文の種類(基礎研究/臨床研究/総説)・研究デザイン・エビデンスレベル・研究分野を分類。抜去歯や細胞を用いた実験は基礎、根管から採取した検体の微生物学的研究は特定の患者に関わるため臨床と判定。エビデンスレベルはOxford Centre for Evidence-Based Medicine が示す Sackett の基準で分類。国は筆頭著者の所属住所で判定。OOOは扱う領域が広いため歯内療法に関する論文のみを対象とした
PMID
21846531

エンドの「古典」とは、誰が決めたのか

エンドを学び直そうとすると、必ず名前の挙がる論文があります。Sundqvist、Torabinejad、Byström、Schneider——。ではその顔ぶれは、どういう基準で「古典」になったのか。そして、この分野は何を重要だと見なしてきたのか

2011年のFardiらは、この問いに引用回数という物差しで答えました。歯内療法を専門とする雑誌に載った論文のうち、被引用回数が多い上位100本を抽出し、その特徴を丸ごと分析したのです。結論を先に言うと、上位100本の被引用は87〜554回(平均146回)、半数以上がJournal of Endodontics掲載で、基礎研究が55本、テーマの筆頭は漏洩とMTAでした

引用回数は「影響力」であって「質」ではない

著者らは、この研究の前提を最初に置いています。引用分析とは、論文が受け取った引用の数によって研究の影響を定量する書誌計量学の一分野である。そして——引用率は雑誌論文の影響を映すと想定されているが、必ずしもその質を映すわけではない

ISI(Institute for Scientific Information)の創設者ユージン・ガーフィールドは、ISI Web of Knowledgeで高頻度に引用される論文を「citation classic(引用の古典)」と呼びました。この手法は一般医学、眼科、麻酔科、耳鼻咽喉科、外科、形成外科、疼痛、集中治療、婦人科、外傷学と各科に広がり、歯科では2007年にNieriらが歯周病学で行ったのが最初のようだ、と著者らは述べています。

歯内療法では、それまで包括的な調査がありませんでした。

今回の一手:4誌+1誌に絞って上位100本を数える

抽出時期:2011年1月、ISI Web of Knowledgeデータベース。
対象誌:2009年のScience Citation Index「Dentistry, Oral Surgery & Medicine」分野で、誌名にEndodontic または Endodontology を含む4誌——Australian Endodontic JournalInternational Endodontic JournalJournal of EndodonticsOral Surgery Oral Medicine Oral Pathology Oral Radiology and Endodontology(OOO)。加えてDental Traumatology(2001〜2010年。2000年までは Endodontics & Dental Traumatology という誌名だった)も含めた。
選定:Web of Science で誌名ごとに検索し「Times Cited」で並べ替えて上位100本を抽出。
分類項目:掲載誌・著者・所属機関・国・表題・発表年・被引用回数・論文の種類・研究デザイン・エビデンスレベル・研究分野。
種類の判定基準:抜去歯や細胞を用いた実験は基礎。根管から採取した検体の微生物学的研究は、研究変数が特定の患者に関わるため臨床
エビデンスレベル:Oxford Centre for Evidence-Based Medicine が示す Sackett の基準で分類。
国:筆頭著者の所属住所で判定。共著者の所属は、共同研究機関の数と由来を確認するために記録。
注記:OOOは扱う領域が広いため、歯内療法に関する論文のみを対象とした。なお対象に含めたAustralian Endodontic Journal からは1本も入りませんでした(上位100本は4誌に分布)。

結果:基礎研究が半数以上、テーマの筆頭は漏洩とMTA

0 20本 40本 60本 上位100本に含まれた本数 55本 28本 17本 基礎研究 臨床研究 総説 上位100本の内訳。抜去歯や細胞を用いた実験は基礎、根管から採取した検体の微生物学的研究は臨床と判定されている。55+28+17=100で重複はない
上位100本の論文の種類。基礎研究が過半を占め、臨床研究は28本、総説が17本だった
被引用回数:最多554回、最少87回、平均146回
掲載誌:Journal of Endodontics 54本、OOO 23本、International Endodontic Journal 17本、Endodontics & Dental Traumatology 6本
発表年:1965〜2006年に分布。1990年代が48本1990年より前35本、2000年以降が17本。最も多い年は1995年(12本)、次いで1990年(8本)、1993年と1997年(各6本)、1972年(5本)。
言語と国:すべて英語。筆頭著者の所属国は米国52本、スウェーデン13本、英国7本、スイス6本、オーストラリアとノルウェー各3本、ブラジルとオランダ各2本。
機関:ロマリンダ大学12本、ウメオ大学9本、チューリヒ大学5本、ノースカロライナ大学5本。単一機関からが55本、同一国内の複数機関が13本、国際共同研究が32本
著者:筆頭著者として最多はM. Torabinejad(12本)。3本以上に名を連ねた人が20名、単著が15本、2〜5名の共著が81本。
0 5本 10本 15本 上位100本に含まれた本数 12本 12本 10本 8本 5本 漏洩(歯冠側・根尖側) MTA 器具と形成法 洗浄薬 象牙質歯髄複合体の物理化学的性質 基礎研究55本の分野内訳のうち、本数の多い上位5テーマ(原著Table 6。原著は13分野に分類し、1本が2〜3の分野にまたがる場合は重複して数えているため合計は55を超える)。なお分野全体(臨床+基礎+総説)で数えると最多は微生物学の17本
基礎研究55本のうち、被引用が多かったテーマの上位。漏洩とMTAが同数で並ぶ
基礎研究55本の中でのテーマ:漏洩(歯冠側・根尖側)12本MTAの応用と性質12本、器具と形成法10本、洗浄薬8本、象牙質歯髄複合体の物理化学的性質5本。漏洩12本の内訳は歯冠側5本・根尖側5本、MTAによる側方穿孔修復の封鎖性1本、色素浸透試験に気泡が与える影響1本。
臨床研究のテーマ:28本中13本が歯内療法の微生物学(Table 6)。成否に影響する因子を評価した研究が2本、再治療の予後が1本、歯冠修復と根管治療の予後の相関が2本。
総説:「意外にも」17%が総説でした。器具3本、微小漏洩3本(漏洩研究の臨床的意義、評価法、治療失敗における歯冠側漏洩の重要性)、歯髄病変の細菌叢2本、象牙質歯髄複合体2本、ほかに根管貼薬・洗浄薬・歯根吸収・MTA・修復・スメア層(2本)
エビデンスレベル:臨床研究28本の研究デザインは、対照群のない症例集積が15本と最多で、以下 症例対照研究8本、非ランダム化比較コホート4本、コホート研究1本、ランダム化比較試験は0本(原著Table 7。1+4+8+15=28)。別枠の総説17本は、エビデンスレベルV(ナラティブレビュー)に分類されています。

この地図から読めること

いくつかの数字は、この分野の性格をよく表しています。

ひとつめ。基礎研究55本に対し、臨床研究は28本。しかもその臨床研究のエビデンスレベルは対照群のない症例集積が最多でした。エンドという分野が、抜去歯や細胞を使った実験の積み重ねで前進してきたことが分かります。ランダム化比較試験は0本でした。著者らはその理由を、ヒトで治療効果や材料を比較すること自体に倫理的な制約があること、そして根管治療には比較対象となる代替術式が乏しいことに求めています。また著者らは、引用回数とエビデンスレベルのあいだに、おおむね正の関係はなかったとも書いています。

ふたつめ。発表年のピークが1995年(12本)で、2000年以降はわずか17本。これは2000年以降の研究の質が落ちたという意味ではありません。引用は時間をかけて積み上がるので、新しい論文ほど不利になる——書誌計量研究に必ずつきまとう偏りです。2011年時点の集計であることを忘れずに読む必要があります。

みっつめ。テーマの見え方は、どこを切るかで変わります。基礎研究55本の中では漏洩12本とMTA 12本が筆頭ですが、分野全体で数えると微生物学が最多(臨床13+基礎2+総説2=17本)で、著者らはこれを結論に据えています。漏洩は基礎12+総説3=15本で続きます。「封鎖」と「細菌」という2つの問題系が、引用という形で刻まれているということです。同時に、その12本の中に「色素浸透試験に気泡が与える影響」が入っているのも示唆的です。漏洩を測る方法そのものへの反省まで含めて、よく読まれてきたということです。

明日の臨床へ

著者らの結論:微生物学は依然としてこの分野で最も引用されるトピックであり、細菌が歯内病変で果たす決定的な役割に研究の関心が置かれていることを示す。影響力の大きい英語の歯内療法系の雑誌に載った基礎研究と観察研究が、最も高い引用率を示していた。
この論文の使い道:
読むべき古典を探す地図として。原著のTable 1には上位100本が被引用回数の降順で並んでいます。自分の関心分野(漏洩・MTA・洗浄薬・微生物学)で、まず何を読むべきかの当たりをつけられます。
この分野の偏りを知る鏡として。よく引用されている論文の多くは基礎研究であり、臨床研究のエビデンスレベルは高くありません。「有名な論文だから臨床的に強い根拠だ」とは限らない、ということです。
引用回数は必ずしも質の指標ではない——著者らが冒頭で置いたこの断りは、日々のエビデンス評価にそのまま使えます。
読み替えの注意:これは2011年1月時点の集計です。その後15年分の引用は反映されておらず、また誌名にEndodonticを含む雑誌に限定しているため、他誌に載った重要な歯内療法研究は最初から対象外です。原著自身が例に挙げているのは、歯髄幹細胞を報じた Gronthos ら2002(J Dent Res320回——これだけで上位3位相当)、Byström & Sundqvist 1981(Scand J Dent Res・251回)、Bergenholtz ら1982(J Oral Pathol・261回)などです。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、対象誌の絞り方です。「誌名にEndodonticまたはEndodontologyを含む」という基準は明快ですが、歯内療法の重要な研究は総合歯科誌や基礎系の雑誌にも載ります。この100本は「エンド専門誌の中の上位100本」であって、「歯内療法研究の上位100本」ではありません。第二に、新しい論文ほど不利という時間の偏りがあります(2000年以降は17本)。第三に、引用は必ずしも質を映しません。ただし著者らは「引用数は一つの仕事の質を認知する最良の指標でもある」とも書いており、全否定ではありません。方法論を批判されて繰り返し引用される論文もあります。著者らが挙げる癖は、自己引用が補正されないこと、書籍の章での引用が数えられないこと、後続の著者が原著ではなく総説のほうを引きたがること(総説が17本も上位に入った一因と著者らは見ています)、自分が投稿したい雑誌の論文を選んで引く傾向があることです。第四に、2011年1月という一時点のスナップショットです。第五に、ISI Web of Knowledgeというデータベース1つに依存しています(ScopusやGoogle Scholarでは順位が変わり得るというのは、原著の指摘ではなく筆者の補足です)。第六に、分類(基礎/臨床/総説、エビデンスレベル)は著者らの判断によるもので、判定者間の一致度は示されていません。第七に、1本が複数のテーマにまたがる場合は重複して数えられているため、テーマ別の本数の合計は100を超えます。それでも、自分が寄って立つ分野が何を積み上げ、何を積み残してきたかを一望できる資料として、臨床家が年に一度は眺める価値のある1本です。

今日のひとこと

著者らの結論:引用率の分析は、歯内療法という分野の科学的な歩みについて有用で興味深い情報を与える。影響力の大きい歯内療法系の雑誌に載った基礎研究と観察研究が、最も高い引用率を示していた。筆者の読みでは、この論文の使い道は2つあります。ひとつは読むべき古典を探す地図として。もうひとつはこの分野の偏りを知る鏡としてです。上位100本のうち臨床研究は28本にとどまり、そのエビデンスレベルは対照群のない症例集積が最多でした。よく引用されることエビデンスとして強いことは必ずしも一致しない——著者ら自身が冒頭で述べているこの前提が、結果そのものに表れています。

Fardi A, Kodonas K, Gogos C, Economides N. Top-cited articles in endodontic journals. J Endod. 2011;37(9):1183-1190. PMID: 21846531
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。