1問1答 論文 エンド

再根管治療の相手は、抜髄のときと同じ菌ではない

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エンド|「失敗した根管治療の中に何がいるのか」を、根尖病変のある根管充填歯100本とない歯20本で培養して比べ、抜髄時の菌叢とはっきり違うことを示した研究(Molander ほか 1998・Int Endod J)

根管治療がうまくいかなかったとき、その根管の中には何がいるのか。壊死歯髄の菌叢は詳しく調べられてきましたが、著者らによれば、失敗した根管治療の中の菌についてのデータは乏しいままでした。スウェーデン・ヨーテボリ大学のMolanderらは、4年以上前に根管治療を受け、急性症状がなく、根管充填が根尖から5 mm以内に達している歯を対象に、根尖性歯周炎の所見がある100本(P群)と、所見がなく技術的な理由で再治療する20本(T群)を集めました。ラバーダムと過酸化水素・ヨードチンキで術野を消毒し、無菌的に根管充填材を除去して培養しています。結果、P群では100本中68本から細菌が検出され、117株が分離されました。ほとんどの根管からは1〜2株しか出ておらず(85%)、通性嫌気性菌が優勢(同定株の69%)で、うちグラム陽性が最多でした。最も多かったのは腸球菌で32本から検出され、そのうち25本(78%)で「多い」または「非常に多い」発育を示しています。一方T群では20本中9本から13株が分離され、そのうち8株は「非常に少ない」発育でした。もうひとつ注目されるのは、ガッタパーチャを溶かすためにクロロホルムを使った根管では細菌の検出率が48%だったのに対し、使わなかった根管では78%だったことです。著者らはこれをクロロホルムの毒性による偽陰性と見ており、68%という検出率はむしろ過小評価かもしれないと述べています。著者らは、根管充填された根管の菌叢は、治療されていない壊死歯髄のそれとは量的にも質的にも異なり、外科によらない再治療の戦略は再考されるべきだと結論しています。

論文
Microbiological status of root-filled teeth with apical periodontitis
著者
A. Molander、C. Reit、G. Dahlén、T. Kvist(スウェーデン・ヨーテボリ大学歯学部 歯内療法学/口腔診断学教室・口腔微生物学教室)
掲載
International Endodontic Journal 1998;31(1):1-7
種類
臨床研究(横断的な微生物学的調査)。ヨーテボリ大学への紹介患者から選択。組み入れ基準=根管治療から4年以上経過(失敗と判定するのに推奨される観察期間)、急性根尖性歯周炎を示す臨床症状がない、根管充填がエックス線写真上の根尖から5 mm以内に収まっている(=「真の」再治療症例)。P群(pathology)=慢性根尖性歯周炎のエックス線的または臨床的所見のある100本T群(technical)=根尖病変の所見がなく技術的理由で再治療する20本採取:ラバーダム装着後、30%過酸化水素と10%ヨードチンキで消毒(Möllerのプロトコル)。ポスト除去例では根管内もペーパーポイントで同様に消毒。チオ硫酸でヨードを不活化して術野の無菌性を確認。ゲーツグリッデンとHファイルで根管充填材を除去(21例でクロロホルムを使用)。作業長を決定し、可能なら根尖から0.5〜1 mmまで、ISO 25まで拡大して採取液を導入し、チャコールポイントで全内容を吸収して輸送培地へ。培養:1日以内に検査室へ。ブルセラ寒天(10%二酸化炭素・3〜5日/嫌気・5〜7日)と半流動培地(発育がなければ14日間毎日確認)。発育量は非常に多い・多い・中等度・少ない・非常に少ないの5段階(おおむね1万超・1万未満・1000未満・100未満・10未満 cfu/0.1 mL)。解析はカイ二乗検定。病変の大きさ=2 mm以下14例、3〜5 mm 56例、5 mm超30例
PMID
9823122

再根管治療で、相手にしているのは誰か

根管治療がうまくいかず、根尖に透過像が残っている。再治療に入るとき、私たちは何を相手にしているのでしょうか。抜髄のときと同じ菌だと考えて、同じ薬剤・同じ手順で臨んでいないでしょうか。

著者らは冒頭で、この分野の偏りを指摘します。壊死歯髄の菌叢は綿密に調べられてきたのに対し、失敗した根管治療の中の菌についてのデータは乏しい——過去の調査は1964年と1966年の2つだけで、細菌の検出率は38%と57%でした。

1998年、ヨーテボリ大学のMolanderらがこの空白を埋めました。結論を先に言うと、根尖病変のある根管充填歯100本のうち68本から細菌が検出され、その主役は通性嫌気性のグラム陽性菌、なかでも腸球菌でした

なぜ再治療の予後は振るわないのか

根管治療が失敗する原因は、一般に治療に抵抗して生き残った根管内の感染か、根管充填の歯冠側からの漏洩による細菌の侵入と考えられてきました。

そして、外科によらない再治療の予後はほどほどにとどまる、という報告が重なっていました。著者らはここから、菌叢を取り除くことの難しさが背景にあるのではないかと考えます。だとすれば根管内の抗菌的な処置を見直す必要がある。しかし見直すためには、まず相手を正確に知らなければならない——これがこの研究の論理です。

今回の一手:「真の再治療症例」だけを厳密に集める

この研究の質を支えているのは、対象の選び方です。

組み入れ基準:①根管治療から4年以上経過(失敗と判定するのに推奨される観察期間)②急性根尖性歯周炎を示す臨床症状がない③根管充填がエックス線写真上の根尖から5 mm以内に収まっている。③は「そもそも根管充填が不十分すぎる歯」を除くための条件で、著者らはこれを「真の」再治療症例と呼んでいます。
2つの群:P群=慢性根尖性歯周炎の所見がある100本T群=根尖病変の所見がなく、技術的な理由で再治療する20本(対照)。
無菌的な採取:ラバーダムを装着し、30%過酸化水素と10%ヨードチンキで消毒(Möllerのプロトコル)。ポストを除去した症例では根管内もペーパーポイントで同様に消毒。チオ硫酸でヨードを不活化して術野の無菌性を確認し、その液をチャコール綿球で吸って輸送培地へ(=コンタミの監視)。
採取:ゲーツグリッデンとHファイルで根管充填材を除去(21例でクロロホルムを使用)。作業長を決定し、可能なら根尖から0.5〜1 mmまで形成。採取液を導入したうえで根尖側をISO 25まで拡大し、チャコールポイントで根管内容の全量を吸収。
培養:1日以内に検査室へ。ブルセラ寒天(10%二酸化炭素で3〜5日/嫌気で5〜7日)と半流動培地(発育がなければ14日間毎日確認)。
発育量:非常に多い・多い・中等度・少ない・非常に少ないの5段階(おおむね1万超・1万未満・1000未満・100未満・10未満 cfu/0.1 mL)。
病変の大きさ:2 mm以下14例、3〜5 mm 56例、5 mm超30例。

術野の無菌性を採取ごとに確認している点は重要です。実際、無菌性の確認で発育が出たのは1例だけでした。ただし著者らは、クラウンやブリッジを通した採取が多く、辺縁からの漏洩による偽陽性のリスクは完全には否定できないと自ら注意を促しています。

結果:68%から検出、1〜2株だけ、筆頭は腸球菌

0 33.3% 66.7% 100% 細菌が検出された歯の割合 (%) 68% 45% 根尖病変ありP群 100本 根尖病変なしT群 20本 P群は100本中68本、T群は20本中9本(45%)。T群で分離された13株のうち8株は「非常に少ない」発育で、量的にもP群とは大きく異なる
原著の結果より。根尖病変のあるP群では100本中68本、病変のないT群では20本中9本から細菌が検出された
P群(根尖病変あり・100本):68本から細菌が検出され、117株が分離。
株数の少なさ:ほとんどの根管から1〜2株しか分離されませんでした(85%)。
菌種の偏り:通性嫌気性菌が優勢(同定株の69%)。うちグラム陽性が67株で最多です(原著の結果本文は「グラム陽性の通性嫌気性菌が69%」と書いていますが、Table 2を足すとグラム陽性は67/117=57%で、69%はグラム陰性を含む通性嫌気性菌全体の値。要旨の書き方=「通性嫌気性菌が69%」が表と整合します)。
筆頭は腸球菌:Enterococcus 属が32本から検出され、うち20本が「非常に多い」・5本が「多い」=合わせて25本(78%)が高い発育量を示しました。
その他の菌:Lactobacillus 11株、Streptococcus(多糖非産生7・産生7)、Staphylococcus epidermidis 7株、Escherichia coli 8株、Actinomyces 2株など。
発育量の分布:「少ない」「非常に少ない」が53%、「多い」「非常に多い」が42%(要旨の値。Table 2の内訳から計算すると40%で、原著内で数値が一致しません)。
T群(根尖病変なし・20本):9本から13株。うち8株は「非常に少ない」発育。11本からは細菌が検出されませんでした。
0 33.3% 66.7% 100% 細菌が検出された割合 (%) 78% 48% クロロホルムを使わなかった根管 クロロホルムでガッタパーチャを溶かした根管 P群で検討された因子のうち、細菌の検出率に統計的に有意な影響があったのはクロロホルムの使用だけだった(21例で使用)。著者らはこれをクロロホルムの毒性による偽陰性と見ており、68%という検出率は過小評価かもしれないと述べている。※原著本文は78%と記載。Table 3の内訳(58/79)から計算すると73%で、原著内で数値が一致しない
P群で検討された因子のうち、細菌の検出率に統計的に有意な影響があったのはクロロホルムの使用だけだった。ただしこれは観察された関連であり、クロロホルムの殺菌効果を示した実験ではない

数字の中でいちばん示唆に富むのは、「1〜2株が85%」という偏りです。壊死歯髄の感染は通常もっと多くの菌種が混在します。それが再治療症例では、ごく少数の菌種に絞り込まれている。しかも通性嫌気性のグラム陽性菌という、酸素にも栄養不足にも強い顔ぶれです。

「生き残った側」の菌叢という読み方

抜髄直後の壊死歯髄には、偏性嫌気性菌を中心とした多様な菌叢があります。ところが根管治療を受けた歯では、機械的な形成水酸化カルシウムの貼薬という淘汰圧がかかります。著者らはGomes 1996を引いて、標準的な機械的処置の後に E. faecalis が増殖した報告に触れ、水酸化カルシウムは E. faecalis を殺しきれないことを挙げています。腸球菌が32%と過去の報告(Engström 9%、Möller 17%)より多い理由も、ヨード系貼薬から水酸化カルシウムへという治療戦略の時代変化に求めています。※次亜塩素酸ナトリウムの影響や酸素環境については原著では論じられておらず、ここから先は筆者の補足です。根管充填後は栄養が乏しく、酸素にもさらされやすい環境になります。

そこを生き延びたのが、通性嫌気性菌、とりわけ腸球菌だった——という像です。しかも腸球菌は、検出された32本のうち20本で「非常に多い」発育(1万 cfu/0.1 mL 超)を示していました。わずかに生き残っているのではなく、そこで増えているということです。

だからこそ著者らは「外科によらない再治療の戦略は再考されるべきである」と結びます。抜髄のときと同じ薬剤・同じ手順では、この顔ぶれに届かないかもしれない、という問題提起です。

クロロホルムの所見(使わない根管78% 対 使った根管48%)も興味深いところです。著者ら自身は、クロロホルムの毒性で菌が増殖能を失い、偽陰性が生じた可能性が高い、また残存ガッタパーチャが採取液を遮った可能性があると述べています。つまり68%という検出率は、むしろ過小評価かもしれないと読むのが原著に忠実です。

明日の臨床へ

著者らの結論と提言:根管充填された根管の菌叢は、治療されていない壊死歯髄のそれとは量的にも質的にも異なる。外科によらない再治療の戦略は再考されるべきである。そのうえで著者らは4つ挙げています。
・腸球菌が高頻度に分離されたことは、水酸化カルシウムを貼薬として日常的に使うことに疑問を投げかける
・再治療の予後を改善するには、画一的な手順より細菌学的な診断検査に基づく「個別化した戦略」が望ましい。
根管充填されたすべての歯は、感染している可能性があるものとみなすべきかもしれない。
・再治療を行う場合は、根尖孔の形態を尊重する(=拡大しない)ことがきわめて重要と思われる。
臨床に持ち帰れること:
再治療は抜髄の延長ではありません。相手は少数の、選ばれて生き残った通性嫌気性グラム陽性菌——とくに腸球菌です。この認識を持つかどうかで、薬剤選択や貼薬期間の考え方が変わります。
根尖病変があっても32本では細菌が検出されませんでした。培養法の限界(後述)もありますが、「病変がある=必ず菌が採れる」ではないことは押さえておく価値があります。
・逆に病変のないT群でも9本から細菌が出ています(ただし多くは「非常に少ない」発育)。細菌の有無だけで病態が決まるわけではなく、が効いていることを示唆します。
無菌的な採取の手順そのものも学びどころです。ラバーダム、過酸化水素とヨードチンキ、そしてヨードの不活化と無菌性の確認——再治療で新たな菌を持ち込まないための基本形が、この論文の方法に示されています。
読み替えの注意:これはその時点の菌叢を見た横断調査で、治療の成否を追ったものではありません。「腸球菌がいたから治らない」ことを示した研究ではない、という点は押さえておく必要があります。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、培養法による調査です。1998年の時点では標準的な方法でしたが、培養できない菌は検出されません1998年以降の分子生物学的手法による研究では、培養では捉えられなかった菌種が数多く見つかっており(これは原著にはない筆者の補足です)、「32本から細菌が検出されなかった」という結果も、菌がいなかったことの証明にはなりません。第二に、著者ら自身が偽陰性の可能性を挙げています(クロロホルムの毒性、残存ガッタパーチャによる遮蔽)。68%という検出率は過小評価かもしれません。第三に、採取できるのは根管の主要部の内容で、象牙細管の深部・側枝・イスムス・根尖分岐に潜む菌には届きにくい。第四に、横断研究であり、この菌叢が予後にどう影響したかは追跡されていません。第五に、T群はわずか20本で、対照としては小規模です。第六に、クロロホルムの所見は21例での観察された関連にとどまり、因果を示すものではありません。第七に、対象は1施設への紹介患者で、根管充填が根尖5 mm以内という条件で絞られています(=充填が著しく短い症例は入っていません)。第八に、腸球菌の同定は属レベルでの記載が中心です。それでも、「再治療で相手にする菌は抜髄のときとは違う」という認識を、厳密な無菌的採取と100本という規模で確立したこの論文は、その後の再根管治療の薬剤選択の議論の出発点であり続けています。

今日のひとこと

著者らの結論:根管充填された根管の菌叢は、治療されていない壊死歯髄のそれとは量的にも質的にも異なる。外科によらない再治療の戦略は再考されるべきである。筆者の読みでは、この論文の値打ちは「再治療で相手にするのは、抜髄のときとは違う菌である」と具体的な菌名と頻度で示した点にあります。1〜2株だけが生き残り、その筆頭が腸球菌——水酸化カルシウムという当時の標準の貼薬に耐えた菌が選ばれて残っている、という像です。著者らは、腸球菌の高頻度な分離は水酸化カルシウムを日常的に貼薬として使うことに疑問を投げかけるとまで書いています。ただしこれは培養法による横断調査で、治療の成否を追ったものではありません。

Molander A, Reit C, Dahlén G, Kvist T. Microbiological status of root-filled teeth with apical periodontitis. Int Endod J. 1998;31(1):1-7. PMID: 9823122
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。