エンド|MTA に始まる水硬性セメント(覆髄材・根管シーラー・逆根管充填材など)を、臨床で置かれる環境と、材料の化学・供給の形で分ける分類を提案した単著の論文(Camilleri 2020・Frontiers in Dental Medicine の「Classification」。新しい実験やデータは無い)
覆髄、アピカルプラグ、シーラー、逆根管充填。どの場面でも MTA やその仲間の材料が使われますが、中身の化学も、置かれる環境も同じではありません。英国バーミンガム大学の Camilleri は2020年、こうした水硬性セメントの分け方を2つ提案しました。1つ目は使う場所で、歯冠内(歯髄の保護=覆髄・再生歯内療法のバリア)・根管内(根管シーラー・アピカルプラグ)・根管外(逆根管充填材・穿孔修復材)の3つ。2つ目は化学で、水硬性ケイ酸カルシウムセメントを、ベース(ポルトランドセメントか、合成のケイ酸カルシウムか)・水で練るか練らないか・添加物の有無で分け、市販品の例を5つの型に当てはめました。著者は、シリンジ入りで練らずに使う製品の「プレミックス(練り済み)」という呼び名は意味をなさない、表面の化学的な沈着を「生物活性」と呼ぶのは誤りだ、とも述べています。新しい実験やデータは無い分類の提案で、分類が臨床成績と結びつくかは調べていません。
①MTA とその仲間、ひとくくりにしていない?
直接覆髄にも、アピカルプラグにも、根管シーラーにも、逆根管充填にも、MTA やその仲間の材料が使われるようになりました。では、その材料どうしの違いを、どんな軸で整理しているでしょうか。「どれも MTA 系」で済ませていないでしょうか。
この問いに、分け方そのものを提案したのが、英国バーミンガム大学の Camilleri が2020年に Frontiers in Dental Medicine に出した単著の論文です。誌面の記事区分は「Classification(分類)」。新しい実験やデータは無く、著者が文献を引きながら、分類の考え方を示したものです。
・水硬性セメントは、水と反応して固まり(水和反応)、濡れても劣化せず、反応の副産物として水酸化カルシウムをつくる材料。濡れた環境でも使えるが、反応が終わる前に乾くのはよくない、と著者は書いている
・分け方の1つ目は「使う場所」:歯冠内(歯髄の保護・再生歯内療法のバリア)、根管内(根管シーラー・アピカルプラグ)、根管外(逆根管充填材・穿孔修復材)の3つ。置かれる環境が違えば、材料と環境の反応も違う、という考え方
・分け方の2つ目は「化学の中身」:水硬性セメントを、ケイ酸系とアルミン酸系に分け、ケイ酸系のうちカルシウムを含むもの(水硬性ケイ酸カルシウムセメント)を、ベース(ポルトランドセメントか、合成のケイ酸カルシウムか)・ビークル(水で練るか、水を含まない液に分散させてあるか)・修飾材(反応・物理・機械)で分ける
・市販品の例を、ベース・添加物の有無・水で練るかの組み合わせで5つの型に当てはめた(原著の表1)
・著者の主張:シリンジ入りで練らずに使う製品を「プレミックス(練り済み)」と呼ぶのは意味をなさない/表面の化学的な沈着を「生物活性」と呼ぶのは誤り/重合するレジンやサリチル酸塩の基材のように、水を介さずに固まるものは水硬性セメントとは言えない
・単著の分類の提案で、新しいデータは無い。分類の型と臨床成績の関係は調べていない
②なぜ分類が必要だと著者は考えたか
水硬性セメントの代表は、建築用のポルトランドセメントです。その性質から、根尖の外科や穿孔の修復のように、いつも濡れている場面で使えると提案されました。著者によると、歯科材料として最初に使われたのは19世紀後半の根管充填(引用文献)で、広く臨床に入ったのは、Torabinejad が「mineral trioxide aggregate(MTA)」として特許を取ってからです。
MTA は当初、リン酸カルシウム系のセメントとされていましたが、2005年に水硬性ケイ酸カルシウムだと分かりました(著者自身が加わった研究の引用)。抄録では、ポルトランドセメントに造影性を上げる酸化ビスマスを混ぜただけのものが、リン酸系セメントと誤って分類され、誤解を招く「MTA」という名で呼ばれた、と書いています。その後、ベースの違う材料、別のビークル、さまざまな修飾材を使った材料が次々に作られました。化学も臨床の使い道も多様になったので、筋の通った分類が要る、というのが著者の出発点です。
もう1つの背景は、環境との反応です。水硬性セメントは、血液・組織液・象牙質・骨・洗浄液・修復材料といった周りの成分とさらに反応し、主に表面の化学が変わります。表面が変わる、固まらないといった変化は、材料に悪い影響を与えうる、と著者は書いています。
③分け方1:使う場所で3つに分ける
1つ目の分類は、臨床の使用環境(どこに置くか)です。原著の図1は、歯の断面図に置き場所を示しています(図1)。
・歯冠内:歯髄の保護(図1では覆髄)、再生歯内療法のバリア。歯髄と歯冠部の象牙質に触れる
・根管内:根管シーラー、アピカルプラグ。根管内の細菌を除くことを目指した処置の後に使うので、処置された象牙質に触れ、液体は限られる
・根管外:逆根管充填材、穿孔修復材。処置されていない象牙質に触れ、表面が血液と組織液にすっかり接する
著者がこの分け方を重く見るのは、置き場所によって、表面にできる沈着物が違うという研究があるからです。引かれた研究では、血液に触れる場合、逆根管充填に使った場合、再生歯内療法のバリアに使った場合は炭酸カルシウムができ、根管シーラーとして象牙質に触れる場合と、生活歯髄療法に使った場合はアパタイト様の物質ができた、とされています。いずれも著者が引いた研究で、この論文で新しく調べたものではありません。
④分け方2:化学の中身で枝分かれさせる
2つ目の分類は、材料の構成(化学と供給の形)です。著者は、こちらの方が精密だとしています。原著の図2を、枝分かれの図にしました(図2)。
・水硬性セメント:「水硬性」は、水と反応して固まること、固まった後も濡れた環境で安定していることを表す。ここから、ケイ酸系(水硬性ケイ酸塩セメント)と、歯科材料として提案されているアルミン酸カルシウム系(水硬性アルミン酸塩セメント)に分かれる。どちらも水硬性だが、化学は別物
・カルシウムを含むケイ酸系:水と反応して水酸化カルシウムをつくるので、水酸化カルシウムそのものの代わりとして使われる。この点でほかのケイ酸系と分ける(原著の式1・2:ケイ酸三カルシウムとケイ酸二カルシウムの水和で、ケイ酸カルシウム水和物と水酸化カルシウムができる)
・ベース:ポルトランドセメントか、合成のケイ酸カルシウムか
・ビークル:水で練る(水系)か、水を含まない液に分散させてある(非水系)か
・修飾材:反応の修飾材・物理的な修飾材・機械的な修飾材
造影剤を別の枝にしていないのは、歯科材料ではエックス線の造影性がすべての材料に必要だから、と著者は書いています。ポルトランドセメント(MTA のベース)の造影性は足りないという研究があり、水硬性の歯内療法用セメントは、規格を満たすために造影剤を加える必要があります。ただし、その規格は根管シーラーのもので、ほかの種類の材料にはまだ規格が無い、とも述べています。
⑤枝ごとに何が違うのか
ベース:ポルトランドセメントか、合成か。ポルトランドセメントにはアルミン酸塩の相があり、固まるのを遅らせるために加えられた硫酸カルシウムの量に応じて、エトリンガイトなどができます。著者によると、ケイ酸カルシウムからなる合成の材料へ移ったのは、アルミニウムイオンの溶け出しへの心配からでした(アルミニウムがさまざまな臓器で検出された、脳の酸化ストレスと関連したという研究の引用。引用文献の表題からは、ラットの研究を含む)。さらに、市販のポルトランドセメントには、不純な天然原料や廃棄物に由来するクロム・ヒ素・鉛などの重金属が含まれ、水系セメントの ISO 規格(ISO 9917-1)が上限を定めているのは、酸で抽出できるヒ素ではリン酸亜鉛セメントとポリカルボキシレートセメント、鉛ではそれらとグラスアイオノマーセメントだけで、クロムには触れていません。水硬性ケイ酸塩セメントでは、酸で抽出したヒ素と鉛が、これらの材料に定められた上限を超えうるという研究がある一方、模擬組織液のような穏やかな条件ではごく少量だった、と引かれています。合成のケイ酸カルシウムは、純度の高い実験用の原料と、よりきれいな製法で作られるので、別の枠にするのが適切だ、というのが著者の考えです。
ビークル:水で練るか、練らないか。粉を水で練る材料と、水を含まない液に分散させてシリンジで出す材料を分けます。後者は、周りから水がしみ込んで初めて水和が進みます。使う人が練らないので「プレミックス」と呼ばれますが、反応に使う水は製品の中に無いので、この呼び名は意味をなさない、と著者は書いています。また、重合するレジンやサリチル酸塩の基材のように、水を介さずに固まるものは、水硬性セメントとは言えない、としています。
5つの型。ベース・添加物の有無・水で練るか、の組み合わせで、2020年時点の市販品の例を5つの型に当てはめたのが原著の表1です(図3)。添加物が造影剤だけなのは、元の版の MTA(ProRoot MTA)だけだと著者は書いています。
修飾材。著者によると、修飾材は系統立てずに使われてきました。著者は反応の修飾材と物理的な修飾材の2群に大きく分けたうえで、機械的な修飾材も分類に含めうると付け加えています。
・反応の修飾材:ヒュームドシリカ(できた水酸化カルシウムと反応してケイ酸カルシウム水和物を増やす)、炭酸カルシウム、酸化カルシウム。いずれも反応の速さを変える。塩化カルシウムは硬化時間を短くするのに使える。ハイドロキシアパタイトやリン酸一カルシウムは「生物活性」を高める目的で加えられてきたが、著者は、結果として最終的な水酸化カルシウムの量が減り、生物学的な性質が落ちると書いている(引用された研究)
・物理的な修飾材:水溶性の高分子。練った材料の粘りを上げ、流れと扱いやすさを改善しうる。元の配合の扱いにくさは、19世紀の報告にも書かれていた
・機械的な修飾材:造影剤もこれに含めうるが、強さや硬さを上げるかははっきりせず、上がるとは考えにくい、と著者。ヒュームドシリカや炭酸カルシウムを機械的な修飾材と見なせるのは、水とセメントの比を管理した場合に限る
⑥著者の結論と、結果の読み方
著者の結論は短く、「材料ごとにふるまいが違い、それが臨床の使い道にも表れているので、歯科の水硬性セメントには明確な化学の分類が必要だ」というものです。抄録では、使う場所の分類は環境と起こりうる反応を、化学の分類は材料のふるまいの予測・リスクの見極め・選択と取り扱いを助ける、と位置づけています。
・「生物活性」について:さまざまな環境に触れた材料の表面で起こる純粋に化学的な変化が、誤って「生物活性」と呼ばれてきた。模擬組織液でのリン酸カルシウムの沈着を見る試験は臨床の条件をまねできない、と疑問が出ている(著者が引いた研究)
・製品選びは二分法にならない:特定の臨床の使い道に合う製品を選ぶのは、ベースと修飾材の組み合わせなど多くの要素によるので、系統立てた区分けや、二分法の分類には向かない、と著者自身が書いている
つまりこの論文は、材料を見る「地図」を示したもので、どの型の材料が臨床でよい成績を出すかを示したものではありません。
⑦明日の臨床へ
この論文から臨床に持ち帰れるのは、材料を名前でひとくくりにせず、2つの軸で見直す習慣です。以下は筆者の読みで、原著が臨床の手順として勧めたものではありません。
・ベースを確かめる:ポルトランドセメントがベースか、合成のケイ酸カルシウムか。著者は、重金属やアルミニウムの心配から合成の材料が生まれたと書いている
・水で練るか、練らないかを確かめる:練らずにシリンジから出す製品は、周りの水で水和が進む、と著者。名前が「プレミックス」でも、製品の中に反応の水は無い
・添加物を確かめる:反応を速める・遅らせる、扱いやすくする成分があり、リン酸カルシウムの添加は水酸化カルシウムを減らすという研究が引かれている
・型だけで製品を決めない:分類の型と臨床成績の関係は調べられていない。製品ごとの研究を見て選ぶ
なお、この論文で示されたのは分類の枠組みで、どの型が、どの場面で優れているかは比べていません。
(2)分類の型と臨床成績の関係は確かめられていません。著者自身も、製品選びは二分法の分類には向かないと書いています。
(3)表1の製品は2020年時点の例で、すべての市販品を並べた一覧ではありません。その後に組成が変わった製品や、新しい製品があるかもしれません。
(4)原著の中で、図2では「aqueous/non-aqueous(水系・非水系)」と「修飾材(反応・物理・機械)」、表1では「Water(水で練るか)」と「Additives(添加物の有無)」と、同じ考え方を別の言葉で書いています。本記事は図と表それぞれの言葉に合わせました。
(5)筆者が PubMed で確かめたところ、同じ著者が2026年に International Endodontic Journal に「An Updated Classification of Hydraulic Cements Used in Dentistry」(PMID 42108712)を出しています。本記事はその中身を読んでおらず、2020年版の内容だけを扱っています。
(6)著者は利益相反なしと記載しています。資金の記載は見当たりませんでした(オープンアクセスの論文)。
今日のひとこと
MTA とその仲間の材料をひとくくりにせず、どこに置くか(歯冠内・根管内・根管外)と、中身は何か(ポルトランドセメントか合成のケイ酸カルシウムか・水で練るか練らないか・何を足したか)の2つの軸で材料を見る。この論文はそのための地図を示した提案です。ただし新しいデータは無く、分類の型と臨床成績の関係は確かめられていないので、製品選びは型だけで決めず、それぞれの研究を見て判断します。


