1問1答 論文 エンド

日本の根管治療、何が課題なのか?——2011年の総説で須田英明先生は、年間1,350万件以上(2009年の保険請求回数からの推計)の抜髄・感染根管処置に対し、ラバーダムを「必ず使用する」歯科医師は一般歯科医師5.4%・日本歯内療法学会会員25.4%(引用した2003年の調査)にとどまり、保険の評価の低さと治療時間の長さ、歯根破折の多さも課題に挙げて、「新しい器材の前にまず治療の基本を守るべき」と結んだ。数値の多くは2003〜2010年の統計と調査の引用で、効果を比べた研究ではない(Suda 2011)

1問1答 論文 エンド

エンド|日本歯内療法学会雑誌に載った1人の著者による総説。保険請求の全国統計(2009年分)、著者らの調査、ほかの研究や学会ガイドラインの引用から、日本の歯内療法の現状と課題を考察した(Suda 2011・日歯内療誌)

マイクロスコープ、NiTiファイル、歯科用CBCT。2010年までの20年で根管治療の器材は大きく進みました。けれど、それで日本の根管治療は良くなったのか。東京医科歯科大学の須田英明先生は2011年の総説で、日本の歯内療法の現状を数字で概観しました。2009年の永久歯の抜髄・感染根管処置は年間1,350万件以上(保険請求回数から著者が推計)。それなのにラバーダムを「必ず使用する」と答えたのは一般歯科医師で5.4%、日本歯内療法学会会員でも25.4%でした(著者が引用した2003年のアンケート調査)。さらに保険の評価の低さ、治療にかかる時間、歯根破折の多さを課題に挙げ、「新しい技術・機器・材料に飛びつく前に、まず治療の基本を遵守すべき」と結んでいます。ただし1人の著者の総説で、数値の多くは2003〜2010年の統計と調査の引用です。治療法の効果を比べた研究ではありません。

論文
わが国における歯内療法の現状と課題(Current status and problems of endodontics in Japan)
著者
須田英明(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 摂食機能保存学講座 歯髄生物学分野)
掲載
日本歯内療法学会雑誌 2011; 32(1): 1–10(受付 2011年1月31日・受理 2011年2月3日)
種類
総説(1人の著者による叙述的な総説)。系統的な文献検索や統計解析の記載は無い。材料は保険請求回数の全国統計(e-Stat・2009年分)、著者らの調査、ほかの研究・学会ガイドラインの引用
資金・利益相反
総説の中に資金と利益相反の記載は無い。引用した研究の一部(Yoshioka 2002・Adorno 2009 など)は著者の研究室の研究
DOI
10.20817/jeajournal.32.1_1(PubMed には収載されていない。J-Stage で公開)

①日本の根管治療、何が課題なのか?

マイクロスコープ、NiTiファイル、歯科用CBCT。新しい器材がそろった今、根管治療の質は上がったはず——そう思いたいところです。

2011年、東京医科歯科大学の須田英明先生は、日本歯内療法学会雑誌の総説で、日本の歯内療法の現状を数字で見渡しました。問いは「新しい器材の前に、基本は守れているか」です。

結論を先に書きます。
・1人の著者による総説:保険請求の全国統計(2009年分)、著者らの調査、ほかの研究や学会ガイドラインの引用から、日本の歯内療法の現状と課題を考察した。系統的な文献検索や統計解析の記載はない
・2009年の永久歯の抜髄・感染根管処置は年間1,350万件以上(保険請求回数から著者が推計)
・ラバーダムを「必ず使用する」と答えたのは一般歯科医師5.4%、日本歯内療法学会会員25.4%(著者が引用した2003年のアンケート調査)
・保険の評価の低さ(米国の料金の中央値は日本の保険の7倍以上・著者調べ)、治療の長さ(大臼歯3根管で合計2時間以上・著者が算出)、歯根破折の多さも課題に挙げた
・著者の結論は「新しい技術・機器・材料に飛びつく前に、まず治療の基本を遵守すべき」
・注意:数値の多くは2003〜2010年の統計と調査の引用。治療法の効果を比べた研究ではない

②なぜ今、「基本」を問うのか

総説の書き出しは、2010年にアテネで開かれた歯内療法の世界会議です。そこで米国の S. Kim 教授は、1990〜2010年の20年で歯内療法の分野で最も進歩した機器・材料として、マイクロスコープ、NiTi製の超弾性ファイル、超音波器具、電気的根管長測定器、システムBあるいはHot-tip、GP(ガッタパーチャ)/Resilonのコンパクター、MTA、コーンビームCTの8つを挙げました(総説の表1)。

須田先生は、新しい器材に精通することは欠かせないとしながら、「安易に万能薬やスーパーテクニックを求めがち」だと戒めます。無菌的処置の原則を守らない根管の拡大・形成は、感染の経路を広げているにすぎない——そうした観点から、日本の歯内療法の現状と課題を考察したのがこの総説です。

③この総説が使った材料

  • 種類:1人の著者による叙述的な総説。決まった手順で文献を集めて評価する系統的レビューとしての方法(文献検索や統計解析)の記載は無い
  • 統計:政府統計の総合窓口(e-Stat)が2010年7月に公表した、2009年の保険診療請求回数の全国集計(6月分から年間を推計)
  • 著者らの調査:東京医科歯科大学むし歯外来(2005年9月〜2006年12月)での、根管処置歯の根尖部X線透過像の発現率。対象の歯数は記載されていない
  • 引用:ラバーダムの使用状況の調査、海外の追跡研究、8020推進財団の抜歯原因の調査、日本・欧州・米国の歯内療法学会のガイドライン、著者の研究室の抜去歯の研究など

④現状を示した数字

治療の数と成績。2009年の永久歯の抜髄は約600万件(6,004,644件)、感染根管処置は約750万件(7,496,508件)、合わせて1,350万件以上と著者は推計しています(6月分の請求回数から年間を推計)。無菌的処置の原則を守って行われた場合でさえ、抜髄と感染根管治療の成功率はそれぞれ90%前後、80%前後と報告されているので、一般の臨床では経過の良くない例が多数あるに違いない、と著者は述べます(この成功率には出典の番号が付いていません)。

さらに著者らの調査では、根管処置をした歯に根尖部X線透過像が高い割合で見られました(総説の図1。歯種ごとの棒グラフで、数値の表示と対象の歯数は記載されていません)。この中には治癒の途中のもの、瘢痕治癒したもの、歯冠側からの漏洩(コロナルリーケージ)、咬合、垂直性歯根破折によるものも含まれると考えられる、と著者は断っています。そのうえで、「根管処置の4年後に透過像が完全に消えていなければ失敗」とする欧州歯内療法学会(ESE)の基準に照らすと、日本の現状は「決して世界に誇れるものではない」としています。

ラバーダム。著者は、その一因として無菌的処置の原則が必ずしも守られていないことを挙げます。ラバーダムを用いない根管処置の成績は、装着した群より統計学的に有意に劣ったという報告(Van Nieuwenhuysen ら 1994)や、多くの患者がラバーダムの下での処置を望んでいるという調査を引いたうえで、実際の使用状況を示しました。

0 10% 20% 30% ラバーダムを「必ず使用する」と答えた割合(%) 5.4% 25.4% 一般歯科医師(186名) 日本歯内療法学会会員(452名) 総説が引用したアンケート調査(吉川ら 日歯内療誌 2003)の値 総説の本文と図2より
図1 ラバーダムを「必ず使用する」と答えた割合。総説が引用したアンケート調査(吉川ら 2003)の値で、回答者は一般歯科医師186名・日本歯内療法学会会員452名(総説の図2)。「時々使用」「使用しない」の割合は本文に数値が無いため載せていない

日本歯内療法学会、ESE、米国歯内療法学会のガイドラインは、いずれも根管処置時のラバーダムの装着を必須と明記している、と著者は確認しています。

治療の環境。一方で、歯科医師が置かれた環境は「困難を極めている」と著者は書きます。米国の一般開業医の根管処置料金の中央値(2007年)は、日本の社会保険診療報酬の7倍以上(総説の図4・著者調べ)。日本歯科医学会の2005年のタイムスタディー調査から算出すると、大臼歯(3根管)の根管処置は、診査から根管充塡までで合計2時間以上かかります(著者の算出)。2008年度の国民歯科医療費は約2兆6千億円弱で、今の保険の体制で料金を米国並みにするのは「不可能に近い」というのが著者の見方です。

高齢化。日本人の平均寿命は1945年の男性50.57歳・女性53.96歳から、2009年には男性79.59歳・女性86.44歳に延びました。高齢者でも歯髄腔の容積が減り続けるという報告を引き、狭く退縮した歯髄腔の処置が増えていること、亀裂やう蝕などが無いのに根尖部の透過像を認めた高齢者の症例(74歳・女性)を示しています。

歯根破折。著者が「21世紀の課題」と呼ぶのが歯根破折です。引用された3つの数値は、それぞれ別の調査で、対象も数え方も違います。

  • 8020推進財団の2005年の調査(全国5,131の歯科診療所へのアンケート・回収率39.1%):抜歯の主な原因のうち歯の破折は11.4%。著者は「氷山の一角」と見ている
  • Axelsson ら(2004):徹底したプラークコントロールを続けた集団を30年追跡し、歯の喪失の62%が歯根破折、う蝕は7%、歯周病は5%だった
  • Sjögren ら(1990):根管充塡した635歯を8〜10年追跡し、抜歯になった68歯のうち21歯(31%)が歯根破折によるものだった

う蝕や歯周病の多くは予防できるのに対し、歯根破折は咬合力や偶発的な事故が主な原因で、予知・予防が難しく、早期の診断も難しい、と著者は整理しています。

⑤著者が挙げた「基本」

総説の後半は、日本歯内療法学会のガイドライン(2009年版)に加えて、著者が「ゴールデンスタンダード」にすると良いと考える事柄です。

根管の解剖を知る。根管形態を8つに分けた Vertucci の分類を紹介し、上顎第二小臼歯では8分類すべてが見られたこと、下顎前歯や下顎第二小臼歯の複根管にも注意が要ることを挙げています。マイクロスコープを使っても根管の見落としは多い、という根拠として引いたのが、著者らの研究室の抜去歯の研究です。

0 5% 10% 15% 20% 見落とされた根管口の割合(%) 16% 14% 7% 肉眼 拡大鏡(ルーペ) マイクロスコープ 抜去歯の研究(Yoshioka ら J Endod 2002・総説の図11) 透明標本で確かめた全566根管を基準に判定
図2 根管口の見落とし率。抜去歯を透明標本にして確かめた全566根管を基準に、肉眼・拡大鏡・マイクロスコープで見つけられなかった根管口の割合(Yoshioka ら 2002・総説の図11)。抜去歯での研究で、患者の治療の成績を比べたものではない

あわせて、歯科用コーンビームCTは根管形態の把握にきわめて有用と考えられるが、リスクと利益を比べて限られた症例に使うべきで、X線撮影の基本はデンタル写真だ、としています。

3つのステップで考える。歯髄腔を3つに分け、①根管口、さらに根尖孔への到達性を良くする髄室の開拡(access cavity preparation)、②根管口の漏斗状の拡大(フレアリング)、③湾曲した根管を本来の形を損なわずに拡大・形成する、という順で処置します。複根歯では根管が内湾側へ寄っていて、内湾部の歯質が約0.5mmしかない歯もあるので、ゲーツグリッデンドリルなどでのストリッピングや穿孔に注意する、と著者は書いています。

根尖では慎重に(リバーサル歯内療法)。著者の研究室の Adorno ら(2009)は、抜去した下顎小臼歯40本を4群(各10本)に分けて根管を形成し、根尖部にきわめて高い割合で亀裂が生じることを見つけました。細い手用ステンレススチールファイル(#15)を根の表面まで使った段階でも、亀裂が認められた例があり、根尖の狭窄部を越えてファイルを突き出すと亀裂が生じやすく、NiTiファイルで根の表面から1mm手前までの形成では亀裂が生じにくかった、と紹介されています。著者は、こうした亀裂が将来の歯根破折につながる可能性も考えられるとして、根尖では「逆転の発想」での慎重な操作を求めています。

そして歯根破折の予防策として、著者は「できる限り抜髄を回避し、無髄歯を創らないこと」が有効と考えられるとし、歯髄の保護と、将来の歯髄再生を課題に挙げて結んでいます。

⑥明日の臨床へ

この総説は治療法を比べた研究ではないので、「これをすれば成功率が何%上がる」とは言えません。それでも、著者が挙げた「基本」は、自分の診療で点検しやすい形をしています。ここからは筆者の読みです。

  • ラバーダム:日本・欧州・米国の歯内療法学会のガイドラインがいずれも必須としている。使えていない理由(時間・患者の不快・技術)を一つずつ書き出してみる
  • 根管口の探索:抜去歯を透明標本にして確かめた全566根管を基準にした研究では、マイクロスコープの下でも7%の根管口が見落とされた(Yoshioka ら 2002)。「一つ見つけても、もう一つあるかもしれない」という著者の姿勢をチェック項目にする
  • 根尖での操作:ヒトの抜去下顎小臼歯40本(4群各10本)の実験では、根尖の狭窄部より先へファイルを出すと亀裂が生じやすかった(Adorno ら 2009)。作業長の管理と、根尖部で力をかけない操作を見直す

どれも新しい器材を買わずに見直せることです。ただし、それぞれの効果の大きさは、この総説からは分かりません。

ここだけ、冷静に補助線この総説は1人の著者の見解で、系統的な文献検索の記載はありません。数値は2003〜2010年の統計と調査が中心で(1990年・2002年の研究の値も含む)、保険の制度もラバーダムの普及も、その後に変わっている可能性があります。根尖部X線透過像の調査は1施設で、対象の歯数が記載されていません。引用の中には著者自身の研究室の研究(根管口の見落とし・根尖の亀裂)も含まれ、どちらも抜去歯での結果です。数字を「今の日本の姿」とそのまま読まず、基本を点検し直すための問題提起として受け取るのがよさそうです。

今日のひとこと

2011年の総説で須田先生は、ラバーダムを「必ず使用する」歯科医師が一般歯科医師5.4%・日本歯内療法学会会員25.4%(引用した2003年の調査)にとどまる現状などを挙げ、「新しい器材に飛びつく前に、まず治療の基本を守るべき」と結びました。数値は15年以上前の引用が中心で、治療の効果を比べた研究ではありません。それでも、ラバーダム・根管の探索・根尖での慎重な操作という「基本」を自分の診療で点検し直すきっかけになる1本です。

須田英明. わが国における歯内療法の現状と課題. 日本歯内療法学会雑誌. 2011;32(1):1-10. doi: 10.20817/jeajournal.32.1_1(J-Stage: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jeajournal/32/1/32_1/_article/-char/ja/ ・PMID なし)
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。