エンド|トルコ・コジャエリ大学の歯内療法科で、ラバーダムを付けて根管治療を受けた患者150人に、事前の知識・説明・体験・次回の希望を質問紙で尋ねた調査(Kaşıkçı 2024・European Journal of Therapeutics)
「患者さんが嫌がるから」は、ラバーダムを使わない理由としてよく挙がります。Kaşıkçı らは、大学病院の歯内療法科でラバーダムを付けて根管治療を受けた患者150人に質問紙で尋ねました。次回の治療でもラバーダムを使ってほしいと答えたのは146人(97.3%)。一方、治療の前から利点を知っていた(同意・強く同意。表1の人数から筆者が合計)のは46人(30.7%)で、事前に説明を受けたという答えと、ラバーダムは必要だという答えには関連がありました(p<0.001)。ただし1施設・1回の質問紙調査で、全員がラバーダムを使った治療を受けており、使わなかった患者との比較や、説明が考えを変えたかの検証はしていません。
①ラバーダム、患者は嫌がる?
「患者さんが嫌がるから」。ラバーダムを使わない理由として、よく聞く言葉です。本当にそうなのでしょうか。
トルコ・コジャエリ大学の Kaşıkçı らは、大学病院の歯内療法科でラバーダムを付けて根管治療を受けた患者150人に、質問紙で尋ねました。
・大学病院1施設の質問紙調査:ラバーダムを付けて根管治療を受けた患者150人(2023年8〜9月)。全員がラバーダムを使った治療を受けており、使わなかった患者との比較は無い
・「次回の治療でもラバーダムを使ってほしい」にはいと答えたのは146人(97.3%)、いいえは4人
・一方、「治療の前からラバーダムの利点を知っていた」に同意・強く同意したのは46人(30.7%)にとどまった(表1の人数から筆者が合計)
・「事前に歯科医師から理由の説明を受けた」への答え方と、「ラバーダムは必要だと思う」への答え方には関連があった(p<0.001)。ただし1回の調査での関連で、説明が考えを変えたかは調べていない
②なぜ「患者が嫌がる」と言われてきたのか
ラバーダムは、欧州歯内療法学会や米国歯内療法学会が根管治療の標準としている防湿法です。唾液や細菌の混入を防ぐだけでなく、器具の誤飲・誤嚥を防ぎ、洗浄液が口の中に触れるのを防ぎます(著者らが序論で引用した文献に基づく記述)。
それでも、使用は思ったほど広がっていません。著者らが引用したトルコの調査では、根管治療でラバーダムを選ぶ歯科医師は16.7%でした。歯科医師が挙げる理由は、装着に時間がかかる・扱いが難しい・器材の費用、そして「患者が知らない、不快がって受け入れない」です。
一方で、患者はラバーダムに好意的で、一度経験すると次も選ぶことがある、という報告もあると著者らは述べています。トルコでは歯科医師の意見を調べた研究はあるものの、患者の認識や体験を調べた研究は少ない。そこで患者側に尋ねたのが今回の調査です。
③今回の調査:大学病院の患者150人に質問紙
- 対象:コジャエリ大学 歯学部 歯内療法科で根管治療の適応となり、参加に同意した患者150人(2023年8〜9月)。治療は歯内療法の専攻医が行い、専攻医は全員ふだんからラバーダムを使っている。装着はクランプとシート、次にフレームの順
- 質問紙:16問。属性、これまでのラバーダムの経験、今回の体験、次回の希望を尋ねた。うち9問は「強く同意(5)〜強く反対(1)」の5段階。治療の前に調査の説明をして用紙を配り、名前などは書かせていない。記入にかかる時間は1〜2分
- 人数:先行研究をもとに検出力分析で150人と決め、回答が150人に達した時点で終了
- 解析:回答の組み合わせを Fisher-Freeman-Halton 検定・Fisher の正確検定・Pearson のカイ二乗検定で比べ、多重比較は Bonferroni 補正。p<0.05
参加者は女性80人(53.3%)・男性70人(46.7%)。これまでにラバーダムを使った歯科治療を受けたことがある人は41人(27.3%)で、109人(72.7%)は今回が初めてでした。
④結果:体験の評価は高く、事前の知識は少なかった
5段階の9項目それぞれで、「同意」か「強く同意」を選んだ人の割合を図1にまとめました(割合は原典の表1の人数から筆者が合計)。
体験についての項目は、「装着のとき痛みを感じなかった」90.0%(135人)、「安全で快適と感じた」96.0%(144人)など、いずれも9割を超えるか9割ちょうどでした。「患者にとって必要だと思う」は93.3%(140人)。そして「次回もラバーダムを使ってほしい」は、はい・いいえの2択で、はい146人(97.3%)・いいえ4人(2.7%)でした。
対照的なのが事前の知識です。「治療の前からラバーダムの利点を知っていた」に「強く反対」した人が68人(45.3%)で最も多く、同意・強く同意は46人(30.7%)でした。性別・年齢との関連は検出されませんでした(p=0.257・p=0.373)が、学歴とは、5段階の回答の分布全体で関連がありました(Fisher-Freeman-Halton 検定、p=0.013)。「強く反対」を選んだ人は、初等教育の人で21人中17人(81.0%)、高校で65人中20人(30.8%)、大学で64人中31人(48.4%)で、多重比較では、「強く反対」の割合で初等教育の人が高校・大学の人と違っていました(原典の表2)。
説明については、「事前に歯科医師から理由の説明を受けた」に同意・強く同意した人が124人(82.7%)。この答え方と「ラバーダムは必要だと思う」の答え方の間には関連がありました(Fisher-Freeman-Halton 検定、患者にとって・歯科医師にとってのどちらも p<0.001)。図2は、表3から「必要だと思う」に「強く同意」した人の割合を、説明への回答ごとに抜き出したものです。
「説明を受けた」に強く同意した87人では、「患者にとって必要」に強く同意した人が77人(88.5%)でした。同意の37人では23人(62.2%)、どちらでもないの12人では6人(50.0%)です。ただし、「説明を受けた」に「強く反対」した9人でも7人(77.8%)が強く同意しており、きれいな右肩上がりではありません。人数の少ない「強く反対」「反対」の群は、多重比較でどの群とも違いを認めませんでした。表3のほかの回答では、「患者にとって必要」に「同意」が説明への回答の順(強く反対→反対→どちらでもない→同意→強く同意)に0人・1人・4人・13人・6人、「どちらでもない」が同じ順に2人・1人・2人・1人・3人、「強く反対」は「説明を受けた」に強く同意した群の1人だけでした(「反対」を選んだ人はいない)。
このほか、装着にかかった時間(1分未満が100人・66.7%)や治療時間と、「装着のとき痛みを感じなかった」の間に関連は検出されませんでした(p=0.426・p=0.762)。次回を希望しなかった4人では、「安全で快適と感じた」に「反対」が2人、「息苦しさは無かった」に「反対」が1人、「薬液がのどに入らなかった」に「反対」が1人でした(同じ人が重なっているかは記載がありません)。
⑤結果の読み方:説明と好意的な評価は「一緒に見られた」
著者らは、治療の前に正しく説明を受けると患者のラバーダムへの好意的な態度が高まる、と結論しています。ただ、この調査は1回の質問紙で、説明の有無を割り付けたわけではありません。分かったのは、「説明を受けた」に強く同意した人では「必要だと思う」に強く同意した人の割合が、「どちらでもない」「同意」の人より高かったという回答どうしの関連までです(図2のとおり、きれいな右肩上がりではありません)。説明が考えを変えたのか、もともと好意的な人が説明をよく覚えていたのかは、この調査では区別できません(筆者の注)。
また、回答者は全員、ラバーダムを日常的に使う専攻医の治療を受けた人です。著者らは考察で「装着時間や治療時間と患者の好みに有意な関連は見られなかった」とし、その理由を「術者の経験が似ていたためかもしれない」と述べています。ただし、結果の節で検定として示されているのは装着時の痛みとの関連で(p=0.426・p=0.762)、好みとの関連の検定結果は示されていません。両節の書き方は一致していません。
⑥明日の臨床へ
ここから筆者の読みです。少なくともこの1施設では、ラバーダムを経験した患者の97.3%が次回も希望し、「患者が嫌がる」という見込みとは違う姿でした。一方で、事前に利点を知っていた人(同意・強く同意を筆者が合計)は3割ほど。だとすれば、使うかどうかを迷うより、付ける前に「なぜ付けるのか」を一言伝えるほうに手間をかける価値がありそうです。
- 説明の中身の例:唾液や細菌の混入を防ぐ・器具の誤飲を防ぐ・洗浄液が口の中に触れないようにする(著者らが序論と考察で挙げた利点)
- 著者らは、麻酔を十分に効かせ、合うクランプを選ぶことで装着時の痛みを減らせる、とも述べています(この調査で試したことではありません)
- 次回を希望しなかった4人の中には、快適さ・息苦しさ・薬液の項目に「反対」と答えた人がいました。装着後に「苦しくないですか」と一度確かめるのは、手間の少ない一手です(筆者の読み)
⑦ここだけ補助線
今日のひとこと
大学病院1施設の患者150人の質問紙調査で、ラバーダムを経験した患者の97.3%が次回もラバーダムを希望し、事前に利点を知っていた人は約3割でした(同意・強く同意を表1の人数から筆者が合計)。説明を受けたという答えと必要だという答えには関連がありましたが、1回の調査での関連で、説明が考えを変えたかは分かりません。「患者は嫌がる」と決めつけず、付ける前に理由を一言伝えることから始めたい1本です。


