エンド|ラバーダムを必ず使う歯科医師87人(研修医53人・医局員34人)と、その歯科医師たちからラバーダムを付けて根管治療を受けた直後の患者201人に、13項目の不快事項や安心感・希望を質問票で聞き、歯科医師が考える不快と患者が感じた不快を比べた調査(佐々木 2006・日本歯内療法学会雑誌)
ラバーダムを使わない理由として、歯科医師からよく挙がるのが「患者が嫌がるから」です。佐々木らは東京医科歯科大学の病院1施設で、ラバーダムを必ず使う歯科医師87人に「患者が感じたと思われる不快」を、ラバーダムを付けて根管治療を受けた直後の患者201人に「自分が感じた不快」を、同じ13項目の質問票で聞きました。13項目の不快事項を選んだ割合の平均(原典の表1から筆者が計算)は、研修医75.2%・医局員58.5%に対し、研修医の患者28.5%・医局員の患者22.1%で、患者の92%は次もラバーダムを付けて治療してほしいと答えました。ただし1施設の質問票の調査で、回答率や回答の集め方は書かれておらず、ラバーダムを使わない歯科医師やその患者は含まれていません。
①ラバーダム、患者さんは本当に嫌がっている?
根管治療にラバーダムが大切なのは分かっている。それでも付けない理由を聞くと、「面倒だから」と並んで「患者が嫌がるから」がよく挙がります。
では、患者さんは実際にどれくらい不快なのか。東京医科歯科大学の佐々木らは、歯科医師が考える不快と、患者が感じた不快を、同じ質問票で比べました。
・1施設の質問票の調査:ラバーダムを必ず使う歯科医師87人(研修医53人・医局員34人)と、ラバーダムを付けて根管治療を受けた直後の患者201人
・歯科医師は「患者が感じたと思われる不快」、患者は「自分が感じた不快」を、同じ13項目から選んだ
・13項目を選んだ割合の平均(原典の表1から筆者が計算)は研修医75.2%・医局員58.5%、研修医の患者28.5%・医局員の患者22.1%。研修医・医局員・研修医の患者の順に有意に低かった(p<0.05)。患者どうしでは有意差は検出されなかった(p=0.26)
・患者の92%が次もラバーダムを付けて治療してほしいと答えた。付けないでほしいは2%
・注意:大学病院1施設の調査で、回答率や回答の集め方は書かれていない。ラバーダムを使わない歯科医師やその患者は含まれていない
②なぜ「患者が嫌がるから」が理由になってきたのか
著者らは序論で、日本ではラバーダムが十分に使われていない、という先行の調査を引いています。地域の調査では、ラバーダムを常に使う一般の歯科医師は数%、日本歯内療法学会の会員でも約半数は日常の臨床で使っていない、という報告です(本論文が引用した調査)。
使わない主な理由は「面倒だから」と「患者が嫌がるから」の2つだった、という調査もあります。一方で海外には、ラバーダムを嫌がる患者はほとんどいなかった、という調査もある。そこで著者らは、歯科医師は患者が嫌がると一方的に思い込んでいるのではないかと考え、両者に同じことを聞いてみました。
③調べたこと
対象は東京医科歯科大学歯学部附属病院の歯科医師87人です。平成14年度の2年次研修歯科医53人(研修医)と、歯髄生物学分野の医局員34人(卒後1〜30年・平均8.3年)。全員が根管治療で必ずラバーダムを使っていました。
患者は、ラバーダムを付けて治療を受けた直後の201人(研修医の患者67人・医局員の患者134人)です。
- 不快事項:「歯がしめつけられる」「顎が疲れる」「口が乾く」など13項目。歯科医師は「患者が感じたと思われる不快」、患者は「自分が感じた不快」を、「あり」で選んだ
- 患者の意識と希望:安心感・眠くなる・不安、次もラバーダムを付けてほしいか
- 我慢できる時間:患者が、これまでの経験から今後の治療で我慢できると思う時間を自由に書いた
- 解析:回答の傾向の比較にχ²検定、選択率の比較に Fisher の PLSD、我慢できる時間の比較に t 検定(有意水準5%)
④結果:患者が選んだ不快は、歯科医師が考えたより少なかった
13項目を選んだ割合の平均は、研修医75.2%、医局員58.5%、研修医の患者28.5%、医局員の患者22.1%でした(表1から筆者が計算)。著者らの解析では、研修医・医局員・研修医の患者の順に有意に低く(p<0.05)、患者どうしの差は有意ではありませんでした(p=0.26)。
回答の傾向をχ²検定で見ると、研修医と医局員の間(p=0.38)、2つの患者群の間(p=0.91)では有意差は検出されず、歯科医師の考えた不快と患者の感じた不快の間には有意差がありました(p<0.05)。
患者が多く選んだのは「口を開けたままなので顎が疲れる」49%、「口が乾く」46%、「歯がしめつけられる」44%でした。このうち「口が乾く」は、歯科医師の側では13項目中、研修医で10位、医局員で12位と低い順位でした。
逆に歯科医師は「化粧が気になる」56%、「つばが顔について気になる」53%と考えていましたが、患者はそれぞれ4%と5%でした。
患者の意識では、73%が「安心感がある」、36%が「眠くなる気がする」、10%が「何をされているか不安」と答えました。希望は「ラバーダムを装着して診療してほしい」92%、「できれば装着してほしい」6%、「しないでほしい」2%です(原典の表2・表3)。なお表2の「安心感がある」は、研修医の患者76%・医局員の患者74%に対し、合計が73%と書かれており、2群の値から合計を計算すると約75%になります。記事は原典本文の73%を使いました。
患者が「今後の治療で我慢できると思う時間」として自由に書いた値(自己申告で、実際に測った時間ではありません)の平均(標準偏差)は、研修医の患者46(23)分、医局員の患者37(19)分で、差は有意でした(t 検定、p<0.05)。
⑤結果の読み方
著者らは、研修医が患者の不快を多く見積もったのは、臨床経験が少なくラバーダムの装着に自信を持てないため、患者の不快に敏感になっているのではないか、と考えています。13項目のうち70%以上の回答者が選んだ項目は、研修医で10項目、医局員では2項目でした。
患者の2群の間で不快の選び方に差が検出されなかったことについては、研修医でも歯科医師として信頼していたためではないか、と推察しています。
「口が乾く」のずれについては、歯科医師は唾液がたまることを気にして(「うがいができない」72%)排唾管を積極的に使うが、患者はむしろそれを不快に感じている可能性がある、と著者らは述べています。どちらも著者らの推察で、この研究では確かめていません。
我慢できる時間が研修医の患者で長かったことは、実際の1人あたりの診療時間を反映しているのだろう、と著者らは考えています。
⑥明日の臨床へ
著者らの結論は、患者は歯科医師が考えるほどにはラバーダムを不快に感じておらず、装着によって治療に安心感を抱き、次の診療でも装着を望んでいる、というものです。そのうえで、患者への十分な説明と、装着時間の短縮、装着技術の習熟を求めています。
ここから筆者の読みです。「患者が嫌がるから」を理由にラバーダムを外す前に、この調査で患者が多く挙げた不快から手を打つ、という順番が考えられます。
- 顎の疲れ(49%):長い開口にならないよう、1回の装着時間を見積もって伝える
- 口の乾き(46%):排唾管の当て方や吸引の強さが乾きにつながっていないかを見直す
- 歯のしめつけ(44%):装着の前に、しめつけ感があることを一言伝えておく
ただしこの研究は、こうした工夫で不快が減るかどうかは調べていません。
⑦ここだけ補助線
大学病院1施設の質問票の調査で、回答した人数(87人・201人)は分かりますが、回答率、患者の選び方、誰が質問票を渡したかは書かれていません。患者が答えたのは治療の直後の感じ方です。歯科医師はラバーダムを必ず使う人だけで、ラバーダムを使わない歯科医師や、その患者の考えは分かりません。歯科医師は「患者が感じたと思われる不快」を答えており、歯科医師と患者の回答を1人ずつ対応づけた解析は報告されていません。表1の13項目は先行の研究に基づいて作られたもので、自由な不満は拾えていない可能性があります。それでも、「患者が嫌がる」という思い込みを数字で見直すきっかけになる1本です。
今日のひとこと
1施設の質問票の調査で、ラバーダムを付けた根管治療の直後の患者が選んだ不快事項は、歯科医師が「患者は不快だろう」と考えた割合より少なく(13項目の平均 研修医75.2%・医局員58.5%に対し、研修医の患者28.5%・医局員の患者22.1%・筆者の計算)、患者の92%は次もラバーダムを付けて治療してほしいと答えました。患者がいちばん多く挙げたのは顎の疲れ(49%)、次いで口の乾き(46%)でした。「嫌がるから付けない」の前に、何が不快かを説明し、装着時間を短くする工夫から考えたくなる1本です。


