1問1答 論文 エンド

根管洗浄、液の当て方で組織の溶ける速さは変わる?——牛の筋肉片を小さな試験管に入れた実験室研究で、新しい洗浄システム「マルチソニック」(Sonendo社)は、次亜塩素酸ナトリウム0.5%・3%・6%のどれでも、試した従来の洗浄法(27G針・超音波・EndoVac)より有意に速く組織を溶かした(製造元が資金を出し、社員が著者に入った研究・Haapasalo 2014)

1問1答 論文 エンド

エンド|牛の筋肉片(約68mg)を0.7mLの試験管に入れ、新しい洗浄システム(Multisonic Ultracleaning System)・27G針・超音波(Piezon Master 700)・EndoVacで、滅菌水と次亜塩素酸ナトリウム0.5%・3%・6%を室温(21℃)と40℃で5分当て、組織の溶ける速さ(%/秒)を比べた実験室研究(Haapasalo・Wang・Shen・Curtis・Patel・Khakpour 2014・Journal of Endodontics)

根管の中の歯髄の残りを溶かすのは次亜塩素酸ナトリウム(次亜)の仕事です。では、液の当て方を変えると、溶ける速さはどこまで変わるのか。Haapasalo らは2014年、牛の筋肉片を小さな試験管に入れ、5つの洗浄法で5分洗って比べました(各群6個)。新しい洗浄システム「マルチソニック」(Sonendo社のMultisonic Ultracleaning System)は、次亜0.5%で1.0%/秒、3%で2.3%/秒、6%で2.9%/秒と、試したほかのどの洗浄法より有意に速く組織を溶かし、次亜を使った試料は全て5分以内に溶け切りました(著者らの記載)。次亜を使って試したほかの洗浄法は0.04〜0.328%/秒で、5分で溶かし切った試料はありませんでした。ただし、マルチソニックの液は常に約40℃で出ており、根管ではなく試験管の中の結果です。製造元が資金を出し、著者6人のうち3人は製造元の社員、1人はこの製品に商業的な利害を持つと明記されています。

論文
Tissue Dissolution by a Novel Multisonic Ultracleaning System and Sodium Hypochlorite
著者
Markus Haapasalo、Zhejun Wang、Ya Shen(カナダ ブリティッシュコロンビア大学歯学部 歯内療法学)、Allison Curtis、Payal Patel、Mehrzad Khakpour(米国 Sonendo社)
掲載
Journal of Endodontics 2014;40(8):1178-1181
種類
実験室研究(in vitro)。冷凍した牛の筋肉を4×4×2mm(平均68±2mg)に切り、細い鋼線に通して0.7mLのガラスの試験管の中央に置いた。洗浄の先端を液に浸して組織から10mm離し、5分洗った。比べたのは、マルチソニック(先端から約45mL/分の噴霧・脱気した液・約40℃)、27G針(毎分10mL)、超音波Piezon Master 700(かき混ぜだけ/毎分10mLの補給つき、15秒ごとに入切)、EndoVac(28Gの細管)。液は滅菌水(対照)と次亜塩素酸ナトリウム0.5%・3%・6%、温度は室温(21℃)と40℃(全ての組み合わせを試したわけではない)。各群6個。5分以内に溶け切れば溶けた時間を、溶け残れば5分後の重さを測り、溶ける速さ=減った重さの割合÷時間(%/秒)を出した。一変量の分散分析とGames-Howell検定
資金・利益相反
Sonendo社(マルチソニックの製造元)とブリティッシュコロンビア大学歯学部の資金。著者の1人(Haapasalo)はこの製品に商業的な利害を持ち、3人はSonendo社の社員と明記
PMID
25069928

①根管洗浄、液の当て方で組織の溶ける速さは変わる?

根管の中に残った歯髄の組織。臨床で使える洗浄液の中で、有機質の組織を溶かせるのは次亜塩素酸ナトリウム(以下、次亜)だけ、と著者らは書いています。濃度を上げる、温める、超音波でかき混ぜる。どれも「溶かす力」を上げる工夫として知られています。

では、液の当て方そのものを変える新しい洗浄システムは、従来の方法と比べてどれくらい速く組織を溶かすのか。それを試験管の中で比べたのが、Haapasalo らが2014年に Journal of Endodontics に出した研究です。

結論を先に書きます。
・牛の筋肉片(約68mg)を0.7mLの小さな試験管に入れ、5つの洗浄法で5分洗った実験室研究(各群6個)。歯や根管を使った実験ではない
・新しい洗浄システム「マルチソニック」(Sonendo社のMultisonic Ultracleaning System)は、組織の溶ける速さ(減った重さの割合÷時間)が次亜0.5%で1.0%/秒、3%で2.3%/秒、6%で2.9%/秒。試したほかのどの洗浄法より有意に速かった
・次亜を使って試したほかの洗浄法は0.04〜0.328%/秒で、5分で溶かし切った試料は無かった。マルチソニックは、次亜を使った試料が全て5分以内に溶け切った(著者らの記載)
・マルチソニックの液は常に約40℃・約45mL/分で出ていた(27G針と超音波の液の補給は毎分10mL)。試したほかの洗浄法は室温(21℃)と40℃で行った(EndoVacは40℃だけ、0.5%次亜の超音波は室温だけ)
・製造元のSonendo社が資金を出し、著者6人のうち3人は同社の社員、1人はこの製品に商業的な利害を持つと明記されている

②なぜこの研究が必要だったか

次亜が組織を溶かす力は、濃度と温度で変わり、かき混ぜると上がることが知られていました。ところが、著者らが引用した以前の研究(Stojicic ら)では、ピペットでの出し入れ、音波の器具(EndoActivator)、超音波のどれでかき混ぜても、溶ける量の上乗せは同じだったといいます。

著者らは、その理由として、超音波で液の中に泡がはじける力(キャビテーション)が出ても、それが届くのは器具の先から数マイクロメートルの範囲だけだから、という説明を挙げています。そこへ登場したのが、液の中に幅広い波を起こして根管の中を洗うよう設計された、新しい洗浄システムです。その組織を溶かす力を、従来の洗浄法と、次亜0.5%〜6%、室温と40℃で比べたのが今回の研究です。

③何をどう比べたか

・試料:冷凍した牛の筋肉を4×4×2mmに切った片(平均68±2mg)。細い鋼線に通して、0.7mLのガラスの試験管(内径6mm)の中央に置いた。著者らは、本来はヒトの壊死した歯髄で試すのが望ましいが、量と大きさの面で現実的でないとしている
・洗浄法:マルチソニック、27G針(陽圧・毎分10mL)、超音波 Piezon Master 700(かき混ぜだけ/毎分10mLの補給つき)、EndoVac(陰圧・28Gの細管)。どれも先端を試験管の液に浸し、組織から10mm離して5分
・マルチソニックのしくみ:本体とハンドピースからなり、臨床では先端を髄床底の1mm上に置き、根管口には入れない。液は先端の金属板に当たって噴霧になり、約45mL/分・約40℃で出る。液は本体で脱気される
・液と温度:滅菌水(対照)と次亜0.5%・3%・6%。室温(21℃)と40℃。ただしマルチソニックの液は、どちらの条件でも約40℃で出ていた
・測り方:5分以内に目で見て溶け切れば、溶けた時間(秒)を記録。溶け残れば5分後に水気を拭いて重さを測った。組織の溶ける速さ(%/秒)=減った重さの割合÷時間
・規模と統計:各群6個。一変量の分散分析と、事後の多重比較(Games-Howell検定、p<0.05)

表:比べた5つの洗浄法と、実際に試した液・温度 洗浄法 液の出し方(この実験) 試した液(次亜の濃度)と温度 マルチソニック 約45mL/分の噴霧、脱気、約40℃ 滅菌水・0.5%・3%・6% 27G針(陽圧) 毎分10mLで流す 3%・6%(室温・40℃) 超音波(かき混ぜ) 15秒ごとに入切、補給なし 滅菌水・3%・6%、0.5%は室温だけ 超音波+液の補給 15秒ごとに入切、毎分10mL 滅菌水・3%・6%(室温・40℃) EndoVac(陰圧) 28Gの細管で陰圧の洗浄 6%(40℃だけ) マルチソニック=Sonendo社のMultisonic Ultracleaning System(液は常に約40℃で出る)。超音波=Piezon Master 700。次亜=次亜塩素酸ナトリウム。室温=21℃。全ての洗浄法で、先端を試験管の液に浸し、組織から10mm離して5分 試した濃度と温度は、原著の図1・図2で「ND(行っていない)」の付いていない組み合わせを筆者が読んだ 牛の筋肉片(約68mg)を0.7mLの試験管に入れた実験室研究。各群6個
表:比べた5つの洗浄法と、実際に試した液・温度。試した組み合わせは、原著の図1・図2で「ND(行っていない)」の付いていない組み合わせを筆者が読んだもの。

表のとおり、全ての組み合わせを試したわけではありません。とくに次亜0.5%で従来の洗浄法と比べたのは、室温の超音波(かき混ぜだけ)の1つだけで、EndoVacは40℃の6%次亜だけでした。

④結果1:マルチソニックは、どの濃度でも試した中で最も速く組織を溶かした

原著の本文に数値が書かれている値を、棒グラフにしました(従来の洗浄法の個々の値は原著の図にしか無いため、本文に書かれた最速の値だけを載せています)。

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 組織の溶ける速さ(%/秒・平均) 0.16 1.0 2.3 2.9 0.328 マルチソニック滅菌水 マルチソニック0.5%次亜 マルチソニック3%次亜 マルチソニック6%次亜 試した従来法の最速6%次亜・40℃ 平均。原著の本文に数値が書かれた値だけ。牛の筋肉片の試験管の実験室研究(各群6個)。マルチソニックは約40℃・約45mL/分、27G針と超音波の補給は毎分10mL
図:組織の溶ける速さ(減った重さの割合÷時間、%/秒、平均)。マルチソニックの4つの値と、試した従来の洗浄法で最も速かった値(超音波 Piezon Master 700、6%次亜、40℃)。原著の本文に数値が書かれた値だけを載せた。標準偏差は本文の表記どおり 0.16±0.02、1.0±0.1、2.3±0.9、2.9±0.7、0.328±0.002。従来法のほかの組み合わせは、本文に0.04〜0.328%/秒と範囲だけが書かれ、個別の値は原著の図にしか無い。マルチソニックの液は常に約40℃・約45mL/分で出ており、27G針と超音波の液の補給は毎分10mL。牛の筋肉片(約68mg)を0.7mLの試験管で5分洗った実験室研究、各群6個。

マルチソニックは、次亜0.5%で1.0±0.1%/秒、3%で2.3±0.9%/秒、6%で2.9±0.7%/秒。どれも、試したほかの洗浄法より有意に速い値でした(p<0.05)。次亜を使って試したほかの洗浄法は、温度と濃度によって0.04±0.01〜0.328±0.002%/秒で、その中でいちばん速かったのは超音波 Piezon Master 700の6%次亜・40℃でした。試したほかの洗浄法では、5分で溶かし切った試料はありませんでした。

原著の図の有意差の記号を見ると、マルチソニックの3%と6%は同じ記号(c)で、この2つの間には有意差を認めていません(筆者が図1・図2の記号から読んだ)。

滅菌水でも差が出ました。マルチソニックは水だけで0.16±0.02%/秒の速さで組織を減らしましたが、試したほかの洗浄法では、水で5分洗っても、組織が有意に減るほどの速さにはなりませんでした(著者らの記載)。

⑤結果2:次亜の濃度と温度が高いほど組織の溶ける速さが上がった(著者ら)

著者らは、試した全ての洗浄法で、次亜の濃度と温度が高いほど組織の溶ける速さが上がったと書いています(温度による上昇は p<0.05)。濃度と温度が溶ける力を左右するという、これまでの知見と同じ向きの結果です(マルチソニックは液が常に約40℃なので、温度の違いは試されていない。筆者注)。

ここで気をつけたいのは、マルチソニックの液は、室温の条件でも約40℃で出ていた点です。原著の「室温での比較」の図は、約40℃のマルチソニックと21℃の従来法を並べたものです。温度をそろえた比較は、40℃の図(試した従来法の最速が0.328%/秒)のほうになります。

⑥マルチソニックで組織がなぜ速く溶けるのか:流量と温度だけでは説明できない、と著者ら

マルチソニックは約45mL/分という多い流量で、約40℃の液を出します。そこで著者らは、19Gの太い針で40℃・45mL/分の条件を作って試しましたが、どの濃度でも、試したほかの従来の洗浄法と比べて、5分で組織が有意に多く減ることはありませんでした(データは掲載なし)。また、脱気した次亜を従来の洗浄法に使っても、組織の溶ける速さは上がりませんでした(データは掲載なし)。

このことから著者らは、流量と温度だけではマルチソニックで組織が速く溶けることは説明できず、マルチソニックが液の中に起こす何らかの物理的な力が関わっている可能性がある、としています。液の中の空気は、泡がはじける力をやわらげるとの報告があり、脱気した液が泡の力を生かしているのかもしれない、とも述べています。ただし、泡の力(キャビテーション)が本当に理由かどうかは今後の研究で確かめるとされ、この研究では確かめていません。

なお著者らは、19G・45mL/分の針での洗浄は、臨床では根尖の圧力が上がり、液が根尖の外へ押し出される危険がありうるので、比べるための実験条件だと断っています。マルチソニックについては、色のついた液と透明な歯を使った別の対照実験で、液は全ての根管の根尖孔の高さまで回るが根尖孔の外へは出なかった、と書いていますが、このデータも掲載されていません。

⑦明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。

・次亜が組織を溶かす速さは、液の当て方で大きく変わりうる:同じ試験管の型で、洗浄法によって組織の溶ける速さ(減った重さの割合÷時間)に大きな開きが出た(牛の筋肉片の実験室研究)
・濃度と温度も効いた:著者らは、試した洗浄法で濃度と温度が高いほど組織が速く溶けたとしている(マルチソニックは液温を変えていない)
・新しいシステムで組織が速く溶けたのは、まだ試験管の中の結果:根管の中の歯髄の残りがどれだけ取れるか、治りが良くなるかは、この研究では調べていない
・製品の評価は、利益相反も合わせて読む:製造元が資金を出し、社員が著者に入った研究で、根尖から液が出ないとする実験も掲載されていない

今の臨床にすぐ当てはめられるのは、「次亜の力は、濃度・温度・液の動かし方で変わる」という土台の部分です。新しい洗浄システムを選ぶかどうかは、根管の中での清掃効果や安全性を調べた別の研究と合わせて考えることになります。

ここだけ、冷静に補助線(1)実験室研究です。牛の筋肉片を0.7mLの試験管に入れたもので、歯や根管、ヒトの歯髄は使っていません。試験管の大きさ、先端から組織までの10mm、組織の種類が結果に影響しうることは、著者ら自身が限界に挙げています。
(2)条件がそろっていない所があります。マルチソニックの液は常に約40℃で、流量も約45mL/分(27G針と超音波の液の補給は毎分10mL)でした。また全ての組み合わせを試したわけではありません。
(3)規模が小さいです。各群6個です。
(4)マルチソニックで組織が速く溶けた理由、根尖から液が出ないことは、著者らの推測や掲載されていないデータにもとづく記載です。
(5)利益相反:製造元のSonendo社が資金を出し、著者6人のうち3人は同社の社員、1人はこの製品に商業的な利害を持つと明記されています。独立した研究グループでの確認が待たれます。

今日のひとこと

この実験室研究では、新しい洗浄システム「マルチソニック」は、次亜0.5%・3%・6%のどれでも、試した従来の洗浄法より有意に速く牛の筋肉片を溶かし、次亜を使った試料は全て5分以内に溶け切りました。ただし試験管の中の結果で、マルチソニックの液だけは常に約40℃、製造元が資金を出し社員が著者に入った研究です。組織が速く溶けた理由(流量や温度だけでは説明できないとし、液の中の物理的な力を挙げた)は著者らの推測にとどまります。「液の当て方で、次亜が組織を溶かす速さは大きく変わりうる」と読み、根管の中での効果や安全性は、別の研究と合わせて考える、というのがこの論文に合った読み方です。

Haapasalo M, Wang Z, Shen Y, Curtis A, Patel P, Khakpour M. Tissue dissolution by a novel multisonic ultracleaning system and sodium hypochlorite. J Endod. 2014;40(8):1178-1181. doi: 10.1016/j.joen.2013.12.029. PMID: 25069928
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。