1問1答 論文 エンド

次亜塩素酸にキレート剤の粉末を溶かして、1本の洗浄液にできる?——10mLの注射筒の中の化学実験で、1%・5%の次亜塩素酸にHEDPの4ナトリウム塩(9%・18%)を溶かした4条件では60分後も有効塩素の残存率(理論上の最大値に対する%)が72〜87%、EDTAの4ナトリウム塩は5%の液に18%溶かすと1分後に残存率5%まで減った(各条件3本・洗浄の効果は調べていない・Biel 2017)

1問1答 論文 エンド

エンド|キレート剤の粉末(HEDPとEDTAの4ナトリウム塩)を、1%と5%の次亜塩素酸ナトリウムに10mLの注射筒の中で溶かし、有効塩素の残り・pH・温度と、カルシウムを捕まえる力を60分まで測った化学実験(各条件3本・Biel・Mohn・Attin・Zehnder 2017・Journal of Endodontics)

次亜塩素酸ナトリウムと EDTA などのキレート剤は、交互に使うのが定番です。Biel らは2017年、キレート剤の粉末を次亜塩素酸の液にそのまま溶かして1本の液にできるかを、注射筒の中の化学実験で確かめました。1%・5%の次亜塩素酸に HEDP の4ナトリウム塩を9%・18%溶かした4条件では、60分後も有効塩素の残存率(理論上の最大値に対する割合)が72〜87%でした。EDTA の4ナトリウム塩は、5%の液に18%溶かすと1分後に残存率5%まで減り、1%の液に3%溶かした組み合わせも30分後の87%から60分後には17%に下がりました。ただし歯も菌も使わない化学の実験(各条件3本・統計の検定なし)で、スメア層が取れるか・菌が減るかは調べていません。

論文
Interactions between the Tetrasodium Salts of EDTA and 1-Hydroxyethane 1,1-Diphosphonic Acid with Sodium Hypochlorite Irrigants
著者
Philippe Biel、Dirk Mohn、Thomas Attin、Matthias Zehnder(スイス チューリッヒ大学 歯学センター 予防歯科・歯周病・カリオロジー科、Mohn 氏はスイス連邦工科大学チューリッヒ校 化学・生物工学研究所を兼務)
掲載
Journal of Endodontics 2017;43(4):657-661(図書館の写しはチューリッヒ大学の公開リポジトリの受理原稿で、頁は原稿の頁)
種類
実験室の化学実験(in vitro)。HEDP と EDTA の4ナトリウム塩の粉末(粒子300〜500μm)を、1%と5%の次亜塩素酸ナトリウムに10mLのポリプロピレンの注射筒の中で溶かし(HEDP 9%・18%、EDTA 3%・18%、室温)、有効塩素を1・10・20・30・60分に滴定で測り、pHと温度も記録した。5%の液の中でカルシウムを捕まえる力も、直後・30分・60分にカルシウムの電極で測った。各条件・各時点3本。統計の検定はなく、平均と標準偏差を示した
資金・利益相反
特定の研究資金は受けていない。著者の Mohn 氏と Zehnder 氏は、HEDP の粉末を根管洗浄液に使う考え方の特許を出願した smartodont llc の株主(論文の謝辞の欄に記載)
PMID
28342478

①次亜塩素酸とキレート剤、1本の液にまとめられる?

根管洗浄で、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)で有機質を溶かし、EDTA などのキレート剤でスメア層の無機質を取る。2つの液を交互に使うのは定番ですが、手間がかかります。では、キレート剤の粉末を次亜塩素酸の液にそのまま溶かして、1本の液にできないか。

この「混ぜた液の中で何が起きるか」を化学の面から確かめたのが、Biel・Zehnder らが2017年に Journal of Endodontics に出した研究です。

結論を先に書きます。
・10mLの注射筒の中で、キレート剤の粉末(HEDPとEDTAの4ナトリウム塩)を次亜塩素酸の液に溶かし、60分まで有効塩素などを測った化学実験。各条件3本で、歯も菌も使っておらず、洗浄の効果は調べていない
・HEDP(9%・18%):1%・5%の次亜塩素酸のどちらでも、60分後も、有効塩素の残存率(理論上の最大値に対する割合)は72〜87%だった
・EDTA:5%の次亜塩素酸に18%溶かすと、1分後には有効塩素の残存率が5%だった。1%の液に3%溶かした組み合わせは30分までは87%残ったが、60分後には17%だった
・カルシウムを捕まえる力:60分の時点で、水に溶かした液と比べて HEDP は24%、EDTA は34%下がった(著者らの計算)

②なぜこの研究が必要だったか

次亜塩素酸ナトリウムは、最も広く使われている根管洗浄液です。有機質やバイオフィルムの基質を溶かす力がある一方で、スメア層の無機質には効かず、器具で削った削りかすがたまるのも防げない、と著者らは引用文献をもとに書いています。そこで、EDTA やクエン酸などの脱灰する液と交互に使う方法が提案されてきましたが、使い勝手がよいとは言えません。

多くのキレート剤、特に酸性のものは次亜塩素酸と反応するため、混ぜて使えません。次亜塩素酸と混ぜられる候補として、これまでの研究で挙がっていたのが、HEDP(エチドロン酸)の4ナトリウム塩と、EDTA の4ナトリウム塩です。どちらも次亜塩素酸の有効塩素をある程度減らすことは分かっていましたが、2つを同じ条件で比べた研究はありませんでした。

③何をどう比べたか

・粉末:HEDP の4ナトリウム塩と EDTA の4ナトリウム塩。ふるいにかけて、粒子の大きさ300〜500μmのものを使った
・液:1%と5%の次亜塩素酸ナトリウム。臨床に近づけるため、10mLのポリプロピレンの注射筒の中で粉末を溶かした(室温)
・濃さ:HEDP は9%と18%、EDTA は3%と18%。%はすべて、溶かした後の液の重さに対する割合
・測ったもの:①水にどこまで溶けるか ②有効塩素の残り(1・10・20・30・60分に滴定で測り、pHと温度も記録) ③5%の次亜塩素酸の中で、カルシウムを捕まえる力がどれだけ保たれるか(直後・30分・60分に、カルシウムの電極で測定)
・数:各条件・各時点で注射筒を3本ずつ用意した(有効塩素の実験で150本、カルシウムの実験で36本)
・比べ方:ばらつきの小さい化学の実験だとして、統計の検定はせず、平均と標準偏差を示している

なお、カルシウムの実験で加えた混合液の量について、方法と表で記載の仕方が異なります。方法では「0.1mLずつ加えた」、表3の題では「0.2mLを加えた時の値」と書かれ、両者の対応は明記されていません。この記事では量の数字は使っていません。

④結果1:HEDP は60分後も、有効塩素の多くが残った

どちらの粉末も、次亜塩素酸の液に1分以内に溶けました。水に溶ける上限は、HEDP が44.6%(標準偏差1.6)、EDTA が38.2%(同0.8)でした。

60分後の有効塩素の残りを並べました。

0 25% 50% 75% 100% 60分後の有効塩素の残り(%) 87% 86% 72% 84% 17% 3% 6% 1% 99% 100% HEDP 9% HEDP 18% EDTA 3% EDTA 18% 対照(粉末なし) 1%次亜塩素酸 5%次亜塩素酸 濃い棒=1%液、淡い棒=5%液。理論上の最大値に対する%(3本の平均)。10mLの注射筒の中で粉末を溶かした化学実験(原著の表1・表2)
図:60分後の有効塩素の残り(理論上の最大値に対する%・3本の平均)。濃い棒が1%の次亜塩素酸、淡い棒が5%の次亜塩素酸。原著の表1・表2から。注射筒の中の化学実験。

HEDP を溶かした液では、1%・5%の次亜塩素酸と9%・18%の濃さの4条件とも、60分後も有効塩素の72〜87%が残りました。5%の液に18%溶かした組み合わせでは84%で、抄録では「1時間で失われたのは16%だけ」と書かれています。HEDP の濃い方(18%)が薄い方(9%)より少し多く有効塩素を減らし、次亜塩素酸の濃さの影響は小さかった、と著者らはまとめています。ただし表の値では、HEDP 18%の60分後は1%の液で72%、5%の液で84%と、12ポイントの開きがあります(標準偏差は3と8)。

⑤結果2:EDTA は、混ぜると早く有効塩素が減った

EDTA では、濃さによって結果が大きく違いました。5%の次亜塩素酸に18%溶かすと反応はすぐに起き、1分後の有効塩素の残存率は5%でした。液の温度は平均38℃(標準偏差10)まで上がり、pHも下がりました。5%の液に3%溶かした組み合わせは、1分後には96%残っていたものの、10分後には5%になり、液の温度は平均49℃(同3)まで上がりました。

1%の次亜塩素酸では、18%の EDTA で10分後に10%。3%の EDTA では30分後まで87%が残りましたが、60分後には17%でした。時間を追った数字をすべて表にしました。

表:有効塩素の残り(理論上の最大値に対する%)の時間経過 次亜塩素酸 溶かした粉末 1分 10分 20分 30分 60分 1% HEDP 18% 95 92 88 83 72 1% HEDP 9% 99 97 95 93 87 1% EDTA 18% 73 10 8 7 6 1% EDTA 3% 95 93 90 87 17 1% 対照(粉末なし) 100 99 100 100 99 5% HEDP 18% 100 99 95 95 84 5% HEDP 9% 98 98 96 94 86 5% EDTA 18% 5 1 1 1 1 5% EDTA 3% 96 5 3 3 3 5% 対照(粉末なし) 100 100 100 100 100 原著の表1(1%液)と表2(5%液)の全行。3本の平均(標準偏差は省略) 粉末の%は、溶かした後の液の重さに対する割合 液の温度は、5%液+EDTA 18%の1分後に平均38℃(標準偏差10)、 5%液+EDTA 3%の10分後に平均49℃(同3)まで上がり、pHも下がった(原著の表2)
表:有効塩素の残りの時間経過。原著の表1・表2の全行(3本の平均)。

著者らは、次亜塩素酸と EDTA の量が多いほど反応が強く、反応の速さで説明できると書いています。EDTA の4ナトリウム塩にも次亜塩素酸と混ぜられる面はあるものの、それは濃さが低く、時間が短い場合に限られる、という読み方です。

⑥結果3:カルシウムを捕まえる力は、60分の時点で水に溶かした液より2〜3割低かった

キレート剤としての働きが、次亜塩素酸の中でどれだけ保たれるかも測っています。18%の粉末を水または5%の次亜塩素酸に溶かし、各時点まで注射筒に置いた液を、100ppmのカルシウム液に加え、捕まえたカルシウムの割合を見ました。

表:100ppmのカルシウム液から捕まえたカルシウムの割合(%) 粉末 溶かした液 直後 30分 60分 HEDP 18% 水に溶かした液 82 83 82 HEDP 18% 5%次亜塩素酸に溶かした液 75 68 62 EDTA 18% 水に溶かした液 39 40 44 EDTA 18% 5%次亜塩素酸に溶かした液 34 30 29 原著の表3の全行。3本の平均(標準偏差は省略) 各時点まで注射筒に置いた混合液を、カルシウム液に加えて測った 著者らの本文の値:水の液と比べた低下は HEDP 直後9%・60分24%、 EDTA 直後13%・60分34%(同じ時点どうしの比と筆者が数値で確認)
表:カルシウム液から捕まえたカルシウムの割合(%)。原著の表3の全行(3本の平均)。

HEDP は、水に溶かした液と比べて直後で9%、60分後で24%低くなりました。EDTA は直後で13%、60分後で34%低くなりました(いずれも著者らが本文に書いた値で、同じ時点の水の液との比べ方です)。著者らは、次亜塩素酸はカルシウムを捕まえる力にはあまり影響しなかったとまとめつつ、EDTA の混合液では有効塩素がほとんど残っていないことも指摘しています。

なお、同じ18%(重さの割合)でも、HEDP の液は EDTA の液より多くのカルシウムを捕まえました(水の液で HEDP 82〜83%、EDTA 39〜44%)。序論で著者らは、HEDP の方が重さあたりのカルシウムを捕まえる量が多く、EDTA の方がカルシウムと強く結びつくので脱灰する作用が強く、象牙質を侵食しうる、と引用文献をもとに説明しています。

⑦著者らの結論と、結果の読み方

著者らは、HEDP の粉末は次亜塩素酸によく溶け、混ぜて1時間まで使えるとし、EDTA の粉末は混ぜて使える時間がかなり短く、どちらかの濃さが高いほど短くなる、と結論しています。同時に、これは実験室の化学の結果で、実際の臨床の条件にもとづくものではない、と注意書きを添えています。

読み方として大事なのは、測ったのは液の化学的な性質(有効塩素・pH・温度・カルシウムを捕まえる力)だけだという点です。スメア層が取れるか、組織が溶けるか、菌が減るかは、この研究では調べていません。HEDP の液を新しく混ぜた次亜塩素酸で、菌を減らす力や壊死組織を溶かす力が妨げられなかったという報告は、著者らが引用した別の研究の結果です。

⑧明日の臨床へ

この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。

・次亜塩素酸と EDTA を1本の注射筒に混ぜ置きするのは避けたい:この実験では、5%の液に3%の EDTA を溶かすと10分後に有効塩素の残存率(理論上の最大値に対する%)が5%まで減り、液の温度も上がった
・HEDP を溶かした液も、時間とともに有効塩素は減る:1%・5%の次亜塩素酸に HEDP 9%・18%を溶かした4条件で、60分後の残存率は72〜87%。作ったら早めに使い、何時間も置かない
・洗浄の効果はこの研究の外:スメア層の除去や菌の減り方は、別の研究と合わせて判断したい

著者ら自身も、劣化しない2つの液を何度も新しく使う方法と、1本にまとめて1時間かけて少しずつ劣化していく液を使う方法の、どちらが有効な濃さを保てるかは分からない、と書いています。

ここだけ、冷静に補助線(1)注射筒の中の化学実験です。歯も菌も使っておらず、臨床での測定はありません。
(2)各条件3本で、統計の検定はなく、平均と標準偏差だけが示されています。
(3)スメア層の除去・組織を溶かす力・菌を減らす力は測っていません。温めた場合や超音波でかき混ぜた場合の影響も、今後の課題として挙げられています。
(4)著者のうち2人(Mohn 氏・Zehnder 氏)は、HEDP の粉末を根管洗浄液に使う考え方について特許を出願した会社(smartodont llc)の株主であると、論文に書かれています。研究そのものは特定の資金を受けていません。
混ぜた液の中で起きることを数字で見せてくれた点で、実用的な報告です。洗浄の効果を比べた研究と並べて読むと、1本にまとめる液の位置づけが見えてきます。

今日のひとこと

この注射筒の中の化学実験では、1%・5%の次亜塩素酸に HEDP の4ナトリウム塩(9%・18%)を溶かした4条件は60分後も有効塩素の残存率(理論上の最大値に対する%)が72〜87%で、EDTA の4ナトリウム塩は組み合わせによっては10分以内に残存率が10%以下になりました。ただし歯も菌も使っておらず、スメア層が取れるか・菌が減るかは調べていません。「1本にまとめるなら HEDP の方が化学的に安定しやすい。ただし混ぜた液も時間とともに弱まる」と読み、洗浄の効果は別の研究で確かめる、というのがこの論文に合った読み方です。

Biel P, Mohn D, Attin T, Zehnder M. Interactions between the Tetrasodium Salts of EDTA and 1-Hydroxyethane 1,1-Diphosphonic Acid with Sodium Hypochlorite Irrigants. J Endod. 2017;43(4):657-661. doi: 10.1016/j.joen.2016.12.006. PMID: 28342478
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。