エンド|抜去した下顎前歯80本(楕円形の単根管)を縦に割り、根尖から2〜5mmの根管壁に人工の溝を作って水酸化カルシウムを詰め、1週間おいてから、SAF・XP-endo Finisher・超音波(PUI)・シリンジ洗浄(SNI)の4つの方法(各18本)で取り除き、溝の残り方を4段階で採点した実験室研究(Kfir・Wigler ら 2018・Australian Endodontic Journal)
根管貼薬の水酸化カルシウムは、根管充填の前に取り除きたい材料です。Kfir らは2018年、抜去歯の根尖側に作った人工の溝に水酸化カルシウムを詰め、4つの方法でどれだけ取り除けるかを比べました。SAF・XP-endo Finisher・超音波(PUI)の3つは、シリンジ洗浄より有意に多く取り除きました(P<0.001)。3つの間には有意差を検出しませんでした(P=0.209)。溝がすっかり覆われたまま残った割合は、シリンジ洗浄89%、SAF 22%、XP 17%、超音波17%で、溝を空にできた歯はどの方法にも1本もありませんでした。ただし抜去歯の人工の溝を使った実験室研究で、器具を動かした時間は方法ごとに違い(SAFは4分、超音波とXPは計1分)、残った水酸化カルシウムが治療の成績にどう響くかは調べていません。
①貼薬した水酸化カルシウム、洗浄でどこまで取れている?
根管貼薬に水酸化カルシウムを入れた次の回。充填の前に洗浄して「取れたつもり」で進めていませんか。根管のくぼみや、器具の届かない場所に、薬がそのまま残っていることはないでしょうか。
この「取り残し」を、抜去歯の根尖側に作った溝で比べたのが、Kfir・Wigler らが2018年に Australian Endodontic Journal に出した研究です。
・抜去した下顎前歯の根尖から2〜5mmの根管壁に人工の溝を作り、水酸化カルシウムを詰めて1週間おき、4つの方法(各18本)で取り除いた実験室研究。溝の残り方を写真で4段階に採点した
・SAF・XP-endo Finisher・超音波(PUI)の3つは、シリンジ洗浄(SNI)より有意に多く取り除いた(P<0.001)。3つの間には有意差を検出しなかった(P=0.209)
・溝がすっかり覆われたまま残った割合は、シリンジ洗浄89%、SAF 22%、XP 17%、超音波17%
・溝を空にできた歯は、どの方法でも1本もなかった
②なぜこの研究が必要だったか
水酸化カルシウムは100年近く使われてきた根管貼薬で、その長所と短所はよく知られています。大きな心配の一つが、根管から完全には取り除けないことです。著者らは引用文献をもとに、残った水酸化カルシウムが、シーラーが根管壁に密着することや象牙細管に入ることを妨げ、漏れを増やすおそれがある、と書いています。そのため充填の前に取り除くことが望ましい、という立場です。
これまでの研究(引用された研究)でも、超音波や SAF はシリンジ洗浄より多く取り除けた一方、溝を完全に空にできた方法はありませんでした。そこで、SAF・XP-endo Finisher・超音波・シリンジ洗浄の4つを、同じ条件の人工の溝で並べて比べたのが今回の研究です。
③何をどう比べたか
・歯:抜去した下顎前歯80本。X線写真で、根尖から5mmの位置の根管の長径が短径の2.5倍以上ある「楕円形の単根管」の歯を選んだ。長さを17mm(作業長16mm)にそろえた
・根管の拡大:歯内療法の専門医1名が、回転式のニッケルチタンファイル(Mtwo)で #40・テーパー0.04 まで拡大。ファイルごとに4%次亜塩素酸ナトリウム5mLで洗い、最後に17% EDTA 5mL と4%次亜塩素酸ナトリウム5mL
・人工の溝:歯を縦に2つに割り、片方の根管壁の根尖から2〜5mmに、長さ3mm・幅0.2mm・深さ0.5mmの溝を超音波のファイルで作った(器具の届かない根尖側のくぼみの見立て)
・貼薬:水酸化カルシウムを生理食塩水でクリーム状に練り、ペーパーポイントで溝に詰めた。歯を元どおり組み合わせて仮封し、37℃・湿度100%で1週間おいた。以後の操作は、根尖孔が閉じた状態で行った
取り除き方は次の4つで、洗浄液はどの群も37℃に温めた4%次亜塩素酸ナトリウム20mLです。
・SAF(Self-Adjusting File):作業長まで入れて4分動かした(毎分5000回の上下の振動・振幅0.4mm)。液はポンプで毎分5mL、計20mL を流し続けた
・超音波(PUI):シリンジで5mL 洗ったあと、IrriSafe(#20・テーパーなし)を作業長の1mm手前に入れて20秒振動。これを3回くり返し、最後に5mL で洗った(振動は計1分)
・XP-endo Finisher:シリンジで10mL 洗ったあと、毎分800回転で60秒、7〜8mmの幅でゆっくり上下させ、最後に10mL で洗った
・シリンジ洗浄(SNI):30Gの針を作業長から1mmの位置に置き、20mL を毎分約5mL で流した
・対照:水酸化カルシウムを詰めて取り除かない群(4本)と、詰めない群(4本)
評価は、歯を再び割り、溝を顕微鏡で24倍に拡大して撮影。標本が分からないよう符号を付けた写真を、2名の歯内療法の専門医が次の4段階で採点しました。0=溝が空、1=溝の面積の半分未満に残る、2=半分を超えて残る、3=溝がすっかり覆われている。群の比べ方は Kruskal–Wallis 検定です。採点の一致度(カッパ係数)は、評価者内が評価者それぞれ0.933と0.968、評価者間が0.945でした。
④結果1:シリンジ洗浄だけでは、ほとんどの溝がそのまま
溝が「すっかり覆われている(スコア3)」まま残った歯の割合を並べました。原著の結果の本文に書かれた値です。
シリンジ洗浄はもっとも取り除けなかった方法で、89%の溝がすっかり覆われたままでした。SAF・XP・超音波では、その割合は22%・17%・17%でした。SAF・XP・超音波の3つは、シリンジ洗浄より有意に多くの水酸化カルシウムを取り除きました(P<0.001)。ただし器具を動かした時間は、SAF が4分、超音波と XP が計1分で、同じ時間で比べた結果ではありません。
⑤結果2:どの方法でも、溝を空にはできなかった
原著の図2(スコアの分布の積み上げ棒グラフ)から、各群のスコアごとの本数を読み取って表にしました。スコア3の本数は本文の割合(18本に対して)と一致しますが、スコア1・2の本数は筆者が図から読み取った値です。
スコア0(溝が空)は、どの群にも1本もありませんでした。SAF・XP・超音波の3つの間には、有意差を検出しませんでした(P=0.209)。ただしこれは「差が見つからなかった」という意味で、3つが同じだと示したわけではありません。また、シリンジ洗浄とほかの3群の比較(P<0.001)を、どのような方法の2群ずつの比較で出したかは、原著に書かれていません。
⑥著者らの結論と、結果の読み方
著者らは、この研究の条件の範囲では、どの方法も根尖側の人工の溝から水酸化カルシウムをすべて取り除くことはできず、SAF・XP・超音波はシリンジ洗浄より効果的だったが、3つの間に違いはなかった、と結論しています(結果の本文の表現は「有意差なし(P=0.209)」で、同じだと示したわけではありません)。溝を空にできる洗浄の方法を探す研究が、さらに必要だとも書いています。
考察では、著者らは次のように推測しています。SAF は本来、根管を形成しながら清掃する器具で、すでに #40 まで広げた根管の仕上げに使ったのは、メーカーの使い方の外の使い方だった。広げた後の根管では SAF が十分に縮んでくぼみに沿わない可能性がある。XP は、メーカーが示す1分では溝に触れる時間が足りなかった可能性があり、長く使う条件を試す価値がある――いずれも著者らの考えで、この研究で確かめたことではありません。
読み方として大事なのは、器具を動かした時間が方法ごとに違うことです。SAF は4分、超音波とXPは計1分でした(洗浄液の量は全群20mL)。「どの器具が一番か」を比べた研究というより、「それぞれ決められた使い方で、シリンジ洗浄だけと比べてどうか」を見た研究と読むのが無難です。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・どれを選んでも「ゼロ」にはならない前提で:SAF・XP・超音波のどれでも溝を空にできた歯は無かった。貼薬を使った根管では、くぼみに残りがありうると考えて充填に進みたい
・3つの優劣は、この研究からは決められない:有意差は検出されなかったが、動かした時間も違う。手元にある器具を、決められた使い方で使うのが現実的
器具の導入を考える時は、この研究だけでなく、ほかの観点(汚れや菌の減り方、根尖からの液の押し出しなど)の研究も合わせて判断したいところです。
(2)器具を動かした時間が違います(SAF 4分、超音波とXPは計1分)。また取り除く時に EDTA などは使っておらず、水酸化カルシウムは生理食塩水で練って使っており、ほかの基剤で練った製剤での結果は分かりません。
(3)評価は溝の写真で残りの面積を4段階に分けた採点で、残った量そのものを測ったものではありません。2群ずつの比較の方法も書かれていません。
(4)残った水酸化カルシウムが、シーラーの密着や治療の成績にどう響くかは調べていません。
(5)著者らは利益相反は無いと書いています。
「どの方法でも溝は空にならなかった」という結果は、充填前の根管を見る目を少し慎重にしてくれる報告です。くぼみからの除去を高める方法の研究が楽しみです。
今日のひとこと
抜去歯の人工の溝を使ったこの実験では、SAF・XP-endo Finisher・超音波(PUI)は、シリンジ洗浄より多くの水酸化カルシウムを取り除きましたが、3つの間に有意差は検出されず、溝を空にできた方法は1つもありませんでした。器具を動かした時間は方法ごとに違い、残りが治療の成績に響くかは調べていません。「器具で液を動かすとシリンジだけより取れる、ただしくぼみには残りうる」と読み、充填前の根管にも残りがありうる前提で臨むのが、この論文に合った読み方です。


