エンド|歯頸部の象牙質と天蓋の一部を残す「小さいアクセス窩洞(CEC)」は、上顎第一大臼歯で根管の見つけやすさ・根管形成の質・破折強度をどう変えるのか。マイクロCTで形の似た歯をペアにして、従来の窩洞(TEC)と比べた抜去歯の実験研究(Rover 2017・Journal of Endodontics)
歯質を残したいから、アクセス窩洞は小さく——その流れの中で、上顎大臼歯のMB2は見つかるのか、そして本当に割れにくくなるのか。著者らは抜去した上顎第一大臼歯30本をマイクロCTで撮影し、根管の形が似た歯どうしをペアにして、従来の窩洞(TEC)と小さい窩洞(CEC)に15本ずつ割り付けました。根管探しは①肉眼 → ②顕微鏡 → ③顕微鏡+超音波チップの3段階。すべての根管を見つけられた歯は、①でTEC 73%・CEC 27%、②で80%・33%と小さい窩洞で有意に少なく、③で87%・80%(13本対12本)になって有意差はなくなりました(見つからなかったのはすべてMB2)。器具が触れなかった根管壁(25.8%・27.4%)や削片の残留に差はなく、口蓋根管だけは従来の窩洞のほうが中心を保てていました。修復後の破折荷重は937.5Nと996.3Nで差なし。この研究では、小さい窩洞の利点は示されませんでした。
①上顎大臼歯、アクセス窩洞を小さくしたら何が変わる?
「歯質はできるだけ残したい。だから髄室の天蓋も少し残して、小さく開けよう」——ミニマルインターベンションの流れで、小さいアクセス窩洞(contracted endodontic cavity:CEC)を意識する先生も増えてきたと思います。
ただ上顎第一大臼歯には、MB2(近心頬側第二根管)という見落としやすい根管があります。窩洞を小さくしたら、MB2は見つかるのか。根管はきちんと形成できるのか。そして肝心の「歯が割れにくくなる」効果はあるのか。
結論を先に言います。抜去した上顎第一大臼歯30本の実験で、小さい窩洞は肉眼・顕微鏡だけでは根管を見つけにくく、破折強度は従来の窩洞と変わりませんでした。形成の質はほぼ同じで、口蓋根管だけは従来の窩洞のほうが中心を保てていました。著者らの結論は「小さい窩洞の利点は、この研究では示されなかった」です。
②なぜ小さい窩洞が注目されたのか
従来のアクセス窩洞(traditional endodontic cavity:TEC)は、髄室の天蓋を取り除き、根管口へまっすぐ器具が入る形(ストレートラインアクセス)を作るのが基本です。形成しやすく、手技の失敗も減らせる。一方で、削る歯質が多くなり、機能時の荷重で割れやすくなるのではという心配がありました。
そこで提案されたのが、歯頸部周辺の象牙質(pericervical dentin)や天蓋の一部を残す小さい窩洞です。
・小臼歯と下顎大臼歯では、小さい窩洞で破折強度が上がったという報告がある(ただし下顎大臼歯では形成の質が落ちた)
・有限要素解析では、下顎大臼歯の咬合面・歯頸部の応力が下がった
・一方、上顎大臼歯では破折強度は上がらなかったという報告もある
さらに、小さい窩洞で根管を見つけられるか、削片がたまりやすいかは、まだ調べられていませんでした。
③今回の一手:似た歯をペアにして、根管探し・形成・破折まで通しで比べる
・まず全歯をマイクロCT(解像度21µm)で撮影し、根管の数・体積・表面積・形が似た歯どうしで15ペアを作り、ペアの片方ずつを従来の窩洞(TEC)と小さい窩洞(CEC)に割り付け。各群15本のうち12本にMB2がありました。
・TEC:天蓋を取り除き、根管上部へまっすぐ入る形に。CEC:中心窩から入り、根管口が見つかる分だけ広げ、歯頸部の象牙質と天蓋の一部を残す。
・根管探しは3段階。①肉眼 → ②手術用顕微鏡 → ③顕微鏡+超音波チップ(③は②で全部見つからなかった歯だけ。髄室近心壁を頬舌方向に最大2mm削る)。
・形成はレシプロック(Reciproc R25・R40)、洗浄は2.5%次亜塩素酸ナトリウムとEDTA。形成後にもう一度マイクロCTで撮影し、器具が触れなかった根管壁の割合・削片の残留・根管の偏位(トランスポーテーション)・中心保持を比べました。
・最後に根管充填(シングルポイント+垂直加圧)とコンポジットレジン修復をしてから、歯軸に30°の角度で中心窩に荷重をかけ、割れるまでの力を測定。
ポイントは、マイクロCTで根管の形が似た歯をペアにしてから割り付けたことです。上顎大臼歯は根管の形のばらつきが大きいので、ここを揃えないと「窩洞の違い」なのか「歯の違い」なのかが分からなくなります。術者は経験のある1人で、マイクロCTのデータは見ずに処置しています。
④結果①:肉眼・顕微鏡では、小さい窩洞で根管を見つけにくかった
すべての根管を見つけられた歯は、①肉眼で TEC 11本(73%)に対し CEC 4本(27%)、②顕微鏡で TEC 12本(80%)に対し CEC 5本(33%)。どちらも有意差がありました(P<.05)。
ところが③顕微鏡+超音波チップまで進むと、TEC 13本(87%)・CEC 12本(80%)で有意差はなくなりました。最後まで見つからなかった根管はすべてMB2で、TEC 2本・CEC 3本です。
⑤結果②:形成の質はほぼ同じ。ただし口蓋根管は従来の窩洞が有利
器具が触れなかった根管壁の割合はTEC 25.8%・CEC 27.4%、根管内に残った削片はTEC 1.3%・CEC 0.9%。どちらも有意差はありませんでした。窩洞の大きさにかかわらず、根管壁の4分の1ほどには器具が触れていない、という点は共通です。
差が出たのは、根管の偏位と中心保持の一部です(根尖から3・5・7mmの断面で、MB1・DB・口蓋根管を評価)。
・口蓋根管・5mmと7mm:中心保持は TECのほうが良好(5mm:TEC 0.519・CEC 0.282/7mm:TEC 0.589・CEC 0.182。1に近いほど中心を保てている)
・遠心頬側根管・5mm:逆に CECのほうが中心を保てていた(CEC 0.687・TEC 0.375)
それ以外の断面・根管では差はありませんでした。著者らは、口蓋根管の差を「従来の窩洞のほうがまっすぐ器具が入るため」と考えています。なお偏位の差は0.03mm程度と小さく、臨床的な意味の大きさは、この研究からは判断できません。
⑥結果③:破折強度は変わらなかった
割れるまでの力はTEC 937.5N(±347.2)・CEC 996.3N(±490.7)。平均はCECがやや高いものの、ばらつきが大きく、統計的な差はありませんでした。割れ方もまちまちでした。
上顎大臼歯を調べた先行研究でも、破折強度に差は出ていません。一方、小臼歯・下顎大臼歯で「小さい窩洞のほうが強い」と出た研究は、修復せずに荷重をかけていたため、臨床の状況を再現していない可能性がある、と著者らは指摘しています。今回は根管充填とレジン修復まで済ませてから測っています。
⑦なぜ「小さい=強い」にならなかったのか
著者らは、研究ごとの違いとして歯の種類・修復の有無と材料・荷重試験のやり方を挙げています。今回は修復後の歯に1回の静的な荷重をかけた試験で、繰り返しの力(疲労)は調べていません。また直径4mmの小さい球で押したため、大きい治具を使った研究より破折荷重の平均が低めに出た可能性にも触れています。
つまり「上顎大臼歯を、修復してから1回の荷重で割る」という条件では、窩洞を小さくしたことによる強さの上乗せは見えなかった。その一方で、根管を見つける難しさという「代償」ははっきり出た——というのがこの研究の構図です。
⑧明日の臨床へ
・MB2が見つからないときは、超音波で近心壁を少し削り足す(この研究では最大2mm)。この段階で従来の窩洞との有意差はなくなった(15本中13本と12本。少数の比較なので「同等」とまでは言えない)。
・「小さく開ければ割れにくい」は、上顎大臼歯ではまだ根拠にならない。修復後の破折強度は変わらなかった。
・窩洞の大きさにかかわらず、根管壁の4分の1ほどには器具が触れていなかった。器具が触れなかった壁はバイオフィルムの足場となり、感染が残る原因になりうると著者らは述べている。
小さい窩洞そのものを否定する結果ではありません。ただ、「歯質を残す利点」を取りにいくなら、見落としのリスクを埋める道具と手順をそろえてから——そう読むのが素直だと思います。
⑨ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
抜去した上顎第一大臼歯(各群15本)で、小さいアクセス窩洞は肉眼・顕微鏡だけでは根管を見つけにくく(すべての根管を見つけられた歯:肉眼 73%対27%、顕微鏡 80%対33%)、顕微鏡+超音波チップで近心壁を少し削り足して、従来の窩洞との有意差がなくなりました(87%対80%=13本対12本。見つからなかったのはすべてMB2)。根管形成の質はほぼ同じで、口蓋根管だけ従来の窩洞が有利。修復後の破折強度は937.5Nと996.3Nで差なし。上顎大臼歯では「小さく開ければ割れにくい」はまだ根拠にならず、小さく開けるなら顕微鏡と超音波をそろえてから——これが持ち帰りです。ただし抜去歯15本ずつ・1回の静的荷重での実験で、口の中での長期成績を見た研究ではありません。


