1問1答 論文 エンド

アクセス窩洞、小さくするほど歯は強くなる?——抜去歯160本で、従来型より小さい「保存的窩洞」は破折荷重が高く、さらに小さい「ニンジャ」でも上乗せは見られなかった(2017年)

1問1答 論文 エンド

エンド|根管治療のアクセス窩洞を、従来型(TEC)・保存的(CEC)・超保存的な「ニンジャ」(NEC)の3種類で作り、根管充填とコンポジットレジン修復のあと、どれだけの力で割れるかを比べた抜去歯の実験研究(Plotino 2017・Journal of Endodontics)

天井を大きく取り払う従来型のアクセス窩洞か、髄室の天井を残す小さな窩洞か——最近、天井を残して小さく開ける保存的窩洞が提案されています。では、小さければ小さいほど歯は強くなるのか。著者らは抜去した上下顎の小臼歯・大臼歯160本を、削っていない歯・従来型(TEC)・保存的(CEC)・ニンジャ(NEC)の4群(歯種ごとに各10本)に分け、根管治療とコンポジットレジン修復のあと、歯軸から30°の角度で割れるまで押しました。削り取った歯冠の量はTEC 16〜24%、CEC 7〜15%、NEC 5〜6%。割れた時の荷重は、4歯種すべてでTECだけが有意に低く(例:上顎小臼歯 498N 対 CEC 821N)、CEC・NEC・削っていない歯の3群の間には有意差がありませんでした。つまり従来型より小さくする意味はあったが、CECからさらにニンジャまで削る量を減らしても、破折荷重の上乗せは見られなかった——抜去歯での1回の荷重試験から見えた結果です。

論文
Fracture Strength of Endodontically Treated Teeth with Different Access Cavity Designs
著者
Gianluca Plotino, Nicola Maria Grande, Almira Isufi, Pietro Ioppolo, Eugenio Pedullà, Rossella Bedini, Gianluca Gambarini, Luca Testarelli(ローマ・ラ・サピエンツァ大学 歯内療法学講座ほか、イタリア)
掲載
Journal of Endodontics 2017;43(6):995-1000. doi:10.1016/j.joen.2017.01.022
種類
抜去歯を使った実験研究(in vitro)。う蝕・修復・亀裂の無い抜去歯160本(上顎第一大臼歯・下顎第一大臼歯・上顎第一小臼歯・下顎第一小臼歯 各40本)を、大きさをそろえて削っていない歯(対照)・従来型(TEC)・保存的(CEC)・ニンジャ(NEC)の4群(歯種ごとに各10本)に割り付けた。窩洞の外形はCBCT画像で計画し、同じ熟練した術者が形成。Mtwo(#25/.06)で根管形成、5.25%次亜塩素酸ナトリウムと17%EDTAで洗浄、シングルコーン+AH Plusで根管充填し、窩洞は接着性コンポジットレジンで直接修復。歯根を歯頸部から2mm下までレジンに埋め、歯軸から30°の角度で中心窩を押して割れるまで荷重(0.5mm/分)。破折荷重(N)と割れ方(修復できる/できない)を記録し、分散分析とStudent-Newman-Keuls検定で比べた
PMID
28416305

①アクセス窩洞、どこまで小さくする?

根管治療の最初の一手、アクセス窩洞。髄室の天井をきれいに取り払う従来型で開けるか、天井を少し残した小さな窩洞で開けるか——最近、天井を残して小さく開ける保存的窩洞が提案されています。

その先には、さらに小さい「ニンジャ」アクセスもあります。では、小さくすればするほど、歯は割れにくくなるのでしょうか。

結論を先に言います。この抜去歯の実験では、従来型だけが割れる力を有意に下げ、保存的窩洞とニンジャは削っていない歯と統計的な差がありませんでした。保存的窩洞からニンジャへさらに小さくしても、上乗せは見られませんでした。

②なぜ「小さく開ける」が注目されたのか

従来型のアクセス窩洞の形は、歯種ごとに何十年もほとんど変わっていません。ところが、窩洞を広げると健全な象牙質が減り、歯がたわみやすくなり、機能時の力で割れやすくなることが報告されてきました。根管治療後の歯が割れると、その多くは抜歯につながります。

そこで出てきたのが保存的窩洞(CEC:conservative endodontic cavity)です。髄室の天井の一部と、歯頸部まわりの象牙質(pericervical dentin)を残すように開け、CBCTで根管の位置をあらかじめ確かめて補います。

この考えをさらに突き詰めたのがニンジャ(NEC:ninja endodontic cavity)。天井をできる限り残し、根管口の位置を中心窩へ向けて斜めに投影した、中心窩付近の最小限の外形で開けます(著者らは、見る角度を変えればすべての根管口を確認できる形だと説明)。
ところが、保存的窩洞とニンジャを比べた研究は、この時点で1本もありませんでした。そこを確かめにいったのが今回の研究です。

③今回の一手:同じ歯種で4通りに開けて、割れるまで押す

対象=う蝕・修復・亀裂の無い抜去歯160本(上顎第一大臼歯・下顎第一大臼歯・上顎第一小臼歯・下顎第一小臼歯 各40本)。大きさをそろえて、歯種ごとに次の4群(各10本)に分けました。
・削っていない歯(対照)
・従来型(TEC):従来の原則どおりに開ける
・保存的(CEC):天井の一部と舌側の棚、歯頸部まわりの象牙質を残す。エナメル質は45°のベベル
・ニンジャ(NEC):CECと同じ位置から入り、天井をできる限り残す。エナメル質は咬合面に対して90°以上
窩洞の外形はCBCT画像で計画し、同じ熟練した術者が形成。Mtwo(#25/.06)で根管形成、シングルコーン+AH Plusで根管充填し、窩洞は接着性コンポジットレジンで直接修復しました。

そのうえで、歯根を歯頸部から2mm下までレジンに埋め、歯軸から30°傾けた方向で中心窩を押し、割れるまで荷重をかけました。斜めの力にしたのは、歯がいちばん割れやすい条件だからです。割れた力(N)と、割れ方が修復できる範囲か(模擬骨のレジンより上で止まったか、下まで及んだか)を記録しています。

④結果①:削った量は「従来型>保存的>ニンジャ」

0 10% 20% 30% 削り取った歯冠の体積(歯冠全体に対する%) 22.15% 13.43% 5.13% 上顎小臼歯 23.89% 15.17% 6.07% 下顎小臼歯 19.27% 11.03% 5.92% 上顎大臼歯 16.48% 7.31% 4.81% 下顎大臼歯 従来型 TEC 保存的 CEC ニンジャ NEC 原著Table 2。CBCTの3次元再構成で計測した、窩洞で失われたエナメル質+象牙質の割合(平均) 4歯種とも3群の間に有意差あり(TEC>CEC>NEC)
窩洞で削り取ったエナメル質+象牙質が歯冠全体に占める割合(原著Table 2)。4歯種とも3群の間に有意差あり

CBCTの3次元再構成で測ると、歯冠から削り取った量は従来型 16.48〜23.89%、保存的 7.31〜15.17%、ニンジャ 4.81〜6.07%。4歯種とも、3つの窩洞の間で有意な差がありました。

ニンジャは、保存的窩洞よりさらに一段少ない削除量です。「削る量」という点では、ねらいどおりの差がついていたことになります。

⑤結果②:割れる力は、従来型だけが低かった

0 400 800 1200 1600 破折した時の荷重(N・平均) 913 498 821 805 上顎小臼歯 1006 704 929 945 下顎小臼歯 1172 810 1143 1170 上顎大臼歯 1572 923 1401 1459 下顎大臼歯 削っていない歯 従来型 TEC 保存的 CEC ニンジャ NEC 原著Table 3。各群10本の抜去歯(計160本)。4歯種ともTECだけが有意に低く、 削っていない歯・CEC・NECの3群の間には有意差なし(P>.05)
歯種・窩洞別の破折荷重(N・平均。原著Table 3)。各群10本

割れた時の荷重は、4歯種すべてで従来型(TEC)だけが有意に低い結果でした。たとえば上顎小臼歯では、従来型 498Nに対して保存的 821N・ニンジャ 805N・削っていない歯 913N。下顎大臼歯でも従来型 923Nに対し、保存的 1401N・ニンジャ 1459N・削っていない歯 1572Nです。

一方、保存的・ニンジャ・削っていない歯の3群の間には、どの歯種でも有意差がありませんでした(P>.05)。

ここがこの論文のいちばんの見どころです。削った量はニンジャのほうが保存的窩洞より明らかに少ないのに、割れる力は保存的窩洞と変わりませんでした。著者らの結論も「ニンジャは保存的窩洞に比べて破折強度を上げなかった」です。

⑥結果③:開けた歯は、割れるときは「修復できない割れ方」が多い

0 10本 20本 30本 40本 修復できない破折の本数(40本中) 11本 30本 30本 28本 削っていない歯 従来型 TEC 保存的 CEC ニンジャ NEC 原著Table 3の歯種別の本数(各10本)を4歯種分合算(筆者集計)。修復できない破折=模擬骨(レジン)より下まで及んだ破折
模擬骨(レジン)より下まで及んだ「修復できない破折」の本数。原著Table 3の歯種別の本数(各10本)を4歯種分合算(筆者集計)

割れ方を見ると、削っていない歯は修復できる割れ方が多く、小臼歯は主に咬頭の欠け程度でした。反対に窩洞を開けた3群は、どの形でも修復できない割れ方のほうが多く、3群の間に差はありませんでした(原著では歯種ごとに検定)。小臼歯では、壁の破折が歯頸部より下まで及んでいます。

つまり、保存的窩洞やニンジャは割れる力は削っていない歯と統計的な差が無くても、割れたときの割れ方までは削っていない歯に戻せなかった、ということです。

⑦なぜ「小さいほど強い」にならなかったのか

著者らは、従来型が弱かった理由を健全な象牙質の喪失に求めています。窩洞の大きさを抑えて象牙質を残すと破折強度が上がる、という過去の報告とも一致する結果です。

一方で、ニンジャが保存的窩洞を上回らなかったことについては、どちらも低侵襲な窩洞なので、削っていない歯と差が出なかったのは意外ではない、と述べるにとどまっています。保存的窩洞の時点で、すでに削っていない歯と統計的な差が無いところまで来ていたので、この試験で「それ以上」を示す余地は小さかった、と読むこともできます(筆者の補足)。

見方を変えると、効いていたのは「ニンジャまで削らないこと」ではなく、「従来型まで広げないこと」でした。

⑧明日の臨床へ

・従来型まで広げない。天井の一部と歯頸部まわりの象牙質を残す保存的窩洞で、この実験では破折荷重が削っていない歯と差が無かった。
・ニンジャまで小さくしても、破折荷重の上乗せは見られなかった。一方で著者らは、窩洞が小さいほど根管口の見落とし・細菌汚染・根管形成の不備のリスクが高まりうると指摘している(ニンジャでの治療の質を調べた研究は、この時点でまだ無い)。一方で、上顎大臼歯では保存的窩洞が根管形成の効率に影響しなかったという報告もある(原著が引用)。
・この研究では、窩洞の外形をCBCT画像で計画していた。小さい窩洞を選ぶなら、根管の位置を事前に確かめられるかを考えておきたい(筆者の提案)。
・当てはまるのは主にう蝕や修復の無い健全な歯。著者らの診療では、そうした歯は過去5年の症例の8%ほどだったという(未発表データ)。
・窩洞を開けた歯は、割れるときは修復できない割れ方になりやすい。窩洞の形だけでなく、その後の修復計画まで含めて考えたい。

⑨ここだけ、冷静に補助線

これは抜去歯を使った実験室の研究で、口の中での長期の成績を見たものではありません。荷重は1回押して割るだけの試験で、著者ら自身も、実際の口の中の破折は主に繰り返しの力による疲労で起こるので、この方法は口の中の条件を正確には再現しないと書いています。実際、上顎大臼歯で疲労試験を組み合わせた別の研究では、保存的窩洞で破折強度は上がらなかったと著者らは紹介しています。各群は10本ずつで標準偏差も大きく(例:削っていない上顎大臼歯 1172±598N)、「有意差なし」は「同じ強さ」を証明したものではありません。また、小さい窩洞での根管形成・洗浄の質や根管口の見落としは調べていません。それでも、同じ条件で4通りの窩洞を並べ、「従来型より小さく」と「ニンジャまで小さく」を切り分けて示した点は、アクセス窩洞の大きさを考え直す手がかりになります。著者らは利益相反は無いと記載しています。

今日のひとこと

この抜去歯の実験では、従来型(TEC)のアクセス窩洞だけが破折荷重を有意に下げ、髄室の天井を残した保存的窩洞(CEC)とニンジャ(NEC)は、削っていない歯と統計的な差がありませんでした。削った量はNECのほうがCECより少なかったのに、CECからニンジャへ小さくしても破折荷重の上乗せは見られませんでした。そして窩洞を開けた歯は、どの形でも割れるときは多くが修復できない割れ方でした。「小さいほど強い」ではなく、「従来型まで広げないことに意味がある」というのが見えてきたことです。ただし1回押して割る実験室の試験で、口の中での長期の成績や、小さな窩洞での根管形成・洗浄の質は調べていません。

Plotino G, Grande NM, Isufi A, Ioppolo P, Pedullà E, Bedini R, Gambarini G, Testarelli L. Fracture strength of endodontically treated teeth with different access cavity designs. J Endod. 2017;43(6):995-1000. doi:10.1016/j.joen.2017.01.022. PMID: 28416305
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。