エンド|フェルールの高さと形(全周2mm・不均一・なし)で破折抵抗がどう変わるかを比べた抜去歯の実験(Tan・Aquilino・Gratton・Stanford ほか 2005・The Journal of Prosthetic Dentistry)。上顎中切歯50本・5群・1回の荷重で壊した実験室の研究で、臨床成績を調べた研究ではない
歯肉縁上の歯質が、唇側と舌側には2mm残っているのに、隣接面は0.5mmしかない。前歯の支台築造でよく出会う形です。Tanらは2005年、抜去した上顎中切歯50本を無作為に5群へ分けました。3群はフェルールの形を変えて鋳造ポストコアとクラウンで修復し、残る2群はポストを使わずクラウンだけをかぶせて、壊れるまで荷重をかけています。壊れたときの荷重の平均は、全周2mmのフェルールの群が587.23 N、不均一なフェルール(唇舌側2mm・隣接面0.5mm)の群が426.64 N、フェルールなしの群が264.93 N。不均一の群は、全周2mmの群より有意に低く、フェルールなしの群より有意に高い結果でした。全周2mmの群と、ポストなしでクラウンだけをかぶせた2つの群との間に、有意差は検出されていません(この3群の差を見つける検出力は10%を下回っていました)。抜去歯に1回の荷重をかけた実験室の研究で、臨床での破折率や歯の予後を調べたものではありません。
①隣接面のフェルールが低い前歯、唇舌側に2mmあれば足りる?
根管治療した前歯にポストコアとクラウンを計画するとき。歯肉縁上の歯質は、唇側と舌側には2mmあるのに、隣接面は歯肉の形に沿って下がり、0.5mmほどしか残っていない。よく出会う形です。
フェルール(クラウンが歯質を外から抱え込む帯の部分)は、全周に確保するのが原則とされてきました。では、高さが全周でそろわないとき、破折抵抗はどのくらい変わるのでしょうか。Tanらは2005年、抜去した上顎中切歯を使って、これを確かめました。
先に断っておきます。これは抜去歯に1回の荷重をかけて壊した実験室の研究です。患者さんの口の中で、何年後に何本が破折したかを調べた研究ではありません。
・壊れたときの荷重の平均は、全周2mmのフェルールの群が587.23 N、不均一なフェルール(唇舌側2mm・隣接面0.5mm)の群が426.64 N、フェルールなしの群が264.93 N
・不均一の群は、全周2mmの群より有意に低かった
・不均一の群は、フェルールなしの群より有意に高かった
・全周2mmの群と、ポストなしでクラウンだけをかぶせた2つの群との間に、有意差は検出されなかった(ただし、差を見つける検出力は10%を下回っていた)
②実験の組み立て:50本を5通りに修復した
使ったのは、アイオワ大学の保管庫にあった健全な上顎中切歯です。歯冠の高さ10±1mm、歯根の長さ13±1mmにそろえた100本から、くじで50本を選び、5群に割り付けました。1群あたりの本数は、原著に明記されていません(均等に分ければ10本ずつです)。
・CRN:根管治療なし。クラウンのみ
・RCT/CRN:根管治療あり。ポストとコアは使わず、クラウンのみ
・2 FRL:根管治療あり。全周に均一な2mmのフェルール+鋳造ポストコア+クラウン
・0.5/2 FRL:根管治療あり。不均一なフェルール(唇側と舌側の中央で2mm、隣接面で0.5mm)+鋳造ポストコア+クラウン
・0 FRL:根管治療あり。フェルールなし+鋳造ポストコア+クラウン
根管治療は、群の割り付けを知らない術者が行いました。支台歯形成は、規格をそろえています。マージンは幅1mmのラウンドショルダーで、唇側と舌側のマージンは隣接面より1.5mm根尖側にあります。歯肉の形をまねた設計です。
ポスト孔は、根尖側にガッタパーチャを4mm残して形成しました。ポストコアは金合金(原著の表記は high noble gold alloy)の鋳造で、ポストコアもクラウンもレジン添加型グラスアイオノマーセメントで装着しています。クラウンの舌側には、荷重をかける点をそろえるための段(レッジ)を付けました。
歯は、あらかじめアクリルレジンのブロックに植えてあります。クラウンを装着して湿度100%で3日間保管したあと、万能試験機にかけました。荷重は歯軸に対して45度の方向から舌側の段へ、クロスヘッド速度2.5mm/分で、壊れるまで増やしています。荷重が25%落ちた時点を「破壊」としました。試験の順番は無作為で、試験機の操作者には群を知らせていません。5群の比較には、一元配置分散分析とTukeyの多重比較(有意水準5%)を使っています。
③結果:不均一なフェルールは、全周2mmとフェルールなしの中間だった
5群の間には有意な差がありました(一元配置分散分析、P<.0001)。Tukeyの多重比較は、5群を3つのまとまりに分けています。
・A:CRN 583.67 ± 86.09 N、RCT/CRN 571.04 ± 154.86 N、2 FRL 587.23 ± 110.25 N。この3群の間に有意差はない
・B:0.5/2 FRL 426.64 ± 88.33 N。Aより有意に低い(結果の本文ではP<.05)
・C:0 FRL 264.93 ± 78.33 N。Bより有意に低い(結果の本文ではP<.01)
平均で比べると、不均一の群は全周2mmの群よりおよそ27%低い値です(426.64 ÷ 587.23 = 約0.73。筆者の計算)。フェルールなしの群は、全周2mmの群の半分に届きません(264.93 ÷ 587.23 = 約0.45。筆者の計算)。
著者らは、全周2mmと不均一の差の大きさについて「驚きだった」と書いています。
④「クラウンだけの歯と差がなかった」は、どう読むか
全周2mmの群(587.23 N)は、根管治療をしていないクラウンの群(583.67 N)、根管治療をしてポストなしでクラウンをかぶせた群(571.04 N)と、有意差がありませんでした。
ここで著者らは、事後の検出力分析を行っています。この3群の間で観察された小さな差を見つける検出力は、どの組み合わせでも10%を下回っていました。この大きさの差を検出するには、1群あたり690本から14,000本超が必要になる計算です。
・本当に差がなかった可能性と、本数が足りずに差を検出できなかった可能性の、両方がある
・したがって「全周2mmのフェルールがあれば、歯質がそっくり残ったクラウンの歯と同じだけ破折を防げる」とは結論できない
・ただし、2つの群の実際の強さの差は、臨床的には意味のない大きさかもしれない
⑤壊れ方と、差が出た理由(著者らの考察)
壊れ方は、どの群も同じでした。50本中45本は、舌側のマージンから、レジンに植えた位置のすぐ下の唇側面へ向かう斜めの破折です。残りの5本は、各群1本ずつで、ポストの先端から外側へ走る歯根破折と記載されています。
著者らは、群によって歯の構造が大きく違うのに壊れ方が同じだったことを「驚き」とし、この壊れ方は臨床で見られる失敗を表していない、と書いています。この実験では歯根膜を再現しておらず、歯は硬いアクリルレジンで固定されていました。骨性癒着した歯に近い状態で、これが壊れ方を説明するかもしれない、というのが著者らの見方です。
・残っている歯冠部の歯質の量が違う。象牙質が多いほど、より大きな力を再配分し、逃がすことができた(著者らが最も有力とする説明)
・余分にある象牙質が、ポストコアの土台を安定させ、回転への抵抗を高めた可能性
・コアが歯を覆うベベルの形になっており、これが第2のフェルールのように働いた可能性
・これらの組み合わせ
⑥明日の臨床へ
・鋳造ポストコアとクラウンで修復する根管治療済みの上顎中切歯には、可能であれば、全周に均一な2mmのフェルールを確保する
・フェルールがない歯では、少なくとも唇側と舌側に2mmのフェルールを得る努力をする
・不均一なフェルールは、フェルールなしよりは破折に強い。ただし全周2mmほどではない
・全周2mmと不均一の差が臨床でどれだけ意味を持つかは、判断が難しい。患者ごとの咬む力の大きさを術者は正確に知ることができないので、フェルールはできるだけ多く確保するのがよいだろう
著者らは考察で、上顎切歯の最大咬合力(男性)を146 ± 44 Nとする報告を引いています。標準偏差2つ分のばらつきを見込むと、フェルールなしの歯(265 ± 78 N)は最大の噛みしめで破折するおそれがあり、全周2mm(587 ± 110 N)と不均一(427 ± 88 N)の歯は最大の噛みしめに耐えうる、というのが著者らの見立てです。咬合力の数値は別の研究の報告で、この実験で測ったものではありません。1回の荷重で壊した実験の値と比べた、目安の話です。
・「唇側と舌側に2mmあるから大丈夫」と判断する前に、隣接面の高さも確かめる。その理由になる実験です
・序論には、不均一なフェルールが全周均一と同じだけ有効なら、隣接面の歯冠長延長術や矯正的挺出の必要が減る、と書かれています。結果は「同じではなかった」でした
・ただし、この実験は歯冠長延長術や挺出を行った歯を調べていません。「だから延長術をすべき」とまでは、この論文からは言えません
・不均一でも、フェルールなしよりは有意に高い値でした。全周がそろわなくても、得られる部位のフェルールを残すことを支持する結果とも読めます
対象は上顎中切歯だけで、著者らは結果を当てはめられるのはこの歯種に限られると書いています。修復は鋳造ポストコアだけで、既製ポストと直接法のコア(ファイバーポストとレジンコアなど)は調べていません。荷重をかけた点と角度も1通りです。歯根膜は再現されていません。不均一なフェルールは「唇舌側2mm・隣接面0.5mm」の1つの形だけです。
原著の中で、記載が合わない箇所が3つあります。(1)1群あたりの本数が書かれていません。50本を5群に分けたとありますが、表Iの分散分析の誤差の自由度は31です。50本すべてを解析したなら45になるはずで(筆者の計算)、解析に入った本数は原著からは確かめられません。(2)壊れ方の記載で、5本は「各群1本ずつ、ポストの先端から走る歯根破折」とされていますが、CRNとRCT/CRNの群にポストはありません。(3)考察の本文は文献32を引いていますが、文献リストは31までです。
P値は、節によって書き方が使い分けられています。全周2mmと不均一の差は、抄録と結論ではP=.0001、結果の本文ではP<.05。不均一とフェルールなしの差は、結果の本文ではP<.01、結論ではP=.001です。正確な値と、しきい値による表記の違いで、互いに矛盾するものではありません。この記事の結果の項では、結果の本文の書き方を示しました。
資金・利益相反:米国固定性補綴学会(The American Academy of Fixed Prosthodontics)のTylman Grantの助成を受けたと記載されています。利益相反についての記載は見当たりません。本文には、器具・セメント・合金などの製品名が登場します。
それでも、歯の大きさ、形成の規格、術者と試験者の盲検化をそろえたうえで、「全周2mm」「不均一」「なし」を同じ条件で比べた実験です。フェルールを高さだけでなく、全周の形として考える材料になる1本です。
今日のひとこと
この実験が示したのは、抜去した上顎中切歯を鋳造ポストコアとクラウンで修復したとき、フェルールが隣接面で0.5mmまで低くなると、全周2mmのときより低い力で壊れたということです(壊れたときの荷重の平均は、全周2mmの群が587.23 N、不均一の群が426.64 N、フェルールなしの群が264.93 N。3つの群の間はどれも有意差あり)。不均一でも、フェルールがまったくない歯よりは有意に高い値でした。著者らは「可能であれば、全周に均一な2mmのフェルールを」と述べています。抜去歯に1回の荷重をかけた実験で、くり返しの力や温度変化は与えていません。対象は上顎中切歯と鋳造ポストコアだけで、臨床での破折率や歯の予後を調べた研究ではありません。筆者の読みでは、「唇側と舌側に2mmあるから大丈夫」と考える前に、隣接面の高さも確かめるきっかけになる1本です。


