1問1答 論文 エンド

根管口に栓をすると、根尖の炎症は減る?——イヌの実験では、髄室を8か月開放したあとに根尖周囲の炎症があった根は、栓なしで18根中16根(89%)、IRMの栓で13根中5根(38%)、レジンの栓で18根中7根(39%)だった(Yamauchi 2006)

1問1答 論文 エンド

エンド|根管充填の上部2mmをIRMまたは接着性コンポジットレジンの栓(オリフィスプラグ)に置き換え、歯冠側からの漏洩を根尖周囲の炎症で評価した動物実験(Yamauchi・Shipper・Buttke・Yamauchi・Trope 2006・Journal of Endodontics)。ビーグル犬3頭・小臼歯の61根の実験で、ヒトの臨床成績を調べた研究ではない

根管充填が終わってから、歯冠側の修復が入るまで。その間に歯冠側から漏れたらどうなるのか、気になる場面です。Yamauchiらは2006年、ビーグル犬3頭の小臼歯の61根を根管充填し、一部の根では充填の上部2mmをIRMまたは接着性コンポジットレジンの栓に置き換えました。髄室は修復せず、口腔に開放したまま8か月置いています。その後の組織標本で根尖周囲に炎症があった根は、栓なしの群で18根中16根(89%)、IRMの栓の群で13根中5根(38%)、レジンの栓の群(シーラーあり)で18根中7根(39%)でした。栓なしとの差は、この2つの群で有意です(P=0.001、P=0.004)。シーラーを使わずにレジンの栓を置いた群は12根中7根(58%)でした。イヌ3頭を使った動物実験で、ヒトの根管治療の成績を調べたものではありません。この研究は、レジンと接着材の製造会社(Kuraray)の支援を受けています。

論文
Effect of Orifice Plugs on Periapical Inflammation in Dogs
著者
Shizuko Yamauchi, Guy Shipper, Thomas Buttke, Mitsuo Yamauchi, Martin Trope(ノースカロライナ大学 歯学部 歯内療法学講座・米国)
掲載
Journal of Endodontics 2006;32(6):524-526. doi:10.1016/j.joen.2005.09.005
種類
イヌを使った動物実験(in vivo)。ビーグル犬3頭の小臼歯の61根を根管形成・根管充填し、4群に分けた(栓なし18根、IRMの栓13根、レジンの栓18根、シーラーなし+レジンの栓12根)。髄室を口腔に開放して8か月後に屠殺し、根尖周囲の組織標本を、群を伏せた評価者が判定した。群間の比較はWaldのカイ二乗検定(根を独立とみなす前提)。ヒトの臨床成績を調べた研究ではない
資金・利益相反
謝辞に「この研究はKuraray Co., Ltd.の支援を受けた」と記載がある。Kurarayは、この実験で栓に使われた接着材(Clearfil SE Bond)とコンポジットレジン(Photo Core)の製造会社。利益相反についての独立した記載は見当たらない
PMID
16728242

①根管充填は、歯冠側の「ふた」になるのか

根管充填が終わった。仮封をして、次回は築造。その「次回」までの間に仮封が外れたり、歯冠側から漏れたりしたら、根管の中はどうなるのでしょうか。

ガッタパーチャとシーラーは、歯冠側からの漏洩を止める力が弱いと言われてきました。そこで考えられたのが、根管口の部分だけ別の材料で栓をする方法(オリフィスプラグ)です。Yamauchiらは2006年、この栓の効果をイヌで調べました。

先に断っておきます。これはビーグル犬3頭を使った動物実験です。ヒトの根管治療で、何年後に何本が治ったかを調べた研究ではありません。

結論を先に書きます(髄室を口腔に開放して8か月後の組織評価)。
・根尖周囲に炎症があった根は、栓なしの群で18根中16根(89%)
・IRMの栓の群は13根中5根(38%)、レジンの栓の群(シーラーあり)は18根中7根(39%)。栓なしとの差はどちらも有意だった(P=0.001、P=0.004)
・シーラーを使わずにレジンの栓を置いた群は12根中7根(58%)
・栓を置いても炎症はゼロにならなかった。著者らは、レジンの栓の封鎖は十分ではなかったと書いている

②実験の組み立て:61根を4つの群に分けた

対象は、ビーグル犬3頭の小臼歯の61根です。ラバーダム防湿のもとで根管形成し(洗浄は1.25%の次亜塩素酸ナトリウム)、形成の直後に根管充填しました。充填は、ガッタパーチャの垂直加圧(continuous wave法)と、加熱したガッタパーチャによるバックフィルです。シーラーはAH26です。

そのあと、栓を置く根では、根管充填材の上部2mmを取り除き、そこをIRMまたはコンポジットレジンで埋めました。レジンの栓は、セルフエッチングの接着材で処理してから、光重合型のコア用レジンを詰めています。

4つの群(合計61根)
・栓なし:ガッタパーチャ+シーラーのまま(18根)
・IRMの栓:ガッタパーチャ+シーラーの上部2mmをIRMに置き換え(13根)
・レジンの栓:ガッタパーチャ+シーラーの上部2mmを接着性コンポジットレジンに置き換え(18根)
・レジンの栓(シーラーなし):ガッタパーチャのみで充填し、上部2mmをレジンに置き換え(12根)

ここからが、この実験の厳しいところです。髄室は修復せず、口腔に開放したまま8か月置きました。仮封も歯冠修復もありません。

8か月後に屠殺し、顎骨ごと標本にして、根尖周囲を光学顕微鏡で観察しています。判定は3段階です。評価者には、どの群の標本かを伏せてあります。

炎症の判定(原著の定義)
・なし:歯根表面と周囲の組織が正常
・軽度:炎症性細胞の浸潤が歯根膜腔に限局し、骨や歯根の吸収がない
・重度:根尖周囲を多数の炎症性細胞が取り囲み、骨や歯根の吸収を伴う

③結果:栓なしは18根中16根に炎症があった

重度の炎症 軽度の炎症 炎症なし 栓なし ガッタパーチャ+シーラー(18根) 9 7 2 炎症あり 16/18根(89%) 重度9・軽度7/炎症なし2 IRMの栓 ガッタパーチャ+シーラー(13根) 5 8 炎症あり 5/13根(38%) 重度0・軽度5/炎症なし8 レジンの栓 ガッタパーチャ+シーラー(18根) 1 6 11 炎症あり 7/18根(39%) 重度1・軽度6/炎症なし11 レジンの栓 ガッタパーチャのみ(シーラーなし)(12根) 2 5 5 炎症あり 7/12根(58%) 重度2・軽度5/炎症なし5 原著の表1の全4行。棒の中の数字は根の数。割合(%)は原著の表記。栓なしとの差は、IRMの栓(P=0.001)とレジンの栓+シーラーあり(P=0.004)で有意。ビーグル犬3頭・髄室を8か月開放したあとの組織評価で、ヒトの臨床成績ではない。
根尖周囲の炎症があった根の数と重症度(原著の表1の全4行。ビーグル犬3頭・8か月後の組織評価。動物実験の値で、ヒトの臨床成績ではない)

栓なしの群では、18根中16根(89%)に炎症がありました。栓を置いた3つの群は、IRMの栓が13根中5根(38%)、レジンの栓が18根中7根(39%)、シーラーなし+レジンの栓が12根中7根(58%)です。

栓なし(89%)との差は、IRMの栓(38%)でP=0.001、レジンの栓(39%)でP=0.004。どちらも統計的に有意でした。シーラーなし+レジンの栓(58%)については、結果の項にP値が書かれていません。

栓なしの群と比べた割合の比(リスク比。本文の割合から計算。筆者の計算で、原著には載っていません)
・IRMの栓:5/13 ÷ 16/18 = 約0.43
・レジンの栓:7/18 ÷ 16/18 = 約0.44
・シーラーなし+レジンの栓:7/12 ÷ 16/18 = 約0.66(この群は栓の有無に加えてシーラーの有無も違う)

重症度にも差がありました。

重度の炎症があった根(原著の表1)
・栓なし:18根中9根(軽度は7根)
・IRMの栓:13根中0根(軽度は5根)
・レジンの栓:18根中1根(軽度は6根)
・シーラーなし+レジンの栓:12根中2根(軽度は5根)
・栓を置いた3群を合わせると43根中3根(筆者の集計)。重度だけを群間で比べた検定は、原著に書かれていません

もう1つ、見落とせない記載があります。8か月の間、2か月ごとにX線写真を撮っていますが、はっきりした根尖部の透過像は観察されませんでした。腫脹や瘻孔もありません。組織標本では栓なしの18根中16根に炎症があったのに、です。

④IRMとレジン、どちらの栓がよかったのか

IRMの栓は38%、レジンの栓は39%。数字はほぼ同じです。著者らは考察で、栓として「IRMもコンポジットも同じくらい良い」と書いています。ただし、2つの栓を直接比べた検定は示されていません。

抜去歯などの実験では、IRMの封鎖性はコンポジットより劣るという報告があります。それでもIRMの群の成績がよかった理由として、著者らは、IRMに含まれる酸化亜鉛ユージノールの抗菌作用が、細菌の侵入を一定期間防いだり遅らせたりしたのかもしれない、と考察しています。

レジンの栓については、39%の根に炎症が残ったことを、著者らは「封鎖が十分ではなかったことを示す」と書きました。理由の候補として挙げているのは、光照射の届きにくさです。根管口の栓の窩洞は狭くて深く、光重合が不完全になったのかもしれない、という説明です。どちらも著者らの推測で、この実験で確かめたものではありません。

⑤明日の臨床へ

著者らの主張(原著に書かれていること)
・ガッタパーチャとシーラーという従来の根管充填材だけでは、歯冠側からの漏洩を防げない。口腔に8か月さらすと、調べた根のほとんど(89%)に炎症があった
・根管充填のあとに根管口へ栓を置くことは、歯冠側からの漏洩を遅らせ、防ぐのに有益である
・ガッタパーチャとシーラーによる封鎖に加えて、歯冠側からの漏洩に対する追加の障壁を設けることが臨床的に重要である
・栓の置き方について、よりよく効率的な方法を確立するには、より大規模で長期の研究が必要である
ここからは筆者の読み(原著が述べたことではありません)
・この実験は、髄室を8か月開けっぱなしにするという、臨床ではまず選ばない条件です。「栓を置けば歯冠修復を急がなくてよい」という話ではありません。栓を置いても38〜58%の根に炎症がありました
・読み取れるのは、根管充填材そのものを歯冠側の封鎖と考えないほうがよい、という方向です。仮封が外れる、修復までに間があく、といった場面への備えとして、根管口の封鎖を考えるきっかけになります
・X線写真に透過像が出ていなくても、組織では炎症が起きていました。イヌの8か月の話ですが、「X線で見えない=漏れていない」とは言えないことを示す所見です
ここだけ、冷静に補助線この研究は、ビーグル犬3頭の小臼歯の61根を使った動物実験です。ヒトの根管治療の成功率を調べた研究ではなく、イヌの歯と口腔内の環境がヒトと同じとは限りません。「根管口に栓をすればヒトでも根尖性歯周炎が減る」とまでは、この論文からは言えません。
統計は、61根をそれぞれ独立した観察として扱っています。実際には、同じ犬の中の根どうしは似た結果になりやすいはずです。著者ら自身が、犬ごとのばらつきを考慮していないこと、結論を確かめるには頭数と各処置の数を増やした研究が必要なことを書いています。
群の作り方にも注意が要ります。原著は、各根管を根管充填(ガッタパーチャ+AH26)に無作為に割り付けたと書いています(シーラーなしの1群を除く)。栓あり・栓なしへの分け方が無作為だったかどうかは、書かれていません。シーラーなしで栓も置かない群はないので、シーラーを使わない条件で栓がどれだけ効いたのかは、この実験では確かめられません。レジンの栓どうしでは、シーラーあり(39%)とシーラーなし(58%)の2群がありますが、この2群を直接比べた検定は示されていません。考察には「シーラーなしでも、栓を置くと炎症の発生が有意に改善した」とありますが、その群(58%)のP値は結果の項に示されていません。
原著の中で、割合の書き方が合わない箇所があります。重度の炎症について、抄録は「栓なしで50%、栓ありで0〜17%」、結果の本文は「栓なしで55%を超える、栓ありで0・14・30%」と書いています。表1の数から計算すると、抄録は全部の根を分母にした値(9/18=50%、0/13、1/18=約6%、2/12=約17%)、結果の本文は炎症があった根を分母にした値(9/16=約56%、0/5、1/7=約14%、2/7=約29%)に合います(筆者の計算)。この記事では、表1の根の数をそのまま示しました。また考察は、栓で炎症の割合が「約50%」下がったと書いていますが、何を基準にした50%なのかは書かれていません。筆者の計算では、89%と38〜39%の差は約50ポイント、相対的な減少は約56〜57%です。
資金・利益相反:謝辞に、この研究はKuraray Co., Ltd.の支援を受けたと書かれています。Kurarayは、レジンの栓に使われた接着材とコンポジットレジンの製造会社です。利益相反についての独立した記載は見当たりません。なお、結果ではIRMの栓とレジンの栓の成績はほぼ同じでした。
それでも、髄室を8か月開放するという厳しい条件で、栓の有無による差を組織で確かめた実験です。根管充填の「上」をどう守るかを考える材料になる1本です。

今日のひとこと

この実験が示したのは、イヌの小臼歯で、根管充填の上部2mmを栓に置き換えると、髄室を8か月開放したあとの根尖周囲の炎症が、栓なしより有意に少なかったということです(栓なし18根中16根・89%、IRMの栓13根中5根・38%、レジンの栓18根中7根・39%。P=0.001とP=0.004)。重度の炎症は、栓なしで18根中9根、栓ありの3群では43根中3根でした。一方で、レジンの栓を置いても39%の根に炎症が残り、著者らは封鎖が十分ではなかったと書いています。イヌ3頭の動物実験で、同じ犬の根を独立したものとして検定しており、著者ら自身が頭数を増やした検証が必要としています。研究はレジンと接着材の製造会社の支援を受けています。筆者の読みでは、根管充填材そのものを歯冠側の封鎖と考えないことを思い出させてくれる1本です。

Yamauchi S, Shipper G, Buttke T, Yamauchi M, Trope M. Effect of orifice plugs on periapical inflammation in dogs. J Endod. 2006;32(6):524-526. doi:10.1016/j.joen.2005.09.005. PMID: 16728242
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。