1問1答 論文 エンド

伝達麻酔が効かないとき、変えられるのは手技だけではない——麻酔薬5種の順位表

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不可逆性歯髄炎に対する下顎孔伝達麻酔で、5種類の局所麻酔薬の成功率を比較したシステマティックレビュー+ネットワークメタ解析(Nagendrababu 2019・Int Endod J)

伝達麻酔が効かないとき、私たちはたいてい手技を足します。浸潤麻酔を追加し、歯根膜内へ、骨内へ。めったに変えないのが麻酔薬そのものです。11試験750例をネットワークメタ解析でつないだこの研究は、5種類の麻酔薬に順位をつけました。ただし、その順位をどこまで信じてよいかも、同じ論文がはっきり書いています。

論文
Efficacy of local anaesthetic solutions on the success of inferior alveolar nerve block in patients with irreversible pulpitis: a systematic review and network meta-analysis of randomized clinical trials
著者
Nagendrababu V, Pulikkotil SJ, Suresh A, Veettil SK, Bhatia S, Setzer FC
掲載
International Endodontic Journal 2019;52(6):779-789(doi:10.1111/iej.13072)
種類
システマティックレビュー+ネットワークメタ解析(RCT 11本・計750例)
PMID
30638269

効かないとき、私たちは何を変えているか

不可逆性歯髄炎の下顎歯。伝達麻酔が効かない。そのとき、あなたは何を変えますか。

多くの場合、答えは「追加の麻酔」です。頬側浸潤麻酔を足す、歯根膜内麻酔をする、骨内麻酔に進む。手技を積み上げていく。

もう一つ、めったに変えないものがあります。麻酔薬そのものです。日本の診療室ではリドカイン(キシロカイン)が事実上の標準で、それを変えるという発想自体が出てきにくい。

では、薬剤を変えたらどうなるのか。マレーシア国際医科大学とペンシルベニア大学のグループが、5種類の局所麻酔薬をネットワークメタ解析で一気に比べました

ネットワークメタ解析という手法

ネットワークメタ解析とは: 通常のメタ解析は「AとBを直接比べた試験」を集めて統合する。ところが臨床試験はすべての組み合わせを直接比べてはいない——AとC、BとCの試験はあるのに、AとBの直接比較がない、ということが起きる。ネットワークメタ解析は、共通の比較対象(この研究ではリドカイン)を橋渡しに、直接比較のない薬剤同士も間接的に比べ、全体を1つの順位表にまとめる手法である。順位づけにはSUCRA(累積順位曲線下面積。総合順位を0〜1で表した指標で、1に近いほど上位)を使う。
研究の骨格: PubMedとScopusを2018年10月まで検索。不可逆性歯髄炎の下顎歯に対する下顎孔伝達麻酔(IANB)で、5種類の麻酔薬(リドカイン/アルチカイン/ブピバカイン/プリロカイン/メピバカイン)のうち少なくとも2つを比較したランダム化比較試験を組み入れた。補助的な浸潤麻酔を併用した試験は除外(IANB単独の実力を見るため)。最終的に11試験・計750例。年齢は18〜57歳、男女とも。ブラジル・カナダ・インド・イラン・米国と国も多様。バイアスリスクは改訂版Cochraneツールで評価し、8試験が低リスク、3試験が高リスク(アウトカム測定のバイアス)。ペアワイズ解析とネットワークメタ解析(ランダム効果モデル)、SUCRAランキング、GRADEを実施した。

血管収縮薬はリドカイン・アルチカイン・ブピバカイン・メピバカインがエピネフリン、プリロカインのみフェリプレシンです。

結果——1位はメピバカイン、最下位はリドカイン

0 0.3 0.7 1 SUCRA(1に近いほど上位) 0.81 0.62 0.54 0.41 0.13 メピバカイン プリロカイン アルチカイン ブピバカイン リドカイン ネットワークメタ解析による順位づけ(全11試験)。SUCRAは累積順位曲線下面積で、総合順位を0〜1で表した指標。プリロカインはフェリプレシン、他の4剤はエピネフリン添加。ただしプリロカイン群はn=15と極端に少なく、順位は割り引いて読む必要がある
ネットワークメタ解析によるSUCRAランキング(全11試験)

メピバカイン(SUCRA = 0.81)が1位。以下、プリロカイン 0.62、アルチカイン 0.54、ブピバカイン 0.41、そしてリドカインが 0.13 で最下位でした。

0 0.7 1.3 2 リドカインと比べた麻酔成功のリスク比 1.16 1.46 1.42 アルチカインペアワイズ メピバカインペアワイズ メピバカインネットワーク 95%信頼区間は順に 1.02-1.32/1.04-2.07/1.04-1.95。いずれも1を含まず有意。ブピバカインとプリロカインはリドカインと有意差なし。⚠️ 高バイアスリスクの3試験を除いた感度解析では、どの薬剤間にも有意差は残らなかった
リドカインと比べた麻酔成功のリスク比。いずれも95%信頼区間が1を含まず有意

数字で見ると、ネットワークメタ解析では、エピネフリン添加メピバカインがエピネフリン添加リドカインより有意に成功率を高めました(リスク比 1.42、95%CI 1.04–1.95、p = 0.03)。

ペアワイズ解析(直接比較のみ)でも同じ方向でした。アルチカイン(リスク比 1.16、1.02–1.32)とメピバカイン(1.46、1.04–2.07)が、リドカインより有意に高い成功率。ブピバカインとプリロカインはリドカインと有意差なし。

一方、メピバカインと他剤(アルチカイン・ブピバカイン)の間には有意差がありませんでした。「メピバカインが他をはっきり上回った」のではなく、「リドカインに対してだけ有意差がついた」というのが正確な読み方です。

臼歯だけに絞ったサブグループ解析でも、同様の結果でした。

そして、いちばん大事な但し書き。 高バイアスリスクの3試験を除いた感度解析では、どの麻酔薬の間にも有意差は残りませんでした。SUCRAの順位ではメピバカインが1位を保ちましたが、統計学的な有意差は消えています。著者らも結論の中で明記しており、GRADEによるエビデンスの質は「非常に低い〜中等度」と評価されています。

なぜメピバカインなのか、そしてなぜリドカインが残るのか

機序として著者らが引くのは、血管拡張作用の違いです。

メピバカインはリドカインにくらべて血管拡張作用が弱い。同じ量の血管収縮薬を含んでいるなら、もともと血管を広げにくい薬のほうが、局所に留まりやすい——これがリドカインを上回る理由ではないか、と。

ただしこの論文は、他の薬剤を手放しで勧めてはいません。安全性の話が丁寧に添えられています。

アルチカインとプリロカインは、知覚異常(paraesthesia)の発生率が有意に高く、メトヘモグロビン血症のリスク増加も指摘されていると著者らは書いています。ブピバカインは心毒性と中枢神経毒性のリスクと関連づけられてきました。

そして、リドカインが消えない理由。リドカインとプリロカインは、現時点で唯一の「妊娠カテゴリーB」の麻酔薬であり、他はすべてカテゴリーCです。著者らははっきりこう書きます。「それでもリドカインが時代遅れになることはない」。

ちなみにメピバカインは中国では既に広く使われている一方、欧米では最も使用頻度の低い歯科用局所麻酔薬の一つだそうです。

明日の臨床へ

①「効かないなら手技を足す」の前に、「薬剤を変える」という選択肢を思い出す。著者らはこう書いています——骨内麻酔や歯根膜内麻酔に不安のある患者では、補助的な手技を避けたい。そういう場面で、より効果的な麻酔薬を選ぶことで成功確率を上げられるかもしれない。

②ただし、この結果を過大に読まない。質の高い試験だけに絞ると有意差は消えました。エビデンスの質は「非常に低い〜中等度」。著者ら自身が「結論を確認するには、さらに質の高い臨床試験が必要」と結んでいます。

③選択は安全性と一緒に考える。知覚異常、メトヘモグロビン血症、心毒性、妊娠カテゴリー——効果の順位だけで薬剤は決まりません。「局所麻酔薬の使用は、適切な症例選択・手技・用量によって導かれるべきであり、合併症のリスクを最小化しなければならない」というのが著者らの立場です。

④関連記事とあわせて読む。同じ著者らは前年、NSAIDsの経口事前投与がIANBの成功率に与える影響を同じくメタ解析で検証しています(当ブログでも別記事として解説しました)。麻酔が効かない場面で動かせる変数は、手技だけでも薬剤だけでもない、ということです。

ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線。 繰り返しになりますが、高バイアスリスクの3試験を除くと有意差が消えます。これは結論の強さを大きく左右する事実です(除外された3試験は、アウトカム測定のバイアス=評価者の盲検化と割り付けの隠蔽が行われていませんでした)。プリロカイン群はn=15と極端に少なく、著者ら自身が「プリロカインが絡む比較は慎重に読むべきで、偏った観察につながりうる」と明記しています——SUCRA 2位という順位を額面どおりに受け取ることはできません。さらに、麻酔薬の量(1.8/2.2/3.6 mL)と血管収縮薬の量が試験間で異なっていたのに、その影響を評価できていません(試験数が足りなかったため)。もう一つの交絡が術前の疼痛の程度です。先行研究(Aggarwal ら 2015)では、術前痛が軽度の群と重度の群で麻酔成功率に有意差があり、術前痛と術中痛に正の相関があったと報告されていますが、この解析でもそこは調整できていません。全体で750例・11試験、GRADEは「非常に低い〜中等度」。それでも——効かない麻酔を前にしたとき、変えられる変数が手技だけではないと知っておくことには価値があります。順位表は仮説であって、処方ではない。そう受け取るのが、この論文への一番誠実な向き合い方だと思います。

今日のひとこと

ネットワークメタ解析では、エピネフリン添加メピバカインがエピネフリン添加リドカインより有意に伝達麻酔の成功率を高めた(リスク比 1.42、95%CI 1.04-1.95)。SUCRAランキングはメピバカイン0.81、プリロカイン0.62、アルチカイン0.54、ブピバカイン0.41、リドカイン0.13。機序としてはメピバカインの血管拡張作用がリドカインより弱いことが挙げられている。ただし高バイアスリスクの3試験を除いた感度解析では、どの薬剤間にも有意差は残らなかった。GRADEは「非常に低い〜中等度」。順位表は仮説であって処方ではない。

Nagendrababu V, Pulikkotil SJ, Suresh A, Veettil SK, Bhatia S, Setzer FC. Efficacy of local anaesthetic solutions on the success of inferior alveolar nerve block in patients with irreversible pulpitis: a systematic review and network meta-analysis of randomized clinical trials. Int Endod J. 2019;52(6):779-789. doi:10.1111/iej.13072 PMID: 30638269
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。