フロアブルレジン6製品と従来型2製品について、操作性・機械的性質・耐摩耗性を同時に測り相関を検証したin vitro研究(Imai 2019・J Mech Behav Biomed Mater)
フロアブルを選ぶとき、シリンジからの出しやすさや糸引きの少なさで判断していないでしょうか。その操作感は日々の診療で強く記憶に残ります。では「使いやすい製品はよくできた製品」なのか。日本大学のグループが、同じ8製品で操作性と物性・耐摩耗性を同時に測り、相関を取りました。答えは、きれいなほど無関係でした。
①「使いやすいフロアブル」を、どう選んでいますか
フロアブルレジンを選ぶとき、何を見ているでしょうか。
正直に言えば、多くの場合は「シリンジから出しやすいか」「糸を引かないか」だと思います。窩洞にすっと流れて、狙ったところで止まって、離すときに糸を引かない。この操作感の良さは、日々の診療で強く記憶に残ります。
近年のフロアブルは、臼歯部にも使えるほど丈夫な製品が登場しました。だとすれば、こう考えたくなります。「使いやすい製品は、よくできた製品なのではないか」。
日本大学のグループが、この直感を検証しました。操作性と機械的性質・耐摩耗性を、同じ8製品で同時に測って、相関を取るという設計です。
②8製品を、4つの物差しで測る
レジリエンス(resilience)という指標が、この研究のカギになります。材料が弾性変形で吸収できるエネルギー量で、曲げ強さと曲げ弾性率から求まります。硬いだけでなく、しなって力を受け止められるかを表す指標だと考えてください。
③結果——フロアブルは、もう「弱い材料」ではない
まず耐摩耗性。グレースフィル ゼロフローの体積損失は 0.021 mm³ で、従来型のナノフィラー製品フィルテック シュープリーム ウルトラ(0.021 mm³)と並んで最も少ないという結果でした(Table 3のTukey判定では、ビューティフィル フロー プラス・クリアフィル AP-X・フィルテック シュープリーム ウルトラ フロアブルより有意に少なく、残る3製品とは有意差なし)。
逆に大きかったのはビューティフィル フロー プラス(0.109 mm³)と、従来型のクリアフィル AP-X(0.107 mm³)。この2製品は最大摩耗深さでも他より有意に深く(110.7μm と 105.6μm)、SEM像でも摩耗面が粗く、面積が大きく、不規則な形のフィラーが引き抜かれた跡が見えました。
曲げ強さでは、ジーニアル ユニバーサル フロー(154.9 MPa)とグレースフィル ゼロフロー(160.1 MPa)が、従来型のフィルテック シュープリーム ウルトラ(145.5 MPa)を上回りました(最も高かったのは従来型のクリアフィル AP-X の 180.1 MPa)。
そしてレジリエンスでは、フロアブルが従来型を圧倒します。ジーニアル ユニバーサル フロー 1.72、グレースフィル ゼロフロー 1.82 に対し、従来型は AP-X が 0.89、フィルテック シュープリーム ウルトラが 0.72。ビューティフィル フロー プラスを除くすべてのフロアブルが、従来型2製品より有意に高いレジリエンスを示しました。
興味深いことに、無機フィラー含有率はフロアブルのほうが従来型より有意に低いのに、この結果です。著者らはこう書きます。「フィラー含有率と他のパラメータの間に、一貫した、あるいは解釈しやすい関係は見られなかった。とくに、無機フィラー含有率を増やすことが物性を高めるようには見えなかった」。
④そして——操作性は、何とも相関しなかった
ここがこの論文の主題です。
押し出し力が最も大きかった(=最も出しにくかった)のは、ジーニアル ユニバーサル フロー(47.6 N)。他の製品の約1.8〜3.9倍です。糸引きも最大(53.9 mm)でした。
ところが同じ製品は、曲げ強さで上位、レジリエンスで上位、体積損失 0.025 mm³ で耐摩耗性も上位。いちばん扱いにくい製品が、いちばん強い部類だったわけです。
逆にフィルテック シュープリーム ウルトラ フロアブルは押し出し力 13.8 N と出しやすいものの、体積損失は 0.041 mm³ とフロアブル6製品の中で最も大きい(ビューティフィル フロー プラスを除く)。
統計はこれを裏づけました。操作性の2指標(押し出し力・糸引き)は、フィラー含有率・曲げ強さ・曲げ弾性率・レジリエンス・摩耗のいずれとも、統計学的に有意な相関を示しませんでした。
一方、有意な相関があったのは次の組み合わせです。
つまり「レジリエンスが高い材料ほど摩耗に強い」という軸と、「出しやすい/糸を引かない」という軸は、別々に走っているということです。
⑤明日の臨床へ
①操作感で強さを推定しない。これが最大の持ち帰りです。「出しやすい=よくできている」でも「出しにくい=密で丈夫」でもない。操作性は、強さや耐摩耗性とは独立した性質でした。
②フィラー含有率のカタログ値で選ばない。フロアブルはフィラー含有率が従来型より有意に低いのに、レジリエンスでは上回りました。含有率を増やすことが物性を高めるようには見えなかった——著者らの表現どおりです。フィラーの形・大きさ・分布のほうが効いている、というのがSEM観察からの示唆です(密に詰まったナノサイズの不定形フィラーを持つ製品が上位でした)。
③応力のかかる部位に使うなら、レジリエンスを見る。この研究で摩耗と最も強く結びついていたのはレジリエンスでした。著者らも抄録の Significance で「新しいフロアブルの一部は、高い応力がかかる部位への使用の可能性を持つ」と述べています。
④操作性は「選ぶ理由」ではなく「使い方を合わせる対象」にする。出しにくい製品は、シリンジの持ち方やニードルの太さで補える余地があるかもしれません(この点はこの研究では検証されていません)。操作性で製品を落とす前に、性能の側を確認する順番に変えるだけで、選択肢が広がります。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
フロアブルの操作性(押し出し力・糸引き)は、フィラー含有率・曲げ強さ・曲げ弾性率・レジリエンス・耐摩耗性のいずれとも統計学的に有意な相関を示さなかった。最も出しにくかったジーニアル ユニバーサル フロー(47.6 N)が、曲げ強さもレジリエンスも耐摩耗性も上位だったのが象徴的である。一方で有意だったのはレジリエンスと摩耗の結びつき(体積損失と r = −0.896、最大摩耗深さと r = −0.835)。そしてフロアブルはフィラー含有率が従来型より有意に低いのに、ビューティフィル フロー プラスを除く全製品が従来型よりレジリエンスで有意に高かった。操作感で強さを推定しない。


