系統的レビュー・RCT・臨床研究・実験研究をPubMedで集め、ジルコニアと二ケイ酸リチウム(e.max)のインレー・オンレーを、生存率・材料の性質・壊れ方から比べた文献レビュー(17本)
「ジルコニアは割れないから長持ち」——インレーの材料選びで、そう聞くことがあります。でもインレーは保持形態が乏しく、接着の比重が大きい修復物です。強さの数字だけで選んでよいのか。17本の論文を並べて確かめました。
①「割れないジルコニア」は、インレーでも正解か
インレーの材料を選ぶとき、「ジルコニアは強いから長持ちする」という話を聞くことがあります。曲げ強さだけを見れば、たしかにジルコニアは二ケイ酸リチウム(e.max)を大きく上回ります。
ただしインレーは、窩洞の中に収まる修復物です。クラウンのような機械的な保持が乏しく、接着の比重が大きくなります。強さの数字だけで選んでよいのか。系統的レビュー・ランダム化比較試験(RCT)・臨床研究・実験研究をPubMedで集め、17本を並べて確かめました。
②臨床データの量が、まるで違う
ガラスセラミック系には長期の臨床データがあります。ただし、いちばん大きなメタ分析の対象研究の表には、二ケイ酸リチウム(e.max)の記載がありません(材料は区分だけで、最大の研究は材料不明)。e.maxに絞ったデータは、別の研究で見る必要があります。
二ケイ酸リチウムの部分被覆(Prott 2024・RCTの統合): 3年で93.7%。リューサイト強化ガラスセラミックは比較の組み合わせにより96.1〜98.3%で、短期では材料間に有意差はなく、長期の成績はまだ分からないとされた
二ケイ酸リチウムのインレー/オンレー/オーバーレイ(Lempel 2023・後ろ向き研究): 平均7.8年で96.8%、年間失敗率0.2%
プレスe.max・重度摩耗の患者(Margvelashvili-Malament 2024・前向き研究): 全冠を含む662本全体の生存率は98.6%。ただし臼歯の部分被覆(111本・失敗2本)の年間失敗率は0.4%で、全冠(0.1%)より高かった。有意差が出たのは前歯の全冠と臼歯のオンレーの間だけ
一方、単独のジルコニアインレー/オンレーの長期臨床研究は、今回の検索では見つかりませんでした。オンレーの系統的レビュー(Abduo 2018)も、ジルコニアのような高密度焼結セラミックのオンレーを評価した研究は無いと書いています。ジルコニアでデータがあるのは主に「インレーを支台にしたブリッジ」で、これは別の治療です。
- 全体を前装したジルコニアのインレー支台ブリッジ(30本)は、10年生存率12.1%でした。失敗25本の主な原因は、脱離(11本)とジルコニアのフレーム破折(6本、うち5本はインレーの峡部で破折)。著者らは「この方法の全前装型は勧められない」と結論しています。研究費と材料はメーカー(Ivoclar Vivadent)が提供していました(Rathmann 2017)。
- 前装しない一体型では、インレー型15人の試験的研究(3年まで追えたのは14人)で、脱落・破損による失敗はゼロ。ただし処置を要さずに済んだ割合(成功率)は72.7%でした(Bömicke 2025)。
- 片側支台のブリッジの5年RCTでは、ジルコニアと繊維強化レジンを合わせた生存率が91.7%。交換を要した失敗5件のうち、ジルコニアの連結部の破折が2件ありました(Kasem 2026)。
③唯一の直接比較——1年のRCT
ジルコニアとe.maxのインレーを直接比べた臨床研究は、探した範囲でBehera 2021の1本だけでした。2級インレーの患者30人を2群(各15人)にランダムに分け、1年追っています。
e.max(プレス)
1年生存率はジルコニア93%、e.max 100%で、統計的な差はありませんでした。ジルコニア群で失敗した1本は、接着の破綻による脱離です。著者らは、サンドブラスト+シラン系プライマー(Monobond N)ではジルコニアとの化学的な結合が得られなかったとし、MDPを加えると接着が強まるという既報を挙げています。あわせて、セメントの象牙質への接着の弱さも原因の候補としています。なお、この1本は2週後の最初の診査から適合の不良(咬合・隣接面の接触の不足、辺縁の段差)が記録されていました。
差がはっきり出たのは見た目です。色調と透明感が合っていたのは、e.max群100%に対し、ジルコニア群26.7%でした。そのほかの評価項目は、どちらに有利かを問わず有意差がありませんでした(例:咬合・隣接面の接触が正常だった割合は、ジルコニア80%、e.max 66.7%)。
④強さと接着——どこが違うのか
破壊じん性: 二ケイ酸リチウム 2.5〜3 MPa·m1/2、ジルコニア 6〜8 MPa·m1/2
接着: e.maxはフッ酸エッチング+シランで、微細な凹凸と化学結合の両方が得られる。ジルコニアはガラス成分を含まず従来のシラン処理が効きにくいため、サンドブラストに加えMDP系が勧められる
(強さ・じん性の値と接着の説明は Behera 2021 の緒言・考察による)
強さではジルコニアが上回ります。ただ、厚さ0.2〜2.0mmの咬合面オンレーを想定した理論計算(有限要素解析と板の理論。1回の荷重での計算で、インレーは対象外)では、0.6〜1.4mmの範囲でエナメル質に接着した二ケイ酸リチウムは、セメント面から割れ始める荷重がジルコニアの約75%に迫るとされました。象牙質に接着した場合は約57%で、比べたジルコニアは曲げ強さ1000MPaの従来型です。著者らは、ジルコニアより歯との弾性率の差が小さいことを理由に挙げています(Ma 2013)。材料の強さの差が、そのまま修復の差になるわけではありません。
⑤実験室の「割れにくさ」をどう読むか
抜去歯を使った実験では、結果は形によって分かれました。下顎第三大臼歯(各群10本・垂直の静的荷重)の実験では、インレーはe.maxもジルコニアも健全歯と有意差がなく、オンレーではe.maxだけが有意に低くなりました。この実験のジルコニアとe.maxは、どちらも前装したものです。壊れ方は、e.maxは20本中17本が「修復物だけ」か「歯のごく一部を含む」破折だったのに対し、ジルコニアは20本中16本が「歯の半分以上」か「歯周組織まで及ぶ」破折でした(Burke分類)。ただし著者らは、その荷重は口の中では起こりにくい大きさだとしています(Saridag 2013)。
根管治療した上顎小臼歯のオンレーに45度で荷重をかけた実験でも、透光性ジルコニアは破折荷重が最も高い一方、修復できない壊れ方が70%でした(他の実験群は10〜30%)。同じ実験で、e.max CADのオンレーは破折強度も壊れ方も健全歯と同程度でした(Suksawat 2023)。
別の角度の研究もあります。咀嚼を模した100Nの荷重で応力の分布を計算した有限要素解析(下顎第一大臼歯、接着は完全に保たれると仮定)では、ジルコニアのインレーは修復物自体の応力が最も高く(58.5MPa)、エナメル質の応力はレジン系インレーの半分でした。ただしe.maxのインレーと比べると、エナメル質はe.max 5.3/ジルコニア 4.8MPaとほぼ同じで、セメントの応力はむしろジルコニアのほうが高い(e.max 3.2/ジルコニア 4.4MPa)結果です。どの修復物でも応力は材料の強さを超えていません。著者らは、インレーは応力が高く不利だとして、大臼歯のMOD窩洞は咬頭を覆う修復物にすべきと結論しています(Dejak 2020)。
抜去歯実験は「どう壊れるか」を、解析は「壊れる前にどこへ力が集まるか」を見ていて、測っているものも条件も違います。並べて勝ち負けは決められません。2つの抜去歯実験からは、ジルコニアは壊れたときに歯ごと割れやすい傾向が見えますが、どちらも各群約10本・1回の荷重の結果です。
製作面の報告もあります。補綴物40,344件(うち作り直し2,612件)を調べた技工所の調査では、作り直しの理由は、材料を問わず辺縁の適合(29.5%)が最多でした。そのうえで他の材料と比べると、一体型ジルコニアでは隣接面の適合の不具合が、二ケイ酸リチウムでは色調の不一致が多くなっていました。なお対象はクラウン・ベニア・ブリッジ・オンレー・エンドクラウンで、インレーは含まれていません(Alkadi 2026)。
⑥明日の臨床へ——使い分けの目安
ここからは、文献が直接示した結論ではなく、ここまでの文献をふまえた筆者の目安です。
ジルコニアを検討してもよい場面: 咬合面のスペースが十分に取れず、強度を優先したいとき。ガラスセラミックで破折を繰り返したとき。欠損部をインレー支台のブリッジで補うとき(前装しない一体型に限る)
ジルコニアを使うなら: サンドブラスト+MDP系のプライマー/セメントで接着する。隣接面の接触を試適で確かめる
薄さについて。前述の理論計算では、エナメル質に接着した場合に限り、厚さ1.2mmの二ケイ酸リチウムでも1.6mmと同程度の荷重で割れ始めるとされました。著者らの設定では、厚くするほど支えのエナメル質が薄くなり、エナメル質による補強が弱まるとされています(Ma 2013)。一方、オンレーの系統的レビューは、リューサイト強化型オンレーの研究をもとに、咬合面2mm以上で失敗が減る可能性を挙げています(Abduo 2018)。
同じレビューは、失活歯・より後方の歯・パラファンクションのある患者で失敗が多い傾向がありそうだとしつつ、失活そのものを危険因子とは言い切れないとしており、研究間で結果は一致していません。Morimoto 2016では、歯内療法の合併症は失活歯で多く(3研究の合計で生活歯142/2,236本=6.4%、失活歯34/132本=25.8%。オッズ比0.19、95%CI 0.04〜0.96、本文の数から計算したリスク比は約0.25)、歯種(小臼歯と大臼歯)の差は有意ではありませんでした。セラミックの材料や製作法の違いは、現在は使われない鋳造セラミックを除けば、はっきりした優劣が報告されていないとされています(Abduo 2018、4研究)。材料選びと同じくらい、症例の条件を見ることが大切です。
そして、ジルコニアインレーを「割れないから長持ちする新しい選択肢」と患者さんに説明するのは、今のデータでは言いすぎです。
今日のひとこと
通常のインレーは、e.maxを基本に。ただしガラスセラミック系の長期データは対象研究の表にe.maxの記載がなく、e.max単独は平均7.8年・最長14年の研究や3年のRCT統合が中心だ。ジルコニアは強さでは上回るが、単独インレーの長期臨床データは今回探した範囲では見当たらず、唯一の1年RCTでは色調・透明感が合ったのは26.7%だった。使うならサンドブラスト+MDP系で接着し、「割れないから長持ち」とは説明しない。
1. Morimoto S, et al. Survival Rate of Resin and Ceramic Inlays, Onlays, and Overlays: A Systematic Review and Meta-analysis. J Dent Res. 2016. doi:10.1177/0022034516652848. PMID: 27287305
2. Prott LS, et al. Survival and Complications of Partial Coverage Restorations on Posterior Teeth: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Esthet Restor Dent. 2024. doi:10.1111/jerd.13353. PMID: 39558793
3. Lempel E, et al. Clinical evaluation of lithium disilicate versus indirect resin composite partial posterior restorations: A 7.8-year retrospective study. Dent Mater. 2023. doi:10.1016/j.dental.2023.10.017. PMID: 37821330
4. Margvelashvili-Malament M, et al. Over 14-year survival of pressed e.max lithium disilicate glass-ceramic complete and partial coverage restorations in patients with severe wear. J Prosthet Dent. 2024. doi:10.1016/j.prosdent.2024.06.031. PMID: 39084921
5. Behera R, et al. The One-Year In Vivo Comparison of Lithium Disilicate and Zirconium Dioxide Inlays. Materials (Basel). 2021;14(11):3102. doi:10.3390/ma14113102. PMID: 34198824
6. Rathmann F, et al. Veneered zirconia inlay-retained fixed dental prostheses: 10-Year results from a prospective clinical study. J Dent. 2017. doi:10.1016/j.jdent.2017.06.008. PMID: 28647157
7. Bömicke W, et al. Three-year performance of inlay-retained or wing-retained zirconia resin-bonded fixed partial dentures – results from a randomized clinical pilot study. J Dent. 2025. doi:10.1016/j.jdent.2025.105807. PMID: 40339895
8. Kasem AT, et al. Five-year outcomes of zirconia and fiber-reinforced composite cantilever inlay-retained fixed dental prostheses with different retainer designs: A randomized controlled clinical trial. J Dent. 2026. doi:10.1016/j.jdent.2026.106877. PMID: 42392351
9. Ma L, et al. Load-bearing properties of minimal-invasive monolithic lithium disilicate and zirconia occlusal onlays: finite element and theoretical analyses. Dent Mater. 2013. doi:10.1016/j.dental.2013.04.004. PMID: 23683531
10. Saridag S, et al. Fracture resistance of teeth restored with all-ceramic inlays and onlays: an in vitro study. Oper Dent. 2013. doi:10.2341/12-211-L. PMID: 23391033
11. Suksawat N, et al. Fracture resistance and fracture modes in endodontically treated maxillary premolars restored using different CAD-CAM onlays. J Prosthodont Res. 2023. doi:10.2186/jpr.JPR_D_22_00311. PMID: 37225522
12. Dejak B, et al. A comparison of mvM stress of inlays, onlays and endocrowns made from various materials and their bonding with molars in a computer simulation of mastication – FEA. Dent Mater. 2020. doi:10.1016/j.dental.2020.04.007. PMID: 32473834
13. Alkadi L, et al. Prevalence and associated factors of laboratory remakes in fixed prosthodontics: a multicenter audit in Riyadh, Saudi Arabia. Saudi Dent J. 2026. doi:10.1007/s44445-025-00110-2. PMID: 41680354
14. Abduo J, et al. Longevity of ceramic onlays: A systematic review. J Esthet Restor Dent. 2018. doi:10.1111/jerd.12384. PMID: 29676497
そのほか、Bömicke W ほか 2024(ジルコニアによる対合歯摩耗の5年研究、PMID: 39672934)、Nasr DM ほか 2024(部分被覆の疲労試験、PMID: 39616090)、Ferrairo BM ほか 2024(ガラスセラミック修復の系統的レビュー、PMID: 38849264)を参照した。


