スメア層の違いがセルフエッチアドヒーシブの接着耐久性に与える影響(Takamizawa 2018・Dent Mater)
窩洞形成を終えて、そのままアドヒーシブを塗る。セルフエッチはスメア層を溶かして取り込む設計なので、切削面の粗さは気にしなくていい——そう理解している方は多いと思います。この研究は、そこに疲労試験という物差しを当てました。1回で壊す接着強さではなく、繰り返し力をかけて壊れるまでを測る試験です。すると、エナメル質ではほとんど差が出ないのに、象牙質では粗い切削面で有意に落ちる製品が現れました。しかも、落ちる製品と落ちない製品がある。
①形成を終えた面を、そのまま塗っていませんか
タービンで窩洞形成を終える。切削面には、削りかすが押しつぶされてできたスメア層が乗っている。エッチ&リンスならリン酸で洗い流しますが、セルフエッチはこれを溶かして取り込む設計です。
だから、多くの人はこう理解しています。「セルフエッチなら、切削面の粗さは気にしなくていい」。
実際、セルフエッチのエッチング能力は低いのでスメア層を完全には溶かせません。その代わり、機能性モノマーがハイドロキシアパタイトに強い親和性を持つので、機械的な嵌合よりも化学的結合に頼っていると考えられています。溶けきらなかったスメア層はモノマーが浸透して「レジン・スメア複合体」あるいは「ハイブリッド化スメア層」になる——理屈は通っています。
この研究は、そこに疲労試験という別の物差しを当てました。
②1回で壊す強さと、繰り返して壊れる強さ
接着の実験でよく見るのはせん断接着強さ(SBS)です。一方向に力を増やしていき、壊れた時点の値を測る。
これに対してせん断疲労強さ(SFS)は、壊れない程度の力を繰り返しかけ続けて、その条件で耐えられる強さを求めます。咀嚼は繰り返し荷重です。どちらが臨床に近いかは言うまでもありません。
三元配置分散分析(SBSのデータに対する解析です)の結果、基質(エナメル質か象牙質か)・表面条件(スメア層)・アドヒーシブの3因子すべてがSBSに有意に影響しました(p<0.001)。交互作用としては基質×アドヒーシブだけが有意で(p<0.001)、他の組み合わせには有意な交互作用がありませんでした。
③象牙質で、粗い面が効いてくる
まず、はっきりした差から。2ステップセルフエッチの2製品は、スメア層の条件にも基質にもかかわらず、1ステップ系より有意に高い疲労強さを示しました。
そのうえで、スメア層の影響です。象牙質では、スコッチボンド ユニバーサル・ジーエニアル ボンド・クリアフィル SEボンドの3製品で、#180が#600・#4000より有意に低くなりました(#600と#4000のあいだには差なし)。
数字を見ると、落ち方の大きさが分かります。クリアフィル SEボンドは #4000で28.9 MPa なのに、#180では22.5 MPa。ジーエニアル ボンドは17.9→14.6、スコッチボンド ユニバーサルは19.9→16.0。
興味深いのは影響を受けなかった製品もあることです。オプチボンド XTR(25.0/26.5/26.3)とプライム&ボンド エレクト(12.5/12.1/12.5)は、どのスメア層でも変わりませんでした。ただし両者の意味はまったく違います。前者は高い水準で安定し、後者は低い水準で安定している——プライム&ボンド エレクトは、1ステップ系のなかでも有意に低い値でした。
エナメル質では、話が変わります。ほとんどの製品でスメア層による有意差が出ませんでした。唯一の例外がジーエニアル ボンドで、SBSでは差がなかったのに、SFSでは#4000が#180より有意に高い——疲労試験でだけ差が出た、という形です。
SBSのほうも見ておきます。エナメル質SBSでは、どの製品でもスメア層による有意差はありませんでした(ただし#4000が#180・#600より高い傾向)。象牙質SBSでは、スコッチボンド ユニバーサルだけが#600・#4000で#180より有意に高い。つまりジーエニアル ボンドとクリアフィル SEボンドの2製品では、象牙質SBSで見えなかった差が、SFSではじめて現れたことになります(スコッチボンド ユニバーサルはSBSの段階ですでに差が出ていました)。
④SEMが見せたもの
なぜ象牙質でだけ差が出るのか。SEM観察が手がかりを与えます。
#180群では、どのアドヒーシブでもアドヒーシブ層の厚みが不均一で、界面が不整でした。#600群はその中間。そしてエナメル質側の界面では、オプチボンド XTR を除くすべての製品で、SiCの番手が上がる(=面が滑らかになる)ほどハイブリッド化スメア層が薄くなりました。#180群では、ハイブリッドスメア層がはるかに厚く、スメア層の断片がはっきり見えたのです。
象牙質側ではもう一段の観察があります。1ステップ系は#600・#4000群で界面近傍に薄く高密度の移行層を作ったのに対し、2ステップの2製品は低密度の移行層を持っていた。とくにオプチボンド XTR は約0.5µmの低密度層があり、典型的なハイブリッド層に見えたと書かれています。
そして決定的な差。スコッチボンド ユニバーサルとクリアフィル SEボンドでは、#180群でスメアプラグ(象牙細管を塞ぐ栓)が残り、レジンタグが他の条件より短かった。一方他の製品のモノマーは、#180群の厚いスメアプラグも含めてすべてを越えて象牙細管に浸透できていた。
では、なぜ象牙質でだけ差が出たのか。著者らは3つの説明を挙げています。
②象牙質ではコラーゲンが障壁になる: 象牙質のスメア層はハイドロキシアパタイトを含む、無秩序な有機性の残屑でできている。つまり厚いスメア層ほど残存コラーゲン線維が多い。象牙質コラーゲンの分子間隙は約1.3nmで、一般的な歯科用モノマー(長さ2nm超)にとっては障壁になる。だから厚い象牙質スメア層は、モノマーの浸透を妨げうる。
③エナメル質では逆に「高速道路」になりうる: エナメル質では、厚いスメア層のほうが薄いものより多孔性で、既にある断片がむしろレジンモノマーの浸透の「高速道路(highway)」になりうる。だから事前エッチングを行わない場合、脱灰の効果よりもモノマーが浸透して化学的結合を作る能力のほうが重要かもしれない、と著者らは書いています。
アドヒーシブ層の厚みも記録されています。プライム&ボンド エレクトが最も薄く約2〜5µm、スコッチボンド ユニバーサルとジーエニアル ボンドが約5〜10µm、2ステップ系はより厚く、とくにクリアフィル SEボンドは約40〜50µm。ただし層の厚みそのものは、スメア層の条件が変わってもほぼ変わりませんでした。
⑤明日の臨床へ
①切削面の仕上げは、無視できる変数ではない。とくに象牙質側。粗い切削面のまま塗ると、製品によっては疲労強さが2割前後落ちます。窩洞形成の最後にファインの(細かい粒度の)バーで一度なでる——それだけの手間が、この差を埋めうる。この研究の#600と#4000のあいだに差がなかったことは、鏡面まで磨く必要はないことも示しています。
②「2ステップだから安心」ではない。2ステップ系が全体として高い水準にあるのは確かですが、クリアフィル SEボンドも#180では有意に落ちています。ステップ数と、スメア層への強さは別の話です。
③製品ごとの癖を知っておく。スメア層の条件に左右されなかったのはオプチボンド XTR とプライム&ボンド エレクトの2つですが、意味はまったく違います。オプチボンド XTR は高い水準のまま安定し(唯一、番手が上がってもハイブリッドスメア層が薄くならなかった製品でもあります)、プライム&ボンド エレクトは低い水準で安定していました。ただしこれは平坦に研磨した面での実験なので、「切削面を整えにくい部位ではこの特性が効くかもしれない」という仮説が立つところまでです。
④SBSだけで材料を選ばない。この研究のいちばんの教訓かもしれません。1回で壊す強さでは見えなかった差が、繰り返し荷重では見えた。カタログの接着強さは大きな数字が並びますが、口の中で起きているのは繰り返しです。SFS/SBS比(疲労強さが静的強さの何割か)は、基質で顔ぶれが変わります。エナメル質ではオプチボンド XTR とプライム&ボンド エレクトが高め、象牙質ではオプチボンド XTR・クリアフィル SEボンド・ジーエニアル ボンドが高く、スコッチボンド ユニバーサルとプライム&ボンド エレクトが低い。そしてジーエニアル ボンドとクリアフィル SEボンドは、#600・#4000で#180より比が上がります——粗い面では「強さのわりに疲労に弱い」状態になっていた、と読めます。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
スメア層の影響は、製品ごとに違う。エナメル質ではほとんど差が出ないのに、象牙質では粗い切削面(#180)で疲労強さが有意に落ちる製品があった。しかもその落ち方は、ステップ数の違いだけでは説明できない——クリアフィル SEボンドも#180では落ちている。そして基質が変われば、生まれるスメア層も変わり、接着の質も変わる。それがこの研究の結論である。


