セラミック修復の対合天然歯がどれだけ摩耗するかを扱った臨床研究14本を集め、材料別・時間別にメタ回帰とメタ解析で整理した系統的レビュー(León Velastegui 2022・J Clin Med)
「ジルコニアは硬いから、対合の歯が削れる」——一度は聞いたことがある話だと思います。硬さの数字だけを見れば、もっともらしい。ではバレンシア大学とチンボラソ大学のグループが、臨床研究14本を集めて材料別に並べたとき、いちばん対合歯を削っていたのは何だったか。答えは、私たちがいちばん長く使ってきた材料でした。ただしこのレビュー、数字の読み方にいくつか注意が要ります。
①「ジルコニアは硬いから、対合が削れる」
臼歯部にジルコニアを入れるとき、頭をよぎるのはこの一言だと思います。硬い材料は、向かい合った天然歯を削るのではないか。
硬さの数字だけを見れば、筋は通っています。ジルコニアはエナメル質よりずっと硬い。けれども臨床で長年見てきた光景を思い返すと、対合歯がすり減っているのは、むしろ古いポーセレン冠の向かいだったという記憶もあるはずです。
バレンシア大学(スペイン)とチンボラソ大学(エクアドル)のグループが、ヒトの臨床研究だけを14本集めて、材料別に対合歯の摩耗量を並べました。
②臨床研究だけを14本、集めた
組み入れたのはヒトの臨床研究のみで、ブラキシズム患者・乳歯・インプラント補綴・in vitro は除外している。被験者は各研究9〜60名、年齢18〜73歳、対象は小臼歯と大臼歯、観察期間は3〜36か月。摩耗の測定はシリコーン印象+模型のスキャンや口腔内スキャナーなどさまざまで、解析ソフトも Geomagic・Polyworks が中心。
ランダム効果モデルでメタ回帰とメタ解析を行った。バイアスリスクは Cochrane RoB 2.0 で評価し、14件中12件が「高リスク」・1件が「不明」・1件が「低リスク」だった。
in vitro を除いた点は、この分野では大きな判断です。実験室の摩耗試験は「材料の硬さ」を素直に反映しますが、口の中の摩耗は咬合力・食物の性状・唾液・歯の位置に左右されます。
③結果——長石系が、ジルコニアの約19倍
長石系セラミック 0.2734 mm³、ハイブリッドセラミック 0.0305 mm³、二ケイ酸リチウム 0.0189 mm³、ジルコニア 0.0141 mm³。長石系はジルコニアの約19倍です。
ただし、この4つの数字は同じ土俵で並んだものではありません。体積摩耗を解析した研究は14本中4本だけで、その内訳は Aladağ 2019(e.max CAD/Cerasmart/Suprinity/Enamic)、Lohbauer 2017(ジルコニアのみ)、Tang 2021(ジルコニアのみ)、Silva 2011(メタルセラミック/Empress 2/e.max Press)。つまり体積で長石系を測ったのは Silva 2011 の1本、ハイブリッドを測ったのは Aladağ 2019 の1本だけで、4材料を同一研究の中で比べた研究は存在しません。棒の高さの差は、異なる研究・異なる測定法・異なる観察期間(3〜36か月)から推定された値どうしの差です。「約19倍」は、直接比較の結果ではありません。
それでも「長石系が最も削る」という向きだけは、複数の場所で一貫しています。著者らも「長石系はほとんどの研究で比較の基準=ゴールドスタンダードとして扱われてきたが、生体内でも実験室でも、線的・体積的の両方で最も摩耗を起こす」と書いており、線的摩耗の推定値(8.9149 µm)でも最大です。基準として置かれてきた材料が、実は最も攻撃的だった——この構図が、このレビューのいちばん面白いところです。
そして、この論文には正直に断っておくべき食い違いが複数あります。
②「降順に並べた」と書いてある並びが降順でない。8.9149 → 0.0189 → 0.2574 は降順ではない。
③二ケイ酸リチウムの線的摩耗(µm)と体積摩耗(mm³)が、どちらも 0.0189 という同じ値になっている。
④同じ「線的摩耗(µm)」なのに、後述のジルコニアの平均差(20.7〜31.8 µm)と、この推定値(0.2574 µm)は100倍近く食い違う。前者は「天然歯どうしとの差」を統合したメタ解析、後者は材料を説明変数に置いたメタ回帰の推定値で、同じ尺度で比べられる数字ではない。
材料間の細かい順位を数字ごと引用するのは、避けたほうが安全です。
④ジルコニアと天然歯の差は、時間とともに縮んだ
もうひとつの解析では、ジルコニア冠に対合する天然歯の線的摩耗を、同じ患者の天然歯どうしの摩耗と比べています。平均差は6か月で 31.755 µm、12か月で 24.648 µm、24か月で 20.662 µm。時間とともに差が縮んでいます。
著者らはここから「ジルコニアによる摩耗は時間とともに減り、やがて天然歯の生理的摩耗と同等かそれ以下になる」と結論しました。接触点が使われるうちに滑らかになり、攻撃性が落ちるという読み方です。
ただし、この3点は同じ集団を追った推移ではありません。6か月・12か月・24か月で組み入れられた研究の顔ぶれが違います(12か月=4研究、24か月=3研究。6か月については原著が「2研究を統合した」と書きながら3本の文献を引いており、ここも食い違っています)。しかも12か月の推定は異質性が非常に高い(Q=99.518・p<0.0001)。「縮んでいく」という形は魅力的ですが、根拠としては弱いほうです。
なお、このレビュー自身が推定した天然歯どうしの生理的摩耗は、単位時間(月)あたり 0.7974 µm です。ただしこの推定は統計的に有意ではありません(p=0.1522・95%CI −0.2941〜1.889=ゼロをまたぐ)。原著はこれをもとに年間およそ 9.5658 µm という値を示していますが、0.7974を12倍すると 9.5688 で、原著の記載値とはわずかに合いません。著者らが引用している別の報告では、大臼歯で年間29 µm、小臼歯で15 µm とされており、この数字も幅をもって受け取るべきです。
⑤明日の臨床へ:磨くか、グレーズするか
このレビューでいちばん実務に直結するのは、材料の順位ではなく表面処理の話かもしれません。
それでも方向としては筋が通っています。グレーズ層はガラス質で、長石系に近い性質だと考えられます——これは原著の記述ではなく筆者の推論ですが、このレビューでいちばん確かな所見(長石系が最も削る)と矛盾しません。咬合調整でグレーズを削ったあと、再グレーズを頼むのか、鏡面まで研磨するのか——この判断の参考にはなりますが、「この論文が証明した」とは言えないのが正確なところです。
もうひとつ、ハイブリッドセラミック(レジンマトリックス系)は定期的な再研磨が推奨される点も触れられています。使ううちにフィラーがマトリックスから脱落して表面粗さが増し、摩耗が進むためです。ただしこの材料のデータは1研究(Aladağ 2019)にしか由来していません。
まとめると、このレビューから確度をもって持ち帰れるのは「長石系が最も対合歯を削る」という向き1本です。表面処理の話は、方向として参考にはなるが、この論文が検証したものではない——そう位置づけておくのが誠実でしょう。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
体積でみた対合歯の摩耗量は、長石系セラミック 0.2734 mm³ に対し、ハイブリッドセラミック 0.0305、二ケイ酸リチウム 0.0189、ジルコニア 0.0141 mm³。長石系がジルコニアの約19倍で、いちばん対合歯を削っていたのは「硬い新素材」ではなく、いちばん長く使われてきた材料だった。この向きは線的摩耗の推定値でも同じで、「長石系が最も対合を削る」は §3 の推定値でも §4 の考察でも結論でも一貫している。ただし、この4つの数字は同じ土俵で比べられたものではない。体積を解析した研究は14本中4本しかなく、そのうち長石系を測ったのは Silva 2011 の1本、ハイブリッドを測ったのは Aladağ 2019 の1本だけ——4材料を同一研究内で比較したものは1本も無い。さらに14研究中12研究がバイアスリスク高で、線的摩耗の数値(長石系 8.9149/ジルコニア 0.2574/二ケイ酸リチウム 0.0189 µm)は、同じ論文の考察が示す順位(「最も少ないのはジルコニア」)と矛盾し、さらに別解析で示されたジルコニアの平均差(20.7〜31.8 µm)とは桁が合わない。持ち帰れるのは「長石系が最も対合を削る」という向きまでで、材料間の細かい順位を数字ごと引用するのは避けたほうがよい。


