1問1答 論文 保存修復

対合歯を削っているのは、どの材料か——順位は出た。ただしその数字は、直接比べた結果ではない

1問1答 論文 保存修復

セラミック修復の対合天然歯がどれだけ摩耗するかを扱った臨床研究14本を集め、材料別・時間別にメタ回帰とメタ解析で整理した系統的レビュー(León Velastegui 2022・J Clin Med)

「ジルコニアは硬いから、対合の歯が削れる」——一度は聞いたことがある話だと思います。硬さの数字だけを見れば、もっともらしい。ではバレンシア大学とチンボラソ大学のグループが、臨床研究14本を集めて材料別に並べたとき、いちばん対合歯を削っていたのは何だったか。答えは、私たちがいちばん長く使ってきた材料でした。ただしこのレビュー、数字の読み方にいくつか注意が要ります。

論文
Enamel Wear of Antagonist Tooth Caused by Dental Ceramics: Systematic Review and Meta-Analysis
著者
León Velastegui M, Montiel-Company JM, Agustín-Panadero R, Fons-Badal C, Solá-Ruíz MF
掲載
Journal of Clinical Medicine 2022;11(21):6547(doi:10.3390/jcm11216547)
種類
系統的レビュー+メタ解析/メタ回帰(PRISMA準拠・PROSPERO登録 CRD42022316252。Embase/Scopus/Web of Science を2022年6月30日まで検索し245件→重複除去240件→最終14研究〔うち2件は手検索〕。対象はヒト臨床研究のみで、ブラキシズム患者・乳歯・インプラント補綴・in vitro は除外。被験者9〜60名・年齢18〜73歳・観察期間3〜36か月。ランダム効果モデル。バイアスリスクは Cochrane RoB 2.0 で評価し、14件中12件が高リスク・1件が不明・1件が低リスク)
PMID
36362777

「ジルコニアは硬いから、対合が削れる」

臼歯部にジルコニアを入れるとき、頭をよぎるのはこの一言だと思います。硬い材料は、向かい合った天然歯を削るのではないか。

硬さの数字だけを見れば、筋は通っています。ジルコニアはエナメル質よりずっと硬い。けれども臨床で長年見てきた光景を思い返すと、対合歯がすり減っているのは、むしろ古いポーセレン冠の向かいだったという記憶もあるはずです。

バレンシア大学(スペイン)とチンボラソ大学(エクアドル)のグループが、ヒトの臨床研究だけを14本集めて、材料別に対合歯の摩耗量を並べました。

臨床研究だけを14本、集めた

研究の骨格: PRISMA準拠・PROSPERO登録(CRD42022316252)の系統的レビュー。Embase/Scopus/Web of Science を2022年6月30日まで検索し、245件から最終的に14研究を採用した。
組み入れたのはヒトの臨床研究のみで、ブラキシズム患者・乳歯・インプラント補綴・in vitro は除外している。被験者は各研究9〜60名、年齢18〜73歳、対象は小臼歯と大臼歯、観察期間は3〜36か月。摩耗の測定はシリコーン印象+模型のスキャンや口腔内スキャナーなどさまざまで、解析ソフトも Geomagic・Polyworks が中心。
ランダム効果モデルでメタ回帰とメタ解析を行った。バイアスリスクは Cochrane RoB 2.0 で評価し、14件中12件が「高リスク」・1件が「不明」・1件が「低リスク」だった。

in vitro を除いた点は、この分野では大きな判断です。実験室の摩耗試験は「材料の硬さ」を素直に反映しますが、口の中の摩耗は咬合力・食物の性状・唾液・歯の位置に左右されます。

結果——長石系が、ジルコニアの約19倍

0 0.1 0.2 0.3 対合歯の体積摩耗量(mm³) 0.2734 0.0305 0.0189 0.0141 長石系セラミック ハイブリッドセラミック 二ケイ酸リチウム ジルコニア メタ回帰で推定した対合天然歯の体積摩耗量(mm³)。⚠️体積を解析した研究は14本中4本しかなく、しかも同じ研究の中で4材料を比べたものは1本も無い(長石系の値は Silva 2011、ハイブリッドは Aladağ 2019の各1研究に由来)。また観察期間を有意なモデレータに含んだ推定値であり、特定の期間に削れる実測量ではない
材料別にみた対合天然歯の体積摩耗量。ただし4材料を同一研究内で比べたものは1本も無い(後述)

長石系セラミック 0.2734 mm³、ハイブリッドセラミック 0.0305 mm³、二ケイ酸リチウム 0.0189 mm³、ジルコニア 0.0141 mm³。長石系はジルコニアの約19倍です。

ただし、この4つの数字は同じ土俵で並んだものではありません。体積摩耗を解析した研究は14本中4本だけで、その内訳は Aladağ 2019(e.max CAD/Cerasmart/Suprinity/Enamic)、Lohbauer 2017(ジルコニアのみ)、Tang 2021(ジルコニアのみ)、Silva 2011(メタルセラミック/Empress 2/e.max Press)。つまり体積で長石系を測ったのは Silva 2011 の1本、ハイブリッドを測ったのは Aladağ 2019 の1本だけで、4材料を同一研究の中で比べた研究は存在しません。棒の高さの差は、異なる研究・異なる測定法・異なる観察期間(3〜36か月)から推定された値どうしの差です。「約19倍」は、直接比較の結果ではありません。

それでも「長石系が最も削る」という向きだけは、複数の場所で一貫しています。著者らも「長石系はほとんどの研究で比較の基準=ゴールドスタンダードとして扱われてきたが、生体内でも実験室でも、線的・体積的の両方で最も摩耗を起こす」と書いており、線的摩耗の推定値(8.9149 µm)でも最大です。基準として置かれてきた材料が、実は最も攻撃的だった——この構図が、このレビューのいちばん面白いところです。

そして、この論文には正直に断っておくべき食い違いが複数あります

①§3の推定値と、§4の考察の記述が合わない。 推定値は長石系 8.9149 µm/ジルコニア 0.2574 µm/二ケイ酸リチウム 0.0189 µm で、数字の上では二ケイ酸リチウムがジルコニアより少ない。ところが考察は「線的摩耗が最も少ないのはジルコニア」と書き、同じ段落で「二ケイ酸リチウムは中間の摩耗=ジルコニアより少ない」とも書いていて、前後の文が互いに矛盾している
②「降順に並べた」と書いてある並びが降順でない。8.9149 → 0.0189 → 0.2574 は降順ではない。
③二ケイ酸リチウムの線的摩耗(µm)と体積摩耗(mm³)が、どちらも 0.0189 という同じ値になっている。
④同じ「線的摩耗(µm)」なのに、後述のジルコニアの平均差(20.7〜31.8 µm)と、この推定値(0.2574 µm)は100倍近く食い違う。前者は「天然歯どうしとの差」を統合したメタ解析、後者は材料を説明変数に置いたメタ回帰の推定値で、同じ尺度で比べられる数字ではない

材料間の細かい順位を数字ごと引用するのは、避けたほうが安全です。

ジルコニアと天然歯の差は、時間とともに縮んだ

0 13.3 26.7 40 対照(天然歯どうし)との平均差(µm) 31.8 24.6 20.7 6か月 12か月 24か月 ジルコニア冠に対合する天然歯の線的摩耗を、同じ患者の天然歯どうしの摩耗と比べた平均差。⚠️各時点で組み入れた研究が異なるため、同一集団を追った推移ではない。12か月の推定は異質性が高い(Q=99.518・p<0.0001)
ジルコニア冠に対合する天然歯の摩耗を、天然歯どうしの摩耗と比べた平均差。ただし各時点で組み入れた研究が異なる

もうひとつの解析では、ジルコニア冠に対合する天然歯の線的摩耗を、同じ患者の天然歯どうしの摩耗と比べています。平均差は6か月で 31.755 µm、12か月で 24.648 µm、24か月で 20.662 µm。時間とともに差が縮んでいます。

著者らはここから「ジルコニアによる摩耗は時間とともに減り、やがて天然歯の生理的摩耗と同等かそれ以下になる」と結論しました。接触点が使われるうちに滑らかになり、攻撃性が落ちるという読み方です。

ただし、この3点は同じ集団を追った推移ではありません。6か月・12か月・24か月で組み入れられた研究の顔ぶれが違います(12か月=4研究、24か月=3研究。6か月については原著が「2研究を統合した」と書きながら3本の文献を引いており、ここも食い違っています)。しかも12か月の推定は異質性が非常に高い(Q=99.518・p<0.0001)。「縮んでいく」という形は魅力的ですが、根拠としては弱いほうです。

なお、このレビュー自身が推定した天然歯どうしの生理的摩耗は、単位時間(月)あたり 0.7974 µm です。ただしこの推定は統計的に有意ではありません(p=0.1522・95%CI −0.2941〜1.889=ゼロをまたぐ)。原著はこれをもとに年間およそ 9.5658 µm という値を示していますが、0.7974を12倍すると 9.5688 で、原著の記載値とはわずかに合いません。著者らが引用している別の報告では、大臼歯で年間29 µm、小臼歯で15 µm とされており、この数字も幅をもって受け取るべきです

明日の臨床へ:磨くか、グレーズするか

このレビューでいちばん実務に直結するのは、材料の順位ではなく表面処理の話かもしれません。

⚠️ここは「所見」ではなく「示唆」です。 著者らは考察の末尾で、研磨面を使った研究では摩耗が小さく出て、グレーズ面を使った研究では大きく出たと1文だけ述べています。ただしこれは統合推定もサブグループ解析もされておらず、別々の研究の結果を並べた記述にとどまります。しかもTable 3 を見るかぎり、同一研究の中で研磨面とグレーズ面を比べたのは Selvaraj 2021 の1本だけで、著者ら自身が限界の項で「表面の研磨やグレーズ、表面粗さは今後、解析の変数として組み込むべきだ」と書いています——つまりこのレビューが検証した項目ではありません

それでも方向としては筋が通っていますグレーズ層はガラス質で、長石系に近い性質だと考えられます——これは原著の記述ではなく筆者の推論ですが、このレビューでいちばん確かな所見(長石系が最も削る)と矛盾しません。咬合調整でグレーズを削ったあと、再グレーズを頼むのか、鏡面まで研磨するのか——この判断の参考にはなりますが、「この論文が証明した」とは言えないのが正確なところです。

もうひとつ、ハイブリッドセラミック(レジンマトリックス系)は定期的な再研磨が推奨される点も触れられています。使ううちにフィラーがマトリックスから脱落して表面粗さが増し、摩耗が進むためです。ただしこの材料のデータは1研究(Aladağ 2019)にしか由来していません

まとめると、このレビューから確度をもって持ち帰れるのは「長石系が最も対合歯を削る」という向き1本です。表面処理の話は、方向として参考にはなるが、この論文が検証したものではない——そう位置づけておくのが誠実でしょう。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:最大の弱点は元になった研究の質です。14研究中12研究が Cochrane RoB 2.0 で「高いバイアスリスク」と判定されています(低リスクは1件のみ)。加えて、摩耗の測定方法・使用ソフト・観察期間(3〜36か月)が研究ごとにばらばらで、著者ら自身が「摩耗を定量する標準的なプロトコルが存在しない」ことを限界として挙げています。上で触れたとおり本文の記述と数値表が食い違っている箇所もあり、細部の引用には原著の確認が要ります。またブラキシズム患者は除外されているので、いちばん摩耗が心配な患者層には、このデータをそのまま当てはめられません。観察期間も最長36か月で、10年20年の話ではありません。それでも、「長石系が最も対合歯を削る」という向きだけは、線的・体積的の両方の推定で一貫しており、臨床判断の材料として使える骨格だと言えます(ただし上で述べたとおり、体積の値は直接比較ではありません)。なお、上で挙げた食い違いはすべて本文どうし(§3の推定値と§4の考察)のもので、原著には摩耗量を載せた数値表がありません(Table 1・2は観察期間と測定法、Table 3は材料名と線的/体積的の別だけです)。本研究は外部資金を受けておらず、著者らは利益相反なしと申告しています。

今日のひとこと

体積でみた対合歯の摩耗量は、長石系セラミック 0.2734 mm³ に対し、ハイブリッドセラミック 0.0305、二ケイ酸リチウム 0.0189、ジルコニア 0.0141 mm³。長石系がジルコニアの約19倍で、いちばん対合歯を削っていたのは「硬い新素材」ではなく、いちばん長く使われてきた材料だった。この向きは線的摩耗の推定値でも同じで、「長石系が最も対合を削る」は §3 の推定値でも §4 の考察でも結論でも一貫している。ただし、この4つの数字は同じ土俵で比べられたものではない。体積を解析した研究は14本中4本しかなく、そのうち長石系を測ったのは Silva 2011 の1本、ハイブリッドを測ったのは Aladağ 2019 の1本だけ——4材料を同一研究内で比較したものは1本も無い。さらに14研究中12研究がバイアスリスク高で、線的摩耗の数値(長石系 8.9149/ジルコニア 0.2574/二ケイ酸リチウム 0.0189 µm)は、同じ論文の考察が示す順位(「最も少ないのはジルコニア」)と矛盾し、さらに別解析で示されたジルコニアの平均差(20.7〜31.8 µm)とは桁が合わない。持ち帰れるのは「長石系が最も対合を削る」という向きまでで、材料間の細かい順位を数字ごと引用するのは避けたほうがよい。

León Velastegui M, Montiel-Company JM, Agustín-Panadero R, Fons-Badal C, Solá-Ruíz MF. Enamel Wear of Antagonist Tooth Caused by Dental Ceramics: Systematic Review and Meta-Analysis. J Clin Med. 2022;11(21):6547. doi:10.3390/jcm11216547 PMID: 36362777
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。