1問1答 論文 保存修復

ラバーダムは接着強さを1.8〜1.9倍にした——しかも比べた「簡易防湿」は、実際の口の中より条件がよかった

1問1答 論文 保存修復

抜去第三大臼歯のエナメル質120面を、ボランティアの口に装着したスプリントに立てて実際に口腔内で接着し、ラバーダムの有無×接着システム2種でせん断接着強さと破壊様式を比べたin situ臨床研究(Falacho 2023・J Esthet Restor Dent)

ラバーダムの効用は誰もが知っています。それでも、多くの歯科医師は日常のコンポジットレジン修復でラバーダムをほとんど使いません。「ロールワッテとバキュームで、そこまで変わらないだろう」——その感覚を、コインブラ大学とペンシルベニア大学のグループが数字にしました。しかもこの研究、比較の設計が少し変わっています。

論文
Clinical in-situ evaluation of the effect of rubber dam isolation on bond strength to enamel
著者
Falacho RI, Melo EA, Marques JA, Ramos JC, Guerra F, Blatz MB
掲載
Journal of Esthetic and Restorative Dentistry 2023;35(1):48-55(doi:10.1111/jerd.12979)
種類
in situ 臨床研究(健全な抜去第三大臼歯30本の近心・遠心・頬側・舌側のエナメル質を平坦化して計120面。26歳女性ボランティアの上顎に3Dプリントした専用スプリントを装着し、そのスロットに1本ずつ立てて口腔内で接着操作を実施。ラバーダム有無 × 接着システム2種〔OptiBond FL=3ステップトータルエッチ/Prime&Bond active=ユニバーサル〕の4群に無作為割付〔各n=30・同一歯内で4群を比較〕。全群とも37.5%リン酸で30秒エッチング。37℃蒸留水7日保管後にせん断接着試験、破壊様式を2名の盲検評価者が判定。反復測定分散分析+Dunn–Šidák/McNemar検定)
PMID
36325593

「ロールワッテで、そこまで変わるのか」

ラバーダムが良いものだということは、誰も否定しません。それでも多くの歯科医師は、日常の修復処置でラバーダムをほとんど使いません。理由は手間で、その手間を許しているのは「ロールワッテとバキュームでも、そこまで変わらないだろう」という感覚です。

この感覚を検証しようとした研究は、これまで多くが「湿度チャンバー」を使ってきました。ところが著者らは、その方法に無理があると指摘します。チャンバーは呼吸の吸気・休止・呼気のサイクルを再現できず、常に高湿度に保たれるために水分の蒸発まで妨げてしまう——結果が悪いほうへ偏りやすい、というわけです。

そこでコインブラ大学(ポルトガル)とペンシルベニア大学のグループが選んだのは、実際の口の中で接着することでした。

抜去歯を、ボランティアの口に立てた

研究の骨格: 健全な抜去第三大臼歯30本の近心・遠心・頬側・舌側のエナメル質を平坦に整え、計120面を用意する。26歳女性ボランティアの上顎に合わせて専用スプリントを3Dプリントし、そのスロットに抜去歯を1本ずつ立てて、上顎前歯の唇面を修復するのと同じ位置・角度で口腔内に露出させた。
4群=ラバーダム有無 × 接着システム2種(OptiBond FL=3ステップ・トータルエッチ/Prime&Bond active=イソプロパノール系ユニバーサル)。同一歯の4面に4群を無作為に割り付けることで、エナメル質の条件を揃えている。
全群とも37.5%リン酸で30秒エッチングし、水洗・乾燥まで口腔外で実施。そこから先——接着材の塗布・エアブロー・光照射(20秒)——だけを口の中で行った。ラバーダム無しの群では、鼻呼吸を指示したうえでバキュームを設置し、さらに30秒間そのまま口腔内に置いてから接着材を塗っている。
7日間37℃蒸留水に保管後、せん断接着試験。破壊様式は盲検下の2名が40倍で判定した。検出力は100%。

「湿度」という変数だけを、実際の呼気で与えている——ここがこの研究の設計上の勘所です。

結果——どちらの接着材でも、およそ1.8〜1.9倍

0 13.3 26.7 40 せん断接着強さ(MPa) 30.84 16.33 23.16 12.57 OptiBond FL(3ステップ・トータルエッチ) Prime&Bond active(ユニバーサル) ラバーダムあり ラバーダムなし(簡易防湿) エナメル質へのせん断接着強さの平均(MPa・各n=30)。すべての組み合わせに有意差があるが、ラバーダム無しどうしの比較(OptiBond FL 対 Prime&Bond active)だけは p=0.008 で、他の組み合わせ(p<0.001)より一段弱い。標準偏差はラバーダム群が平均の約20%、無しの群は33〜42%(原著本文の記載)で、ばらつきも大きい
ラバーダムの有無によるせん断接着強さ。接着システムを問わず差がついた

OptiBond FL:16.33 → 30.84 MPa(1.89倍)。Prime&Bond active:12.57 → 23.16 MPa(1.84倍)。4群すべての組み合わせに有意差がつきました(p<0.05)。ただしラバーダム無しどうしの比較(OptiBond FL 対 Prime&Bond active)だけは p=0.008 で、他の組み合わせ(p<0.001)より一段弱い差です。

もう1点、原著の第2の結論も押さえておきます。3ステップの OptiBond FL がユニバーサルの Prime&Bond active を上回るという順位は、ラバーダムの有無にかかわらず両条件で保たれていました。つまり「良い接着材が、防湿を外すと逆転する」わけではありません——変わるのは落差とばらつきのほうです。ただし、防湿を外した3ステップ(16.33 MPa)は、ラバーダムを付けたユニバーサル(23.16 MPa)に届きません(この2群にも有意差がついています)。接着材の格より、防湿の有無のほうが効いていたということです。

もうひとつ、平均値より重要かもしれない数字があります。ばらつきです。標準偏差を平均に対する割合で見ると、ラバーダム群は約20%に収まったのに対し、無しの群はユニバーサルで約33%、3ステップで約42%(原著本文の記載。ただしTable 2 の値から計算すると 6.08/16.33=約37%で、原著の本文と表がここで合っていません)。とくに OptiBond FL をラバーダム無しで使った群では、最大 25.94 MPa・最小 3.00 MPa という開きが出ています。

つまり、ラバーダム無しの接着は「弱くなる」だけでなく「読めなくなる」。同じ手技をしても、その日その部位で 25 MPa 出ることもあれば 3 MPa しか出ないこともある——臨床的には、平均が下がることよりこちらのほうが厄介です。そして、この不安定さがいちばん大きかったのが、素の性能では最も高かった3ステップのほうでした。

破壊様式が、いちばん雄弁だった

0 20% 40% 60% エナメル質内での凝集破壊の割合(%) 33.3% 43.3% 0.0% 0.0% OptiBond FLラバーダムあり Prime&Bondラバーダムあり OptiBond FLなし Prime&Bondなし エナメル質そのものが割れた(=接着界面がエナメル質より強かった)検体の割合。ラバーダム無しの2群は60検体すべてが界面での接着破壊で、凝集破壊は1本も出ていない(p<0.05)
エナメル質そのものが割れた検体の割合。ラバーダム無しの2群では1本も出ていない

接着試験では、どこで壊れたかが接着強さの数字と同じくらい多くを語ります。

ラバーダム群では、エナメル質の中で割れる「凝集破壊」が 33.3%(OptiBond FL)・43.3%(Prime&Bond active)で起きました。ラバーダム無しの2群では、60検体(30+30)すべてが界面で剥がれる接着破壊で、凝集破壊はゼロです。

誤解のないように添えておくと、ラバーダム群でも多数派は接着破壊のままです(OptiBond FL 66.7%・Prime&Bond active 56.7%)。変わったのは「凝集破壊が起きるようになった」ことであって、「凝集破壊が主体になった」ことではありません。

凝集破壊が起きたということは、接着界面のほうがエナメル質そのものより強かったことを意味します。著者らの言葉を借りれば「適切な絶対防湿ができれば、どちらの接着システムでもエナメル質自体の凝集強度を超える接着が得られた」。逆に言えば、ラバーダム無しでは、どちらのシステムもエナメル質の強さに届いていません

なぜ湿度が、これほど効くのか

エナメル質接着は「乾いていること」を前提に設計されています(象牙質接着はむしろ適度な湿潤を要求するので、ここは逆です)。ところが呼気には水分が含まれ、その量はおよそ 27 mg/dm³。口腔内の平均温度は約30℃、相対湿度は約80%(幅は74〜94%)と報告されています。

この研究自身は口腔内の温度・湿度を測っていません(著者らが明記しています)。ただし引用されている先行研究では、ロールワッテによる簡易防湿では相対湿度100%になり、ラバーダムを使うと室内の湿度と同等まで下がるとされています。露出させる歯が1本でも複数でも、この効果は変わらないとも。湿度の話は、あくまでこの孫引きの上に立っていることは押さえておきたい点です。

そしてもうひとつ、接着材の組成による差。OptiBond FL に含まれるHEMA は親水性モノマーで、Prime&Bond active には入っていません。重合前に水を吸えば接着材が希釈され、重合度が下がる——OptiBond FL がラバーダム無しでとくに不安定になった理由を、著者らはここに求めています。「素の性能が高い接着材ほど、防湿を外したときの落差が大きい」という、少し皮肉な構図です。

明日の臨床へ

この研究のいちばん誠実な部分は、著者ら自身が「これは best-case scenario だ」と書いているところです。

①スプリントが、周囲組織からの湿気を完全に遮断していた。歯肉溝滲出液・唾液・出血が接着面に触れない条件——つまりこの研究の「簡易防湿」は、実際の簡易防湿より良い。
②上顎前歯部という、いちばん乾く位置で行われた。先行研究では、切歯部 26.2℃/84.8%RH に対し臼歯部は 27.3℃/90.7%RH
③レジンをカプセルで運んだため、置いた直後の湿気からも守られていた。
④臨床の修復はもっと時間がかかる=湿気に晒される時間が長い。
これらを踏まえて著者らは「下顎や上顎臼歯部など、より湿度の高い部位では影響がより顕著になるかもしれない」と書いている。ただしこれは著者らの仮定であって、この研究が測った部位ではない(切歯部と臼歯部の温湿度の差も、別の研究からの引用である)。

持ち帰るなら、こうなります。①エナメル質接着を伴う処置ではラバーダムを使う。②臼歯部・下顎ではさらに差が広がる可能性がある(ただし未検証)。③「良い接着材を使っているから大丈夫」は成り立たない——順位こそ変わりませんが、HEMA を含む高性能な3ステップほど、防湿を外したときの落差とばらつきが大きいのでした。

そして最初の問いに戻ります。ラバーダムを使わない理由は、ほとんどの場合「手間」です。この研究は、その手間の対価を数字にしました——接着強さがおよそ1.8〜1.9倍、ばらつきが半分、そして界面がエナメル質より強くなる。この対価を、どの処置で払うか。少なくともエナメル質接着の質がそのまま予後になる処置(前歯部のダイレクトボンディング、矯正のブラケット接着、シーラント、そしてラミネートベニアの接着)では、払う価値が数字で示されたと言えます。クランプがかからない・防湿が物理的に難しい部位をどうするかは、この研究の外側の問題ですが、そこを「だから全部やらない」の理由にしないことが、この論文の読み方でしょう。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:これは抜去歯を使ったin situ研究です。口腔内の湿度という変数は本物ですが、接着したのは平坦に削ったエナメル質面であり、窩洞形態も象牙質接着も含まれていません(OptiBond FL の象牙質プライマーは使っていない)。被験者は1名のみで、著者らも「呼吸パターンの個人差は今後の課題」としています。また温度・湿度の実測値はこの研究では記録されておらず、湿度の話は先行研究からの推論です。評価は7日後の1時点で、長期の耐久性や修復物の生存率は測っていません——著者らも「防湿レベルと修復物の生存を結ぶ臨床研究が必要」と結んでいます。なお著者らは、使用材料メーカーとの金銭的利害関係は無いと宣言しています(本記事が参照したオンライン先行版には、資金源の記載そのものがありません)。
もうひとつ、原著の抄録には破壊様式について「ラバーダム無しの群は接着破壊とエナメル質内凝集破壊、ラバーダム群は凝集破壊のみ」と書かれており、Table 2 および本文の結果と逆になっています。本記事は Table 2 と本文に従いました。

今日のひとこと

数字は思っていたより大きかった。エナメル質へのせん断接着強さは、OptiBond FL で 16.33 → 30.84 MPa(1.89倍)、Prime&Bond active で 12.57 → 23.16 MPa(1.84倍)。さらに効いてくるのはばらつきのほうで、ラバーダム群の標準偏差は平均の約20%に収まったのに対し、無しの群では33〜42%。OptiBond FL に至っては、ラバーダム無しで最大25.94 MPa・最小3.00 MPa という開きが出た。そして破壊様式——エナメル質内で割れる凝集破壊は、ラバーダム群にしか出ていない(33.3%・43.3%)。接着界面がエナメル質そのものより強くなったということだ。なお、3ステップの OptiBond FL がユニバーサルの Prime&Bond active を上回るという順位は、ラバーダムの有無にかかわらず両条件で保たれている(原著の第2の結論)。しかもこの研究の「簡易防湿」側は、スプリントが歯肉溝滲出液も唾液も出血も遮断した上、上顎前歯部という最も乾きやすい位置での実験で、著者らも「best-case scenario」と書いている。より湿度の高い臼歯部や下顎では影響がさらに強く出る可能性がある——ただしそれは著者らの仮定であって、この研究が測った部位ではない。

Falacho RI, Melo EA, Marques JA, Ramos JC, Guerra F, Blatz MB. Clinical in-situ evaluation of the effect of rubber dam isolation on bond strength to enamel. J Esthet Restor Dent. 2023;35(1):48-55. doi:10.1111/jerd.12979 PMID: 36325593
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。