1問1答 論文 保存修復

口腔内スキャナーは本当に精度が高いのか——隙間はおよそ半分。ただし比較の設計と、原著の数値には注意が要る

1問1答 論文 保存修復

支台歯形成したタイポドント大臼歯を、TRIOSの口腔内スキャンとシリコーン印象+石膏模型+ラボスキャンの2ルートでCo-Crコーピングにし、レプリカ法で内面の隙間を12点ずつ測って比べたin vitro研究(Zarbakhsh 2021・Front Dent)

口腔内スキャナーを入れるかどうか迷うとき、いちばん知りたいのは「印象材より正確なのか」でしょう。ところが文献を追うと、スキャナーのほうが劣るという報告も、同等という報告も、優れるという報告も出てきます。テヘランのグループが、支台歯を1本立てて2つのルートで冠を作り、内面の隙間を実測しました。差は、はっきりつきました——ただし数字の読み方には、少しだけ注意が要ります。

論文
Accuracy of Digital Impression Taking Using Intraoral Scanner versus the Conventional Technique
著者
Zarbakhsh A, Jalalian E, Samiei N, Mahgoli MH, Kaseb Ghane H
掲載
Frontiers in Dentistry 2021;18:6(doi:10.18502/fid.v18i6.5649)
種類
in vitro 実験研究(タイポドント大臼歯1本を0.7mmシャンファーで形成して標準模型とし、①TRIOS口腔内スキャン ②付加型シリコーンのパテ・ウォッシュ印象〔既製トレー〕→石膏模型→ラボスキャナー(D2000)、の2ルートで各10個のCo-Crコーピング〔厚さ0.5mm・セメントスペース40µm〕をミリング。レプリカ法で内面の隙間を頬・舌・近心・遠心の各3点=計12点、光学顕微鏡で計測。Student’s t検定)
PMID
35965710

「印象材より正確」なのか、それとも

口腔内スキャナーの話題になると、必ず出るのがこの問いです。「印象材より正確なんですか」

ところが文献を並べると、答えが揃いません。Mehl 2009 や Luthardt 2012 はスキャナーのほうが劣ると報告し、Seelbach 2013 や Almeida 2014 は同等、Ueda 2015 や Zarauz 2016 は優れる——正反対の結論が並んでいます。系統的レビュー(Chochlidakis 2016)では「デジタルのほうが内面の隙間は小さいが、統計的に有意ではない」でした。

この論文は、その混戦のなかに1本を足したものです。結果は明快で、デジタルのほうが有意に精度が高い。ただし読み進めると、「何と何を比べたのか」のほうが面白い研究でもあります。

支台歯を1本立てて、2つのルートで冠を作った

研究の骨格: タイポドントの大臼歯1本を0.7mm深さのシャンファーで形成し、これを標準模型とする。ここから2つのルートでCo-Crのコーピング(厚さ0.5mm・セメントスペース40µm)を各10個作った。
デジタルルートTRIOS(3Shape)で口腔内スキャン → そのままCAD → ミリング。
従来ルート既製トレーに付加型シリコーン(Elite HD)でパテ・ウォッシュ印象 → 石膏模型(ダウエルピンつきダイ) → ラボスキャナー(D2000)で読み取り → 同じCAD・同じミリング。
できたコーピングをレプリカ法(内面にシリコーンを入れて模型に4分間指圧で圧接し、その膜厚を測る)で評価。頬・舌・近心・遠心の各3点、計12点を光学顕微鏡で計測した。

設計値(セメントスペース40µm)とコーピングの材質・厚みは揃えてあります。違うのは「支台歯の形をコンピュータに入れるまでの道のり」で、デジタルは1工程、従来は印象・模型・ラボスキャンの3工程を経ます。ただし、読み取る装置そのものも別物です——デジタルは口腔内スキャナー(TRIOS)、従来はラボスキャナー(D2000)。ミリング機についても、原著が機種を明記しているのはデジタル群だけで、従来群は「Co-Crブロック上で製作」としか書かれていません。「工程の数以外はすべて同一」とまでは、原著の記載からは言えないということです。

結果——どの面でも、隙間はおよそ半分

0 63.3 126.7 190 内面の隙間(µm) 71.94 148.12 74.06 146.48 64.73 162.97 60.74 153.52 頬側 舌側 近心 遠心 口腔内スキャン シリコーン印象+石膏模型 原著Table 1 に載る12点(各部位3点)を、部位ごとに平均した値。⚠️原著Table 3 も「各部位の全点平均」として値を載せているが、デジタル側だけ Table 1 から再現できない(後述)。この図は再現できるTable 1を採用した(各n=10・4部位すべて p<0.0001)
部位ごとの内面の隙間(原著Table 1 の12点を部位ごとに平均したもの)。4部位すべてで、デジタルルートのほうが小さい

結果の向きは明快です。頬側 71.94 対 148.12 µm、舌側 74.06 対 146.48、近心 64.73 対 162.97、遠心 60.74 対 153.52 µm。4部位すべてで p<0.0001 でした。個々の実測値をみても、デジタル側は 58.99〜74.97 µm、従来法は 140.69〜166.54 µm の範囲に収まり、まったく重なっていません(原著Table 1 の12点)。

ここでひとつ、断っておかなければならないことがあります。この図に使ったのは、原著のTable 1(12点それぞれの値)を部位ごとに平均したものです。原著にはTable 3 という「各部位の全点平均」を載せた表が別にあり、そこには頬側 61.05/舌側 64.04/近心 74.63/遠心 70.65 µm(デジタル)と書かれています。ところがこの並びは、Table 1 から再現できません。

何が起きているか:Table 1 の12点を部位ごとに平均すると、デジタル側は頬71.94/舌74.06/近64.73/遠60.74——「頬・舌が大きく、近・遠が小さい」。ところがTable 3 は頬61.05/舌64.04/近74.63/遠70.65で、まったく逆順である。しかも値そのものは一対一で対応している(T3頬61.05 ≒ T1遠60.74/T3遠70.65 ≒ T1頬71.94/T3舌64.04 ≒ T1近64.73/T3近74.63 ≒ T1舌74.06)。部位のラベルが入れ替わったとしか読めない並びである。一方、同じTable 3 の従来法側は頬148.12・遠153.52 が Table 1 とぴたり一致する。本記事は、算術で再現できるTable 1 のほうを採用した。
0 58.3 116.7 175 12点の平均でみた内面の隙間(µm) 76.86 67.87 152.77 152.77 口腔内スキャン シリコーン印象+石膏模型 原著本文が報告した値 Table 1 の12点を実際に平均した値 従来法は 152.77 µm とぴたり一致するのに、デジタル側だけ約9 µm 合わない。原著はさらに、まったく同じ「全点の平均厚さ」という呼び方で 82.33 対 185.43 µm という別の数字も本文に載せている。比でみれば 0.44〜0.50 でどちらも「半分前後」だが、細部の数字は引用に耐えない
全体でみた比較。従来法はぴたり一致するのに、デジタル側だけ原著本文と表が合わない

全体の値でも同じことが起きています。原著は本文で「全点の平均厚さは デジタル 76.86±4.40 µm、従来法 152.77±2.50 µm」と報告しています。ところがTable 1 の12点を実際に平均すると、従来法は 152.77 µm とぴたり一致するのに、デジタルは 67.87 µm——約9 µm ずれます。

しかもこの直前、原著はまったく同じ「全点の平均厚さ」という呼び方で 82.33 対 185.43 µm という別の数字も本文に載せています(Table 2 の4部位の値を平均しても 73.27 対 168.41 µm にしかならず、これとも一致しません)。同じ論文が、同じ呼称で3組の数字を出しているということです。

比でみれば 67.87/152.77=0.44、76.86/152.77=0.50。どちらで計算しても「半分前後」という結論の向きは変わりませんが、細部の数字をそのまま引用してよい論文ではないということです。

なぜここまで差がついたのか

著者らが挙げている理由は、スキャナーの解像度の話よりも工程の話に寄っています。

①既製トレーだった。 論文は「金属やプラスチックの既製トレーは寸法変化を大きくし、個人トレーを使えば印象材の厚みが均一になって模型の精度が上がる」と本文で明記している。つまり従来ルートは、精度面で不利な条件で走っている。
②パテ・ウォッシュ特有の変形。硬化したパテの上でウォッシュを押し広げる方式は、寸法変化とひずみが起きやすい。
③石膏模型とラボスキャンの2工程が上乗せされる。膨張・収縮・欠け・読み取り誤差が、印象の誤差に足し算される。
④デジタルは撮り直せる。うまく読めなかった部分だけを選んで再スキャンできる——これは印象材にはない性質である。

ただし、ここは慎重に読む必要があります。この研究は「工程数だけを動かした」わけではありません。個人トレーを使った群も、工程を1つだけ減らした群も存在せず、2つのルートが丸ごと入れ替わっているだけです。著者ら自身、上のような工程側の説明を並べる一方で、「デジタル印象の精度はスキャナーの解像度とアルゴリズムに依存する」「先行研究と結論が食い違うのはスキャナーの種類と解像度が違うためかもしれない」とも書いており、光学精度の寄与を否定してはいません。原著の結論も「口腔内スキャナーの精度は有意に高かった」です。つまり「光学精度が勝った」のか「工程が減ったから勝った」のかは、この設計では切り分けられません。

それでも臨床的な意味は落ちません。私たちが日々使っているのは、まさにその「既製トレー+パテ・ウォッシュ+石膏模型」の側だからです。どちらが効いたにせよ、比べられた2つのルートは、実際に選ぶことになる2つのルートそのものです。

明日の臨床へ

この論文から持ち帰れるのは、次の3つです。

①どちらのルートの値も、著者らは「許容範囲(acceptable range)」に収まると位置づけている。ただし著者らはこの直後に「in vitro の実験条件はばらつき、精度を判定する標準的な方法が無いため、研究間の比較は論理的でないかもしれない」と自ら留保しています。著者らが引く「0〜552 µm」という幅は光学印象(Lava COS・Cerec)についての報告値であって、従来法の値をそこに当てて安全域を語ることはできません。少なくとも、この研究は「従来法が使えない」と言ってはいない——それがここで確かに言えることです。

②改善の余地は、まず自分たちの工程にある。個人トレーを使う、模型の起こし方を見直す——スキャナーを買う前にできることが、この論文の中に書いてあります。

③スキャナー導入の判断材料としては「精度」だけで足りない。著者らは欠点として装置の高コスト・患者負担・術者の習熟度への依存を挙げています。1本の支台歯を規格模型で読む条件と、実際の口の中(唾液・歯肉溝滲出液・出血・患者の動き)は違う、とも書いています。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:これはタイポドント(模型歯)1本を使ったin vitro研究で、唾液も歯肉溝滲出液も出血も患者の動きもありません。著者ら自身が「実験室での従来法は臨床より良い成績が出やすい」と書いており、臨床でどうなるかは別に確かめる必要があります。評価したスキャナーはTRIOS 1機種のみ、印象材も1製品のみ、コーピングはCo-Crで、ジルコニアやセラミックでは結果が変わりえます。従来ルートが既製トレーだった点は、③で述べたとおり結果の解釈を左右します。さらに、原著のMethodsには「辺縁不適合・咬合面の過剰な厚み・不完全な適合が見られたフレームは除外し、印象採得をやり直した」という選別工程があり、報告されている隙間はそのスクリーニングを通った標本の値です。
そして原著そのものの粗さ。①統計の判定基準が「P>0.05 を有意とみなした」と誤記されている。②Table 3 のデジタル列が Table 1 から再現できず、部位のラベルが入れ替わったとしか読めない(見出し③で述べたとおり)。③本文が「全点の平均厚さ」という同じ呼び方で 76.86/82.33 という2組の数字を出しており、どちらもTable 1・Table 2 と一致しない。④Table 3 では、頬側デジタルが 平均61.05・最小74.68・最大64.07、舌側デジタルが 平均64.04・最小74.72、遠心デジタルが 平均70.65・最大60.22 と、平均が最小値・最大値の範囲の外に出ている行が3つある。Table 1 の遠心3・従来法も 最小187.6/最大122.65 と入れ替わり、SD欄が「00/10」「67/21」と壊れている箇所もある。
したがってこの論文の扱いは、「数値の細部は原著の表を確認せよ」ではなく「細部の数字は引用しないほうがよい」が正しい。使えるのは「デジタルルートのほうが内面の隙間は明らかに小さかった」という結論の向きまでと考えてください。利益相反の申告は「なし」です。

今日のひとこと

結果の向きは明快だった。原著Table 1 の12点を部位ごとに平均すると、内面の隙間は 頬側 71.94 対 148.12 µm、舌側 74.06 対 146.48、近心 64.73 対 162.97、遠心 60.74 対 153.52 µm。4部位すべてで p<0.0001 で、デジタルルートのほうが小さい。12点の実測値をみても、デジタルは 58.99〜74.97 µm、従来法は 140.69〜166.54 µm の範囲に収まり、まったく重なっていない。ただし、この結果を持ち帰るときに外せない留保が2つある。比較されたのは「印象材」ではなく「ルート」である——従来ルートは既製トレーのパテ・ウォッシュ印象に、石膏模型とラボスキャンが積み上がる。著者ら自身が本文で「個人トレーなら精度は上がる」と書いている一方、「デジタルの精度はスキャナーの解像度とアルゴリズムに依存する」とも書いており、光学精度と工程数のどちらが効いたのかは、この設計では切り分けられない。②原著の数値は表どうしが突き合わない——本文が全体値として挙げる12点平均 76.86 µm は、Table 1 の12点を実際に平均すると 67.87 µm にしかならず(従来法の 152.77 µm はぴたり一致する)、Table 3 のデジタル列にいたっては部位のラベルが入れ替わったとしか読めない並びになっている。比でみれば 0.44〜0.50 でどちらも「半分前後」だが、細部の数字をそのまま引用してよい論文ではない

Zarbakhsh A, Jalalian E, Samiei N, Mahgoli MH, Kaseb Ghane H. Accuracy of Digital Impression Taking Using Intraoral Scanner versus the Conventional Technique. Front Dent. 2021;18:6. doi:10.18502/fid.v18i6.5649 PMID: 35965710
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。