フロアブルコンポジットレジン4種とペーストタイプ1種について、光重合後の研磨の有無による着色性の違い・光沢度の変化を28日間追い、光照射直後の未重合層の厚さも測った実験研究(原ら 2015・神奈川歯学)
小さな窩洞にフロアブルを流して光を当てる。見た目がきれいなので、研磨をせずにそのまま終える——日常臨床では、ある話です。その1手間を省くと、28日後に何が起きるのか。神奈川歯科大学のグループが、緑茶に漬けて色差と光沢度を測り、さらに「未重合層の厚さ」を測って、その関係を考察しています(試験管内の実験)。
①「きれいに見えるから、研磨は省く」の代償
MIの考え方が広まり、窩洞はダウンサイズされました。小さな窩洞、浅い窩洞、ペーストでは詰めにくい複雑な形態——そこにダイレクトアプリケーションで流し込めるフロアブルは、いまや主流の一角です。
そしてフロアブルは充填後、肉眼的には審美性が良好なため、研磨操作を行わないで放置する場合も日常臨床ではある——著者らは、この現実をそのまま論文の書き出しに置いています。
問われているのは単純です。その1手間を省くと、28日後に何が起きるのか。
②研磨する/しない × 緑茶/水/大気 で28日
直径11 mm・厚さ5 mmの試料を作り、上下面から60秒ずつ光照射。圧接面から約0.5 mmを削除して#4,000まで研磨し、さらに#15,000のラッピングフィルムとダイヤモンド砥粒+バフで鏡面研磨した「研磨群」と、光照射のみの「未研磨群」を用意した。
保管条件は緑茶抽出液(茶葉3.5 gに沸騰蒸留水100 ml・90秒抽出)/37℃蒸留水/室温大気中の3つ。緑茶は1日ごとに交換し、37℃・毎分60回の振盪下で28日間保管した(各群n=6)。
色差は色彩色差計でL*a*b*を測り、7・14・28日後のΔE*abを算出。判定は「95%以上の人が色差を感じることができるとされるΔE*ab 1.2以上」を基準にした。別に未重合層をアセトンで除去して重量差から厚さを算出(n=9)、光沢計(測定角60°)で光沢度も測った(n=9)。
設計の妙は、「研磨の有無」と「保管条件」を掛け合わせたうえで、未重合層という物理的な実体を別途測っているところです。現象と、著者らが考える理由が同じ論文の中で突き合わされます。
③結果その一——未研磨だと緑茶でΔE*ab 4以上、研磨すると保管条件による差が小さくなった
EFQ群を除き、フロアブルもペーストタイプも関係なく、未研磨群では着色群(緑茶)が室温大気中保管群および蒸留水保管群と比べて、28日後にΔE*ab値が4以上となり有意な色差を示しました。基準の1.2を大きく超える値です。
一方、研磨群では、着色群でも他の保管条件と比べて経時的な有意な色差の変化は認められませんでした。同じ材料・同じ緑茶・同じ28日で、研磨したかどうかだけが違う。それで結果が分かれています。ただし考察では、研磨群でもTRFとES2は低い色差を維持できなかったとされています(図から読み取ると、研磨した緑茶群の28日値はTRF 約4.4・ES2 約3.4)。
そして例外が1つ。EFQ群は、未研磨でも緑茶群と蒸留水・大気中群の間に有意な色差が認められませんでした(図1)。つまり未研磨でも、緑茶による有意な色差が出なかった唯一の材料です(それでもΔE*abは図から読むと28日で約1.2で、若干の色差は生じています)。
④結果その二——著者らが注目した「未重合層」の厚さ
光重合直後にアセトンで未重合層を除去し、重量差・密度・表面積から厚さを算出した結果がこれです。
MIF 約6 μm、ES2 約4 μm、CML 約2 μm、TRF 約1 μm、そしてEFQ 約0.6 μm。すべての材料間で有意差が認められました(p<0.05)。MIFとEFQでは10倍の開きがあることになります。
そして、未重合層が最も薄かったEFQが、未研磨でも緑茶で有意な色差を示さなかった唯一の材料でした。ただし図の値を並べると、色差の順位は未重合層の順位とそのままは一致せず(CMLとES2が入れ替わる。筆者の読み取り)、著者らはEFQについて球状フィラーの配合や重合開始剤の違いも理由に挙げています。逆に、未重合層が厚かったMIFとES2は、光沢度でも未研磨群(大気中・蒸留水とも)が28日後に他材料より有意に大きい低下を示しています。
光沢度の差の傾向も色差と同様だった、と著者らは述べています。研磨した室温大気中保管群では光沢度の低下に有意差が認められず(p>0.05)、未研磨の蒸留水保管群が経時的に有意な光沢度の差を示しました(p<0.05)。ただし研磨群でも蒸留水保管では、保管期間とともに光沢度の差が大きくなる傾向が見られています。
研磨は「艶を出す操作」だと思われがちですが、著者らが考察しているのは「表層の未重合層を物理的に取り除く操作」でもあるということです。取り除いておけば、緑茶による着色の上乗せは多くの材料で抑えられた(TRFとES2を除く)。残しておくと、著者らはそこから色素が吸収され、艶が落ちたと考察しています。
⑤明日の臨床へ
②研磨は艶出しだけでなく、未重合層の除去でもある。なお、この研究の約0.5 mm削除は試料作製上の工程で、臨床の研磨量を示したものではない。
③材料によって未重合層の厚さは10倍違う。MIF 約6 μm と EFQ 約0.6 μm。手持ちの製品がどちら寄りかは、この論文の順位(圧接して重合した試料での値)が一つの目安になる。
④エステライトフロークイックは、未研磨でも緑茶で有意な色差が出なかった唯一の材料だった。ただしこれは「研磨しなくてよい」ではなく、未重合層の薄さや球状フィラー・重合開始剤といった材料側の性質の話(著者らの考察)。
⑤着色液に日本の患者に身近な緑茶を選んだ点は実用的。コーヒー・紅茶・ワインではなく緑茶を選んだ点は、この論文の実用的なところ。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
研磨しなかった群では、EFQを除くすべての材料が緑茶28日でΔE*ab 4以上の有意な色差を示した——フロアブルもペーストタイプも同じである(in vitro)。研磨群では、緑茶群と蒸留水・大気中群の間に経時的な有意差は出なかった。研磨によって、緑茶による着色の上乗せは多くの材料で抑えられた(TRFとES2は研磨群でも低い色差を維持できなかった)。著者らが関係を考察したのが未重合層の厚さで、MIF 約6 μm > ES2 約4 μm > CML 約2 μm > TRF 約1 μm > EFQ 約0.6 μm と全製品間に有意差がついた。未重合層が最も薄かったEFQだけが、未研磨でも緑茶と他の保管条件の間に有意な色差を示さなかった(ΔE*abは28日で約1.2と、若干の色差は生じている)。光沢度では、研磨した室温大気中保管群は有意な低下を示さず、未研磨の蒸留水保管群が経時的に有意に低下した。研磨した蒸留水保管群でも低下傾向があり、未重合層の厚いMIFとES2の未研磨群は、28日後に他材料より有意に大きい光沢度の差を示している。


