ユニバーサルアドヒーシブ3種と従来型セルフエッチ2種を、削った/削っていないエナメル質でセルフエッチモードとエッチ&リンスモードで比べた研究(Takeda 2019・Eur J Oral Sci)
シーラント、正中離開の閉鎖、破折歯の修復。削らないエナメル質にレジンを載せる場面は、思っているより多くあります。ユニバーサルアドヒーシブは「セルフエッチでもいける」と謳いますが、その検証はほとんど削って平らにした面で行われてきました。日本大学と米クレイトン大学のグループが、削っていない面で測り直しました。
①削っていないエナメル質に、レジンを載せる場面
小窩裂溝填塞。正中離開の閉鎖。破折した前歯の修復。ベベルを越えて広がった充填の辺縁。
削っていないエナメル質にレジンを載せる場面は、思っているより多くあります。
ところが、私たちが接着強さの根拠にしている実験の大半は、#320のカーボランダム紙で平らに削った面で行われています。標準化しやすいからです。面積が揃い、応力が均等にかかる。
臨床のエナメル質の外側は、そうではありません。プリズム構造がはっきりしない、あるいはまったく無い層——無小柱エナメル質(プリズムレス層)に覆われています。
ユニバーサルアドヒーシブは「セルフエッチでもエッチ&リンスでも使える」と謳います。では、削っていないエナメル質ではどうなのか。日本大学と米クレイトン大学のグループが、200本のヒト下顎前歯で確かめました。
②4つの条件で測り分ける
③結果——リン酸を足すと、削っていない面が削った面に追いつく
非切削エナメル質でセルフエッチモードのまま接着すると、14.0〜21.8 MPa。ところがリン酸で15秒前処理すると、40.8〜43.1 MPaへ。倍率は製品で幅があり、約1.9倍(スコッチボンド ユニバーサル)から約3.0倍(ゼノJP)、平均で約2.2倍です。この差は5製品すべてで有意でした。
そして重要なのは、こちらです。エッチ&リンスモードでは、非切削(40.8〜43.1)と切削(39.5〜43.3)のあいだに、どの製品でも有意差がありませんでした。リン酸を1本足すだけで、削っていない面が削った面と同じ土俵に乗る。
セルフエッチモードでは、5製品すべてで非切削のほうが低いという結果でした(非切削14.0〜21.8/切削23.1〜34.5 MPa)。削った面で測った数字を、削らない面にそのまま持ち込めないということです。
製品間の比較では、非切削×セルフエッチの条件でユニバーサル3種とクリアフィルSEボンドに有意差はなく、1ステップのゼノJP(14.0 MPa)だけが低いという結果でした。一方、切削×セルフエッチでは2ステップのクリアフィルSEボンドが34.5 MPaで、他の4製品より接着強さが有意に高いという結果でした(この条件では1ステップのゼノJP 23.1 MPaが他より有意に低いことも報告されています)。
④SEMが見せた理由——エッチングされていない
なぜここまで差がつくのか。SEM像がはっきり答えています。
接着が弱かったのではありません。そもそもエッチングが起きていなかった。
破断様式のデータも同じことを言っています。セルフエッチモードでは、非切削・切削を問わず、全試料が界面破壊(接着材とエナメル質の境目での剥離)でした。ところがエッチ&リンスモードでは、混合破壊とエナメル質そのものの凝集破壊が現れる。エナメル質が壊れるまで接着が保っていた、ということです。
著者らが挙げる理由は3つです。①ユニバーサル系のセルフエッチモードはpH 2.3〜2.7のマイルド〜ウルトラマイルドで、酸性度が足りない ②非切削のエナメル最表層はCa/P比が低い ③プリズムレス層そのものがモノマーの浸透障壁になる——先行研究では、非切削面へのモノマー浸透深さがほぼ0〜400nmだったのに対し、切削面では500nm〜1.5µmだったと報告されています。MDPが作る化学結合はエナメル質では象牙質より弱いことも、著者らが引用しています。
⑤明日の臨床へ
①削っていないエナメル質が接着面に含まれるなら、リン酸を使う。シーラント、正中離開の閉鎖、破折歯の修復、ベベルを越える辺縁。この研究の結論は「非切削エナメル面にセルフエッチ接着材を使う前のリン酸前処理は、初期のエナメル接着を高めるために必須である」です——原著は結語に initial と書いており、耐久性まで含めた話ではありません。
②「セルフエッチでもいける」を、面の状態抜きで受け取らない。ユニバーサルアドヒーシブの柔軟性は、モードを選べることにあります。選べる、は「どちらでも同じ」ではありません。
③選択的エッチング(エナメルだけリン酸)が、この結果とよく噛み合う。象牙質はセルフエッチのまま術後知覚過敏のリスクを抑え、エナメル質にだけリン酸をかける。この研究は、その「エナメル質にだけ」の根拠を非切削面まで広げたものと読めます。
④切削面ではやはり2ステップが強い。切削×セルフエッチでクリアフィルSEボンドが34.5 MPaと頭ひとつ抜けていました。ユニバーサルの利便性と、2ステップの接着力。どちらを取るかは症例で変わります。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
非切削エナメル質にセルフエッチモードで接着すると、5製品すべてで削った面より接着強さが低かった(非切削14.0〜21.8 MPa/切削23.1〜34.5 MPa)。ところがリン酸で15秒前処理すると、非切削でも40.8〜43.1 MPaまで上がり、削った面(39.5〜43.3 MPa)との差は消える。SEMでは、非切削エナメルにセルフエッチをかけた面に脱灰の徴候がまったく見られなかった——接着が弱いのではなく、そもそもエッチングされていない。破断様式も、セルフエッチモードでは全試料が界面破壊だったのに対し、エッチ&リンスでは混合破壊とエナメル質の凝集破壊が現れた。


