バルクフィル3製品と従来型ナノハイブリッド3製品のレジンブロック120個を、最終照射前にグリセリンを塗る/塗らないの2条件に分け、Sof-Lexで研磨する前後の表面粗さを測ったin vitro研究(Gaviria-Martinez 2022・BMC Oral Health)
最終層を光照射する前に、グリセリンを一塗り——酸素重合阻害層を作らせないための一手です。手間としては数秒ですが、本当に効いているのかは実感しにくい。ペルーのグループが、その数秒の価値を、研磨の前と後の両方で測りました。
①最終照射の前の、グリセリンひと塗り
コンポジットレジンの最終層を光照射する前に、グリセリンを一塗りしてから当てる。酸素重合阻害層——表面に残る、あのベタベタした未重合の層——を作らせないための一手です。
手間としては数秒。理屈もはっきりしています。酸素はモノマーよりもフリーラジカルとよく反応してしまうので、空気に触れている最表層は重合が止まる。グリセリンで空気を遮れば、そこまできちんと固まる。
ただ、本当に効いているのかは実感しにくい一手でもあります。研磨してしまえば、その層は削れてしまうのではないか——ペルーのグループが、研磨の前と後の両方で測りました。
②6製品 × グリセリンあり/なし、研磨前後で測る
この設計の良いところは、「研磨前」も測っていることです。著者らが引く2つの先行研究は研磨後しか測っておらず、研磨によってどれだけ変わったのかを評価できていませんでした。そこを意識的に埋めにいっています。
③結果——研磨前は、そもそも差がなかった
まず研磨前。6製品×2条件の12群を比べたところ、有意差は検出されませんでした(P=0.308)。平均値そのものは 0.383〜0.750 µm と2倍近い開きがありますが、群を分けるほどの差ではなかった、ということです。
そして研磨。12群のうち11群で、表面粗さが有意に低下しました(P<0.05)。下がり幅も大きく、たとえばTetric N-Ceram Bulk Fill(グリセリンあり)は 0.750 → 0.261 µm です。
唯一の例外がOpus Bulk Fill APS+グリセリンの群で、この群だけは研磨の前後で有意差がつきませんでした(P=0.125)。この群は研磨する前からいちばん滑らかで(0.383 µm)、研磨後も 0.213 µm と低い値を保っています。著者らは研磨前の低さをこの製品のAPS(Advanced Polymerization System)技術に、そして研磨の前後で値が変わらなかったことをグリセリンが表面の反応性の高いラジカルを比較的安定なヒドロペルオキシドへ変え、最表層の重合の質を上げたことに帰しています。
もっとも大事なのは、その低下の大きさに、群間の差が検出されなかったことです。低下量を比べると少なくとも2群のあいだに差がありそうに見えたものの(P=0.021)、Bonferroni補正をかけると、どの組み合わせも有意ではなくなりました(すべてP>0.05)。
ただし研磨「後」の粗さそのものを比べると、話は少し違います。12群のあいだに有意差があり(P=0.002)、多重比較では従来型Tetric N-Ceram と Filtek Bulk Fill のあいだ(グリセリンあり P=0.023/なし P=0.010)、および Filtek Bulk Fill と Opallis EA2 のあいだ(P=0.044)に差がつきました。Filtek Bulk Fill だけが、研磨後もやや粗いまま残っているということです。著者らはこれをフィラーの粒径の違い(Filtek Bulk Fill は 0.5〜4 µm、Tetric N-Ceram は 0.5〜1.5 µm)で説明しています。
研磨後の値を並べると、グリセリンを塗った群と塗らなかった群が、製品によって行ったり来たりしているのが分かります。従来型Tetric N-Ceramではグリセリンなしのほうが滑らか(0.097 対 0.279 µm)、Filtek Bulk Fillではグリセリンありのほうが滑らか(0.422 対 0.580 µm)。一貫した方向はありません(ただし同一製品のあり/なしを直接比べる検定は行われておらず、これは記述統計としての比較です)。
そして群ごとの平均値は、いずれもISO 1302:2002で許容とされる 0.0025〜0.8 µm の範囲に収まりました。著者らは「研磨前の平均は0.75 µmを、研磨後の平均は0.58 µmを超えなかった」と書いています。ただしこれは平均の話で、個々の試料の最大値は研磨前で 1.899 µm に達するものがあります。
④それでも著者らはグリセリンを勧めている
ここが、この論文のいちばん面白いところです。粗さの上ではグリセリンの有無で差がつかなかったのに、著者らは「最終層の照射前にグリセリンを塗ることを提案する」と書いています。
理由は粗さではありません。「臨床では、レジンのすべての面に研磨器具でアクセスするのは簡単ではない」——これが著者らの論拠です。
つまりこういうことです。この研究が示したのは「研磨できる面については、グリセリンの有無は仕上がりを変えない」。裏を返せば、研磨できない面——隣接面、歯肉縁下、深い裂溝の底——については、この研究は何も保証していない。そこではグリセリンが唯一の手段として残ります。
もうひとつ、著者らはグリセリンの効果を粗さ以外の面でも説明しています。グリセリンは表面の反応性の高いラジカルを、比較的安定なヒドロペルオキシドへ変える——つまり最表層の重合の質を上げる働きがあると。Opus Bulk Fill APSが研磨前から滑らかだった理由も、これで説明されています。粗さは、重合の質の一面でしかありません。
⑤明日の臨床へ
持ち帰れるのは、3つです。
①研磨の一手は、材料選びより効く。研磨前は12群のあいだに有意差が検出されず(P=0.308)、研磨後に差がついたのも一部の組み合わせだけでした。それに対して研磨による低下は12群中11群で有意です。「どのレジンを使うか」より「きちんと研磨するか」のほうが、表面性状に対する寄与は大きい、と読めます。
②バルクフィルだから磨けない、ということはない——ただし製品差は残る。バルクフィル3製品も従来型3製品も、群平均は研磨後すべて許容範囲に入りました。「バルクフィルだから粗いまま」という区分けは成り立ちません。ただし研磨後の群間比較では Filtek Bulk Fill が従来型Tetric N-Ceram や Opallis EA2 より有意に粗いという結果が出ています(P=0.002)。クラスではなく、製品ごとのフィラー粒径のほうが効いていると読むのが正確です。
③グリセリンをやめる理由には、この研究はならない。差がつかなかったのは「研磨できた面」の話です。研磨器具が届かない面こそ、グリセリンの出番——著者ら自身がそう述べています。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
グリセリンで酸素重合阻害層を抑えることの意味は、「研磨をどうするか」で変わる。研磨前の時点では、6製品×2条件の12群のあいだに有意差は検出されなかった(P=0.308)。そして研磨後は、12群のうち11群で表面粗さが有意に低下し(P<0.05)、しかもその低下の大きさに群間の差は検出されなかった(Bonferroni補正後は、どの組み合わせもP>0.05)。唯一の例外がOpus Bulk Fill APS+グリセリンで、この群だけは研磨しても有意に変わらなかった(P=0.125)——研磨前から 0.383 µm と滑らかで、研磨後も 0.213 µm を保っていた。結論として、Sof-Lexできちんと研磨すれば、バルクフィルでも従来型でも、グリセリンの有無にかかわらず群平均はISO 1302の許容範囲(0.0025〜0.8 µm)に収まる。ただし研磨後の群間比較では差が残っており(P=0.002)、Filtek Bulk Fill は従来型Tetric N-Ceram や Opallis EA2 より有意に粗い——効いているのは材料のクラスではなくフィラーの粒径である。そして著者らはそれでもグリセリンを勧めている。理由は粗さではなく、臨床ではすべての面を研磨できないから——これは所見ではなく、著者らの提案である。


