乳臼歯の咬合面へのシーラントについて、ランダム化比較試験だけを集めて評価したコクランのシステマティックレビュー。9試験・1120人(1歳6か月〜8歳)を検討し、エビデンスの確実性は「低い」または「非常に低い」と結論した(Ramamurthy 2022・Cochrane Database Syst Rev)
永久歯の第一大臼歯にシーラントを、というのは、もう議論の余地がありません。では乳臼歯はどうでしょう。深い小窩裂溝は乳歯にもあり、う蝕はむしろ乳歯のほうが速く進みます。同じ理屈で効くはずだ——その「はずだ」を、コクランが正面から確かめにいきました。
①永久歯で当たり前になったことを、乳歯に持ち込む
第一大臼歯が萌えてきたらシーラントを——これは、もう議論の余地がありません。永久歯での予防効果は「中等度の確実性」で確立しています。
では乳臼歯はどうでしょう。深い小窩裂溝は乳歯にもあります。エナメル質は未成熟で、う蝕の進行はむしろ速い。同じ理屈なら、効くはずだ——そう考えるのは自然です。
コクランのグループが、その「はずだ」を確かめにいきました。ランダム化比較試験だけを集めて、乳歯のシーラントに何が言えるのかを整理するという作業です。
②ランダム化比較試験だけを、9件
内訳はこうです。フッ化物徐放性レジン系 対 無処置が1件(90人・139歯対)、グラスアイオノマー系 対 無処置が2件(619人)、グラスアイオノマー系 対 レジン系が2件(200人・278歯対)、フッ化物徐放性レジン系 対 レジン系が2件(69人・113歯対)、コンポジット 対 フッ化物徐放性レジン系が1件(40人・40歯対)、化学重合 対 光重合が1件(52人・52歯対)。
一つひとつが小さいことに気づきます。これがこのレビューの結論を決めることになります。
③結果——「効く」とも「効かない」とも言えなかった
シーラント 対 無処置で主要アウトカムのデータを出せたのは、この比較を扱った試験のうち3試験でした(シーラント同士を比べた6試験のうち4試験も主要アウトカムのデータを出しています)。しかも年齢も追跡期間も違いすぎるため、著者らはメタ解析(統合)を行わないと判断しています。
個々の結果はこうです。フッ化物徐放性レジン系シーラント(Chabadel 2021)は、24か月時点で新しいう蝕ができた割合が 無処置 20.5% 対 シーラント 16.4%(1000人あたり205 対 164)。オッズ比 0.76(95%CI 0.41–1.42/85人・255歯面)で、割合から計算したリスク比は約0.80——信頼区間が1.0をまたいでおり、差があるとは言えません。同じ試験の12か月時点はむしろ逆で、無処置 3.6% 対 シーラント 4.4%、オッズ比 1.21(0.37–3.94/88人・274歯面)でした。
グラスアイオノマー系では、結果が割れました。449人を解析した試験(Chadwick 2005・追跡12〜30か月)はオッズ比 0.97(0.63–1.49)でほぼ差なし——1000人あたり 235 対 229、リスク比 約0.97 です。この試験では、少なくとも1本の新しいう蝕ができた子どもが、シーラント群 52人(23.5%)対 無処置群 55人(24.1%)でした。ところが107人の試験(Joshi 2019・追跡12か月)はオッズ比 0.03(0.01–0.15)と、非常に大きな予防効果を示しています——こちらは歯面あたりで 無処置 47/89(26.4%)対 シーラント 2/86(1.1%)、リスク比 約0.04という開きです。
まったく逆の結果が並んでいます。著者らはエビデンスの確実性を「低い」と判定し、研究の限界・不精確さ・非一貫性を理由に、合計2段階引き下げました。
シーラント同士の比較(6試験・411人、うち主要アウトカムのデータがあるのは4試験・221人)も同様で、そもそも新しいう蝕の発生自体がどの群でも少なく、確実性は「低い」または「非常に低い」と判定されています。
④もうひとつの問題——乳歯には、そもそも残らない
予防効果の話とは別に、保持の数字があります。1つの試験(Chabadel 2021)では、12か月時点で完全に残っていたのが 70.1%、部分的に残っていたのが 18.3%、完全に脱落したのが 11.6%。24か月になると、完全に残っていたのは 45.3% まで下がり、完全脱落が 32% に達しました。
別の比較(グラスアイオノマー系 対 レジン系)でも、24か月時点で完全または部分的に残っていたのが、グラスアイオノマー系 32%、レジン系 70%という数字が報告されています。ただしこれはGanesh 2006 という1試験(100歯対・3〜5歳)の値で、この比較の確実性は「非常に低い」と判定されています(同じ試験の6か月・12か月の保持率は報告に誤りがあり使えないとされています)。
ここが、乳歯と永久歯を分ける現実的な差だと思います。乳歯は歯冠が短く、防湿が難しく、子どもは小さくて協力度も限られる。塗った直後の効果ではなく、塗ったものがどれだけ残るかが、予防効果の上限を決めてしまいます。
⑤明日の臨床へ
持ち帰れるのは、3つです。
①これは「乳歯のシーラントは効かない」という報告ではない。著者らの結論は「証拠が脆く、不確かである」であって、無効を示したわけではありません。「効くかどうかを判定できるだけの研究が、まだ存在しない」——そう読むのが正確です。
②説明の言葉を、永久歯と同じにはしない。永久歯なら「予防効果が確立しています」と言えます。乳歯では「永久歯ほどの根拠はまだありません」という一言を足すのが誠実です。やらない理由にはなりませんが、断言する理由にもなりません。
③保持の数字を、患者さんと共有しておく。2年で3割が完全に脱落するなら、「塗って終わり」ではなく、定期的に見て塗り直す前提で説明したほうが、あとの信頼を損ないません。
⑥ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
「乳歯にもシーラントは効く」を支える証拠は、思っているより薄い。シーラント対 無処置を比べて主要アウトカムのデータを出せたのは3試験だけだった。フッ化物徐放性のレジン系シーラントは24か月時点で新しいう蝕ができた割合が 無処置 20.5% 対 シーラント 16.4%、オッズ比 0.76(95%CI 0.41–1.42)=リスク比 約0.80で、差があるとは言えない(同じ試験の12か月時点はむしろ逆で オッズ比 1.21)。グラスアイオノマー系は判断が割れていて、449人の試験が 23.5% 対 24.1%・オッズ比 0.97(0.63–1.49)=リスク比 約0.97 とほぼ差なし、107人の試験が歯面あたり 26.4% 対 1.1%・オッズ比 0.03(0.01–0.15)=リスク比 約0.04 と大きな予防効果。まったく逆の結果が並んでいる。レビューの著者らはエビデンスの確実性を「低い」と判定し、研究の限界・不精確さ・非一貫性で2段階下げた。有害事象を報告していたのは9試験中1件だけ(シーラント塗布中の嘔吐反射)。これは「乳歯のシーラントは効かない」という結論ではなく、「効くかどうかを判定できるだけの研究が、まだ存在しない」という報告である。


