1問1答 論文 保存修復

コンポジットレジンと鋳造インレー・アンレー、長くもつのはどっち?——大学病院の705例を生存分析すると、19年後の推定生存率は60.8%と74.3%。ただし統計学的有意差はなかった

1問1答 論文 保存修復

長崎大学歯学部附属病院の保存科外来で、1〜19年前に入れたコンポジットレジン修復577例と鋳造修復(インレー・アンレー)128例をカルテから振り返り、Kaplan-Meyer法で生存率を推計した日本の後ろ向き調査(久保 2001・日本歯科保存学雑誌)

「レジンで詰めるか、型を取ってインレーにするか」——毎日のように迷う選択です。けれど、どちらが何年もつのかを示す日本のデータは、2000年ごろにはほとんどありませんでした。長崎大学のグループは、保存科外来に通う患者93人の705例をカルテから掘り起こし、生存分析にかけました。19年後の推定生存率はコンポジットレジン60.8%、鋳造修復74.3%。数字には開きがありますが、生存曲線に統計学的有意差はありませんでした。そして、窩洞の種類で比べると別の顔が見えてきます。

論文
コンポジットレジンならびに鋳造修復の生存率(Survival Rates of Resin Composite and Cast Restorations)
著者
久保至誠、仲佐理紀、林 善彦(長崎大学歯学部歯科保存学第一講座)
掲載
日本歯科保存学雑誌 2001;44(5):802-809(CiNii Research
種類
後ろ向き調査(単施設・大学病院)。2000年2〜7月に長崎大学歯学部附属病院保存科外来を訪れた患者93人〔男36・女57、調査時平均53.5歳(15〜80歳)、平均DMFT 19.3〕を著者の1人が口腔内診査し、カルテで経過を追った。対象は1〜19年前に処置したコンポジットレジン修復577例と鋳造修復128例(インレー93・アンレー35)。グラスアイオノマーセメント修復21例は除外。補修または再治療の必要があれば不良と判定。生存率はKaplan-Meyer法、群間比較はCox-Mantel検定
出典
PMIDなし(PubMed未収載の国内誌)

レジンで詰めるか、インレーにするか

中くらいのう蝕を削り終えたところで、いつも迷います。コンポジットレジン(CR)で詰めるか、型を取って鋳造のインレー・アンレーにするか。「長くもつのは金属」という感覚は根強い一方で、根拠となる日本の数字を思い出せる人は少ないはずです。

結論を先に書きます。この論文では、19年後の推定生存率はCR 60.8%、鋳造修復 74.3%。数字には差があるように見えますが、生存曲線に統計学的有意差はありませんでした。そして、CRの中では5級窩洞が早い時期にやり直しになりやすいことが見えてきました。

なぜ、修復物の寿命の数字は少なかったのか

著者らは緒言で、当時の状況をこう整理しています。修復物の成績を追った研究は、修復部位や材料が限られていたり、歯学部関係者のような特定の患者を専門家が慎重に治療して自己評価したものが多く、日常臨床を映していないという指摘がある。長期の追跡には費用も手間もかかる。

もう一つの型である再治療の断面調査は、やり直しになった症例だけを集めるため、問題なく使えている修復物が数に入りません。海外にはカルテを使った長期の後ろ向き調査がありましたが、著者らによれば国内では見当たらなかった、とのことです。

今回の一手:大学病院の705例を生存分析にかけた

研究の骨格:2000年2月から7月の半年間に、長崎大学歯学部附属病院の保存科外来を訪れた患者93人(男36・女57。著者の1人が担当)を対象に、口腔内診査とカルテ調査を行った後ろ向き調査
対象:1〜19年前に処置した修復物705例。コンポジットレジン修復577例(1級27・2級43・3級219・4級17・5級217・6級11・その他43)と鋳造修復128例(インレー93・アンレー35)。グラスアイオノマーセメント修復は21例しかなく除外。
患者:調査時の平均年齢53.5歳(15〜80歳)、修復時の歯単位の平均年齢45.4歳、平均DMFT 19.3。89%が半年または1年に1回の定期リコールに応じていた(最長6年間)。
判定:科研費研究班で作った臨床調査票にもとづいて診査し、補修または再治療の必要があれば「不良」、なければ「良好」。軽度の辺縁着色・辺縁不適合・変色・摩耗や、辺縁に限局した慢性の二次う蝕などで経過観察している症例は「良好」とした。
解析:Kaplan-Meyer法で生存率を推計し、①修復材料(CR対鋳造)②窩洞形態(3級対5級、インレー対アンレー)③接着システム(第2・3世代対第4世代以降)をCox-Mantel検定で比較。

ポイントは生存分析を使ったことです。単純に「再治療数÷症例数」で計算すると、最近入れたばかりの修復物が多いほど成績が良く見えます。実際、CRの単純な生存率は86.8%(577例中76例が再治療)でしたが、5年以内に処置されたものがCR全症例の60%を超えていたため、著者らはこの値が高く出たと考えています。

結果:19年後の推定はCR 60.8%、鋳造 74.3%。ただし有意差なし

0 33.3% 66.7% 100% 推定生存率(%) 81.2% 60.8% 84.7% 74.3% コンポジットレジン(577例) 鋳造修復(128例) 10年後 19年後 Kaplan-Meyer法による推定値(10年後はいずれも考察の記載、19年後は結果・結論の記載)。濃い棒=10年後、淡い棒=19年後。コンポジットレジンと鋳造修復の生存曲線に統計学的有意差なし(Cox-Mantel検定)。1級+2級に限ったコンポジットレジンの10年後は83.0%。コンポジットレジンは症例の60%超が処置後5年以内(鋳造修復は近年の症例が減っていた)
Kaplan-Meyer法による推定生存率。濃い棒=10年後、淡い棒=19年後。CRと鋳造修復の生存曲線に統計学的有意差はなかった

生存分析では、CRの生存率は経過年数とともに徐々に下がり、10年後81.2%、19年後60.8%と推計されました。英文抄録には「15年ごろまで下がり、その後は横ばい」とあります。鋳造修復は7年後88.6%、10年後84.7%、19年後74.3%です。

CR全体と比べると、8年を過ぎたあたりから鋳造修復のほうが高い値を示しました。一方で、鋳造修復の適応となる1級・2級窩洞のCRに限ると、10年後の推定生存率は83.0%で、生存曲線はむしろCRのほうが高い位置にありました(図9)。ただし、どの組み合わせで比べても統計学的有意差は認められていません

再治療になった症例が何年使われていたか(使用年数)は、CR 6.5年、鋳造修復 6.2年で、ここにも差はありませんでした(和文本文は「平均」、英文抄録は median〔中央値〕と表記。以下の使用年数も同じ)。インレーとアンレーの比較でも、アンレーが急に下がる曲線の形をしていたものの、有意差はありませんでした(アンレーの再治療は4例だけ)。

CRの中で差が出たのは「5級」だった

0 3.3年 6.7年 10年 再治療までの使用年数(年) 8.0年 4.3年 3級窩洞(219例中36例が再治療) 5級窩洞(217例中28例が再治療) 再治療になったコンポジットレジン修復だけを対象にした使用年数(本文・図5。和文本文は「平均」、英文抄録はmedian と表記)。両者に有意差あり(Wilcoxon検定)。一方、19年後の生存率には3級と5級で差が認められなかった(図4)。5級にはくさび状欠損を含む歯頸部窩洞を含む
再治療になったCR修復の使用年数(和文本文は平均、英文抄録は中央値と表記)。3級8.0年、5級4.3年で有意差あり(Wilcoxon検定)

窩洞形態別の単純な生存率(再治療数÷症例数から計算した値)は、1級92.6%・2級97.7%・3級83.6%・4級88.2%・5級87.1%・6級81.8%・その他88.4%(表2)。著者らは「予想に反して2級は良好だった」と書いています(2級は43例中1例の再治療で、例数は少ない)。

3級(219例)と5級(217例)の19年後の生存率には差が認められませんでした。ところが生存曲線の下がり方が違い、5級は早い時期に下がりました。再治療例の使用年数は3級が8.0年、5級が4.3年で、この差は有意でした(Wilcoxon検定)。この研究ではくさび状欠損を含む歯頸部窩洞を5級としています。

理由について著者らは、再治療の理由が「脱落」と明記された8例のうち5例が5級(3級は1例)だったことを挙げ、くさび状欠損の硬化象牙質や歯頸部のう蝕象牙質は接着しにくく、保持形態も乏しいため、脱落が集中したと考察しています(接着しにくいという点は引用文献にもとづく説明です)。

接着システムの世代:5級だけ(64人・217例)で比べると、第4世代以降(36人・153例)のほうが生存率が高い傾向でしたが、有意差はありませんでした。再治療が多発していたカリエスリスクの高い患者1人(8例中6例)を除くと、有意差が認められました。著者らは、第4世代は市販からまだ6年しか経っていないため全症例では差が出なかったと考えています。1人を除いたあとの比較なので、この結果は「傾向」として読むのが無難です。

再治療の理由:いちばん多いのは「不明」

CRの再治療76例の理由は、不明65.8%、歯髄炎11.8%、脱落10.5%、Per 3.9%、二次う蝕2.6%、Br支台2.6%、TMD 1.4%、P 1.4%(表1)。鋳造修復の再治療21例では、不明33.3%、脱落23.8%、歯髄炎19.0%、二次う蝕(歯質破折を含む)14.3%、Br支台4.8%、P 4.8%でした(表3)。

多くの報告で最多とされる二次う蝕が、この研究では少なかった。著者らはその理由を、二次う蝕は術者によって診断基準や治療方針がばらつくのに対し、歯髄炎や脱落は主訴になりやすく判定が揃っているためと考えています。同時に、「不明」(カルテの記載もれ)の中に二次う蝕が多数含まれていた可能性も否定できないと、著者ら自身が書いています。

明日の臨床へ

著者らの結論:CR修復の生存率は徐々に下がり19年後で60.8%、鋳造修復は19年後で74.3%と推計された。3級と5級の19年後の生存率に差はなかったが、5級のほうが早期に下がった。第4世代以降の接着システムのほうが高い生存率を示す傾向があった。
補足(筆者の読み):
・この研究では、CRと鋳造修復のどちらかが長くもつとは言えませんでした。有意差がなかったことは「同じ」ことの証明ではありませんが、少なくとも「金属のほうが明らかに長もち」と断言できるデータではありません。
・患者さんへの説明では、「10年でおよそ8割は補修も再治療もなく経過していた(大学病院・この研究の推計)」という目安が使えます。
5級のCRは、3級より早い時期にやり直しになっていました。脱落と記録された8例中5例が5級だったことから、著者らはくさび状欠損などへの接着の難しさを疑っています(数は少なく、原因を確かめた研究ではありません)。接着操作の確実さと、定期的なチェックの対象として意識しておきたいところです。
・再治療の理由の多くが「不明」だったことは、やり直しの理由をカルテに残すこと自体が、将来の自院のデータになることを教えてくれます。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:これは1つの大学病院のカルテを後ろ向きに集めた調査で、著者ら自身が3つのバイアスを挙げています。①対象の偏り:大学病院の患者で、89%が定期リコールに応じていた。処置したすべての患者を追ったわけではなく、たまたま良い成績が出た可能性がある。②術者の偏り:保存修復を専門とする1人の術者の症例が全体の84%を占め、十分なチェアータイムで慎重に処置できた(ただし臨床経験は処置年度により0〜19年)。③評価の偏り:再修復の判定基準が確立しておらず、術者が自分の臨床成績を評価した。軽い着色や摩耗などで経過観察の症例は「良好」に数えている。さらに筆者の読みとして、CRと鋳造修復は適応となる窩洞や歯が違うまま比べている(CRには3級・5級が多く含まれる)ため、材料そのものの差を比べた研究ではありません。鋳造修復は128例と少なく、有意差がなかったのは例数の少なさのためかもしれません。CRは症例の60%超が処置後5年以内だったため、CRの19年後の推定値は長期経過例が少ない中での推計です(鋳造修復は逆に近年の症例が減っていました)。データは1981〜1999年ごろに処置された修復物で、接着システムも材料も今とは違います。それでも、日本の保存科外来で、生存分析まで行ってCRと鋳造修復を並べた数字は、患者説明の土台として今でも参考になります。本研究は平成9〜11年度の科学研究費補助金(基盤研究(A)(1))の補助を受けています。

今日のひとこと

この大学病院の後ろ向き調査では、Kaplan-Meyer法による推定生存率はコンポジットレジン修復が10年後81.2%・19年後60.8%、鋳造修復(インレー・アンレー)が10年後84.7%・19年後74.3%だった。ただし両者の生存曲線に統計学的有意差はなく、鋳造修復の適応となる1級・2級窩洞に限ったコンポジットレジン(10年後83.0%)と比べても有意差はなかった。コンポジットレジンの中では、3級と5級の19年後の生存率に差は認められなかったものの、5級は早い時期に生存率が下がり、再治療例の使用年数は3級8.0年に対し5級4.3年と有意に短かった(和文本文は平均、英文抄録は中央値と表記)。再治療の理由はコンポジットレジンの65.8%、鋳造修復の33.3%が「不明(カルテの記載もれ)」で、原因の比較には限界がある。

久保至誠、仲佐理紀、林 善彦. コンポジットレジンならびに鋳造修復の生存率. 日本歯科保存学雑誌 2001;44(5):802-809. https://cir.nii.ac.jp/crid/1572824499426291584
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。