保存修復|市販の非ユージノール系仮着用セメント10種について、被膜厚さ・ガラス面への引張接着強さ(室温大気中/37℃水中 各7日)・圧縮強さを同じ条件で比べた実験室研究(綠野ほか・日本補綴歯科学会誌 2016)
暫間被覆冠や、セメント固定のインプラント上部構造を仮着する。次の来院まで外れてほしくない、でも外すときは外れてほしい。仮着材はそのバランスで選びますが、市販品を同じ条件で並べたデータは多くありません。神奈川歯科大学のグループは、非ユージノール系の仮着用セメント10製品をガラス板に接着し、乾いた空気中と37℃の水中にそれぞれ7日置いて比べました。乾いた条件で高かったレジン系は、水の中ではほぼ0近くまで落ちました(数値は図からの読み取り)。一方、酸化亜鉛系2種は水中でも有意に下がりませんでした(TPはもともと空気中でも低い値で、TNは水中後も約0.21 MPaを保った。いずれも図からの読み取り)。
①仮着したのに外れてきた——仮着材、何で選んでいますか
暫間被覆冠を仮着して帰したら、次のアポの前に外れて来院された。逆に、外すときに外れなくて苦労した。仮着材は「外れにくさ」と「外しやすさ」の間で選ぶ材料です。
この論文の結果を先に言うと、乾いた条件で高かった接着強さは、37℃の水中に7日置くと大きく変わりました。レジン系4種とカルボキシレート系の1製品は水中で有意に低下し、酸化亜鉛系2種には有意な低下がありませんでした。ただし、歯ではなくガラス板を使った実験室研究です。
②なぜ比べにくかったのか
著者らは仮着用セメントの要件として、辺縁封鎖に優れること、崩壊しにくいこと、クラウンの撤去が容易であることを挙げています。暫間被覆冠は最終補綴装置が入るまで維持される必要があり、マージン形態を通じて歯周組織の安定にも関わります。インプラントの上部構造でも、審美的な理由などからセメント固定は少なくない、と述べています。
ところが、仮着用セメントの長期経過や同じ条件での製品比較の報告は少ない。そこで入手できる市販品10種を並べて調べたのが本研究です。
③今回の実験:10製品を同じ条件で
レジン系4種:テリオCリンク(TL・表1の表記はTelio CS/Ivoclar Vivadent)、プレミアー・インプラントセメント(PI/Premier)、インプラントリンクセミ(IS/Detax)、テンポリンククリアー(TC/Detax)。
酸化亜鉛系2種:フリージノールテンポラリーパック(TP/GC)、テンポセムNE(TN/DMG)。
カルボキシレート系2種:ハイ・ボンドテンポラリーセメント ソフトホワイト(HS/松風)、同 ハードホワイト(HH/松風)。
グラスアイオノマー系2種:フジTEMP(FT/GC)、IPテンプボンド(IP/松風)。
①被膜厚さ:JIS T 6602に準じ、ガラス板2枚でセメントを挟み20 kgで10分加圧(各n=3)。
②引張接着強さ:水酸化ナトリウムと塩酸で洗浄したガラス板に、直径5 mmに規定してステンレス製接着子をセメント約0.05 gで接着。30分室温放置後、37℃水中7日または室温大気中7日保管し、1 mm/minで引っ張った(各n=5)。
③圧縮強さ:直径4 mm・高さ6 mmの円柱を作り、37℃水中または37℃大気中に24時間保管後に測定(各n=5)。
統計は一元配置分散分析+Tukey法、相関はPearsonの相関係数。
④結果:水の中で、接着強さの顔ぶれが入れ替わった
まず室温大気中7日。本文によれば、PIが0.67 MPaで最も高く、IS・TC・TLのレジン系が0.3〜0.43 MPaと比較的高い値でした。カルボキシレート系のHHもレジン系と同程度(図では約0.50 MPa)で、TN・HS・TPは若干の接着強さ、グラスアイオノマー系のFTとIPはほとんど接着強さが得られませんでした。
次に37℃水中7日。レジン系4種とHHは、大気中と比べて有意に低下しました(p<0.05)。図から読むと、レジン系4種は0.04 MPa以下、HHは約0.16 MPaです。一方、酸化亜鉛系のTPとTNは有意な低下がなく、本文も「低下が最も少なかった」と書いています。図から読んだ水中後の値はTNが約0.21 MPa、TPが約0.08 MPaでした。
見落としやすい点が2つあります。1つはTPはもともと大気中でも約0.06 MPaと低いこと。「下がらない」と「高い」は別です。もう1つはHSに有意差の印が付いていないこと。図の平均では約0.20→約0.02 MPaと大きく下がっていますが、本文によれば水中後にHSとHHでそれぞれ2試料が界面から外れて0 MPaになっており、ばらつきが大きい群です。原著の抄録は「多くの群で有意な低下」と書いていますが、印が付いたのは10製品中5製品です。
破断面も見ておきます。図3を読むと、レジン系は大気中ですでに界面破壊(セメントが接着子側に全部付いてガラスから外れた型)が多く(PI 3/5、IS 4/5、TC 3/5、TL 1/5)、水中保管後はPI・IS・TCが5試料すべて、TLが4試料で界面破壊でした。はっきり変わったのはTLです。本文は「他のセメントでは水中保管後に破断面に残るセメントが減少した」とまとめ、酸化亜鉛系は大気中と水中で破断面の変化がなかったとしています。
⑤被膜厚さと、セメント自体の強さ
本文によれば、TPとIPが約8 μmで最も薄く、レジン系は30 μm前後、カルボキシレート系のHSとHHは60〜80 μmでした。ただし各3試料で標準偏差が大きく、図のTukey法の符号を見ると、HHと有意差があるのはTL・TP・FT・IP、HSと有意差があるのはTP・FT・IPで、PI・IS・TC・TNとはどちらも有意差がありません。本文の「他のセメントと比較して有意に高い」は、図の符号よりやや強い書き方です。また抄録は「酸化亜鉛系とグラスアイオノマー系が最も薄い」としていますが、同じ酸化亜鉛系でもTNは図で約45 μmでした。
圧縮強さはレジン系が高く、水中24時間後はPIが10.5 MPaで最大、ほかのレジン系は1.8〜4.4 MPa、レジン系以外は0.17〜0.67 MPaでした。PIは大気中で17.7 MPaあり、水中で有意に下がりました。ほかの製品は大気中と水中で有意差がありませんでした。
⑥なぜ水で差が出たのか(著者らの考察)
ここからは著者らの説明で、原著で直接確かめた結果ではありません。
レジン系:接着性モノマーは入っていないが、レジン成分によって化学重合後の機械的強度が高くなり、乾いた条件の接着強さを押し上げたと考えています。水中で下がったのは、接着界面から水が侵入して劣化した可能性を挙げています。
酸化亜鉛系:酸化亜鉛と脂肪酸誘導体の反応で硬化し、油脂成分を含むことで界面への水の侵入を防いだと考えています。
カルボキシレート系:機械的強度はあるものの被膜が厚いため、水と触れる機会が増えて低下した、という説明です。グラスアイオノマー系は、今回の保管条件でセメントが脆弱化した可能性を挙げています。
相関も調べています。被膜厚さと接着強さには相関が認められず(大気中 r=0.53、P=0.115/水中 r=0.46、P=0.175)、接着強さと圧縮強さは大気中で正の相関(r=0.71、P=0.023)、水中では相関なし(r=−0.36、P=0.329)でした。著者らの結論は「大気中保管時では、仮着用セメント自体の強度が接着強さに影響することが示唆された」です。10製品の平均値どうしの相関なので、点は10個しかありません。
⑦明日の臨床へ(筆者の読み)
筆者の読み:
・乾いた条件の数字だけで仮着材を比べない。この試験の条件では、大気中で上位だったレジン系が水中7日で大きく落ち、顔ぶれが入れ替わった。
・「水中で下がりにくい」と「強い」は別。TPは水中でも下がらなかったが、もともと大気中から低い値だった。
・仮着材は外せることも条件。この研究は撤去のしやすさや冠の保持力を測っておらず、接着強さが高い製品ほど臨床で良い、とは言えない。
・製品の使い分けは、目的(仮着期間・撤去の頻度・インプラントか天然歯か)とメーカーの指示を基本に考える材料の1つとして読む。
いずれも歯を使わない実験室の結果で、口の中での脱離率を調べた研究ではありません。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
乾いた条件の接着強さと、水の中に7日置いた後の接着強さは別物だった。室温大気中ではレジン系(PI 0.67 MPa、ほか3種0.3〜0.43 MPa)とカルボキシレート系のHHが高かったが、37℃水中7日ではその5製品すべてが有意に低下し、レジン系4種は図から読むと0.04 MPa以下になった。酸化亜鉛系2種(TP・TN)は有意な低下がなく、水中後の値は図から読むとTNで約0.21 MPaと、水中後としては10製品で最も高かった。ただしこれは歯ではなくガラス板への接着を、7日間の静的な水中保管で調べた実験室研究で、冠の保持力や撤去のしやすさ、口の中での成績は調べていない。仮着材は外せることも条件なので、「水中で強いほど良い」とも言えない。


