67研究・14,097本の単冠を集計したシステマティックレビュー(Sailer 2015・Dental Materials)
臼歯部の単冠で、メタルセラミックかオールセラミックか。壊れにくさなら金属フレーム——そう考えられてきました。67研究・14,097本を集計したところ、5年生存率は多くの材料で横並びでした。ただし「残っている」と「無事である」は別の話です。
①「メタルボンドのほうが確実」——まだそうでしょうか
臼歯部の単冠。メタルセラミックか、オールセラミックか。
審美では負ける。でも壊れにくさなら、金属のフレームを持つメタルセラミックのほうが上——長くそう考えられてきました。そして実際、メタルセラミックはゴールドスタンダードとして扱われてきた。
しかし材料は増えました。リューサイトや二ケイ酸リチウムで強化したガラスセラミック、ガラス浸潤アルミナ、緻密焼結アルミナ、そしてジルコニア。それぞれが実際に何年もっているのかを、67本の臨床研究から集計したのがこのレビューです。
②67研究・14,097本の単冠
ジュネーブ大学のSailerらによる、Academy of Dental Materials向けのシステマティックレビューです。
ここでいう「生存」とは、修復物が口腔内に残っていること。合併症を抱えていても、外れていなければ生存に数えられる——だから生存率と合併症率は、必ずセットで読む必要があります。
③5年生存率は、多くの材料で横並びだった
結果です。
部位別に見ると、長石系・シリカ系とジルコニアは臼歯部で有意に生存率が低く(P<0.0001)、それ以外の材料は同等でした。
著者らの第一の結論はこうです——ほとんどのオールセラミック単冠の生存率は、前歯部でも臼歯部でも、メタルセラミック単冠と同等だった。
④ところがジルコニアは、「生きているが問題が多い」
合併症のほうを見ると、様相が変わります。
フレーム破折の5年累積発生率は、こうでした(表7)——長石系・シリカ系 6.7%(95%CI 2.4〜18.4%)/緻密焼結アルミナ 2.4%(1.5〜3.6%)/リューサイト・二ケイ酸リチウム強化ガラスセラミック 2.3%(1.0〜5.5%)/ガラス浸潤セラミック 2.1%(1.1〜3.9%)/ジルコニア 0.4%(0.1〜1.7%)/メタルセラミック 0.03%(0.002〜0.3%)。ただし全体としては、セラミックの種類を問わずメタルセラミックより有意に多く発生していました(P<.0001、P=.03)。
「材料が強いほどフレーム破折が少ない」という単純な順序ではないことに注意してください。ジルコニア0.4%より、緻密焼結アルミナ2.4%のほうが多い。曲げ強さの順位が、そのまま臨床の破折率の順位になるわけではありませんでした。
そしてジルコニア固有の問題が2つあります。
この2点をもって、著者らは「ジルコニアベースの単冠は、技術的問題の発生頻度が高いため、第一選択とみなすべきではない」と結論しています。
他方、チッピング(前装陶材の欠け)そのものは、メタルセラミックとオールセラミックで全体としては同程度に起きていました。メタルセラミックでは最も多い技術的合併症で、5年累積2.6%(95%CI 1.3〜5.2%)。ただしアルミナ系とジルコニア系では、他のセラミック冠よりチッピングが多い傾向が見られました。
⑤生物学的合併症は、意外に静かだった
歯そのものに起きる問題も集計されています。
メタルセラミックで最も多かったのは支台歯の失活で、5年合併症率1.8%(95%CI 1.6〜1.8%)。これはリューサイト・二ケイ酸リチウム強化ガラスセラミック冠とガラス浸潤アルミナ冠では有意に少なくなっていました(P=.006、P<.0001)。
二次う蝕はメタルセラミックで5年1%(95%CI 0.8〜1.4%)。ほとんどのオールセラミック冠も同程度でしたが、ジルコニアベースの冠は有意に少なく、ガラス浸潤セラミック冠は有意に多いという結果でした(P=.04、P<.0001)。
⑥明日の臨床へ
第一に、「オールセラミックだから寿命が短い」という前提は、もう置ける。リューサイト・二ケイ酸リチウム強化ガラスセラミックの5年生存率96.6%、緻密焼結アルミナの96.0%は、メタルセラミックの95.7%と横並びです。
第二に、長石系・シリカ系は前歯部に限る。著者らが明言しています——より弱い長石系・シリカ系セラミックは、前歯部への適用に限定すべきである。臼歯部での生存率低下は有意でした。
第三に、ジルコニアを選ぶなら、脱離対策を設計に織り込む。5年で4.7%という脱離率は、他の材料では主要な問題として挙がらなかった項目です。支台歯形成の維持形態と、接着のプロトコル(エアアブレーション+MDP系レジンセメント)が効いてくる場面といえます。
第四に、生存率と合併症率を分けて患者に説明する。「5年で9割以上残っています」は本当ですが、「残っている=無事」ではありません。チッピングも脱離も、生存の中に含まれています。
まず数字の扱いです。この論文は抄録と集計表で数値が複数食い違っています——メタルセラミックの5年生存率(抄録94.7%/表3・表4 95.7%)、ジルコニア(抄録92.1%/表4 91.2%)、ガラスセラミックの信頼区間(抄録94.9〜96.7%/表4 94.9〜97.7%)、長石系のフレーム破折の信頼区間(本文2.4〜17.7%/表7 2.4〜18.4%)。本記事はすべて集計表の値を採りました。次にジルコニアの信頼区間の広さ——91.2%(82.8〜95.6%・P=0.055)、脱離4.7%(1.7〜13.1%)と、いずれも幅が大きい。当時ジルコニア冠の長期データがまだ少なかったことの反映で、点推定だけを見ると実態を見誤ります。そして検索は2013年までです。この10年余りで高透光性ジルコニアのモノリシック使用が広がり、「前装の破折」という失敗様式そのものが減った可能性があります——つまりこの論文が指摘したジルコニアの弱点の一部は、設計の変更で回避されているかもしれません。それでも、生存率と合併症率を分けて読むというこの論文の作法は、材料が変わっても古びません。
今日のひとこと
「5年で9割以上残っています」は本当だが、残っている=無事ではない。生存率が横並びでも、失敗の様式は材料ごとに違う。ジルコニアは生存率91.2%の裏で、脱離4.7%という他の材料には無い弱点を抱えていた。材料を選ぶとは、寿命を選ぶことではなく、どの失敗と付き合うかを選ぶことでもある。


