測定系の硬さを変えると、応力の数字も「当たり」も変わる(Boaro 2014・Dental Materials)
コンポジットレジンの重合収縮応力は、硬いガラスのロッドのあいだで測るのが標準でした。しかし歯の壁はたわみます。6製品を、たわまないガラスと、歯に近くたわむPMMAの両方で測ったところ——応力の絶対値だけでなく、界面の質との相関まで違いました。
①「収縮応力が低い」——その数字は、何の上で測られたのか
コンポジットレジンのカタログには、たいてい重合収縮応力の値が載っています。低いほど良い。そう読んで、製品を選ぶ材料のひとつにしてきました。
では、その応力はどうやって測られているのでしょうか。
標準的なやり方はこうです。レジンを2本のロッドのあいだに詰めて光照射し、収縮しようとする力をロードセルで拾う。ロッドの断面積で割れば、MPaの数字が出ます。このロッドの材質に、ガラスが使われてきました。硬くて変形しない=低コンプライアンスの系です。
しかし歯は、ガラスほど硬くありません。窩洞の壁はレジンの収縮に引かれて、わずかにたわみます。測定系の「硬さ」を変えたら、その数字は臨床の結果をもっとよく言い当てるようになるのか——それを確かめたのがこの研究です。
②6製品を、2つの硬さの上で測る
サンパウロ大学らのグループは、市販の6製品(Filtek Z250、Heliomolar、Aelite LS Posterior、Filtek Supreme、ELS、Venus Diamond)を使い、界面の質と重合収縮応力の両方を測りました。
そのうえで、ピアソンの相関係数で「応力の数字」と「界面の質」の対応を見ました。データ対は6組なので、有意となる臨界値はr=0.811と設定されています。
③ガラスの上では、差が大きく出る
まず応力そのものです。PMMA(高コンプライアンス)では2.5〜3.5MPaに収まったのに対し、ガラス(低コンプライアンス)では2.1〜8.2MPaへ大きく開きました。
最も低かったのは両方でELS(2.5/2.1MPa)、最も高かったのは両方でFiltek Supreme(3.5/8.2MPa)。ただし、ELS・Heliomolar・Venus Diamondの3製品は、どちらの系でも応力が統計的に同等だったのに対し、Filtek Supreme・Aelite LS・Filtek Z250の3製品は、ガラスの系で有意に高い値を示しました(レジンとコンプライアンスの交互作用 P<0.001)。
つまり、たわまない土台の上で測ると、応力の高い製品だけが、より高く出る。差が誇張される方向です。
④ところが、界面の質をよく言い当てたのは「たわむ側」だった
界面の質のほうの実測値は、こうでした。接着強さは4.7〜7.9MPa(最低Aelite LS、最高ELS)、辺縁ギャップの発生率は13〜47%(最低Venus Diamond、最高Filtek Supreme)、微小漏洩の平均は0.35〜0.89mm(最低ELS、最高Filtek Supreme)、最大値は0.71〜1.34mmでした。
そしてこれらと応力の相関です。
差が大きく出るガラスのほうが、界面の質との対応は弱かった。とくに接着強さとの相関は、ガラス側だけが臨界値に届きませんでした。著者らの結論も同じです——高コンプライアンスの測定系で得た応力データのほうが、in vitroの界面完全性とより強く相関した。
⑤なぜ「たわむ土台」のほうが当たるのか
窩洞の中で起きていることを思い浮かべると、理屈は素直です。
レジンが縮むとき、周りの歯質は完全に固定された壁ではありません。カスプはたわみ、その分だけ応力は逃げます。逃げ場のあるなしで、界面にかかる力の大きさも、どこで剥がれるかも変わる。
ガラスの系は、この「逃げ場」をゼロにした条件です。実際の窩洞よりも厳しい方向にずらしているので、応力の絶対値は大きく出るし、製品間の順位も、たわみが効くはずの領域では実際とずれうる。
この研究で興味深いのは、順位そのものは両方の系でほぼ同じだったことです。応力の順位と微小漏洩の順位はよく一致し、辺縁ギャップもほぼ同様(例外はVenus Diamond——ギャップ発生率は最低の13%なのに、応力と微小漏洩は中間でした)。接着強さだけが、やや違う順位を示しました。
著者らは、材料側の説明も添えています。ポストゲル収縮が小さい材料ほど、弾性率にかかわらず界面の完全性が良かった——縮み方の総量より、「固まってから縮んだ分」が効いている、という読み筋です。
⑥明日の臨床へ——カタログの数字の読み方が変わる
第一に、重合収縮応力の値を見るときは、測定条件を確かめる。同じ製品でも、ガラス基材とPMMA基材では別の数字が出ます。この研究のFiltek Supremeは、PMMAで3.5、ガラスで8.2でした。倍以上ちがう数字が、どちらも「重合収縮応力」として通用しうるということです。
第二に、応力の順位は、辺縁の質の順位とおおむね一致する。この研究の範囲では、応力の低い製品ほど微小漏洩が少なく、ギャップも少なかった。カタログの数字がまったく無意味というわけではありません。
第三に、接着強さだけは、応力から予測しにくい。ガラス基材の応力と接着強さの相関は有意に届きませんでした。「収縮応力が低い=接着が強い」と読み替えるのは、この結果からは無理があります。
第四に、製品選びより、積層と光照射の設計のほうが手元で動かせる。ここは原著の直接の検討事項ではありませんが、ギャップ発生率が13〜47%という幅で出ていること自体が、界面の質は決して安定していないという事実を示しています。
これはすべてin vitroの実験で、しかもウシ歯を使っています。臨床での術後知覚過敏や二次う蝕を直接測ったものではありません。相関の計算に使われたデータ対はわずか6組(=6製品)で、この規模では相関係数は数点の材料の位置で大きく振れます。また本文の結果(3.)の末尾には「低コンプライアンス系の相関のほうが一貫して高かった」という一文がありますが、これは表3の実数値とも抄録の結論とも逆で、原著内の食い違いと読むのが自然です(表3では高コンプライアンス側が 0.910/0.993/0.942/0.932、低コンプライアンス側が 0.744/0.934/0.889/0.817)。本記事は表3と抄録の結論に従いました。なお抄録はPMMA上の応力範囲を「2.5〜4.4MPa」と書いていますが、表2の実測値の上限は3.5MPa(Filtek Supreme)です。同様に平均微小漏洩の下限(抄録0.34/表2 0.35)と最大微小漏洩の下限(抄録0.61/表2 0.71)も食い違っており、本記事はいずれも表2の数値を採りました。そしてもうひとつ——原著は「力学試験と臨床状況を直接比較することは避けるべきである」と明記しています。この記事が「界面の質」と呼んでいるものは、あくまでウシ歯を使ったin vitroの指標です。それでも、「測り方を歯に近づけると、数字の当たりがよくなる」という骨格は、材料の数字をどう読むかを考えるうえで示唆的です。
今日のひとこと
材料の数字は、測り方とセットでしか意味を持たない。同じレジンの重合収縮応力が、ガラスの上では8.2MPa、PMMAの上では3.5MPa。そしてin vitroの界面の質をよく言い当てたのは、歯に近くたわむPMMAの上で測った数字のほうだった——原著自身が、力学試験と臨床状況を直接比べることは避けるべきだと釘を刺している。


