1問1答 論文 保存修復

象牙質の接着はなぜ時間とともに弱まる?——原因は象牙質の酵素と水。対策はCHXに最も根拠(接着強さ試験中心の総説)

1問1答 論文 保存修復

保存修復|象牙質接着の耐久性・MMP・クロルヘキシジン・架橋材・エタノールウェットボンディング。Buonocore Lecture として発表された総説(Tjäderhane 2015・Operative Dentistry)

充填直後の接着強さは十分なのに、時間がたつと界面が弱っていく——象牙質接着の長年の悩みです。オウル大学(フィンランド)のTjäderhane先生は、この「時間による接着強さの低下」の主な原因を、象牙質にもともと含まれるコラーゲン分解酵素(MMP・システインカテプシン)と、界面に残る水による分解だと整理しました。そのうえで、酵素阻害・コラーゲンの強化・水の排除という対策を並べ、実験室と生体内の接着強さ試験で最も根拠が厚いのはクロルヘキシジンによる酵素阻害で、長期の臨床成績研究はまだない、と結論しています。

論文
Dentin Bonding: Can We Make it Last?
著者
Leo Tjäderhane(オウル大学 歯学研究所・オウル大学病院 医学研究センター, フィンランド)
掲載
Operative Dentistry 2015;40(1):4-18. DOI: 10.2341/14-095-BL
種類
総説(Buonocore Lecture=米国の保存修復系学会の記念講演を論文化したもの)。検索方法や採択基準の記載はない文献レビューで、引用文献150本。クロルヘキシジンについては著者が25論文の接着強さデータを集計した図を含む。根拠の多くは実験室研究と、口の中で機能させた歯を調べる生体内研究の接着強さ・界面観察で、修復物の臨床成績ではない
PMID
25615637

充填直後は強いのに、なぜ弱まる?

いまの接着システムは、象牙質に対してかなり高い初期の接着強さを出せます。ところが、実験室で時間をおいた試料でも、口の中で機能させた歯でも、年月とともに界面の緻密さと接着強さが失われていくことが繰り返し報告されてきました。界面の劣化は細菌の微小漏洩を増やし、気づかれない二次う蝕にもつながる、と著者は述べています。

結論を先に言うと、著者はその主な原因を象牙質にもともと含まれるコラーゲン分解酵素と、界面に残る水だとまとめ、酵素を止める手段ではクロルヘキシジン(CHX)に現時点で最も根拠がある、としています。

この論文は「接着の耐久性」を整理した講演録

論文の骨格:米国の保存修復系学会で行われる記念講演 Buonocore Lecture を論文化した総説です。検索式や採択基準の記載はなく、著者が文献(引用150本)をもとに論じた文献レビューです。
流れは3段。①なぜハイブリッド層が壊れるか(コラーゲンの分解と接着材の加水分解)、②土台となる象牙質の問題(深さ・う蝕)、③耐久性を上げる方法(う蝕象牙質の除去・化学的結合・酵素阻害・架橋材・再石灰化・親水性の排除)。
CHXについてだけは、著者が25論文の接着強さデータを集計した図を載せています。
接着が弱まる要因(著者の整理)① コラーゲンの分解象牙質にもともとあるMMP・システインカテプシンが、樹脂に包まれきらなかったコラーゲンを分解。接着材の酸性でも活性化② 接着材レジンの加水分解HEMAなど親水性モノマーは水を吸い、重合を妨げ物性を下げる。市販62製品中48製品(77%)がHEMA入り③ 共通の土台=残った水コラーゲンの網を広げるには水が要るが、残った水が①②の分解を招く。深い象牙質やう蝕象牙質は湿る④ そもそもの初期値初期の接着強さは深い象牙質で浅い象牙質より30〜50%、う蝕影響象牙質で健全象牙質より20〜50%低いTjäderhane 2015(総説講演)の本文をもとに作図。数値は総説が引用した研究群の一般的な範囲
著者が挙げた、ハイブリッド層の接着が弱まる要因(原著の本文をもとに作図)

壊れる仕組み——コラーゲンを溶かす「自前の酵素」と水

エッチ&リンスでは酸で5〜10 μmほど脱灰し、水に浮いたコラーゲンの網にモノマーをしみ込ませます。セルフエッチは酸性モノマーが脱灰とプライミングを同時に行います。どちらも、できあがるのはコラーゲンと重合レジンが混ざったハイブリッド層です。ただしその出来は完全ではなく、コラーゲンの網を広げておくための水、限られた処置時間、重合率の低さが、均一な接着を妨げます。

コラーゲンの分解:ハイブリッド層のコラーゲンが失われていく現象は、1999〜2002年ごろ(原著の時点で約15年前)に、実験室と生体内の研究で見つかりました。ヒトの健全な象牙質には、MMP-2・-8・-9・-3・-20、システインカテプシンB・Kが含まれていることがわかっています。そしてエッチ&リンス・セルフエッチどちらの接着材の酸性も、これらの酵素を活性化します。つまり、樹脂に包まれきらなかったコラーゲンを、象牙質自身の酵素がゆっくり分解していくわけです。

接着材の加水分解:濡れた象牙質に接着させるには親水性モノマーが要ります。代表のHEMAは、ある系統的レビューで市販接着材62製品のうち48製品(77%)に入っていました。一方でHEMAは硬化の前後とも水を吸い、重合を妨げ、物性を下げ、重合後のレジンの加水分解につながります。著者はこれを「諸刃の剣」と表現しています。

土台の象牙質——深い窩洞とう蝕象牙質は、初めから不利

象牙質は体積で約50%が無機質、約30%がコラーゲンなどの有機質、約20%が水です。象牙細管は歯髄側ほど太いため、深い象牙質ほど湿っていて、初期の接着強さは浅い象牙質より一般に30〜50%低いとされます。

う蝕も同じ方向に働きます。う蝕影響象牙質への初期の接着強さは健全象牙質より一般に20〜50%低く、感染象牙質ではさらに低い。脱灰で水分が増え、酸がより深く脱灰して、厚くしみ込みの悪いハイブリッド層になりやすいからです。加えてう蝕象牙質では、カテプシンB・KとMMP-2・-9が健全象牙質に比べて大きく増えていると報告されています。

ただし、深い窩洞と浅い窩洞で接着の耐久性を比べた研究はない、と著者は断っています。「初期値が低く分解のリスクも高いので、低下は速いかもしれない」というのは著者の推測です。

クロルヘキシジンで酵素を止めると、低下は抑えられたか

CHXは象牙質のコラゲナーゼとゲラチナーゼを阻害し、実験室研究と生体内研究の両方で、ハイブリッド層のコラーゲン分解をなくすか、少なくとも遅らせて、接着を保つことが示されてきました。著者はそうした研究のうち、CHX 0.2%以上・6か月以上の経過で、初期と経過後の接着強さを報告した25論文を集め、1か月あたりの接着強さの低下率を対照と比べています。

CHXで「月あたりの接着強さ低下率」は小さくなったか2ステップ エッチ&リンス23論文・77群。対照より有意に小さい(p<0.001)セルフエッチ6論文・15群。対照より有意に小さい(p<0.05)3ステップ エッチ&リンス5論文・10群。図に有意差の印なし著者が25論文を集計(CHX 0.2%以上・6か月以上・実験室と生体内の接着強さ試験)。原著Figure 3より。1論文が複数タイプを含むため、タイプ別の論文数の合計は25を超える。修復物の臨床成績ではない
接着材のタイプ別に、CHX群と対照群の「月あたりの接着強さ低下率」を比べた著者の集計(原著Figure 3をもとに作図。数値は論文の図の注記と有意差の印のみを記載)

2ステップのエッチ&リンスとセルフエッチでは、CHX群の低下率が対照より有意に小さく、3ステップのエッチ&リンス(5論文・10群)では有意差の印はありませんでした。

使い方の実際として、生体内の実験では酸エッチング後の象牙質に0.2〜2.0%のCHXを15〜60秒作用させてから、プライマーや接着材を塗る方法で、ハイブリッド層と接着強さが保たれていました。欠点は工程が1つ増えること。接着材に混ぜる方法やエッチング材に混ぜる方法も研究されており、CHX入りの酸では実験室研究で最長2年、ナノリーケージと接着強さの低下が有意に減っています。

う蝕影響象牙質でも、2ステップのエッチ&リンスに2% CHXを使うと6か月後の接着強さが対照より有意に高かった、という実験室研究があります。一方、乳臼歯の生体内研究では、CHX群は18〜20か月まで対照より有意に高い接着強さを保ったものの、CHX群でも時間とともに低下していました。CHXは大きな水溶性の分子なので、ハイブリッド層から溶け出して効果が薄れる可能性がある、と著者は考えています。

CHX以外の作戦——どこまで進んでいるか

ハイブリッド層を守る作戦と、著者の評価酵素を止める:クロルヘキシジン実験室と生体内で最も根拠が厚い。長期の臨床成績研究はまだない。溶け出して効果が薄れる可能性酵素を止める:その他塩化ベンザルコニウム・亜鉛・MDPB・DMSO・ガラルディンなど。有望だが確認が必要コラーゲンを強くする:架橋材グルタルアルデヒドは毒性、カルボジイミドは処理時間、リボフラビンは別照射が壁。プロアントシアニジンは短時間でも有望水を追い出すエタノールウェットは技術的に難しく時間も長い。生体模倣の再石灰化は究極の目標だが概念実証の段階Tjäderhane 2015(総説講演)の本文をもとに作図。各手法の根拠の多くは実験室研究
ハイブリッド層を守るための主な作戦と、著者による評価(原著の本文をもとに作図)

ほかの酵素阻害:塩化ベンザルコニウム、亜鉛、MMPを阻害するモノマーのMDPB、溶媒のDMSOなどが検討されています。ガラルディン(0.2 mM)はCHXと同程度に接着強さの低下を抑えましたが、ガラルディンやバチマスタットなどを20分の1の濃度で試した研究では確認できず、象牙質の中では精製酵素の実験より高い濃度が要るようだ、と著者は読んでいます。

化学的結合:10-MDPなどの機能性モノマーを含むマイルドなセルフエッチでも、実験室・生体内とも接着強さは時間とともに下がっていました。ハイブリッド層の最深部が守りきれていないようで、著者はここでも酵素阻害が要るとしています。

架橋材でコラーゲンを強くする:グルタルアルデヒドは細胞毒性、カルボジイミドは効果が出るまでの時間、リボフラビンは紫外線などの別照射が、それぞれ臨床での壁です。一方、プロアントシアニジンは短い処理時間でも初期の接着強さを上げられる可能性があり、長期の接着強さの改善も示されています。

水を追い出す:HEMAを抜いた接着材は相分離しやすく、耐久性の研究は少なく結果も割れていますが、全体としては接着強さの低下が起きているようです。エタノールウェットボンディングは技術的に難しく処理時間も長い。生体模倣の再石灰化は、著者が「究極の目標」とする一方で、まだ概念実証の段階としています。

明日の臨床へ

著者が結論で挙げたのは次の4つです。
①う蝕象牙質の扱い。少なくとも感染象牙質(軟らかい象牙質)と、窩縁付近のう蝕象牙質は取り除く。これを接着の最低条件としています。
②接着システムの選び方。簡便な接着材が増えても、3ステップのエッチ&リンスと2ステップのセルフエッチが今も信頼性の基準。マイルドなセルフエッチはエナメル質を十分にエッチングしないことがあるので、エナメル質の窩縁は別に酸エッチングすることを推奨しています。
③クロルヘキシジン。完璧ではなく長期の臨床成績研究もまだないが、有害事象の報告はない。他の方法が安全で同等以上と示されるまでは、別塗りでも接着材に含む形でも「使ってよく、使うべき」としています。
④その先。疎水性の接着材を使えるようにする方向は魅力的な別の選択肢ですが、新しいモノマーが要るかもしれない、としています。架橋材とエタノールウェット・DMSOなどを組み合わせる方法が、より手軽な道になりうるとも述べています。そのうえで、ハイブリッド層のコラーゲンを元の石灰化状態に戻す生体模倣の再石灰化を「究極の目標」としています。
編集部の補足:原著で紹介された生体内実験でのCHX前処理は、酸処理後に15〜60秒の工程が1つ増える形です。

編集部の補足(原著にはない内容):原著は海外の研究をもとにしています。日本では、クロルヘキシジングルコン酸塩は昭和60年と平成4年の再評価で、ショックの発現リスクのため粘膜面への使用が禁止されています(出典:医薬品医療機器総合機構「クロルヘキシジングルコン酸塩又はクロルヘキシジン塩酸塩含有製剤(医療用医薬品)の『使用上の注意』の改訂について」2017年10月17日 https://www.pmda.go.jp/files/000220517.pdf)。国内で象牙質に使うかどうかは、使える製品と適応を確かめたうえで判断してください。

ここだけ、冷静に補助線

読むときの補助線:まず、これは検索方法や採択基準の記載がない講演録の総説で、どの研究を取り上げるかは著者の判断です。引用文献150本のうち40本以上に著者自身が名を連ねています(利益相反はなしと明記、研究費はフィンランド・アカデミー)。第二に、根拠の中心は接着強さや界面の観察で、CHXの集計図も実験室と生体内の接着強さ試験をまとめたもの。統計の方法は詳しく書かれておらず、材料も条件も違う研究の群を束ねています。著者自身も、実験室の接着強さと修復物の臨床成績を結びつける根拠は限られると認めています。第三に、2015年の論文なので、その後の臨床研究や新しい接着材は含まれません。それでも、「初期の接着強さ」ではなく「ハイブリッド層が時間とともにどう壊れるか」から材料と手順を考えるという視点は、接着の手順を見直すときの足場になります。

今日のひとこと

著者によると、象牙質接着が時間とともに弱まるのは、ハイブリッド層をつくる2つの成分——象牙質のコラーゲンと接着材レジン——が水の関わる分解を受けるため。コラーゲンは象牙質にもともとあるMMP・システインカテプシンに分解され、酸処理や酸性モノマーはこれらの酵素を活性化する。著者が挙げた結論は4つ。①少なくとも感染象牙質(軟らかい象牙質)と窩縁付近のう蝕象牙質は取り除く。②3ステップのエッチ&リンスと2ステップのセルフエッチが今も基準で、セルフエッチではエナメル質の窩縁を別に酸エッチングする。③酵素を止める手段では、実験室と生体内の研究でクロルヘキシジンに最も根拠があり、長期の臨床成績研究はまだないものの、他の方法が安全で同等以上と示されるまでは使ってよく、使うべき。④疎水性の接着材を使えるようにする方向は魅力的な別の選択肢(新しいモノマーが要るかもしれない)で、ハイブリッド層を元の石灰化状態に戻す生体模倣の再石灰化が究極の目標。

Tjäderhane L. Dentin bonding: can we make it last? Oper Dent. 2015;40(1):4-18. PMID: 25615637. DOI: 10.2341/14-095-BL
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。