保存修復|セルフエッチングボンドへの照射と、充填レジン越しに届く光。抜去歯で微小引張接着強さを比べた実験室研究(Seki ほか 2011・Dental Materials Journal)
ボンドを塗って光を当て、その上にレジンを詰めてまた光を当てる。接着層は、じつは2回光を浴びています。1回目はボンドへの直接の照射、2回目は詰めたレジン越しに届く光です。東京医科歯科大学のグループは、照射の強さと充填レジンの光の通しやすさを組み合わせ、セルフエッチングボンド3種の象牙質接着強さを比べました。結果は、光を通しにくいレジン越しでは接着強さが低くなりやすく、ボンドによっては、ボンドへの照射が弱くても光を通すレジンを詰めた条件のほうが高い値になりました。
①ボンドに光を当てたら、あとはレジンしだい?
セルフエッチングボンドを塗り、エアブローして10秒照射。ここまで丁寧にやれば、接着は済んだ気持ちになります。その上に詰めるレジンの色や透明感は「審美の話」で、接着とは別。そう考えがちです。
この論文は、そこに一石を投じます。抜去歯の平らな象牙質で調べたところ、光を通しにくいレジンを詰めた条件では、ボンドへの照射が同じでも接着強さが低くなりやすかった。さらにボンドによっては、ボンドへの照射が弱くても、光を通すレジンを詰めたほうが高い値になりました。
②接着層は、光を2回浴びている
レジン充填では、接着層は2回光を受けます。1回目はボンドへの直接の照射。窩洞の形や歯の位置、隣在歯があるかで届く強さが変わり、ライトの先端が遠いほど弱くなります。2回目は詰めたレジン越しに届く光で、レジンの種類・色・厚みによって通り方が変わります。
照射が弱いと象牙質への接着強さが下がることは、それまでも報告されていました。一方で、レジン越しに届く光が接着強さにどう響くかを調べた研究は少なかった、と著者らは述べています。
著者らが特に気にしたのは1ステップのボンドです。エアブローしても水や溶媒が層の中に残りやすく、重合が進みにくい。だから2ステップより光の影響を受けやすいのではないか、という仮説です。
③今回の実験:照射の強さ×レジン×ボンド3種
ボンド3種:クリアフィル SEボンド(2ステップ)、クリアフィル S3ボンド(1ステップ)、ボンドフォース(1ステップ)。
照射の強さ2条件:350 または 600 mW/cm²。ボンドに10秒、その上に一括で詰めた厚さ約2mmのレジンに20秒、同じ強さで当てた。
充填レジン2種:光を通しやすいクリアフィル フォトコア/光を通しにくいクリアフィル マジェスティ OA2。
評価:水中24時間後の微小引張接着強さ(μTBS。各群18本の試験片)。別の36本の歯で、界面への銀の染み込み(ナノリーケージ)をSEMで観察。
まず、ボンドに届く「2回目の光」がどれくらい違うのか。著者らの予備実験で、厚さ2mmのレジンを通った光の強さを測っています。
光を通しにくいレジンでは、600 mW/cm²で当てても50 mW/cm²しか通らず、光を通すレジンの約3分の1。350 mW/cm²では20 mW/cm²で約6分の1でした。つまり「光を通しにくいレジン・600」は「光を通すレジン・350」よりも、ボンドに届く2回目の光が少ない。この逆転が、今回いちばん見どころの比較になります。
④結果:レジン越しの光が少ないと、接着強さが低かった
同じ照射の強さで、レジンだけを変えた比較(3種×2条件=6つ)では、光を通しにくいレジンのほうが平均値は6つとも低く、そのうち5つで有意差がありました。差がつかなかったのは、S3ボンドの600 mW/cm²(46.4 vs 39.7 MPa)だけです。
見どころの逆転比較、「光を通すレジン・350」vs「光を通しにくいレジン・600」はこうなりました。
・SEボンド:52.5 vs 42.3 MPa(有意差あり・p=0.001)
・ボンドフォース:39.6 vs 26.1 MPa(有意差あり・p<0.0001)
・S3ボンド:39.1 vs 39.7 MPa(有意差なし)
SEボンドとボンドフォースでは、ボンドへの照射が強くても、レジン越しに届く光が少ない条件のほうが低い値でした。そして「光を通しにくいレジン・350」は、3種すべてで4条件中いちばん低い値でした。
ボンドどうしで比べると、SEボンドは4条件すべてで平均値がいちばん高く、光の条件がもっとも恵まれた「光を通すレジン・600」と、もっとも厳しい「光を通しにくいレジン・350」の差は、SEボンドで66.4→35.7 MPa、ボンドフォースで50.1→16.6 MPaでした。
⑤ボンドで差が出た理由(著者らの推察)
ボンドフォースの落ち込みが大きかった理由を、著者らはこう推察しています。著者らが文献を引いて述べるところでは、1ステップのボンドは溶媒と機能性モノマーが半分近くを占め、網目をつくる疎水性モノマーが少ない。そこに残った水や溶媒が重合を妨げ、光が足りないと層の強さが大きく損なわれる、という説明です。
観察でも、ボンドフォース・光を通しにくいレジン・350の群だけ、象牙質側の界面に加えてレジン側の界面にも銀の染み込みが見られました(ほかの群は象牙質側だけ)。著者らは、ボンド層と充填レジンのつながり(共重合)が損なわれたと読んでいます。
一方、同じ1ステップでもS3ボンドは比較的安定していました。著者らは、溶媒の違い(S3ボンドはエタノール、ボンドフォースはイソプロピルアルコールで、エタノールのほうが蒸発しやすい)や、光重合開始剤の違いを理由の候補に挙げています。S3ボンドの吸水性が低いという点は、この研究ではなく、同じグループの別の研究(Itoh ほか 2010)の結果の引用です。
著者らはまとめとして、光の影響は1ステップか2ステップかという分類では決まらず、材料ごとに違ったと述べています。
⑥明日の臨床へ
補足(筆者の読み):
・光を通しにくいシェードのレジンを接着面の真上に厚く詰める場面では、「あとの照射でボンドにも光が届く」とはあまり期待できない、と考えておくのが安全です。
・同じレジンなら350群の平均値は600群より低めでした。ただし350群ではボンドとレジンの両方への照射が弱く、直接照射だけの効果は切り分けられていません(光を通しにくいレジンのSEボンドでは、600と350に有意差なし)。
・使っているボンドがどの程度光の条件に左右されるかは、製品によって違いうる、という視点も持っておきたいところです。
ただしこれは平らな象牙質・24時間後の実験室の結果で、窩洞の中や長期の予後で同じになるかは示されていません。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者らの結論:この研究の範囲では、象牙質への高い接着強さには、ボンドへの直接の照射だけでなく、充填したレジン越しにボンド層へ届く光の強さも重要だった。クリアフィル SEボンドとボンドフォースでは、ボンドへの照射が比較的弱くても、レジン越しに届く光が強いほうが平らな象牙質への接着性能が高く、クリアフィル S3ボンドでは直接と間接の光が補い合うように働いた。ただし窩洞の壁では収縮応力の影響が加わるため結果は変わりうる、と著者ら自身が述べている。


