1問1答 論文 保存修復

試適で唾液がついた——その洗い方、セラミックの種類で変えていますか

1問1答 論文 保存修復

唾液で汚染したガラスセラミック表面を5通りの方法で洗い、レジンとのせん断接着強さと表面の元素組成を比べたin vitro研究(Lapinska 2019・Molecules)

試適したら唾液がついた。水で洗って乾かして、そのまま着ける——多くの診療室で当たり前になっている流れです。この研究が示したのは、正解が一つではないことでした。ロイサイト系と二ケイ酸リチウム系で、HFの再エッチングという同じ一手の評価が、最下位と最上位に分かれたのです。

論文
Effect of Surface Cleaning Regimen on Glass Ceramic Bond Strength
著者
Lapinska B, Rogowski J, Nowak J, Nissan J, Sokolowski J, Lukomska-Szymanska M
掲載
Molecules 2019;24(3):389(doi:10.3390/molecules24030389)
種類
in vitro(せん断接着試験 計264試料+TOF-SIMSによる表面元素分析)
PMID
30678247

試適して、唾液がついた。そのあと何をしていますか

ラボから届いたガラスセラミックの内面は、すでにフッ化水素酸(HF)でエッチングされています。高エネルギーで、微細な凹凸に富んだ、接着にとって理想的な面。

そして、汚れやすい面でもあります。

試適すれば唾液がつきます。唾液は水だけではありません。糖タンパク・酵素・免疫グロブリン・ムチン——これらが表面に吸着して獲得被膜(ペリクル)を作り、濡れ性と表面自由エネルギーを変えてしまう。

では、どう洗うか。水洗、リン酸、洗浄ペースト、超音波、HFで再エッチング。推奨されている方法は複数あって、どれが正解なのかははっきりしません。ポーランドとイスラエルのグループが、この5つを同じ条件で比べました。

読み終えて残ったのは、思っていたのと違う結論でした。HFの再エッチングという同じ一手の評価が、材料によって最下位と最上位に分かれた。

試験の組み立て

方法: 2種類のガラスセラミック——ロイサイト系(Avante)と二ケイ酸リチウム系(IPS e.max)——を600番まで研磨し、50µmアルミナのサンドブラストを行ったうえで9%HFで20秒エッチングし、唾液で汚染させた。洗浄法は①水洗のみ ②超音波洗浄5分 ③34%リン酸(H3PO4)1分 ④ユニバーサル洗浄ペースト(表では1分・方法欄では20秒すり込み)⑤9%HFで20秒の再エッチングの5通り。汚染していない試料を対照とした。どの群も洗浄後にユニバーサルプライマー(Monobond Plus)60秒→ボンディング(XP Bond)→フロアブル→充填用コンポジットという同じ接着手順を踏んでいる。各群 n=22(計264試料)。半数(n=11)は37℃蒸留水24時間保管後に、残りの半数(n=11)は熱サイクル1500回(5〜55℃)を加えてから、ISO/TS 11405に従いせん断接着強さ(SBS)を測定した(同一試料の前後測定ではなく、別々の群を壊している)。なお接着に使ったのはレジンセメントではなくフロアブルコンポジット+充填用コンポジットで、著者らも考察でこの点を弁明している。あわせてTOF-SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析)で表面の元素・分子イオンを調べ、唾液由来の成分がどれだけ残ったかを見ている。

ポイントは熱サイクルを加えたことです。24時間後の値は「くっついたかどうか」しか教えてくれません。口の中で数年もつかを推し量るには、温度変化で界面を痛めつけた後の値のほうが役に立ちます。

ロイサイト系——再エッチングが、いちばん弱かった

0 10 20 30 せん断接着強さ SBS (MPa) 14.59 5.46 19.39 4.7 12.51 5.14 12.45 5.32 12.27 3.32 9.56 2.08 対照(汚染なし) 水洗のみ 超音波5分 リン酸1分 洗浄ペースト HF再エッチ 24時間後 熱サイクル後 ロイサイト系ガラスセラミック(Avante)。濃い棒=24時間後、淡い棒=熱サイクル1500回後。24時間後の群間差は全体としては有意でない。熱サイクル後は、水洗・リン酸・洗浄ペーストがHF再エッチより有意に高かった(p<0.05)。24時間後と熱サイクル後を比べたとき、有意に低下しなかったのはリン酸洗浄だけ——ただし平均は12.45→5.32 MPaと落ちており、ばらつき(±9.03)とn=11のため有意に達しなかったと読むのが正確
ロイサイト系(Avante)。24時間後(濃い棒)と熱サイクル後(淡い棒)

まず目を引くのは、対照(汚染なし)でも平均が熱サイクルで14.59から5.46 MPaへ落ちていることです(有意差の検定は洗浄法5群について行われており、対照は対象外)。ロイサイト系とレジンの界面は、そもそも耐久性の面で余裕がありません。

そのうえで、洗浄法の差はこうでした。24時間後は、全体としては群間に有意差なし(p>0.05)。個別の比較でHF再エッチング(9.56)が水洗(19.39)より有意に低かった(p=0.0073)だけです。

差がはっきりしたのは熱サイクル後でした。水洗・リン酸・洗浄ペーストの3つが、HF再エッチング(2.08 MPa)より有意に高い(p<0.05)。そして——ここが実務に効きます——24時間後と熱サイクル後を比べたとき、有意に低下しなかったのはリン酸洗浄だけでした。水洗も、洗浄ペーストも、超音波も、再エッチングも、すべて有意に落ちています。

ただし読み違えない。 リン酸群も平均は12.45→5.32 MPaへ落ちている(−57%)。落ちなかったのではなく、標準偏差が±9.03と大きくn=11だったため有意に達しなかったと読むのが正確である。「リン酸なら熱サイクルでも接着が保たれる」という話ではない。

なぜHFの再エッチングで悪くなるのか。著者らの説明は「エッチングのやりすぎ」です。ラボで一度エッチングされた面にもう一度HFをかけると、大きく広がった表面構造が崩れる、あるいは破折してしまう——ただしこれは先行研究を引いた推測であって、この研究が確かめたことではありません(本研究が観察したのはTOF-SIMSによる表面の化学組成であり、表面形態の観察はしていません)。凹凸を作り直しているつもりで、凹凸を壊しているのかもしれない、というところまでです。

二ケイ酸リチウム系——結論が、ひっくり返る

0 10 20 30 せん断接着強さ SBS (MPa) 25.72 26.98 13.82 19.78 8.88 8.76 19.63 16.92 19.84 13.43 24.59 26.39 対照(汚染なし) 水洗のみ 超音波5分 リン酸1分 洗浄ペースト HF再エッチ 24時間後 熱サイクル後 二ケイ酸リチウム系ガラスセラミック(IPS e.max)。濃い棒=24時間後、淡い棒=熱サイクル1500回後。熱サイクル後は、HF再エッチ以外のすべての群が対照より有意に低かった(24時間後の時点で対照より有意に低いのは水洗と超音波のみ)。超音波洗浄はどの条件でも最も低い
二ケイ酸リチウム系(IPS e.max)。24時間後(濃い棒)と熱サイクル後(淡い棒)

同じ実験を e.max でやると、風景が変わります。

洗浄法のなかではHF再エッチングが最も高く(24時間 24.59/熱サイクル後 26.39 MPa)、未汚染の対照(25.72/26.98)とほぼ同じでした。唾液で汚れた面が、再エッチングによって「汚れていなかったこと」になっている。

そして熱サイクル後は、HF再エッチング以外のすべての群が、対照より有意に低かったのです。水洗(19.78)も、リン酸(16.92)も、洗浄ペースト(13.43)も。24時間の時点で対照より有意に低かったのは水洗と超音波だけで、リン酸と洗浄ペーストは有意差がありませんでした——差が開いたのは熱サイクルを加えてからです。

いちばん悪かったのは超音波洗浄(24時間 8.88/熱サイクル後 8.76 MPa)で、24時間の時点で水洗・リン酸・ペースト・再エッチングのすべてより有意に低いという結果でした。「丁寧に洗っているつもり」がいちばん裏目に出ています。

二ケイ酸リチウムは結晶構造がロイサイトと違い、再エッチングに耐えるだけの強度がある——というのが著者らの見立て(推測)です。同じ「ガラスセラミック」でも、HFに対する反応が違う。

明日の臨床へ

以下はいずれも平板試料のin vitro試験から導かれた示唆であり、臨床での成績を保証するものではありません。そのうえで。

①「唾液がついたら水で洗う」で止めない。ロイサイト系では水洗も24時間後は悪くありませんが、熱サイクルで有意に落ちました。e.maxでは熱サイクル後も対照より有意に低い。水洗だけでは、唾液成分は落ちきらない——これは先行研究でも繰り返し報告されていることです。

②材料名を確認してから洗浄法を決める。この研究の実務的な結論はここに尽きます。ロイサイト系ならリン酸洗浄(熱サイクルで有意には落ちなかった唯一の方法)。二ケイ酸リチウム系ならHFの再エッチング(熱サイクル後も対照と同等を保った唯一の方法)。技工物が何でできているかを知らないまま、いつも同じ洗い方をするのがいちばん危ういやり方です。

③ロイサイト系にHFの再エッチングをかけない。この研究では最悪の成績でした(熱サイクル後2.08 MPa)。「もう一度エッチングすれば新品同様」という直感は、材料によっては逆に働きます。

④超音波洗浄は、少なくとも e.max では選ばない。どの条件でも最下位でした。手間をかけている分、余計に残念な結果です。

⑤どの洗浄法を選んでも、シランは洗浄の後に塗る。この研究では全群で洗浄後にユニバーサルプライマーを塗っています。先行研究でも、汚染前にシラン処理してあった面でも、水洗のあとにシランを塗り直すのが最良だったと報告されています。洗ったらシランからやり直す、と覚えておくのが安全です。

ここだけ、冷静に補助線

ここだけ、冷静に補助線。 これはin vitroの研究です。平板の試料にせん断力をかけて壊しており、実際の窩洞形態でも、装着したクラウンでもありません。汚染も、術者が口腔内で試適したときの唾液・血液・試適ペーストの混合ではなく、唾液単独です。唾液は研究者本人1名から同じ機会にまとめて採取した新鮮唾液であり、ドナーが1人しかいない。試料数は各群 n=22(24時間群・熱サイクル群それぞれ n=11)で、標準偏差がかなり大きい——ロイサイト系の24時間データは±7〜9 MPaのばらつきがあり、平均値の順位を細かく読むのは危険です。実際、ロイサイト系の24時間後には群間の有意差が出ていません。差がはっきりしたのは熱サイクル後だけであり、この研究の主張の大半はそこに乗っています。もうひとつ、著者ら自身が正直に書いていることがあります——TOF-SIMSで見えた表面の化学的な変化は、接着強さの結果に直接は翻訳できなかった。「表面がきれいになった」ことと「よくくっついた」ことが一致しなかったわけです。接着に使ったのはレジンセメントではなくフロアブルコンポジットで、実際の合着とは条件が違う。材料は各系統1製品ずつで、他社製品に一般化できるかも未検証。それでも——洗浄法を材料で変えるという発想は、日々の試適の手順を見直すきっかけとして十分な価値があると思います。手元の技工物が何でできているか、まず確かめるところから。

今日のひとこと

唾液汚染したガラスセラミックの洗浄法は、材料によって最適解が違った。ロイサイト系(Avante)では、熱サイクル後に接着強さが有意には低下しなかった唯一の方法がリン酸洗浄で(それでも平均は12.45→5.32 MPaと落ちている)、HF再エッチングは洗浄法のなかで最も弱かった(熱サイクル後2.08 MPa)。二ケイ酸リチウム系(IPS e.max)では逆に、HF再エッチングだけが未汚染の対照と同等を保ち(熱サイクル後26.39 vs 対照26.98 MPa)、熱サイクル後は他のすべての方法が対照より有意に低かった。超音波洗浄はe.maxでどの条件でも最下位(8.76 MPa)。「唾液がついたら水で洗う」は、少なくともe.maxでは十分ではない。

Lapinska B, Rogowski J, Nowak J, Nissan J, Sokolowski J, Lukomska-Szymanska M. Effect of Surface Cleaning Regimen on Glass Ceramic Bond Strength. Molecules. 2019;24(3):389. doi:10.3390/molecules24030389 PMID: 30678247
本記事は論文の要点を医療従事者向けにまとめた解説です。臨床判断は原著と最新のエビデンスをご確認ください。