レジンセメント12製品(うち11製品をデュアル重合モードとセルフキュア=化学重合のみモードの両方)で固め、二ケイ酸リチウム(IPS e.max CAD)へのせん断接着強さと、セメント自身の曲げ強さ・曲げ弾性率を、硬化直後・1日後・2万回サーモサイクル後の3時点で測ったin vitro研究(Irie 2023・Polymers)
支台築造やジルコニアの合着など、光が十分に届かない場面ではセメントの化学重合に頼ります。そのとき頭をよぎるのが「デュアルで光を当てたものより弱いのでは」という不安です。岡山大学のグループが、12製品(うち11製品を両モードで)固めて、3つの時点で測りました。答えは「弱い」でも「同じ」でもなく、いつ測るかによるというものでした。
①光が届かない場所のセメントは、弱いのか
ジルコニアクラウンの合着、支台築造、不透明なメタルの装着——光が十分に届かない場面では、レジンセメントの化学重合に頼ることになります。
そのとき頭をよぎるのが、「デュアルで光を当てたものより弱いのでは」という不安です。実際、多くの報告が「セルフキュアのみでは、デュアル重合より機械的性質が劣る」と示してきました。重合度が低いぶん、硬さも弾性率も曲げ強さも落ちる、という筋道です。
岡山大学のグループが、レジンセメント12製品(うち11製品を両モードで)固め、3つの時点で測りました。答えは「弱い」でも「同じ」でもなく、いつ測るかによるというものでした。
②12製品を、2モード × 3時点で
測ったのは①二ケイ酸リチウム(IPS e.max CAD)へのせん断接着強さ ②セメント自身の曲げ強さ ③曲げ弾性率の3つを、硬化直後/37℃蒸留水で1日保管後/2万回サーモサイクル後の3時点で(各n=10)。最後に、接着強さと曲げ特性の関係を重回帰分析で調べている。
「同じセメントを、光ありと光なしで固めて、同じ相手に着ける」——比較としてこれ以上ないほど素直な設計です。
③差が出たのは、固まった直後だけだった
いちばん分かりやすい例を挙げます。SpeedCEM Plus は硬化直後、デュアル 21.7 MPa に対しセルフキュアが 7.3 MPa。3倍近い開きです。ところが1日後には 35.4 対 35.5 MPa——ほとんど同じところに並びました。2万回サーモサイクル後も 33.8 対 31.2 MPa です。
これは1製品の話ではありません。11製品 × 3時点 = 33組のセルフキュア対デュアル重合の比較のうち、有意差がついたのは10組(30%)だけ。内訳は硬化直後が7組、1日後が1組、2万回サーモサイクル後が2組です。つまり1日置いた時点で、11製品中10製品はモードによる差が消えていました(残った1組は ResiCem EX で、この製品だけが3時点すべてで差がついています)。
そしてもうひとつ。1日後の接着強さは、全製品・両モードで硬化直後を上回っていました。原著も「より高い平均値が得られたのは1日保管後またはサーモサイクル後だった」と書いています。ただし「サーモサイクル後も硬化直後を上回った」とまでは言えません——原著Table 3 を1行ずつ見ると、RelyX Universal(デュアル 32.5→29.3、セルフ 28.7→27.1)と RelyX Ultimate(デュアル 31.8→22.3)の3条件では、2万回サーモサイクル後の値が硬化直後を下回っています。耐久性の話と、硬化直後の弱さの話は分けて読む必要があります。
④「くっつく力」と「材料自身の強さ」は、別々に動いた
ここが面白いところです。接着強さではモード差が消えたのに、セメント自身の曲げ強さでは、差が残りました。
RelyX Universal Resin Cement で言うと、デュアル 65.6 → 117.5 → 108.6 MPa に対し、セルフキュアは 18.8 → 76.0 → 68.6 MPa。1日後もサーモサイクル後も、およそ6割程度にとどまっています。
つまり、「二ケイ酸リチウムにくっつく力」と「セメント自身の丈夫さ」は別の指標だということです。せん断接着試験は界面での剥離を測りますが、この研究では界面での接着破壊が1例も観察されていません(原著Table 3 の「接着破壊」欄は全行がゼロ)。原著は破壊様式の多くが混合破壊で、凝集破壊も見られたと記しています。接着界面がセメント自身より強かったため、モードによる材料強度の差が接着強さの数字に現れにくかった——そう読むのが素直です。
曲げ強さでは、ESTECEM II がほぼすべての条件で最も高く、RelyX Unicem 2 Automix が条件の半分で最も低いという結果でした。
⑤曲げ強さから接着強さは読めるのか
この論文のタイトルにある問いです。答えは「傾向としては読めるが、それだけでは決まらない」でした。
セメントの曲げ強さが高いほど、二ケイ酸リチウムへの接着強さも高いという相関は確認されています(R²=0.24・n=69・p<0.001)。曲げ弾性率でも同じ向きの相関がありますが、より弱い(R²=0.14)。
R²=0.24 というのは、接着強さのばらつきのうち、曲げ強さで説明できるのは4分の1程度という意味です。統計的には確かでも、「曲げ強さの高いセメントを選べば接着も強い」と言い切れるほどの説明力ではありません。残りの4分の3は、前処理材の種類・化学的な相性・重合様式など、別の要因が担っています。
なお、重回帰分析の結果については、原著の記載に食い違いがあります。抄録だけが R²=0.51 と書き、本文・図のキャプション・考察・結論はいずれも R²=0.26 です。しかも回帰式の記述そのものが「せん断接着強さは17.877+0.166、曲げ強さは0.643、曲げ弾性率は……」という、係数と変数の対応が読み取れない形で印字されています。この重回帰の数値は引用しないほうが安全です——単相関のほうは抄録・結果ともに R²=0.24/0.14 で一致しています(考察では 0.244/0.135 と有効数字が揺れています)。
⑥明日の臨床へ
②光が届かない場所を、必要以上に恐れなくてよい。1日経てば、11製品中ほとんどでモードによる差は消えていた。ただし「その1日」をどう凌ぐかの話は別である。
③製品による個体差のほうが、モードの差より大きい場面がある。硬化直後のセルフキュアで見ると、Super-Bond Universal 4.8/SpeedCEM Plus 7.3/ResiCem EX 9.3 MPa に対し、RelyX Universal は 28.7 MPa。同じ「セルフキュア」でも6倍の開きがある。
④ただし「サーモサイクル後も硬化直後より高い」とは限らない。RelyX Universal と RelyX Ultimate の3条件では、2万回のサーモサイクル後に硬化直後を下回っている。「1日で強くなる」ことと「その強さが持つ」ことは別の話である。
⑦ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
「セルフキュアはデュアルより弱い」は、時点を指定しないと成り立たなかった。11製品×3時点=33組の比較のうち、有意差がついたのは10組(30%)だけで、しかもそのうち7組は「硬化直後」に集中していた。1日後に差が残ったのは ResiCem EX の1組だけ(11製品中10製品で差が消えた)、2万回サーモサイクル後も差が残ったのは2組だけである。例えばSpeedCEM Plusは硬化直後こそ 21.7(デュアル)対 7.3 MPa(セルフ)と3倍近い開きがあったのに、1日後には 35.4 対 35.5 MPa とまったく同じところに並んだ。そして1日後の接着強さは、全製品・両モードで硬化直後を上回っていた(ただし2万回サーモサイクル後は別で、RelyX Universal と RelyX Ultimate の3条件では硬化直後を下回る)。さらに、セメント自身の曲げ強さが高いほど二ケイ酸リチウムへの接着も強いという相関が確認された(R²=0.24・n=69・p<0.001)——ただし説明力は限定的で、曲げ弾性率ではさらに弱い(R²=0.14)。合着直後に強い力をかけない、という当たり前の作法が、この論文でいちばん裏づけられている。


