審美修復|ポーセレンラミネートベニア・象牙質露出・接着強さ
ベニアの形成はエナメル質内に留める——そう習いましたよね。でも歯頸部や隣接面で象牙質が出てしまうことは、丁寧に削っても起こります。この研究は抜去歯を用いた実験室研究で、135本の上顎中切歯をエナメル質のみ・エナメル質+象牙質の半々・象牙質のみの3面に削り分けて接着強さを測りました。面でまとめて比べると、落ちたのは象牙質面だけ。エナメル質が半分残っていれば、エナメル質のみと差がありませんでした。
①「形成はエナメル質内で」——でも、頸部で出てしまう
ポーセレンラミネートベニアの形成はエナメル質内に留める。私たちはそう習いました。原著もその通りに書き出しています——最適な接着と、ポーセレン内の応力低減のために、形成は完全にエナメル質内で行うべきとされてきた。ベニアの高い失敗率は広く露出した象牙質面に帰されてきた、とも。
ところが同じ段落で、原著はこう続けます。丁寧に形成しても、とくに歯頸部と隣接面ではかなりの量の象牙質露出は通常避けられない。エナメル質の削除量は部位により0.3〜0.7mm——酸に抵抗する無小柱で高石灰化した表層を除くために必要な量です。その先に象牙質がある歯は、いくらでもあります。
ここで著者らは、文献の空白に気づきます——象牙質の露出がベニアの接着強さに与える影響を報告した in vitro 研究は、著者らの知る限り存在しない。「象牙質が出るとまずい」は共有されていても、どのくらいまずいのかは測られていなかったのです。
②135本の中切歯を、3種類の「面」に削り分けた
抜去された上顎中切歯135本を、9群(各15本)にランダムに分けました。接着面は3種類です。
接着材は3種類——リライエックス ベニア(光重合)、バリオリンク ベニア(光重合)、バリオリンクII(デュアルキュア)。ポーセレンはIPS e.max Pressを直径4mm・厚さ2mmのディスクに加工し、5%フッ化水素酸で60秒処理してから接着しています。歯面は37%リン酸で処理(エナメル質30秒、象牙質15秒)。
37℃の蒸留水に24時間保管したのち、5〜55℃で5,000回のサーモサイクルを行い、0.5mm/分でせん断試験。破断面は実体顕微鏡とSEMで観察しました。なおE–D群は試験体をエナメル質が上・象牙質が下になる向きに置き、せん断力はエナメル質側から加えています——ここは結果を読むときに効いてきます。
③結果:落ちたのは「象牙質だけ」の群だけだった
最も高かったのはバリオリンク ベニア+エナメル質の24.76±8.8MPa、最も低かったのはリライエックス ベニア+象牙質の5.42±6.6MPa。この2つの間に4.5倍以上の開きがあります。
しかし、この論文のいちばん面白い数字はそこではありません。エナメル質群とエナメル質+象牙質群のあいだに、統計学的な差はなかったのです。E–Dの値は20.73/23.97/23.01MPa——エナメル質のみ(22.46/24.76/23.64MPa)とほとんど重なっています。面ごとにまとめて比べても、エナメル質面と複合面のあいだに差はなく、象牙質面だけが有意に低いという結果でした。
ただし、群ごとに見るときは慎重さが要ります。原著の同質サブグループ(表3の添字)を追うと、すべての群より低いと言い切れるのは最低値のRV-D(5.42MPa)だけで、VV-D(13.84)とV2-D(13.78)が有意に下回るのは最高値のVV-Eだけで、複合面の3群およびRV-Eとのあいだには有意差がありません。原著もそこを見逃さず、「これは、ポーセレンの象牙質に対する接着強さを高めていく今後の研究にとって有望である」と書き添えています。
数字の意味づけも原著が置いてくれています。先行文献に基づく目安として「重合収縮応力に耐えるには、象牙質で少なくとも17〜20MPa、エナメル質で少なくとも20MPa」という値が引かれており、それに照らすとエナメル質群と複合面群の平均は20MPaを超え、象牙質群の平均は17MPaを下回っていました(この17/20という値は原著の測定値ではなく、原著が引く先行文献の目安です)。
つまり「象牙質が出たら終わり」ではなかった。健全なエナメル質が半分残っていれば、接着強さはエナメル質のみと変わらなかった、というのがこの試験系の答えです。
④効いていたのは、セメントより「面」だった
著者らは、面の種類とセメントの種類、それぞれの影響の大きさをイータ二乗で示しています。面の種類が0.3、セメントの種類が0.052——どちらも統計的には有意(p=0.001/p=0.034)ですが、影響の大きさは6倍近く違います。そして両者の組み合わせ(交互作用)は有意ではありませんでした(p=0.528・イータ二乗0.025)。
記述統計のレベルでは、デュアルキュアのバリオリンクIIと、2つの光重合セメントのあいだにも有意差はありませんでした。著者らはここから「光重合セメントはデュアルキュアセメントと同等に機能した」と結論しています。色調安定性と作業時間の長さから光重合型が好まれる場面がありますが、少なくともこの試験系では、接着強さの面で不利になっていません。
破壊様式は、全体では135本中109本(80.7%)が接着界面での接着破壊。混合破壊が23本(17.1%)、凝集破壊はわずか3本(2.2%)です。壊れていたのはほぼセメントと歯面の界面でした。ただし破壊様式そのものについては、接着面の種類・セメントの種類・その組み合わせのいずれもが有意な影響を与えていた(表6)——接着強さでは有意でなかった交互作用が、壊れ方には効いていたことになります。
⑤明日の臨床へ——「エナメル質をどれだけ残せたか」で見る
第一に、原著自身の臨床的意義がそのまま行動指針になります。「形成中に象牙質の露出が必要になるときは、良好な接着を保つために健全なエナメル質をできるだけ多く保護しなければならない。最大の接着強さを得るには、形成のマージンは健全なエナメル質上に置くべきである」。
第二に、原著は目安の量まで書いています——「形成中に象牙質の露出が起きたとしても、十分なエナメル質が存在すれば、ポーセレンラミネートベニアは歯面とポーセレンのあいだに耐久性のある接着を示しうる。本研究の結果に照らせば、それは形成面の少なくとも半分であるべきだ」。そして「象牙質が露出するほど、せん断接着強さは弱くなる」とも続きます。ただし実測されたのは「およそ半々」という1点だけで、3割・2割で何が起きるかはこの研究の外にあります。
そして、原著の結論2が最も明快な行動指針です——「せん断接着強さは象牙質で最も低かったため、ポーセレンラミネートベニア修復が象牙質のみに接着されることは避けるべきである」。
第三に、セメントの銘柄選びで挽回しようとしない。イータ二乗が語っているのはそこです。面の質を確保するほうが、6倍近く効いていました。原著の結論3も「レジンセメントの種類——デュアルキュアか光重合のみか——は、ポーセレンラミネートベニア修復の接着強さに影響しなかった」と言い切っています。
抜去歯を使ったin vitro のせん断試験で、平坦に研磨した面に厚さ2mm・直径4mmのディスクを接着したもの——実際のベニアの形態でも、実際の口腔内の荷重方向でもありません。せん断試験そのものへの批判として知られるのは凝集破壊が多く出やすいことですが、この研究では凝集破壊は2.2%にとどまっており、著者らはその点を反論材料に挙げています。それでも、絶対値をそのまま臨床の予後に翻訳することはできません。SDが±6.2〜±13.1MPaと大きく、値のばらつきも相当あります。またE–D群はエナメル質側からせん断力を加える向きで試験されており、力の入り方が違えば結果も変わりうるでしょう。5,000回のサーモサイクルは加えていますが、咬合による繰り返し荷重は与えられていません。それでも「エナメル質の残量が、セメントの銘柄より効く」という優先順位は、ベニアの形成量を決める場面でそのまま使えます。
今日のひとこと
「象牙質が出たら終わり」ではなかった。健全なエナメル質が半分残っていれば、接着強さはエナメル質のみと変わらない(20.73〜23.97MPa 対 22.46〜24.76MPa・いずれも平均20MPa超)。面でまとめて比べたとき低かったのは象牙質面だけで、その平均は17MPaを下回っていた。そして効いていたのはセメントの銘柄よりも、どの面に接着するか——影響の大きさは6倍近く違う。原著の指針は明快で、「象牙質のみへの接着は避ける」「マージンは健全エナメル質上に置く」である。


