エンド|症状の無い成人の臼歯・小臼歯でう蝕を取り切って露髄した96人を、露髄面を2.5%NaOClか生理食塩水で洗う群に無作為に割り付け、MTAで直接覆髄して3年以上追った試験(Ballal 2024・Journal of Endodontics)
う蝕を取り切ったら露髄した。MTAで直接覆髄するとして、露髄面は何で洗うか。Ballal らは、症状の無い成人の臼歯・小臼歯96人を、2.5%NaOClで30秒洗う群と生理食塩水で洗う群に48人ずつ無作為に分け、どちらもMTAで覆髄してその日にレジンで修復し、3年以上追いかけました。1500日(約4.1年)の歯髄の生存の推定はNaOCl群 55%(95%信頼区間 30〜100%)、生理食塩水群 7%(同 1〜40%)。追跡できた73人のうち、失敗はNaOCl群39人中9人(痛みあり3人)、生理食塩水群34人中29人(痛みあり18人)でした。痛みを伴う失敗は主に早い時期に起き、250日目以降の失敗はほとんどが痛みの無いものでした。1施設・再評価73人の記述的な長期報告で、NaOCl群でも4年の推定は約半分です。
①う蝕で露髄した歯の直接覆髄、傷口は何で洗う?
症状の無い臼歯の深いう蝕。軟化象牙質を取り切ったら露髄した。MTAで直接覆髄して、その日のうちにレジンで修復する。このとき、露髄面を生理食塩水で洗うか、次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)で洗うかで、何年か先の歯髄の運命は変わるのでしょうか。
インドのマニパル大学の Ballal らは、この「洗う液」だけを変えた無作為化比較試験の成人96人を、3年以上追いかけました。
・症状の無い成人の臼歯・小臼歯で、う蝕を取り切って露髄した96人を、露髄面を2.5%NaOClで30秒洗う群と生理食塩水で洗う群に48人ずつ無作為に割り付け、どちらもMTAで直接覆髄してレジンで修復した試験の、3年以上の追跡結果
・1500日(約4.1年)の歯髄の生存:カプラン・マイヤー法の推定で、NaOCl群 55%(95%信頼区間 30〜100%)、生理食塩水群 7%(同 1〜40%)
・失敗の数:追跡できた人のうち、NaOCl群は39人中9人(痛みあり3・痛みなし6)、生理食塩水群は34人中29人(痛みあり18・痛みなし11)
・痛みの出方:痛みを伴う失敗は主に早い時期に起き、250日目以降の失敗はほとんどが痛みの無いものだった
・注意:1施設の試験で、96人中、再評価できたのは73人(生存曲線の開始時の人数とは合わない所がある)。検出力は1年の結果に合わせて計算されており、4年の結果は記述的な報告で信頼区間が広い。NaOCl群でも4年の推定は55%で、著者らは直接覆髄そのものの成績が低いことも強調している
②なぜ「洗う液」が気になるのか
う蝕で露髄した歯の直接覆髄は、歯学部で教えられてきた方法です。ただ、昔の研究では長期の成功率が低く、年を追って失敗が続くことが報告されてきました。新しい研究ではもっと高い成功率も報告されていますが、多くは1年程度の短い追跡です。
成績を上げる要因として著者らが挙げるのは2つ。水酸化カルシウムの代わりにMTAなどのケイ酸カルシウム系の材料を使うこと、そして露髄面の処置にNaOClを使うことです。もう1つ、直接覆髄が敬遠される理由として、失敗すると激しい痛みが出て、予約外や時間外の対応になることも挙げています。
この試験の1年の結果は、すでに報告されていました。1年の成功率はNaOClで洗った群が89%、生理食塩水で洗った群が55%で、早い時期の失敗の大半は痛みを伴うものでした(同じ試験の以前の報告として、この論文の序論が紹介した値)。今回の論文は、その同じ患者を3年以上追った続報です。
③今回の研究:洗う液だけを変えて、MTAで覆髄
- 対象:全身的に健康な18歳以上の成人。臼歯か小臼歯で、象牙質の全層に及ぶう蝕があり、取り切ると露髄が避けられない歯。自発痛が無く、冷刺激(Endofrost)に正常に反応し、歯周ポケットが無く、X線で根尖の透過像が無いもの。術前の痛み(NRS-11)が3を超える27人は除外した
- 人数と割り付け:96人を封筒によるブロック無作為化で48人ずつに。封筒は試験に関わらない研究者が開け、処置する歯科医師には割り付けを知らせなかった
- 処置:拡大鏡とラバーダムのもとで、軟化象牙質を全部除去(非選択的除去)。露髄部を生理食塩水の綿球で1分押さえて止血し、ペーパーポイントで歯髄の滲出液を採ったあと、割り付けた液(2.5%NaOClか生理食塩水)でさらに30秒処置した(その液を含ませた綿球を露髄面に押し当て、窩洞を優しく拭った)。その後、生理食塩水で10秒流して乾かし、MTA(Medcem)を置き、レジン添加型グラスアイオノマーで裏層、コンポジットレジンでその日のうちに修復した
- 成功の定義:リコール時に冷刺激に正常に反応し、自発痛・打診痛・知覚過敏が無く、軟組織が健康で、X線で根尖の透過像が無いこと。緊急の根管治療が必要になった失敗を「痛みあり」、冷刺激への反応の消失やX線の根尖透過像で見つかった失敗を「痛みなし」とした
- 追跡と解析:1年以上後と3年以上後の2回リコール。失敗が確かめられたか、2回目のリコールで歯髄の健康が確かめられた人だけを解析の対象とした(ただし原典の図2の生存曲線の開始時の人数は、NaOCl群44人・生理食塩水群38人で、この再評価人数と合わない)。歯髄の生存はカプラン・マイヤー法で、1500日までを報告した(それ以降は生理食塩水群の推定が0になり、信頼区間が計算できないため)
- MMP-9:洗う前に採った滲出液の MMP-9(好中球が歯髄組織を壊すことに関わる酵素)を総タンパク量で割った値と、失敗の時期・痛みの有無との関係を図で調べた
④結果:4年の推定は55%と7%、痛む失敗は早い時期に集中
96人のうち、再評価まで追跡できたのは73人(NaOCl群39人、生理食塩水群34人)で、追跡期間は平均1273±146日(平均3.5年)でした。
1500日(約4.1年)での歯髄の生存の推定は、NaOCl群が55%(95%信頼区間 30〜100%)、生理食塩水群が7%(同 1〜40%)でした。どちらの信頼区間も広いですが、2つの区間は重なる範囲がわずかです(30〜40%)。
失敗の数で見ると、NaOCl群は39人中9人(痛みあり3人・痛みなし6人)、生理食塩水群は34人中29人(痛みあり18人・痛みなし11人)でした。失敗のうち痛みを伴ったものの割合は、NaOCl群が33%、生理食塩水群が62%です。
失敗の時期にも傾向がありました。痛みを伴う失敗の多くは早い時期に起き、250日目以降の失敗はわずかな例を除いて痛みの無いものでした。それでも失敗は時間とともに続いていました。洗う前の MMP-9 の値が高いことは、早い時期(最初の250日)の痛みを伴う失敗と関連しており、特に生理食塩水群で目立ちましたが、遅い時期の痛みの無い失敗とは関連が見られませんでした(散布図と箱ひげ図で見た、探索的な観察)。
⑤結果の読み方:NaOClの差は続くが、遅い失敗は静かに起きる
著者らは、NaOClで洗う効果は1年だけでなく4年でも続き、痛みを伴う失敗の割合も減らしたと読んでいます。1年の結果で使ったCox回帰を今回のデータに当て直しても、NaOClのよい影響が支持されたと書いていますが、その数値は示されていません。そのうえで、生活歯髄療法の前にNaOClで洗う手順は、今後のガイドラインに入れるべきだとしています。
一方で、著者らは4年の成功率の低さそのものが「今の条件での直接覆髄という考え方に疑問を投げかける」とも書いています。遅い時期の失敗はほとんどが痛みの無いもので、MMP-9 とも関連しなかったため、MMP-9 では捉えられない別の炎症の状態が関わっている可能性を挙げています。修復物の辺縁からの漏洩も別の可能性として挙げていますが、今回使った材料と接着の方法では考えにくい、としています。これらは著者らの推測で、この研究で確かめたものではありません。
⑥明日の臨床へ
症状の無い成人の臼歯で、う蝕を取り切って露髄し、MTAで直接覆髄する。この条件では、露髄面を2.5%NaOClで30秒洗う手順を入れた群のほうが、4年の推定で歯髄が多く残り、痛みを伴う失敗も少なかった、というのがこの試験の結果です。生理食塩水の代わりにNaOClを使うだけなので、手順に組み込むこと自体は難しくありません。
ただし、NaOClで洗っても4年の推定は約半分です。遅い時期の失敗はほとんどが痛みの無いまま起きるので、著者らが書くとおり、覆髄した歯はリコールのたびに冷刺激で反応を確かめ、反応が無ければX線で根尖を確認する、という経過観察が欠かせません。直接覆髄と断髄のどちらがよいかは、この試験では比べていません(ここまで筆者の読み)。
⑦ここだけ補助線
・規模と脱落:1施設(インド)の96人で、再評価できたのは73人。失敗が確かめられた人と2回目のリコールで健康が確かめられた人だけを解析しており、脱落はNaOCl群9人・生理食塩水群14人と偏りがある
・検出力と解析:検出力は1年の差を見るために計算されている。著者らは今回の報告を、4年のデータの傾向を探り記述するものと位置づけており、1500日の信頼区間は広い(NaOCl群 30〜100%)。Cox回帰の結果は示されていない
・群の違い:年齢が生理食塩水群で有意に高かった(38±12歳と30±12歳)
・数字の食い違い:本文は再評価率を73%と書くが、96人中73人は約76%(筆者の計算)。図1の「緊急処置」は生理食塩水群19人・NaOCl群5人で、本文の痛みを伴う失敗(生理食塩水群18人・NaOCl群3人)と合わない。図2の生存曲線の開始時の人数(生理食塩水群38人・NaOCl群44人)も、図1の再評価人数(生理食塩水群34人・NaOCl群39人)と合わない。記事は本文の数を使った
・対象:症状の無い歯で、軟化象牙質を全部除去した場合の結果。症状のある歯や、選択的除去・断髄との比較には当てはまらない
NaOClで洗うという小さな一手が長く効くのか、多施設の試験での確認が楽しみです。
今日のひとこと
症状の無い成人の臼歯でう蝕を取り切って露髄し、MTAで直接覆髄した試験では、露髄面を2.5%NaOClで洗った群のほうが、4年の推定で歯髄が多く残り(NaOCl群55%・生理食塩水群7%)、痛みを伴う失敗も少なかった。ただしNaOCl群でも約半分で、遅い時期の失敗はほとんどが痛みの無いまま起きます。1施設・再評価73人・信頼区間の広い記述的な結果で、覆髄した歯はリコールのたびに冷刺激への反応を確かめ、反応が無ければX線で根尖を確認したい、という1本です。


