エンド|根管が感染し根尖性歯周炎のある歯から、臨床とX線で問題の無い修復物30個を外し、歯に接していた面(適合面)を走査型電子顕微鏡で観察した研究(Kwang 2012・Australian Dental Journal)
根尖性歯周炎の歯に根管治療を始めるとき、不適合も二次う蝕も見当たらない修復物は、残したまま開けることもあります。では、その修復物の裏側はきれいなのでしょうか。Kwang と Abbott は、根管が感染し根尖性歯周炎のある歯から、臨床とX線で問題の無い修復物30個(アマルガム・コンポジットレジン・全部被覆冠 各10個)を外し、歯に接していた面を走査型電子顕微鏡で観察しました。30個すべての裏側に細菌が付いており、1000倍で見た場所で細菌に覆われた面積を目で見積もると、高度(75%超)16個・中等度(25〜75%)10個・軽度(25%未満)4個でした。ただし、健全な歯髄の抜去歯から外した対照の修復物3個にも、すべて細菌が付いていました。観察だけの研究で統計の比較は無く、修復物を外すかどうかで治療成績が変わるかは測っていません。
①見た目に問題のない修復物、根管治療の前に残していい?
根尖性歯周炎の歯に根管治療を始めるとき、既存のインレーやクラウンに不適合も二次う蝕も見当たらなければ、残したまま開けることもあると思います。では、臨床とX線で「問題なし」とした修復物の裏側は、本当にきれいなのでしょうか。
オーストラリアの Kwang と Abbott は、根管が感染し根尖性歯周炎のある歯から、臨床とX線で問題の無い修復物を外し、歯に接していた面(適合面)を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察しました。
・対象:根管が感染し根尖性歯周炎のある歯から外した、臨床とX線で問題の無い修復物30個(アマルガム・コンポジットレジン・全部被覆冠 各10個)。対照は、健全な歯髄の抜去歯3本から外した修復物3個
・結果:30個すべての適合面に細菌が付いていた。1000倍で見た場所で細菌に覆われた面積を目で見積もると、高度(75%超)16個・中等度(25〜75%)10個・軽度(25%未満)4個
・対照:健全な歯髄の歯の修復物3個にも、すべて細菌が付いていた(高度・中等度・軽度が1個ずつ)
・著者らの結論:修復物と歯の境目は、細菌が歯に入る経路になりうる。ただし、どの修復物が実際の経路だったかは決められない
・注意:観察だけの研究で、統計の比較は無い。修復物を外すかどうかで治療成績が変わるかは測っていない
②なぜこの疑問が出てくるのか
著者らの整理では、歯髄と根尖の病気の主な原因は細菌の侵入で、その経路はう蝕・亀裂・破折・修復物の辺縁の破綻です。病気の原因を除くことが治療の最初の一歩のはずですが、多くの歯内療法の教科書は、根管治療の前に既存の修復物を全部外すことを勧めておらず、臨床でも日常的には行われていない、と著者らは書いています。
著者の一人 Abbott の以前の研究(著者が引用した研究)では、歯髄・根尖の病気のある修復歯で、修復物を外す前の臨床とX線の診査で修復物の破綻が見つかったのは40%でしたが、修復物を全部外すと99%で破綻が見つかったと報告されています。
ただ、歯髄・根尖の病気のある歯で、修復物の適合面そのものの細菌を調べた研究はそれまで無かった、というのが著者らの出発点です。
③今回の研究:問題の無い修復物を外して、裏側を電子顕微鏡で
- 対象:歯内療法が必要で研究に同意した患者(西オーストラリアの公的な歯科センターと個人の診療所)の、根管が感染し根尖性歯周炎のある歯。歯髄の状態は、歯髄が壊死して感染・歯髄の無い感染根管・根管充填された歯の感染根管のいずれか。根尖の病気は、慢性根尖性歯周炎・二次性の急性根尖性歯周炎・慢性根尖膿瘍
- 修復物の条件:臨床とX線で、辺縁の隙間・オーバーハング・破折・豊隆の過不足が無いもの。う蝕・亀裂や破折・修復物の破綻がある歯、根管充填から5年たっていない歯、外傷の既往のある歯、歯内と歯周の病気が併存する歯は除外。修復物を外した後にう蝕・亀裂・破折が見つかった歯も除外した(亀裂と破折は外す前後に光の透過でも確認)
- 数:修復物30個(アマルガム10個・コンポジットレジン10個・全部被覆冠10個)。患者や歯の数、除外した数は書かれていない
- 対照:抜歯のために紹介された患者の抜去歯3本から外した、臨床的に問題の無い修復物3個(アマルガム2個・クラウン1個)。歯髄は組織で健全を確認し、根尖の組織は歯髄が正常なら正常と仮定した
- 外し方:ラバーダム下で、滅菌したバーで修復物を分割して外した。細菌を乱さないよう注水は使わず、ラバーダムは消毒しなかった(消毒液が隙間から入って細菌を死なせないため)。外したらすぐホルマリンに入れた。対照の歯は抜歯後にホルマリンに入れてから修復物を外した
- 評価:SEMで適合面を観察。1000倍で見た複数の場所で、細菌に覆われた割合が75%を超えれば高度、25〜75%なら中等度、25%に満たなければ軽度。細菌の形(球菌・桿菌・糸状・スピロヘータ)も記録した。統計の検定は行っていない
④結果:30個すべての裏側に細菌
実験群の修復物30個は、すべて適合面に細菌が付いていました。細菌に覆われた範囲は、高度が16個(半数を超える)、中等度が10個、軽度が4個です。
材料別では、アマルガムが高度7個・中等度1個・軽度2個、コンポジットレジンが高度6個・中等度4個・軽度0個、クラウンが高度3個・中等度5個・軽度2個でした(各10個)。材料の違いを統計で比べてはいません。
細菌の形では、球菌が30個すべてで見られ、桿菌が25個、糸状(フィラメント)が27個、スピロヘータが16個でした。真菌は1個(コンポジットレジン)だけです。
付き方にも特徴がありました。キノコ状のコロニーと、その間の水の通り道らしい空いた所、細菌どうしや細菌と修復物の面をつなぐ細胞外の基質がしばしば見られました。著者らは、この細胞外の基質を成熟したバイオフィルムの特徴としています。また、細胞分裂中の像から、外した時点で細菌は生きていたと著者らは考えています。
そして対照群です。健全な歯髄の抜去歯3本から外した修復物3個にも、すべて細菌が付いていました。高度が1個(クラウン)、中等度が1個と軽度が1個(どちらもアマルガム)です。
⑤結果の読み方:細菌がいた=原因、とまでは言えない
著者らは、ほかの侵入経路(う蝕・亀裂・辺縁の破綻)を除いた歯で30個すべてに細菌がいたことから、修復物と歯の境目が細菌の侵入経路になりうると考えています。そのうえで、普段の臨床とX線の診査では修復物の下の細菌を評価できないので、修復物を「健全」と判断すべきではない、とまで書いています。
一方で著者ら自身、どの修復物が実際の経路だったかは決められないと述べ、別の説明も挙げています。最初のう蝕と、その除去・窩洞形成・修復という処置そのものが、歯髄の病気の始まりだった可能性です。修復の前後の歯髄の診断が分からないことを、著者らはこの研究の限界としています。
さらに、健全な歯髄の対照3個にも細菌がいたことから、著者らは「適合面に細菌がいるだけでは、歯髄の病気を起こすのに十分ではなかったようだ」とし、歯髄の状態、細菌の種類や病原性、象牙質の透過性などのほかの要因が関わると考察しています。
⑥明日の臨床へ
臨床とX線で問題が見えない修復物でも、裏側に細菌がいるかどうかは、その診査では分からない。著者らもそう書いており、これがこの研究から素直に読み取れることです。根尖性歯周炎の歯で既存の修復物を残して根管治療を始めるなら、裏側に細菌がいるかもしれない、という前提で残すか外すかを考えることになります(筆者の読み)。
著者らは、この結果を「根管治療の前に既存の修復物を全部外すことの強い根拠」と書いています。ただしこの研究は、修復物を外した場合と残した場合で、治療の成績を比べてはいません。外すことで成績がどこまで変わるかは、別の研究で確かめる必要があります(ここまで筆者の読み)。
⑦ここだけ補助線
・規模と比較:実験群30個・対照3個で、統計の比較は無い。患者や歯の数、除外した数も書かれていない
・評価:汚染の程度は、観察した場所で細菌に覆われた面積を目で見積もった判定で、著者らも主観的と書いている。SEMは表面の一部しか見えず、深い層の細菌(スピロヘータなど)は少なく見積もられうる、と著者らは述べている
・対照:3個だけで、抜歯した後にホルマリンに入れてから外しており、実験群とは外し方の順番が違う
・因果:細菌がいたことは分かるが、それが根管の感染の原因かは分からない(健全な歯髄の対照にも細菌がいた)
・測っていないもの:修復物を外すかどうかで、根管治療の成績が変わるか
「見た目で問題なし」は裏側まで保証しない、という視点は根管治療の前の診査に役立ちます。外すかどうかで成績を比べた研究が楽しみです。
今日のひとこと
根尖性歯周炎の歯で、臨床とX線で問題が無いとされた修復物30個の裏側(歯に接していた面)には、電子顕微鏡で見ると30個すべてに細菌が付いていました。見た目とX線だけでは、修復物の下の細菌の有無は分からない、ということです。ただし健全な歯髄の対照3個にも細菌はいて、細菌がいたことが根管の感染の原因とまでは言えません。修復物を外すかどうかで治療成績が変わるかも、この研究では測っていません。


