エンド|イスムス(峡部)でつながった下顎大臼歯の近心根を、XP-endo ShaperとProTaper Nextで形成し、形成前後のマイクロCTで、削った量・触れた壁の面積・残った削りくずを「根管全体」と「イスムス」に分けて比べた抜去歯の実験室研究(Sarıkahya & Alaçam 2020・Conservative Dentistry and Endodontic Journal・ガジ大学)
下顎大臼歯の近心根にあるイスムスは、ファイルが届きにくく削りくずが残りやすい場所です。トルコ・ガジ大学のグループは、イスムスでつながった近心根20本を根の形がそろうように2群に分け、XP-endo Shaper(XPS)とProTaper Next(PTN)で形成して、形成前後をマイクロCTで比べました。その結果、イスムスの部分では、形成後の体積・表面積も残った削りくずも2群で有意差なし。どちらのファイルでもイスムスの削りくずはゼロになりませんでした。根管全体では、触れた壁の面積はPTNが大きく(p=0.010)、残った削りくずはXPSが少ない(p=0.002)結果でした。ただし抜去歯を使った各群10本の実験室研究で、EDTAや超音波を使わない洗浄条件での結果です。
①イスムスのある根管、ファイルを変えればきれいになる?
下顎大臼歯の近心根には、2本の根管をつなぐ細い帯状のすき間=イスムス(峡部)がよくあります。ファイルが届きにくく、削りくずや組織が残りやすい場所です。
そこで気になるのが、「根管の形に合わせて広がる」とうたわれるXP-endo Shaper(XPS)なら、イスムスまで届くのではないか、という期待です。この研究は、イスムスでつながった下顎大臼歯の近心根20本を、XPSとProTaper Next(PTN)で形成し、形成前後をマイクロCTで撮って比べました。
結論を先に言います。イスムスの部分では、形成後の体積・表面積も、残った削りくずも、2つのファイルで有意差はありませんでした。そしてどちらの群でも、イスムスの削りくずはゼロになりませんでした(著者らは、どちらもイスムスをもつ近心根を完全には形成・清掃できなかった、と結論しています)。根管全体で見ると、触れた壁の面積はPTNが大きく、残った削りくずはXPSが少ないという、得意分野の違いも見えました。
②なぜイスムスが問題になるのか
NiTiファイルの素材や形はこの十数年で大きく進歩しました。それでも、イスムスやフィン(ひれ状の突起)のような不規則な部分まで清掃するのは難しい、というのが根管治療の悩みどころです。
・XP-endo Shaper:MaxWire製で、体温で先端側がヘビのようにくねった形に変わる。芯の太さより広い範囲に広がって壁に当たる、とされる1本形成のファイル(#30・.04相当)
・イスムスをもつ近心根は、器具の性能を比べる題材としてよく使われてきたが、根の形のばらつきが結果を乱しやすい
著者らは、根の形のばらつきをできるだけそろえたうえで、2つのファイルの形成能を「根管全体」と「イスムスの部分」に分けて比べることにしました。
③今回の一手:形をそろえた近心根20本をマイクロCTで比較
・そろえ方:形成前のマイクロCTで根管の体積・根の長さ・湾曲が似たものどうしを組にしてから、2群(各10本)に分けた
・下準備:根尖を樹脂でふさいで閉じた状態にし、PathFile(#13・#16)とProGlider(#16)でグライドパスをつくる
・XPS群:37℃の水で温めてから、850 rpm・1 N·cm。根管の中央1/3(原著の流れ図より)で5回上下、続いて作業長で5回上下を3セット
・PTN群:300 rpm・2 N·cm。X1・X2を各5回、X3はXPSと回数・時間をそろえて10回
・洗浄:37℃の5.25%次亜塩素酸ナトリウムを作業長の4 mm手前から、1根管あたり合計12 mL。毎回ガッタパーチャを作業長まで手で1分間(約100回)上下させて撹拌。EDTAは使っていない(器具そのものの清掃力を見るため)
・術者:経験6年の歯内療法専門医1名
形成前と形成後のマイクロCT(画素10 µm)を重ね合わせ、根管の体積と表面積の増え方、そして元は空洞だった場所に象牙質と同じ密度で詰まった削りくず(AHTD:蓄積した硬組織デブリ)の量を測りました。形成にかかった時間も記録しています。
④結果①:イスムスでは2つのファイルに差がなかった
イスムスの部分では、どちらのファイルでも体積と表面積は増えましたが、2群のあいだに有意差はありませんでした(Mann–Whitney検定。形成後の比較で表面積p=0.218、体積p=0.631)。
イスムスに残った削りくずは、平均でXPS 0.057 mm³、PTN 0.183 mm³でした。数字だけ見るとXPSのほうが少なく見えますが、p=0.059で有意差はありません。著者らは「90%の水準なら差がある」とも書いていますが、通常の5%の基準では差なしです。ここからは筆者の読みですが、PTN群はばらつきも大きく(SD 0.207)、少数の歯が平均を押し上げている可能性があります。
そして大事なのは、どちらの群でもイスムスの削りくずはゼロにならなかったことです。
⑤結果②:根管全体では「触れた面積はPTN、削りくずの少なさはXPS」
・触れた壁の面積(増えた表面積):PTNのほうが大きい(p=0.010)。表2の平均値で見ると、PTNはXPSのおよそ2倍
・残った削りくず:XPSのほうが少ない(平均0.023 mm³ 対 0.046 mm³、p=0.002)
形成にかかった時間は、XPSが平均290秒、PTNが平均226秒でした。この差に統計検定はかけられていませんが、著者らは「PTNはより短い時間で表面積を増やした」とまとめています。どちらも破折などの偶発症はなく、目標の大きさまで形成できました。
⑥なぜこうなったのか——著者らの見立て
PTNが広く触れた理由について、著者らは、テーパーが段階的に変わり、断面が非対称の長方形で壁に2点で当たる設計を挙げています。一方、XPSはくねった形で壁に広く当たるとされていますが、今回のような細く入り組んだ近心根では、その広がりが生かしきれなかったのかもしれない、と考えています。
XPSで削りくずが少なかった理由としては、①削りくずが細かい粒になりやすい(メーカー資料)、②回転が速く(850 rpm)テーパーが小さいぶん、根管内の液の流れが乱れやすい、③使う本数が1本で少ない、という可能性を挙げています。いずれも著者らの推測で、この研究で確かめたものではありません。
イスムスで差が出なかったことについては、イスムスの清掃は、器具の違いより解剖の形に左右されるのだろう、と著者らは述べています。
⑦明日の臨床へ
・著者らは、器具の清掃力には限りがあり、洗浄(イリゲーション)の工夫がいっそう大事だと強調している。今回はEDTAも超音波・音波による撹拌も使っていない条件での結果
・根管全体では、壁に触れる面積はPTN、削りくずの少なさはXPSと得意分野が分かれた。どちらか一方が万能という結果ではない
・下顎大臼歯の近心根では、イスムスがあることを前提に、器具選びと洗浄・撹拌の方法を組み合わせて考える
「新しいファイルならイスムスまで届く」と期待するより、イスムスは形成だけでは取り切れないものとして、洗浄の段取りまで含めて計画する——この論文から持ち帰るならこの視点です。
⑧ここだけ、冷静に補助線
ここからは筆者の読みです。原著には読み取りにくい点がいくつかあります。表の数値は小数点の表記が「277,100」「41,870」のようにカンマで書かれていて、桁の読み方が表だけでは確定できません。また、方法では削りくずを「体積%」で示すと書かれている一方、表はmm³表記で、イスムスの削りくず(0.057・0.183)が根管全体(0.023・0.046)より大きいという、単純な体積としては合わない数字になっています。本文と表の番号の対応にもずれがあります。そのため、この記事では数値の大小と有意差の有無を中心に紹介しました。それでも、根の形をそろえてからマイクロCTで前後比較し、イスムスを分けて評価した点は、ファイル選びへの過剰な期待を見直す材料になります。
今日のひとこと
イスムスでつながった下顎大臼歯の近心根では、XP-endo ShaperでもProTaper Nextでも、イスムスの形成後の体積・表面積と残った削りくずに有意差はなく、どちらの群でもイスムスの削りくずはゼロになりませんでした。根管全体では触れた面積はPTN、削りくずの少なさはXPSと得意分野が分かれました。抜去歯・各群10本・EDTAや超音波なしの条件での結果なので、持ち帰るのは「イスムスはファイル選びだけでは取り切れない。洗浄まで含めて計画する」という視点です。


