エンド|口腔顎顔面痛|がんや化学療法で免疫が落ちた患者に、帯状疱疹の発疹が全身に広がった(播種性)とき、点滴のアシクロビルとビダラビンのどちらがよいのか。米国NIAIDの共同研究グループが73人で比べた二重盲検の比較試験(Whitley 1992・The Journal of Infectious Diseases)
帯状疱疹は、顔(三叉神経の領域)に出ると、発疹の前の痛みが歯の痛みに紛れて歯科に来ることがある病気です。では、がんや化学療法で免疫が落ちた人で発疹が全身に広がってしまったら、どう治療されてきたのか。この研究は、そうした播種性帯状疱疹の患者73人を、点滴のアシクロビル(37人)とビダラビン(36人)に無作為に分け、二重盲検で比べました。その結果、皮疹の治り方には一貫した差がなく(最初の領域の外の発疹が膿疱になるのはアシクロビル群が速かった)、急性の痛み・帯状疱疹後神経痛・副作用にも両群で差はありませんでした。一方、アシクロビル群のほうが早く退院でき(平均入院日数 8.7日と11.9日。入院期間の曲線の比較でP=.04、ログランク検定)、帯状疱疹が原因の死亡はどちらの群にもありませんでした。ただし1992年の古い試験で、予定の96人に届かず73人で打ち切られています。なお、歯痛とのつながりは筆者の補足で、この論文は発疹の出た部位や歯科の患者を調べていません。
①「歯が痛い」の正体が帯状疱疹だったら
ここは筆者の補足から始めます。帯状疱疹は、顔の感覚を受け持つ三叉神経の領域に出ることもあり、発疹が出る前の痛みが歯の痛みや口の中の痛みとして現れて、最初に歯科を受診することがある、と一般に知られています。
では、がんや化学療法で免疫が落ちた人の帯状疱疹が、最初の神経の領域を越えて全身に広がってしまったら(播種性帯状疱疹)、どう治療されてきたのか。今回の論文は、その場面で使う2つの点滴の抗ウイルス薬、アシクロビルとビダラビンを比べた1992年の試験です。
結論を先に言います。皮疹の治り方には一貫した差がなく、痛み・帯状疱疹後神経痛・副作用にも両群で差はありませんでした。違いが出たのは入院期間で、アシクロビル群のほうが短く(平均8.7日と11.9日)、帯状疱疹が原因の死亡はどちらの群にもありませんでした。
なお、この論文は発疹が出た部位(顔かどうか)を報告しておらず、歯科の患者を調べた研究でもありません。以下の歯科とのつながりは、筆者の補足として読んでください。
②なぜ「広がってから」の治療が問題だったのか
免疫の落ちた人の播種性帯状疱疹は、重い病気や死亡の原因になりうる、と著者らは書き出しています。この研究の前の10年間で、まずビダラビン、続いてアシクロビルが、免疫の落ちた人の限局した(1つの神経の領域にとどまる)帯状疱疹に点滴で効くことが示されていました。
・ただし点滴が必要なので、ふつうは入院になる
・免疫の落ちた人でも治療なしで治ることが多いため、限局した段階では外来で様子を見て、発疹が広がったら入院して点滴、という判断が多かった
・では広がってから治療するとき、ビダラビンとアシクロビルのどちらがよいのか、入院期間や合併症まで含めて比べたデータは少なかった
そこで米国のNIAID(国立アレルギー・感染症研究所)の共同研究グループが、広がった後の患者で2つの薬を比べました。なお、比べたのは実薬どうしで、無治療(偽薬だけ)の群はありません。
③今回の一手:73人をアシクロビルとビダラビンに分けた二重盲検
・アシクロビル群:10 mg/kgを8時間ごとに1時間かけて点滴(1日30 mg/kg)
・ビダラビン群:1日10 mg/kgを12時間かけて持続点滴
・どちらの群も、もう一方の薬の代わりに偽薬の点滴を受け、患者も評価者もどちらの薬か分からない(二重盲検)。期間は7日間で、治りきらなければ延長
・人数:77人を登録し、書類の不備などで4人を除いた73人(アシクロビル37人・ビダラビン36人)を解析
患者の約85%は、リンパ系の悪性腫瘍か固形がんで化学療法や放射線治療を受けていました。年齢(平均およそ50〜54歳)・性別・水ぼうそうの既往・基礎疾患に、両群で有意な差はありません。登録前に限局した帯状疱疹が続いていた期間は、平均で5.4日(ビダラビン群)と5.9日(アシクロビル群)でした。
いちばん確かめたかったこと(主な評価項目)は入院期間です。皮疹の治りがさらに速くなるとは考えにくいので、アシクロビルで入院が25%短くなるかを見る設計にした、と著者らは書いています。
④結果①:皮疹の治りに一貫した差はなく、痛みも差がなかった
・最初の領域の外で新しい発疹が出続けた割合:5日目 アシクロビル群19%・ビダラビン群25%、7日目 3%・16%。有意差なし
・最初の領域の外の発疹が膿疱になるまでは、アシクロビル群のほうが速かった(P=.026)
・7日目までに最初の領域がすべてかさぶたになったのは、どちらの群も40〜50%
痛みも同じでした。治療7日目に、発疹の出た神経の領域に痛みが残っていたのはアシクロビル群73%・ビダラビン群81%。最初の1か月で急性の神経痛はほとんど変わらず、6か月後の帯状疱疹後神経痛はアシクロビル群40%・ビダラビン群50%でした。著者らは、どちらも治療による違いはなかったとしています。
著者らは、皮疹の治りに一貫した差が出なかったのは治療の開始が遅かったからだろうと考えています。抗ウイルス薬は早く始めるほど効き、病気の後半で始めると効き目が小さくなる、という過去の試験からの見立てです。
⑤結果②:入院はアシクロビル群のほうが短かった
退院の判断は、どちらの薬か知らない主治医が行いました。全体の入院日数の中央値は8日。平均ではビダラビン群11.9日、アシクロビル群8.7日で、入院期間の曲線の比較でアシクロビル群が有意に短い結果でした(P=.04、ログランク検定)。
・入院が長引いた理由は、新しい発疹が出続けたことと、内臓の合併症が治りきらなかったこと
・入院費と薬代で簡易に計算した費用は、アシクロビル群で1人あたり2,464ドル安かった(1988年の米国の料金。検査費は含まない)
⑥結果③:帯状疱疹による死亡はゼロ、副作用も少なかった
・登録後の内臓の合併症:73人中6人(8%)。アシクロビル群4人(髄膜脳炎3人・肝炎1人)、ビダラビン群2人(脳炎1人・肺炎1人)。全員、退院前に治った
・副作用:報告は73人中3件だけ。ビダラビン群で震えとけいれん1人・見当識障害1人、アシクロビル群で見当識障害1人。検査値の異常の頻度も両群で大きな違いはなかった
著者らは過去の試験から、試験中に4〜5人の死亡を予想していたので、死亡がなかったことは「驚きだった」と書いています。そのうえで、投与のしやすさ・大きな副作用がないこと・入院が短いことから、点滴のアシクロビルを播種性帯状疱疹の第一選択と結論しました。
⑦なぜ歯科が知っておくか——明日の臨床へ(筆者の補足)
ここからは筆者の補足です。この論文は医科の試験で、この論文のような免疫不全の方の播種性帯状疱疹を入院・点滴で治療するのは医科です。歯科医師がこの結果から治療薬を選ぶ、という読み方はしないでください。歯科の立場で役に立つのは、次のような見方です。
・顔や口の中の痛みで来院した人に、片側の顔の発疹や水ぶくれ、全身の発疹、がん治療中といった手がかりがあれば、歯の原因と決めつけずに早めに医科へつなぐ
・この試験でも、限局した帯状疱疹が5〜6日続いてからの治療開始で、著者らは「早く始めるほど効く」ことを強調している。気づいた人が早くつなぐことに意味がある
歯科の数字はこの論文には出てきません。「歯痛に紛れる帯状疱疹」がどのくらいあるかは、別の研究で確かめる話です。
⑧ここだけ、冷静に補助線
ここからは筆者の読みです。ビダラビンは、現在の帯状疱疹の標準的な治療薬ではなく、この比較そのものは歴史的な意味合いが強い試験です。患者の約85%はがんの患者で、飲み薬の抗ウイルス薬や外来での治療は調べていません。発疹が出た部位(三叉神経の領域かどうか)も報告されていません。それでも、免疫の落ちた人の帯状疱疹がどれほど重い病気として扱われてきたかを、73人の二重盲検という形で知ることができる、歯科にとっても貴重な一本です。
今日のひとこと
免疫の落ちた患者の播種性帯状疱疹で、点滴のアシクロビルとビダラビンを比べると、皮疹の治りに一貫した差はなく、痛み・帯状疱疹後神経痛・副作用にも差はありません。帯状疱疹による死亡はどちらの群にもありませんでしたが、無治療の群が無いので、それが薬のおかげかはこの試験では分かりません。違いが出たのは入院期間で、アシクロビル群が短い(平均8.7日と11.9日)。著者らはこれを根拠に点滴のアシクロビルを第一選択と結論しています。免疫不全の方の播種性帯状疱疹を入院・点滴で治療するのは医科で、1992年の古い試験です。歯科が持ち帰るのは、「免疫の落ちた人の帯状疱疹は、入院して点滴で治療するほど重くなりうる。顔の痛みや発疹に気づいたら早めに医科へつなぐ」という視点です(歯科とのつながりは筆者の補足)。


