エンド|エポキシレジン系(AH Plus)・カルシウムシリケート系(BioRoot RCS)・酸化亜鉛ユージノール系(Pulp Canal Sealer)の3種のシーラーに、練和直後に2%クロルヘキシジンを触れさせ、物理的・化学的な性質を最長28日まで比べた実験室研究(Kapralosら 2024・Dental Materials)
根管の最終洗浄に2%クロルヘキシジン(CHX)を使うと、根管に残った液がシーラーに触れることがあります。それでシーラーの性質は変わるのか。Kapralosらは2024年、この問いを実験室で調べました。テフロンの型に入れた練和直後のシーラーの表面に2% CHXを1分のせて吸い取り、そのあと硬化させた試料(各条件9個)では、3種のシーラーとも、溶解度とX線不透過性に CHX の有無による有意差は検出されませんでした。一方、28日後の試料では、AH Plus は水になじみやすくなり(接触角が低下)、硬さは AH Plus(水に浸けた試料)と Pulp Canal Sealer(水に浸けた試料・浸けない試料とも)で有意に下がりました。BioRoot RCS の硬さに有意差は検出されませんでした。型の中の試料で調べた実験室の研究で、根管の中での封鎖性や、根尖の治り方を調べたものではありません。
①最終洗浄のクロルヘキシジンは、シーラーの性質を変える?
根管の最終洗浄に2%クロルヘキシジン(CHX)を使い、ペーパーポイントで乾かしてから根管充填する。けれど、根尖の近くや複雑な形の根管では、液を乾かし切れないこともあります。そのとき、残った CHX がシーラーに触れたら、シーラーの性質は変わるのでしょうか。
この問いを実験室で調べたのが、Kapralosらが2024年に Dental Materials に報告した研究です。性質の違う3種のシーラー、AH Plus(エポキシレジン系)、BioRoot RCS(カルシウムシリケート系)、Pulp Canal Sealer(酸化亜鉛ユージノール系。以下 PCS)に CHX を触れさせ、物理的・化学的な性質を最長28日まで比べました。
・練和直後のシーラーの表面に2% CHXを1分のせてから硬化させても、3種とも、溶解度とX線不透過性に CHX の有無による有意差は検出されなかった
・28日後の試料では、濡れやすさ(水滴の接触角)が変わった。AH Plus は CHX で水になじみやすくなり、PCS(水に浸けていない試料)は逆に水をはじきやすくなった(表と抄録による)
・硬さは、AH Plus(水に浸けた試料)と PCS(浸けた試料・浸けない試料とも)で CHX により有意に下がった。BioRoot RCS では有意差は検出されなかった
・CHX に触れた AH Plus と PCS の表面からは、塩素が検出された(著者らは CHX が表面に残った可能性と考えている)
・テフロンの型に入れた試料で調べた実験室の研究で、根管の中での封鎖性や根尖の治り方を調べたものではない
②なぜこの研究が必要だったか
シーラーが溶けて失われると、根管充填材の中や、シーラーと象牙質・ガッタパーチャの境目にすき間ができ、細菌の通り道になりうる。著者らは序論でこう整理しています。シングルコーン法のようにシーラーの量が多い充填法では、シーラーの性質がより重要になります。
一方、CHX は最終洗浄によく使われ、象牙質に結びついて少しずつ放出される性質(サブスタンティビティ)があります。根管に残った CHX が、根管充填の直後にシーラーと触れ合う可能性がある。それなのに、根管充填の前の洗浄がシーラーの性質に与える影響は、特に新しいカルシウムシリケート系のシーラーについて、深く調べられてこなかった。これが著者らの出発点です。著者らは「CHX に触れてもシーラーの性質は変わらない」という仮説(帰無仮説)を立てて検証しました。
③何をどう調べたか
・シーラー:AH Plus、BioRoot RCS、PCS。製造者の指示どおりに練和した
・試料:テフロンの円筒形の型(直径10mm。高さはX線不透過性の試験で1mm、溶解度の試験で1.5mm)に入れ、底と側面を型で覆い、上面だけを出した
・CHX に触れさせる方法:練和直後のシーラーの上面に2% CHXを25μLのせて広げ、1分置いてから吸い取り、37℃の乾燥器で20分乾かしてから硬化させた。CHXなしの群はそのまま硬化させた
・数:各条件9個(検出力の計算で、各試験に7個以上が必要とされた)
調べたのは次の項目です。
(1)溶解度:製造者の示す硬化時間の1.5倍の時間を置いてから蒸留水に浸けて、溶け出した量を元の重さに対する割合(%)で、最初の1日から28日目まで5つの期間に分けて測った(ISO 6876 の浸漬の比率を参考にした)
(2)X線不透過性:アルミニウムの段階くさびと並べてエックス線写真を撮り、アルミニウムの厚さ(mm Al)に換算した。水に浸けた試料(硬化時間の1.5倍の時間を置いてから浸けた)と、浸けずに37℃・湿度100%で置いた試料(練和直後から測定)の両方を、最長28日まで測った
(3)濡れやすさ・硬さ(28日後):水滴(20μL)の接触角と、ビッカース硬さ(VHN)を測った。水に28日浸けた試料と、浸けずに37℃・湿度100%で28日置いた試料の両方
(4)表面の粗さ:走査電子顕微鏡の画像から立体を組み立てて Ra を求めた
(5)化学的な性質:表面の元素(EDS)、溶け出した液の pH(溶解度の試験の液)、溶け出した液の元素(ICP-OES。練和後2時間の試料を24時間浸けた「練和直後〜1日」と、24時間硬化させた試料を28日浸けた「1〜28日」の2つの期間)
④溶解度とX線不透過性:有意差は検出されなかった
溶解度は、3種のシーラーとも、どの期間でも CHX の有無による有意差は検出されませんでした。AH Plus と PCS は、どの期間も0.0〜0.1%とわずかでした。
目を引くのは BioRoot RCS です。最初の1日の溶解度が CHXなしで15.8%、CHXありで17.1%と高く、その後の期間(0.5〜3.5%)より有意に高い値でした。ただしこれは CHX の有無にかかわらず見られたものです。著者らは考察で、水で固まるカルシウムシリケート系の材料では、溶解度の試験の水の量が実際の根管より多く、溶解度を大きく見積もる可能性がある、と述べています。
X線不透過性も、3種とも、水に浸けた試料・浸けない試料のどちらでも、すべての期間で CHX の有無による有意差は検出されませんでした。BioRoot RCS は、水に浸けない試料のほうが、浸けた試料よりX線不透過性が有意に高い値でした。著者らの考察によると、値は AH Plus と PCS が約9.5mm Al、BioRoot RCS が3〜4.4mm Al でした。
⑤濡れやすさと硬さ:シーラーと条件で変わった
28日後の試料では、CHX の影響がシーラーごとに違う形で出ました。まず硬さです(図2)。
図2:硬さ(ビッカース硬さ VHN・28日後)。CHXの有無で比べた全12値(原著の表2)
AH Plus は、水に浸けた試料で CHX により硬さが有意に下がりました(30.62→20.88 VHN)。浸けない試料では有意差は検出されませんでした。PCS は、浸けた試料(16.22→6.51)でも浸けない試料(14.61→11.18)でも、CHX で有意に下がりました。BioRoot RCS は、どちらの条件でも有意差は検出されませんでした。
次に濡れやすさと表面の粗さです(図3)。BioRoot RCS は、すべての条件で水滴が完全に広がる(接触角0°)ほど水になじむ材料でした。AH Plus は、CHX に触れると接触角が下がり、水になじみやすくなりました(浸けない試料 83.8→66.2°、浸けた試料 71.4→59.0°)。PCS は、浸けない試料で CHX により接触角が上がり(73.2→87.5°)、水をはじきやすくなりました。表面の粗さは、浸けない試料の BioRoot RCS で CHX により下がり、浸けない試料の PCS で上がりました。
⑥表面と、溶け出した液の変化
表面の元素を調べると、CHX に触れた AH Plus と PCS で、塩素のピークが加わっていました。CHX は塩素を含む物質です。著者らは、CHX がシーラーの表面に結びついて残った可能性を示すと考えています。BioRoot RCS はもともと塩素を含むため、この方法では CHX が残ったかを追えませんでした。
溶け出した液では、練和直後〜1日目の BioRoot RCS で、CHX ありのほうがケイ素とジルコニウムが多く溶け出しました。PCS では、「練和直後〜1日」「1〜28日」のどちらの期間でも、CHX ありのほうが亜鉛が多く溶け出しました(いずれも p<0.05)。著者らは結論で、溶け出した液の元素の濃さとアルカリ性(pH)は影響を受けなかった、とまとめています(考察では「大半の元素の濃さ」と表現)。
⑦明日の臨床へ
CHX で最終洗浄している先生にとって、まず押さえたいのは、この実験の条件では、3種のシーラーとも溶解度とX線不透過性に CHX の有無による有意差が検出されなかったことです。少なくともこの2つについては、CHX に触れたことによる有意な変化は示されていません。
一方、硬さと濡れやすさは、シーラーによって変わりました。特に PCS(酸化亜鉛ユージノール系)は、水に浸けた試料でも浸けない試料でも硬さが下がっています。著者らは考察で、濡れやすさは象牙質への付き方や象牙細管への入り込み方に、硬さの低さは象牙質への接着の弱さや封鎖性の低さに関わるとする報告を引いています。ただ、この研究ではそこまでは確かめていません。
ですから、この結果で「CHX を使ってよい」「このシーラーは避けるべき」と決めることはできません。最終洗浄の薬液とシーラーは組み合わせで考えるもの。その視点を持っておくための、材料側の基礎データとして読むのがよさそうです。
(2)CHX の触れさせ方:練和直後の表面に25μLを1分のせ、吸い取って乾かす方法で、実際の根管に残る CHX の量や触れる時間を再現したものかは分からない。試したのは2% CHX だけで、次亜塩素酸ナトリウムや EDTA などとの組み合わせは調べていない。
(3)数とシーラーの種類:各条件9個、シーラーは3種だけ。
(4)原著の中の記載の食い違い:PCS の接触角は、表2と抄録では CHX で上がった(水をはじきやすくなった)が、結果の本文には「より水になじむようになった」と逆の記載がある。浸けた PCS の表面の粗さは、本文では CHX で有意に下がったとあるが、表2の上付き文字は同じ。BioRoot RCS の pH は、表3の21日目・28日目で CHX ありのほうが低く上付き文字も異なるが、抄録と結論は「アルカリ性は影響を受けなかった」としている。本記事は数値を表から引き、食い違いはそのまま示した。このほか、図1(X線不透過性)の説明文は「*は CHX の有無の有意差」としているが、図の上の括弧は水に浸けた試料と浸けない試料を結んでおり、結果の本文は CHX の有無による有意差なしと書いている(本記事は結果の本文に従った)。また考察には「CHX は AH Plus の硬さに影響しなかった」との一文があるが、表2と結果の本文では水に浸けた AH Plus の硬さが CHX で有意に下がっている(本記事は表2と結果の本文に従った)。
(5)有意差が検出されなかったことは、「まったく同じ」ことの証明ではない。
とはいえ、よく使う3種のシーラーと CHX の組み合わせを、物性から化学的な性質まで一度に並べたデータは貴重です。次は根管の中での封鎖性や、生物学的な性質との関係を見た研究が待たれます。
今日のひとこと
練和直後のシーラーに2%クロルヘキシジンを1分触れさせても、この実験室の条件では、3種のシーラーとも溶解度とX線不透過性に有意差は検出されませんでした。一方で、濡れやすさや硬さはシーラーによって変わり、Pulp Canal Sealer と、水に浸けた AH Plus では硬さが有意に下がりました。型の中の試料で調べた研究で、根管の中での封鎖性や治り方は調べていません。最終洗浄の薬液とシーラーの組み合わせを考えるときの、材料側の手がかりになる1本です。


