エンド|根尖性歯周炎の下顎小臼歯・大臼歯42歯を、NiTiロータリーファイルと1.25%次亜塩素酸ナトリウム洗浄で形成し、その後に水酸化カルシウムを1週間以上貼薬して、形成の前から貼薬の後まで5回、根管の細菌を培養で数えた臨床研究(Shuping・Ørstavik・Sigurdsson・Trope 2000・Journal of Endodontics)
NiTiロータリーで形成し、次亜塩素酸ナトリウムでしっかり洗えば、根管の細菌はどこまで減るのか。Shuping らは2000年、根尖性歯周炎の下顎の歯42歯で、形成の前から水酸化カルシウム貼薬の後まで5回、根管から試料を採って嫌気培養で細菌を数えました。形成と1.25%次亜塩素酸ナトリウム洗浄の直後に培養で細菌が検出されなかったのは42歯中26歯(61.9%)で、約4割の根管にはまだ細菌が検出されました。水酸化カルシウムを1週間以上(平均25.1日)入れた後は、採取できた40歯中37歯(92.5%)で検出されませんでした。著者らは、次亜塩素酸ナトリウムでの洗浄は細菌を減らす大事な一歩だが、それだけでは安定して培養で細菌が出ない状態にはできず、水酸化カルシウムの貼薬を加えるべきだと結論しています。無作為化のない1群の研究で、生理食塩液との比較は別の先行研究の値を使ったもの。培養で検出されないことは無菌の保証ではなく、治ったかどうかも調べていません。
①NiTiで形成して、しっかり洗えば、もう充填していい?
根尖病変のある歯を、NiTiロータリーでテーパーを付けて形成し、次亜塩素酸ナトリウムでたっぷり洗う。根管がきれいに整うと、その日のうちに充填まで進めたくなります。でも、そのとき根管の細菌はどこまで減っているのでしょうか。
この問いに、根管の中の細菌を形成の途中から数えて答えようとしたのが、Shuping・Ørstavik・Sigurdsson・Trope が2000年に Journal of Endodontics に出した臨床研究です。
・根尖性歯周炎の下顎の歯42歯を、NiTiロータリーファイルと1.25%次亜塩素酸ナトリウム洗浄で形成し、形成の前から水酸化カルシウム貼薬の後まで5回、根管の細菌を嫌気培養で数えた
・形成の前は、42歯中41歯で細菌が検出された
・形成と洗浄の直後に、培養で細菌が検出されなかったのは42歯中26歯(61.9%)。約4割の根管には、まだ細菌が検出された
・水酸化カルシウムを1週間以上(平均25.1日)入れた後は、採取できた40歯中37歯(92.5%)で検出されなかった
・細菌の数(コロニー数の log10 の平均)は、形成の前 5.51、形成の終了後 1.27、貼薬の後 0.21。形成の前→終了後、終了後→貼薬の後の減少は、どちらも有意だった(p=0.0001)
・著者らの結論:次亜塩素酸ナトリウムでの洗浄は細菌を減らす大事な一歩だが、それだけでは、安定して培養で細菌が出ない状態にはできない。水酸化カルシウムの貼薬を加えるべき
・無作為化のない1群の研究で、生理食塩液との比較は別の先行研究の値を使ったもの。培養で検出されないことは無菌の保証ではなく、治ったかどうかは調べていない
②なぜ「細菌を数える」研究が必要だったか
根尖性歯周炎は根管の細菌が起こす病気なので、細菌を減らす、できればなくすことが、根管治療の筋の通った目標になります。著者らは序論でこう整理し、それを支える研究を引いています。たとえば、引用された Sjögren らの研究では、形成の後に培養で細菌が出ない状態で充填した歯の94%が成功(治癒)したのに対し、細菌が出た状態で充填した歯では68%でした(この研究の結果ではなく、序論で引かれた研究の値)。
根管治療の各段階でどれだけ細菌が減るかは、1980年代に Byström らが一連の研究で調べています。次亜塩素酸ナトリウムと EDTA で洗い、水酸化カルシウムを貼薬して、はじめて培養で細菌が出ない状態を安定して得られた、と著者らは紹介しています。ただし、その研究はステンレスのファイルを手で使った時代のものでした。
その後に広まったのが NiTi ロータリーです。著者らのグループは、まず生理食塩液で洗いながら NiTi ロータリーで形成する研究(Dalton ら 1998)を行い、細菌は減るものの、安定して培養で細菌が出ない根管にはできなかったと報告していました。今回は洗浄液を1.25%次亜塩素酸ナトリウムに替え、さらに水酸化カルシウムを足したら、どこまで減るかを調べました。
③何をどう調べたか
・対象:ノースカロライナ大学 歯学部の歯内療法科を受診した根尖性歯周炎の患者の、下顎小臼歯(1根管のもの)と下顎大臼歯(近心頬側根管だけを調べた)。条件は、エックス線写真で根尖部の透過像があること、温度診や電気歯髄診に反応しないこと、ラバーダムで防湿できること、根管治療を受けたことがないこと。条件に合う歯を、無作為化せずに順に42歯組み入れた
・形成:NiTiロータリーファイル(ProFile .04 テーパー Series 29、毎分333回転)で、細い #2 から始めて、あらかじめ決めた最後の号数まで作業長で形成した。ファイルを替えるたびに1.25%次亜塩素酸ナトリウムでたっぷり洗った。最後のファイルの号数は、歯の種類と根管の曲がりで決めた
・貼薬:形成の後、水酸化カルシウムをレンツロで入れて仮封。少なくとも1週間後に再来院してもらった(実際は平均25.1日、7〜203日。50日を超えた4歯は、研究の計画ではなく患者の都合による)
・細菌の採取:形成の前(S1)、形成中の2回(S2・S3)、最後のファイルの後(S4)、水酸化カルシウムを除いた後(S5)の5回。採取の前に次亜塩素酸ナトリウムはチオ硫酸ナトリウムで、水酸化カルシウムはクエン酸で中和した
・数え方:試料を血液寒天培地にまき、37℃で7日間の嫌気培養をして、コロニー数を数えた。コロニー数は log10 に変換して比べた
・比べた相手:同じ研究の中の時点どうし(反復測定の分散分析)と、生理食塩液で洗った先行研究(Dalton ら 1998・22歯)の値(原著の記載では対応のある t 検定)
・陰性対照:根尖病変のない不可逆性歯髄炎の生活歯5歯を、同じ手順で調べた
1人の術者(筆頭著者)が、すべての処置と細菌の採取を行いました。どの歯も同じ手順で治療した1群の研究で、次亜塩素酸ナトリウムと生理食塩液を無作為に振り分けて比べたものではありません。
④結果1:形成と洗浄の直後は約6割、貼薬の後は9割超で細菌が検出されなかった
形成の前(S1)には、42歯中41歯で細菌が検出されました。根尖性歯周炎の根管に細菌がいることを、改めて確かめた形です。
最後のファイルで形成を終えた直後(S4)、培養で細菌が検出されなかったのは42歯中26歯(61.9%)でした。言いかえると、42歯中16歯(42−26、筆者の計算)、約4割の根管には、まだ培養できる細菌がいました。
水酸化カルシウムを1週間以上入れた後(S5)は、試料を採れた40歯中37歯(92.5%)で細菌が検出されませんでした。貼薬の後も細菌が検出された3歯は、いずれも形成の直後(S4)にも検出されていた歯でした。どの歯も2回の来院で治療を終えています。
図1の2本の棒は、同じ1群の中の別の時点の値で、分母も違います(S4は42歯、S5は40歯)。原著は割合どうしの差を検定しておらず、S4→S5 の有意差(p=0.0001)は、細菌の数(log10 値)の比較です。
⑤結果2:細菌の数は形成が進むほど減り、形成の終了後は生理食塩液の先行研究より少なかった
細菌の数(コロニー数の log10 の平均)は、形成の前(S1)の 5.51 から、形成の序盤(S2)4.03、中盤(S3)2.57、終了後(S4)1.27 と、太いファイルへ進むほど減りました。S1 から S4 までの減少は有意でした(p=0.0001)。水酸化カルシウムの後(S5)は 0.21 で、S4 から S5 への減少も有意でした(p=0.0001)。log10 の値で1違うと、コロニー数ではおよそ10倍の違いです。
生理食塩液で洗った先行研究(22歯)と比べると、形成の前(S1)と序盤(S2)では本研究の方がむしろ多く(5.51 対 4.60、4.03 対 3.02)、形成の中盤(S3)の時点でほぼ同じ(2.57 と 2.59)になりました。本研究の方が少なくなったのは S3 より後で、形成の終了後(S4)は次亜塩素酸ナトリウム 1.27、生理食塩液 2.22 でした。S1 から S4 までの減り方の違いは有意でした(p<0.05)。形成の終了後に培養で細菌が検出されなかった歯は、次亜塩素酸ナトリウムの本研究で61.9%、生理食塩液の先行研究で28%でした(後者は原著の考察の記載)。
陰性対照の生活歯5歯では、4歯で5回とも細菌が検出されず、1歯で形成の前の試料だけにわずかな細菌(コロニー数1200)が出ました。著者らは、採取の手順が試料を汚していないことと、生活歯の根管にはほとんど細菌がいないことを支える結果としています。
⑥著者らの結論と、結果の読み方
著者らの結論はこうです。NiTi ロータリーでの形成に次亜塩素酸ナトリウムの洗浄を組み合わせることは、根管の細菌を減らす大事な一歩である。しかし、それだけでは、安定して培養で細菌が出ない状態にはできなかった(原文の bacteria-free は、培養で細菌が検出されないという意味)。より確実にそこへ近づくには、水酸化カルシウムの貼薬を加えるべきだ、と。
考察では、次の読み方が述べられています。
・次亜塩素酸ナトリウムが効くには、ある程度の太さが要る:本研究の細菌の数が生理食塩液の先行研究より少なくなったのが S3 の後だったことから、根管がある程度太くなって、洗浄液が根尖部まで届くようになってはじめて効く、と著者らは読んでいます
・NiTi ロータリーだから細菌がよく取れる、とは言えない:形成の直後に培養で細菌が検出されなかった割合(本研究61.9%)は、著者らが比べた Sjögren らの研究の割合(60.0%)と同程度で、NiTi ロータリーと次亜塩素酸ナトリウムで細菌を除く力は、従来の器具を使った方法を上回らない、と著者らは考察しています(この2つの研究を統計で比べたわけではない)
・その理由の推測:テーパーが付き、先が比較的細いファイルは、先端より歯冠側の象牙質を削るので、根管の根尖部はあまり削れていないのかもしれない、と著者らは推測しています。根尖側を太く形成する研究が次の課題だとしています
水酸化カルシウムの後に92.5%で細菌が検出されなかったことについて、著者らは、培養で検出されないことは細菌がいないことを保証せず、細菌が再び増える可能性もある、と断ったうえで、培養で細菌が出ない状態での充填は非常に高い成功率と結びついてきた(引用研究)と述べています。この研究自体は、治ったかどうかを追っていません。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、「きれいに形成できた」ことと「細菌がいなくなった」ことは別だ、という感覚です。
・根尖病変のある歯では、貼薬をはさむ選択肢:水酸化カルシウムを1週間以上入れた後は、細菌が検出されない根管が92.5%に増えた(この研究の1群の中の結果)。著者らは貼薬を加えることを勧めている
・洗浄液は太さとセットで考える:細い号数で形成を終えると、次亜塩素酸ナトリウムが根尖まで届きにくい可能性がある(著者らの考察)
・数字の読み方:培養で検出されないことは無菌の保証ではない。この研究は細菌の検出を数えたもので、根尖病変が治ったかどうかは調べていない
なお、この研究の次亜塩素酸ナトリウムは1.25%、NiTi ロータリーは ProFile .04 テーパーで、使った水酸化カルシウムの製品や形状は書かれていません。濃度や器具、根尖側の形成の太さが違えば、数字も変わりうる点は頭に置いておきたいところです。
(2)培養で検出されない=無菌ではありません。7日間の嫌気培養で育つ細菌を数えたもので、著者ら自身も、検出されないことが細菌のいない根管を保証しないと述べています。治ったかどうかは調べていません。
(3)対象は下顎の歯だけで、大臼歯は近心頬側根管だけを採取しました。1人の術者による、1つの大学の研究です。
(4)貼薬の期間は7〜203日とばらつき、貼薬の後の試料を採れたのは42歯中40歯でした。
(5)原著では、先行研究(Dalton ら)の引用番号が、結果の節の見出しと考察の1か所で(14)、方法・結果の本文で(13)と食い違っています(文献一覧では13が Dalton ら、14は別の文献)。また、形成の前に細菌が検出されなかった1歯を除いて計算し直しても有意差は変わらなかった、という趣旨の文の言い回しが乱れています。
(6)資金・利益相反の記載は見当たりませんでした。
今日のひとこと
NiTiロータリーと次亜塩素酸ナトリウムで形成・洗浄しても、この研究では直後に約4割の根管で細菌が検出されました。水酸化カルシウムを1週間以上入れた後は、検出されなかった根管が92.5%に増えました。根尖病変のある歯では、形成と洗浄だけで終わらせず、貼薬をはさむ選択肢を持っておく。ただし、無作為化のない1群の研究で、培養で検出されないことは無菌の保証ではなく、治ったかどうかはこの研究では調べていません。


