エンド|根尖病変のある、根管治療を受けたことのない失活歯で、水酸化カルシウムを貼薬する2回法と、貼薬せず1回で充填する1回法の治り方を比べた前向きの臨床研究(Weiger・Rosendahl・Löst 2000・International Endodontic Journal)
根尖病変のある失活歯は、水酸化カルシウムを挟まないと治りが悪いのか。ドイツの Weiger らは2000年、根管治療を受けたことのない失活歯67本(1人1本)を、貼薬する2回法31本と1回法36本に分けて追跡しました。5年以内に根尖が完全に治癒する確率の推定は、2回法93%・1回法92%で、2群の間に統計的な有意差は検出されませんでした。根尖病変の大きさは治りに関わり、5mmを超える病変は治りにくかったと著者らは報告しています。両群とも水酸化カルシウムを含むシーラーで充填し、割り付けは歯種をそろえる最小化法(無作為の要素の有無は書かれていない)で、差が無いことを示すための設計でもない、67本の研究です。
①根尖病変のある歯、貼薬なしで1回で詰めてよい?
根尖にエックス線透過像のある失活歯。拡大と洗浄を終えたあと、水酸化カルシウムを入れて次回に充填するか、その日のうちに充填まで済ませるか。迷う場面は多いと思います。「感染根管には貼薬を挟む」と習った先生も多いはずです。
この問いを、患者さんを追跡して確かめようとしたのが、ドイツ・テュービンゲン大学の Weiger らが2000年に International Endodontic Journal に出した前向きの臨床研究です。水酸化カルシウムを貼薬する2回法と、貼薬をせず1回で充填する1回法で、根尖病変が完全に治るまでの経過を比べました。
・根尖病変のある、根管治療を受けたことのない失活歯67本(67人・1人1本)を、2回法31本と1回法36本に分けて追跡した前向きの臨床研究(割り付けは歯種をそろえる最小化法。くじなど無作為の要素を入れたかは原著に書かれていない)
・5年以内に完全に治癒する確率の推定は、2回法93%・1回法92%(カプラン・マイヤー法)。どちらの群でも、観察期間が長いほど治癒の確率は上がった
・2群の間に統計的な有意差は検出されなかった(ログランク検定 P>0.05、ほかの因子も入れたCox回帰で治療法の P=0.89)
・根尖病変の大きさは治りに関わる因子で、5mmを超える病変は2mm以下より完全な治癒に至りにくかった(著者らの解釈)
・著者らの結論:1回法は、根尖病変のある失活歯に対して、水酸化カルシウムを貼薬する2回法に代わりうる方法
・ただし67本の研究で信頼区間は広く、差が無いこと(同等)を示すために設計された研究ではない
②なぜ貼薬が勧められてきたか
根尖性歯周炎は、根管の中の細菌と結びついています。だから根管治療は、細菌をできるだけ減らすことを目指します。著者らは序論で、丁寧に拡大・洗浄しても残る細菌が次回までに増えるのを防ぐため、来院の間に抗菌性の貼薬を置くことが一般に勧められてきた、と書いています。よく使われるのが水酸化カルシウムで、少なくとも1週間置くと培養できる細菌を減らせた、という臨床の研究が引かれています。
一方で、貼薬は要らないという考えもあります。著者らが引いた研究では、根管充填で細菌を閉じ込めれば栄養が無くなって死ぬ、という主張がありました。細菌の検査には偽陰性の心配もあり、貼薬の必要性は議論になっていました。そこで著者らは、貼薬の有無で根尖病変の治り方が変わるかを、患者さんの歯で比べました。
③何をどう比べたか
対象:1992年9月から集めた73人。1人につき1本、エックス線写真で根に病変があり、歯髄の感度試験に反応せず、根管治療を受けたことのない歯を選びました(歯周ポケットが病変とつながっていないことも確認)。4週間以内に抗菌薬を飲んだ人は除きました。再診できたのは67人(男性30人・女性37人、平均38歳・11〜84歳)で、歯の数で見た再来院率は92%でした。
割り付け:歯種(前歯・小臼歯・大臼歯)が2群でそろうよう、「最小化法」で1回法か2回法かを決めました。最小化法は、すでに割り付けた歯の偏りを見て次の歯の群を決める方法です。くじなど無作為の要素を入れたかどうかは、原著に書かれていません。
治療:経験のある歯内療法医2人が、決めた手順で行いました。ラバーダム下で1%次亜塩素酸ナトリウムを使い、エックス線写真の根尖から1mm手前までを作業長として拡大しました(まっすぐな根管は40号以上、曲がった根管は30号以上)。2回法では、生理食塩水で練った水酸化カルシウムを入れ、厚さ3mm以上の仮封をして、7〜47日(平均22日)置きました。2回目に水酸化カルシウムを洗い流し、充填しました。充填は両群とも、ガッタパーチャの側方加圧と、水酸化カルシウムを含むシーラー(Sealapex)でした。
評価:6か月後と、その後は1年後から5年後まで毎年診査し、成功と判定された歯はそれ以上呼びませんでした。「完全な治癒(成功)」は、症状が無く、エックス線写真で歯根膜腔が正常の幅に戻ったもの。エックス線写真は治療した2人が、どちらの群の歯か分からない状態で判定しました。歯が治るまでの時間をカプラン・マイヤー法で推定し、2群をログランク検定で比べ、歯種・症状の有無・根管充填の位置・病変の大きさを一緒に入れたCox回帰でも確かめました。
④結果1:5年以内の治癒の推定は、どちらも90%台
67本のうち、2回法は31本、1回法は36本でした。最後の診査の時点で、52本が完全な治癒、11本が不完全な治癒(症状は無いが、病変が縮んだか変わらないまま観察が4年に届かなかった)、4本が失敗でした。完全な治癒までにかかった時間は4〜58か月でした。
完全な治癒に至る確率の推定は、観察期間が長くなるほど上がりました。2回法と1回法で、1年以内が33%と26%、3年以内が79%と70%、5年以内が93%と92%です(図1)。ログランク検定では、2群の間に統計的な有意差は検出されませんでした(P>0.05)。
この確率は「全部の歯を5年追って数えた割合」ではありません。治った歯はそこで追跡をやめ、まだ治っていない歯はそこまでの観察期間を生かして計算した、時間を考えた推定です。5年の信頼区間は2回法で82〜100%、1回法で78〜100%と広めです。
参考に、最後の診査で完全な治癒と判定された本数は、1回法が36本中30本、2回法が31本中22本でした。失敗は1回法3本・2回法1本です(原著の考察から)。ただし観察期間がそろっていない単純な数なので、2群の比較には上の推定を使います。
⑤結果2:仮定を変えても、病変の大きさを入れても
ほかの因子を入れても:歯種・症状の有無・根管充填の位置・病変の大きさを一緒に入れたCox回帰でも、治療法(1回法か2回法か)は治癒に統計的な影響を示しませんでした(P=0.89)。
根尖病変の大きさ:一方で、病変の大きさは有意な因子でした(P=0.02)。5mmを超える病変を2mm以下と比べたハザード比は2.45(95%信頼区間1.21〜4.58)で、著者らは「大きな病変では治りにくい」と解釈しています。ただし、エックス線写真で測った径は実際の大きさの近似にすぎない、とも書いています。
仮定を変えた試算:不完全な治癒の11本は、成功か失敗かを決めきれません。そこで著者らは2つの仮定で計算し直しました(図2)。縮んだ病変の多くが4年で治ったとする仮定(1回法の3本中2本・2回法の4本中3本)でも、不完全な治癒の歯が全部4年で失敗したとする最も悪い仮定でも、治療法の違いに統計的な有意差は検出されませんでした(Cox回帰の治療法の P=0.55・0.52)。最も悪い仮定では、5年までの推定は1回法90%・2回法84%に下がりました。
⑥著者らの結論と、結果の読み方
著者らの結論はこうです。微生物の面から見て、ガッタパーチャと水酸化カルシウムを含むシーラーで1回で充填する方法は、水酸化カルシウムを貼薬した2回法と同じように、根尖の治りに好ましい環境をつくった。だから1回法は、根尖病変のある失活歯に対して、貼薬を挟む2回法に代わりうる方法である、と。
読むときに押さえたいのは、「有意差を検出しなかった」ことと「同じ効果だと示された」ことは別、という点です。この研究は67本で、症例数を決めた計算は書かれておらず、差が無いことを示すための設計(同等性・非劣性の試験)でもありません。5年の信頼区間の下限は78〜82%で、小さな差があっても見分けられない幅です。結果は「この条件では、貼薬を挟む利点を検出できなかった」と読むのが正確です。
また、1回法の歯も、水酸化カルシウムを含むシーラーで充填されています。「水酸化カルシウムを一切使わない1回法」と比べた結果ではありません。
⑦明日の臨床へ
根尖病変のある未処置の失活歯で、拡大・洗浄を手順どおりに終えられた時、「必ず貼薬を挟まなければ治りが悪くなる」という前提は、この研究からは支持されませんでした。1回法を選ぶと来院回数が減り、仮封からの再感染の機会も減らせます(後者は筆者の読みで、この研究では調べていません)。
一方で、この研究の条件は狭めです。経験のある歯内療法医2人が、ラバーダム・1%次亜塩素酸ナトリウム・十分な拡大号数で治療し、両群とも水酸化カルシウムを含むシーラーを使いました。再治療の歯と、治療前の4週間以内に抗菌薬を飲んだ人は対象外です。拡大・洗浄を手順どおり終えられなかった歯でどうするかも、この研究では比べていません。病変が大きい歯は治りが遅い傾向があったので、1回法でも2回法でも、長めの経過観察を前提にしたいところです。
(2)差が無いことを示す設計ではない。症例数を決めた計算は書かれておらず、信頼区間は広めです。
(3)判定したのは治療した本人たち(2人)。どちらの群の歯か分からない状態で判定したと書かれていますが、外部の判定者ではありません。
(4)原典の中に数値の食い違いがあります。4年以内の治癒の確率は、表6では2回法87%・1回法84%ですが、考察の本文では1回法87%・2回法84%と逆に書かれています(本記事は表6に合わせた)。また表6の1回法・2年の信頼区間は「0.42〜0.48」と、点推定0.60を含まない値になっており、誤植と思われます(本記事では使っていない)。
(5)病変の大きさのハザード比2.45を、著者らは「失敗のリスクが高い」と説明していますが、解析の出来事は完全な治癒で、比の向きの定義は原著に書かれていません。
(6)資金と利益相反の記載は見当たりませんでした。1990年代のドイツの研究(著者らはテュービンゲン大学)で、使った器具や材料は今と違います。
今日のひとこと
根尖病変のある未処置の失活歯でも、手順どおりに拡大・洗浄できたなら、水酸化カルシウムを挟まない1回法で治りが劣るという差は、この研究では検出されませんでした。5年以内の治癒の推定はどちらも90%台。ただし67本の研究で、差が無いことを示した研究ではありません。病変が大きい歯ほど治りに時間がかかる点は、どちらの方法でも覚えておきたいところです。


