エンド|慢性根尖性歯周炎の歯50本を、1回法・水酸化カルシウムを1週間入れる2回法・何も入れずに1週間空ける2回法の3群に無作為に割り付け、治療中に根管の細菌を培養し、52週後のX線写真の根尖周囲指数(PAI)の変化を比べた臨床研究(Waltimo・Trope・Haapasalo・Ørstavik 2005・Journal of Endodontics)
水酸化カルシウムを1週間入れれば、根管充填の日には根管の細菌は消えているのか。Waltimo らは2005年、慢性根尖性歯周炎の歯50本を3群に無作為に割り付け、治療の各段階で根管から試料を採って細菌を培養し、52週後のX線写真で根尖の治りを評価しました。2回目の来院の始め(次亜塩素酸ナトリウムで洗い直す前)に細菌が培養された歯は、水酸化カルシウムを1週間入れた群で33%(18本中6本)、空のままの群で67%(12本中8本)でした。2回法の2群を合わせて細菌の有無で分けると、培養された歯(14本)は培養されなかった歯(16本)より、52週のPAIの改善が有意に小さく(平均の低下 0.79 対 1.53、p<0.01)、治療群どうしのPAIの変化の差は、著者らによれば「わずか」でした(群間の検定の値は示されていない)。細菌の有無で分けた比較は、割り付けによらない比較です。
①根管充填の日、根管の細菌は消えている?
根尖病変のある歯の根管治療。1回目に拡大と洗浄を終え、水酸化カルシウムを入れて1週間。2回目に根管充填するとき、根管の中の細菌はもう消えているのでしょうか。そして、それは1年後の根尖の治りと関係するのでしょうか。
この問いを、治療中に根管から細菌を採って培養しながら確かめたのが、Waltimo・Trope・Haapasalo・Ørstavik が2005年に Journal of Endodontics に出した臨床研究です。
・慢性根尖性歯周炎の歯50本を、1回法(20本)・水酸化カルシウムを1週間入れる2回法(18本)・何も入れずに1週間空ける2回法(12本)の3群に無作為に割り付け、治療中に根管から試料を採って細菌を培養し、52週後のX線写真の根尖周囲指数(PAI)の変化を比べた
・1回目の拡大と次亜塩素酸ナトリウムでの洗浄の後、細菌が培養された歯は20〜33%
・2回目の来院の始め(次亜塩素酸ナトリウムで洗い直す前)に細菌が培養された歯は、水酸化カルシウムを1週間入れた群でも33%(18本中6本)、空のままの群では67%(12本中8本)
・52週のPAIの平均の低下は、1回法1.45・水酸化カルシウム1.28・空のまま1.09で、著者らは治療群の差はわずかとした(群間の検定の値は示されていない)
・2回法の2群を合わせて、2回目の始めに細菌が培養された歯(14本)は、培養されなかった歯(16本)よりPAIの改善が有意に小さかった(平均の低下 0.79 対 1.53、p<0.01。治療の途中の結果で分けた、割り付けによらない比較)
②なぜこの研究が必要だったか
根尖性歯周炎は根管の感染で起こり、拡大と洗浄で細菌の大部分は減らせます。それでも生き残る細菌があるので、根管充填の前に消毒を仕上げる目的で、水酸化カルシウムの貼薬がよく使われてきました。
一方で、根管から分離される細菌の中には、水酸化カルシウムの強いアルカリに耐えるものや、象牙細管に入り込んで薬が届きにくいものがある、と著者らは序論で整理しています(引用文献の結果)。実験室の研究は多いものの、患者の根管の中で、洗浄と貼薬がどこまで細菌を減らすかを確かめる必要がありました。
著者らの仮説は、水酸化カルシウムを貼薬した根管は、貼薬しない根管より細菌の培養されない割合が高く、治療の成績も、貼薬しない2回法や1回法より良くなる、というものでした。
③何をどう比べたか
・対象:慢性根尖性歯周炎と診断され、PAIが3・4・5で、治療開始時の試料から細菌が培養された歯50本。Trope らが1999年にX線の成績を報告した臨床試験の症例のうち、選ぶ条件を変えて、細菌の検査とX線の両方のデータがそろった歯
・割り付け:3群に無作為に割り付けた(割り付けの手順はこの論文には書かれていない)
・3群:1回法(その日に根管充填まで・20本)/水酸化カルシウムを1週間入れる2回法(18本)/根管に何も入れずに封をして1週間空ける2回法(12本)
・治療:ラバーダムを掛け、歯と周囲を0.12%クロルヘキシジンで1分消毒。ステンレススチールの器具で拡大し、ファイルの号数ごとに2.5%次亜塩素酸ナトリウムで洗浄した。2回目は、水酸化カルシウムの群は0.5%クエン酸と生理食塩水、空のままの群は生理食塩水で洗ってから試料を採り、その後に拡大と次亜塩素酸ナトリウムでの洗浄を行った
・細菌の検査:1回目は根管に入った直後と、拡大・洗浄の後に試料を採った。2回目は、上の生理食塩水などで洗い、前回と同じ太さのリーマーで根管壁を動かしてから、次亜塩素酸ナトリウムで洗い直す前に1回、洗い直した後に1回採った。次亜塩素酸ナトリウムはチオ硫酸ナトリウムで打ち消してから採取。嫌気培養で7日間
・評価:4・12・26・52週にX線写真を撮り、開始時からのPAIの変化を比べた。52週の変化を一元配置分散分析で解析
あわせて著者らは、2回法の2群(30本)を合わせ、2回目の来院の始め(次亜塩素酸ナトリウムで洗い直す前)の試料で細菌が培養されたかどうかで2つに分け、PAIの変化を比べました。この2群は割り付けた群ではなく、治療の途中の結果で分けたものです。
④結果1:水酸化カルシウムを1週間入れても、3分の1で細菌が培養された
治療開始時は、50本すべてで細菌が培養されました(選ぶ条件どおり)。1回目の拡大と洗浄の後には、細菌が培養された歯は1回法20%、水酸化カルシウムの群22%、空のままの群33%に減りました(表)。
2回目の来院の始めには、水酸化カルシウムを1週間入れた群でも18本中6本(33%)で細菌が培養されました。空のままの群では12本中8本(67%)と、1回目の洗浄後(33%)より多くなっています。2回目の洗浄の後は、水酸化カルシウムの群0本、空のままの群2本(17%)でした。
2回目の始めに水酸化カルシウムの群から分離された細菌には、ベイロネラ属、ペプトストレプトコッカス属、α溶血性レンサ球菌が含まれ、エンテロコッカス・フェカーリスは1本でした(表3)。著者らは、水酸化カルシウムに耐えるとされるエンテロコッカス・フェカーリスやカンジダ・アルビカンスはこの研究ではわずかしか見つからず、一方でベイロネラ属・ペプトストレプトコッカス属・α溶血性レンサ球菌の3つは、実験室の研究では水酸化カルシウムに感受性を示した菌だと書いています(引用文献の結果)。
⑤結果2:治療群の差はわずか、2回法の歯を細菌の有無で分けると有意な差(割り付けによらない比較)
52週のPAIの平均の変化は、1回法−1.45、水酸化カルシウム−1.28、空のまま−1.09でした(図1。マイナスが大きいほど根尖の状態が良くなった)。著者らは治療群の差を「わずか」と書いていますが、この比較の検定の値と、ばらつき(標準偏差など)は示されていません。
一方、2回法の2群を合わせて、2回目の始めの試料で分けると、細菌が培養されなかった歯(16本)のPAIの平均の変化は−1.53、培養された歯(14本)は−0.79でした。この差は有意でした(p<0.01、図2)。
なお、この2群の中身は治療群で偏っています。表1から筆者が数えると、細菌が培養された14本は水酸化カルシウムの群6本・空のままの群8本、培養されなかった16本は水酸化カルシウムの群12本(18−6)・空のままの群4本(12−8)です。
⑥著者らの結論と、結果の読み方
著者らは、次のように考察しています。
・次亜塩素酸ナトリウムの洗浄:1回目の拡大と洗浄で細菌が培養される歯が20〜33%まで減り、短時間でよく効いた(著者ら)
・空のままの群の67%:検出できない量まで減ったが、消えきらなかった細菌が、空けた1週間に再び増えたためだろう(著者らの推測)
・水酸化カルシウム:33%は驚くほど高い。根管の中の条件で抗菌の力が落ちる可能性があり(実験室の研究で示されている)、より効く貼薬の開発が要る。ただし水酸化カルシウムは、根管が複雑で拡大・洗浄が届きにくい症例などで、今も勧められる貼薬である(著者ら)
・まとめ:根管充填の前に細菌がいないことが、最も良い成績につながった。1回法か2回法かを論じるより、根管充填の前に細菌のいない状態を確実に作る方法を探し続けるべきだ(著者ら)
読み方として大事なのは、細菌の有無とPAIの改善の関係は、割り付けて比べた結果ではなく、治療の途中の結果で分けた比較だという点です。細菌が培養された歯には空のままの群が多く(14本中8本。表1から筆者が数えた)、元の病変の大きさなど、ほかの違いで調整した解析もありません。「細菌が残ると治りにくい」という因果を、この研究だけで示したとは言えません。また、試料を採ったのは2回目に次亜塩素酸ナトリウムで洗い直す前で、実際に根管充填した時点(洗浄の後)では細菌が培養された歯は2本だけでした。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・2回目の来院でも洗浄をやり直す:2回目の洗浄の後に細菌が培養された歯は、水酸化カルシウムの群0本・空のままの群2本だった(ただし洗浄後の結果と治りの関係は解析されていない)
・2回に分けるなら、根管を空のままにしない:空のままの群では、細菌が培養された歯が1回目の洗浄後の33%から2回目の始めの67%に増えた(同じ12本を2つの時点で調べた割合)
・1回目の拡大と洗浄をしっかり行う:著者らは、1回目のうちに十分な長さと太さまで拡大し、抗菌性で組織を溶かす洗浄液で洗うべきだとしている
なお、細菌の有無は培養法で判定したもので、培養できない細菌や、検出できる量を下回った細菌は数えられていません。
(2)細菌の有無で分けた比較は、割り付けによらない比較です。2回法の2群30本を2回目の始めの培養で分けたもので、細菌が培養された14本のうち8本が空のままの群でした(表1から筆者が数えた)。ほかの要因の調整もありません。
(3)評価は52週のX線写真のPAIの平均の変化だけで、症状や長期の歯の残り具合は見ていません。X線写真の評価者が治療群を知っていたかどうかは、この論文には書かれていません。
(4)割り付けの手順、登録した数と途中で来なくなった数は書かれていません(細菌とX線の両方のデータがそろった歯だけを解析した)。
(5)考察で Trope らの研究を引く番号が、文献の一覧とずれています(本文の15は一覧では別の論文で、Trope らの研究は16)。
(6)資金と利益相反の記載は見当たりませんでした。
今日のひとこと
水酸化カルシウムを1週間入れても、この研究では3分の1の歯で、2回目の来院の始めに細菌が培養されました。そして2回法の歯では、細菌が培養された歯ほど52週のPAIの改善が小さいという関係が見られました(割り付けによらない比較)。1回か2回かより、根管充填の前に細菌のいない状態をどう作るか。著者らが最後に置いたこの問いを、2回目の洗浄のやり直しと、空のままにしない貼薬で受け止めるのが、この論文に合った使い方です。


