エンド|抜歯が決まっていた生活歯の下顎大臼歯の近心根を、手用+回転で拡大した群(16本)と、同じ拡大のあとに超音波洗浄を1根管1分足した群(15本)に無作為に分け、すぐ抜歯して根尖側の組織切片で清掃率を比べた研究(Gutarts・Nusstein・Reader・Beck 2005・Journal of Endodontics)
根管拡大と洗浄が終わったあと、超音波で薬液を動かす時間を1根管1分足すと、根管やイスムス(峡部)に残る組織は減るのか。Gutarts らは2005年、抜歯が決まっていた生活歯の下顎大臼歯(16本と15本)で近心根の2根管を処置し、すぐ抜歯して、根尖から1.0〜3.0mmの高さを0.2mmごとの組織切片で調べました。手用+回転だけの群(16本)に比べ、超音波洗浄を1根管1分足した群(15本)は、根管の清掃率が11の高さのうち10で、イスムスの清掃率が11の高さすべてで有意に高く、イスムスの清掃率の平均は15〜38%に対して73〜96%でした。ただし測ったのは生活歯の歯髄組織がどれだけ除けたかで、細菌や治りは調べていません。超音波群は、針から流した6%次亜塩素酸ナトリウムの分だけ洗浄液も多く、振動だけの効果とは分けられません。
①根管拡大のあとに超音波洗浄を1根管1分、イスムスの清掃は変わる?
下顎大臼歯の近心根。近心頬側と近心舌側の2根管をきれいに拡大できても、その間をつなぐイスムス(峡部)には器具が入りません。拡大が終わったところで、超音波で薬液を動かす時間を1根管ずつ足すかどうか。迷う場面は少なくありません。
この問いに、生きた患者さんの歯で答えようとしたのが、Gutarts・Nusstein・Reader・Beck が2005年に Journal of Endodontics に出した研究です。抜歯が決まっていた歯を処置し、すぐ抜いて、根尖側の組織切片で「どれだけ組織が残ったか」を測りました。
・抜歯が決まっていた生活歯の下顎大臼歯の近心根を、手用+回転で拡大した群(16本)と、同じ拡大のあとに超音波洗浄を1根管1分足した群(15本)に無作為に分け、処置後すぐ抜歯して根尖から1.0〜3.0mmの組織切片で比べた
・根管の清掃率は、11の高さのうち10で超音波群が有意に高かった(根尖から1.0mmで75.1%対99.0%。3.0mmでは99.7%対99.8%で有意差は検出されなかった)
・イスムスの清掃率(イスムスの断面の面積のうち、歯髄組織が残っていない面積の割合)は、11の高さすべてで超音波群が有意に高く、平均は手用+回転だけで15.0〜37.9%、超音波を足すと73.3〜96.5%だった
・ただし測ったのは生活歯の歯髄組織の除去で、細菌や治りは調べていない。超音波群は針から流した洗浄液の分だけ、薬液の量も多い
②なぜこの比較が必要だったか
根管治療の成功には、生きた組織や壊死した組織、細菌とその産物を根管から取り除くことが要る、と著者らは書いています。ところが根管の中の細いイスムスや不規則な部分には組織や細菌が残り、手用や回転の器具では届かないことが、多くの研究で示されてきました(いずれも著者らが引用した研究)。
超音波そのものを主な拡大の手段にしても、手用の拡大より根管がきれいになるという結果は出ていませんでした。一方、手用で拡大したあとに超音波で動かしたファイルを使うと、根管とイスムスがきれいになったという報告がありました。先行研究(Haidet ら、Archer ら)は、下顎大臼歯の近心根で、ステップバック法のあとに超音波を3分使うと、根尖側の根管とイスムスが有意にきれいになったと報告しています。
それでも臨床で広まらなかった理由として、著者らは「1根管あたり3分の追加」と「高い出力でのファイルの破折」を挙げています。そこで著者らは、最も高い出力でも折れずに使え、針の先から次亜塩素酸ナトリウムを流せる超音波洗浄針を用意し、出力を上げれば時間を3分から1分に縮められるのではないかと考えました。
③何をどう比べたか
・対象:健康な成人ボランティアの、生活歯の下顎大臼歯。修復できない、または根管治療を希望しないという理由で、研究への参加より前に抜歯が決まっていた歯。評価したのは近心根だけ
・割り付け:手用+回転の拡大が終わってから、あらかじめ作った無作為の番号表で群を決めた(術者は拡大の途中で、どちらの群になるかを知らない)。同じ歯の近心2根管は同じ処置
・拡大:両群とも、手用のKファイルとProFile GT(回転)でクラウンダウン、根尖側の形成は#30。拡大の途中で6%次亜塩素酸ナトリウム約2mLずつ洗い、拡大の後に各根管を15mLで流した
・超音波群:拡大の後、MiniEndo(圧電式の超音波装置)を全出力にし、25ゲージの洗浄針を根管壁に食い込まない範囲で根尖側へ入れ、壁に引っ掛からないよう無理な力を加えずに上下に動かしながら、1根管1分振動させた。その間、針から6%次亜塩素酸ナトリウムを毎分15mLで流し続けた
・評価:処置後すぐに歯を抜き、根尖から1.0mmから3.0mmまで0.2mmごとに組織切片を作った。根管とイスムスの面積のうち、歯髄組織が残っていない面積の割合(清掃率)を、群が分からない状態の切片で、著者の一人が画像解析ソフトで測った(評価の再現性の指標である級内相関係数は0.989)
・対照:処置しないで抜いた生活歯の下顎大臼歯5本(組織の作り方の対照)
・統計:高さごとにMann-Whitney-Wilcoxon検定で2群を比べ、p値はHolmの方法で多重比較を調整した
2群の間で、第一・第二・第三大臼歯の内訳、近心根の型、根の湾曲の程度に有意差は検出されませんでした。
④結果1:イスムスの清掃率の平均は、手用+回転のみ15〜38%、超音波を足すと73〜96%
差が大きかったのはイスムスです。根尖から1.0・2.0・3.0mmの3つの高さで見ます(図1)。
手用+回転だけの群のイスムスの清掃率は15.0〜37.9%で、イスムスの大半に組織が残っていました。超音波を足した群は73.3〜96.5%でした。著者らは考察で、この範囲をそれぞれ「15〜38%」「73〜96%」と書いています。
根管そのものでは、手用+回転だけの群でも根尖から1.0mmで75.1%、3.0mmで99.7%でした。1.0mmでは、平均で根管の面積の約4分の1に組織が残っていたことになります(筆者の計算:100−75.1=24.9%)。超音波を足した群は、どの高さでも99.0〜100%でした。
処置しなかった対照の歯では、根管の清掃率は8.2%(1.2mm)から29.2%(2.6mm)でした。イスムスがあった対照の歯は1本だけで、2.0mmで0.0%、2.2mmで21.7%でした。
⑤結果2:全11の高さで見ると
根管の清掃率は、11の高さのうち1.0mmから2.8mmまでの10の高さで、超音波群が有意に高くなりました。3.0mmでは99.7%対99.8%で、有意差は検出されませんでした(図2)。
イスムスの清掃率は、11の高さすべてで超音波群が有意に高くなりました(図3)。ただし、イスムスが切片に現れた数は各高さで3〜12と少なく、1.0mmの超音波群は3でした。
表のN(各高さの数)は、根管で25〜31、イスムスで3〜12です。原著は、Nが歯・根管・切片のどれを数えたものかを書いていません。著者らは、超音波群のほうが平均の±の値(原著の表題ではSE)が多くの高さで小さく、根管の清掃が「より安定していた」とも書いています。
⑥著者らの結論と、結果の読み方
著者らは、次のように考察しています。
・結論:手用+回転の拡大のあとに超音波洗浄針を1根管あたり1分使うと、下顎大臼歯の近心根の根管とイスムスは有意にきれいになった(著者ら。表では、根管は根尖から3.0mmだけ有意差が検出されなかった)
・3分との比較:以前の研究(超音波を3分)と比べて、1分で同等かそれ以上の結果だった(著者らが別の研究と比べたもの。同じ研究の中で3分と比べたわけではない)
・イスムス:手用や手用+回転だけでは、生活歯のイスムスから組織を取り切ることはできないと確かめた。超音波を足しても、とても細いイスムスには組織が残ることがあった(著者ら)
・なぜ効いたか:全出力でキャビテーションと音響流の両方が起きたと考えられる。針から新しい洗浄液が根管の中に流れ続けたことも、清掃率の向上に寄与したかもしれない(著者らの推測。この研究で確かめたものではない)
・針の深さ:根尖側の形成は#30までで、針の外径は0.50mm(#50相当)なので、針は形成した根尖より4〜5mm手前までしか入っていない(著者ら)
読み方として大事なのは、この研究が測ったのは「生活歯の歯髄組織が、切片の上でどれだけ除けたか」だということです。著者らも、清掃が良くなれば治療成績が上がるかについては「経験的にはそう考えられる」と書くにとどめています。また超音波群は、拡大の後に針から毎分15mLで1分、6%次亜塩素酸ナトリウムが流れています(筆者の計算で1根管あたり約15mL)。清掃率の差が、超音波の振動によるものか、洗浄液の量と接触時間が増えたことによるものかは、この研究では分けられません。
⑦明日の臨床へ
この研究から持ち帰れるのは、次のような読み方です(筆者の読み)。
・拡大のあとの1根管1分は、根尖側のイスムスに届かせる一手:超音波洗浄を1根管1分足すと、イスムスの清掃率(平均73〜96%)は11の高さすべてで有意に高かった。時間は1根管1分(近心の2根管なら2分。筆者の計算)の上乗せ
・結果は、この装置と条件のもの:MiniEndoの全出力・25ゲージの洗浄針・6%次亜塩素酸ナトリウムを針から毎分15mL。今の超音波チップや洗浄の方法で同じ結果になるかは、この研究では確かめていない
・治りの改善までは言えない:測ったのは生活歯の歯髄組織の除去。壊死歯の細菌やバイオフィルム、症状、根尖の治りは調べていない
(2)超音波の効果と洗浄液の増加が分けられない:超音波群だけ、針から6%次亜塩素酸ナトリウムが1分流れています。著者らも、新しい洗浄液が流れ続けたことの寄与を挙げています。
(3)数が少ない:各群16本・15本で、イスムスが現れた数は各高さで3〜12でした。原著は表のNが何を数えたかを書いておらず、同じ歯の2根管や同じ歯の複数の切片がそれぞれ別に数えられていた場合、検定は独立でない値を含みます(筆者の読み)。評価者は著者の一人だけです。
(4)条件が限られる:生活歯の下顎大臼歯の近心根だけで、根尖側の形成は#30、針は形成した根尖の4〜5mm手前まで。術者の数は書かれていません。
(5)原著の中の食い違い:方法では36本を3群に分けたと書く一方、対照の5本は口腔外科で抜かれた歯と書かれており、対照の5本を含めて、どのように募集し無作為に割り付けたのかの経緯がはっきりしません。
(6)オハイオ州立大学の大学院生研究基金の支援です。使った超音波洗浄針の保持具は特許出願中と書かれていますが、出願者は書かれておらず、利益相反の記載は見当たりませんでした。
今日のひとこと
下顎大臼歯の近心根のイスムスは、手用+回転の拡大と洗浄だけでは組織が多く残っていました(根尖から1〜3mmで、イスムスの断面の面積のうち歯髄組織が残っていない割合=清掃率の平均15〜38%)。拡大のあとに超音波洗浄を1根管1分足すと、根尖から1〜3mmのイスムスの清掃率の平均は73〜96%で、11の高さすべてで有意に高くなりました。ただしこれは生活歯の歯髄組織の除去を、この装置と条件で見た結果で、細菌や治りは調べていません。拡大のあとの1根管1分は、根尖側のイスムスに届かせるための一手として検討できる。そう読むのが、この論文に合った使い方です。


