エンド|根尖の形はどうなっているのか。当時の教科書の図は正しいのか。遺体から得た健全な歯の根尖402本を研磨薄切し、顕微鏡で21項目を実測した古典(Kuttler 1955・JADA)
「根管は根尖に向かって円錐状に細くなり、いちばん細い所=根尖孔で終わる」。当時の教科書はそう描いていました。著者は冒頭で、根尖の局所解剖と顕微解剖について広く行き渡っている考えは、完全に誤っていると書きます。そこで根尖病変が無く正常咬合にあった歯268本(95%は遺体由来。18〜25歳と55歳以上の2群)から、健全な根尖402本を研磨薄切し、21倍(必要時56倍)の顕微鏡と接眼マイクロメータで21項目を実測しました。結果、根管が最も細いのは根尖孔ではなく、その手前の象牙質側。そこから根尖孔へ向けて漏斗(じょうご)状に広がっていました。根尖孔の中心が根尖の頂点に一致したのは若年群で32%・高齢群で20%にとどまり、頂点から根尖孔の中心までは平均495µm/607µm。根尖孔の直径は502µm/681µmと、加齢で「狭くなる」どころか大きくなっていました。そして根尖孔から最狭部までは平均524µm/659µm。さらに根尖セメント質の平均の厚さは若年群でも0.5mmを超えていました。著者はこのセメント質の厚さと、象牙質の最後の部分を薄いセメント質が覆っていること、その部分の象牙細管が斜めに歯頸側へ走っていることを根拠に、根管充填は根尖孔の0.5mm手前までにとどめるという結論を導きます。
①根尖の形を、私たちはどこで習ったのか
根管は根尖に向かって円錐状に細くなり、いちばん細い所=根尖孔で外に開く。多くの教科書がそう描いてきました。
ところがこの論文の著者は、冒頭でこう断じます。根尖の局所解剖と顕微解剖について広く行き渡っている考え——根管終末部の方向・形・直径、根尖孔の位置と大きさ、セメント質の厚さ——は、完全に誤っている。
結論を先に言います。根管が最も細いのは根尖孔ではありません。最狭部はその手前の象牙質側にあり、そこから根尖孔へ向けて漏斗(じょうご)状に広がっていました。
②なぜ「誤っている」と言えたのか
著者によれば、当時の歯内療法医はきわめて乏しいデータで仕事をしていました。
・それまでの研究の多くは肉眼レベルで、しかも根の横断面を見たものだった。縦にどう変わっていくかを見ていない。
・19世紀末から20世紀初頭の古典(Preiswerk、Fischer、Hess、Barrett、Davis)の関心は、ほとんど根管の数と分岐に集中していた。
Groveとその反対論者の間で「根管はどこまで充填すべきか」をめぐる長い論争が続いていましたが、著者は用語の定義が合っていれば避けられた不毛な論争だったと書いています。だから彼は、まず実際に測ることから始めました。
③今回の一手:402本の根尖を、縦に削って顕微鏡で測る
手順:歯冠を切り離し、根尖1/3まで届くブローチで歯髄を除去してから根管にインクを通し、根尖孔からインクが出るのを確認。根尖孔の位置に応じて、近遠心方向か頬舌方向に研磨して薄切しました(およそ半数ずつ。近遠心断はX線写真で見える方向にあたります)。
エオジンで染め、21倍(必要に応じ56倍)の顕微鏡と37.5倍の接眼マイクロメータで21項目を計測。最終的に根尖402本・主根管436本を解析しました。
調べたのは主根管だけ——最も中央で垂直、あるいは最も口径が大きく、器具が実際に辿るであろう根管です。側枝や副根管はスケッチして記録しましたが、臨床上の問題になることが少ないとして解析から外しています。研究の目的が根管治療の技術を改善することだったからです。
④結果①:いちばん細いのは、根尖孔ではなかった
著者が示した最も重要な所見がこれです。
根管に狭窄部は存在する。しかしその狭窄部は根尖孔の位置にはない。
そしてこの漏斗のかたちは高齢者でより顕著になる。根尖孔の直径が大きくなり、根管の直径は小さくなるからです。
最狭部がどこにあったかを数えると、若年群では象牙質の部分が42%と最多。セメント質の部分が26%、両側のCDC(セメント質・象牙質・根管の接合点)が揃う高さが32%でした。高齢群ではCDCの高さが41%と最多になり、象牙質・セメント質が各29.5%です。
⑤結果②:根尖孔は頂点にない。しかも加齢で「広がる」
・頂点から根尖孔の中心までの距離は平均495µm(若年群)/607µm(高齢群)。
・根尖孔の直径は502µm/681µm。加齢で大きくなっています。
・根尖孔から根管の最狭部までの距離は524µm/659µm。
・根尖部のセメント質の厚さは、根管の片側で508µm/802µm、反対側で505µm/767µm。若年群でも0.5mmを超えていました。
ここから著者は、教科書の記述をはっきり否定します。「加齢で根尖孔が狭くなり、歯髄組織が絞扼されて根管が細くなる」と書いた教科書は誤りである——測ってみれば、根尖孔はむしろ大きくなっていたのです。根管が細くなるのは事実でも、その生物学的な仕組みは考えられてきたものとは違う、と。
もうひとつ、実務的に重い所見があります。根尖孔の直径は根管の軸に垂直ではないことがほとんどで、軸に垂直な直径(375µm/425µm)は根尖孔の直径(502µm/681µm)より小さい。この差が作る「不揃い」は255µm/287µm。著者は、この不揃いとセメント質部根管の漏斗形のために、この部分はセメントで過剰に充填しない限り密閉できないと結論しています。
⑥なぜ「0.5mm手前」なのか
有名な結論の根拠は、じつは複数の観察の積み重ねです。
・象牙質の最後の部分では、象牙細管の内側の端をセメント質の薄い層が覆っていることが多い。
・その部分の象牙細管は斜めに、ときに垂直に、歯頸側に向かって走っている。
これらが、根管充填を根尖孔の0.5mm手前までにとどめることの正当化になる——というのが著者の論理です。
つまり「0.5mm」は安全マージンの当てずっぽうではなく、組織の構造から出てきた数字でした。
ちなみにCDC(セメント質・象牙質・根管の接合点)は、いつでも見えるわけではありません。21倍で明瞭だったのは若年群57%・高齢群74%、56倍が必要だったのが31%・21%、どの倍率でも判別できなかったのが6%・1%。そしてCDCそのものが存在しなかったのが6%・4%(セメント質と象牙質の境界線が根管に到達しないか、セメント質が無いため)。組織学的にも一点に決まらない——このことは、臨床で「セメント-象牙境で止める」と言うときに覚えておく価値があります。
⑦明日の臨床へ
・根尖孔は根尖の頂点にあるとは限らない(一致したのは若年群32%・高齢群20%)。X線写真の根尖と実際の根尖孔は別物だと考える。
・高齢者ほど漏斗が深い。根尖孔の直径が大きく(平均681µm)、最狭部までの距離も長い(平均659µm)。加齢=根尖が狭くなる、ではありません。
・近遠心断はX線写真で見える方向、頬舌断は見えない方向。著者が両方をほぼ半数ずつ調べたのは、X線写真で見えている形が全体ではないことを示すためでもあります。
・根尖孔の直径には軸に対する傾き(不揃い)があり、セメント質部の根管が漏斗状であるため、著者はこの部分はセメントで過剰に充填しない限り密閉できないと結論しています。
⑧ここだけ、冷静に補助線
今日のひとこと
著者の結論の核心:根管には狭窄部が存在するが、その狭窄部は根尖孔の位置にはない。最も細いのは根管がセメント質部分に入る直前の象牙質側で、そこから根尖孔へ向けて漏斗状に広がっていく。この漏斗は高齢者ほどはっきりします——根尖孔の直径が大きくなり(502µm→681µm)、根管の直径は小さくなるからです。根尖孔の中心が根尖の頂点と一致したのは若年群32%・高齢群20%だけで、頂点からの距離は平均495µm/607µm。根尖孔から最狭部までは524µm/659µm。そして有名な「根管充填は根尖孔の0.5mm手前まで」という結論は、この距離からではなく、根尖セメント質の平均の厚さが若年群でも0.5mmを超えていたこと、象牙質の最後の部分を薄いセメント質が覆っていることが多いこと、その部分の象牙細管が斜めに歯頸側へ走っていること——この3点から導かれています。「加齢で根尖孔が狭くなり歯髄が絞扼される」と書いた教科書は誤りであるとも明記しています。作業長の終点を「根尖」ではなく「根尖孔の手前の最狭部」に置く——今日の常識の出発点がここにあります。ただし1955年の研究で、対象は根尖病変の無い健全な歯であり、統計検定も行われていません。


